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2章 新しい生活の始まり
07.男と白虎と私の縁 01
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黒髪の男は、私を発見した当初を語る。
もともと彼は、私の会いに来る予定だったのだそうだ。 ただ、私には彼のような知り合いはいないと言うか、記憶にはない。 今は前世の記憶が奇妙に表面化して、混濁しているけれど、これほど整った顔立ちは容易に忘れることはないはず。
彼は、王都からステニウス子爵領に向かう途中、川を流れる馬車の箱部分を見つけ生存者確認のため箱を引き上げたらしい。 そしてその中で目的の人間が死にかけていたため、慌てて王都に戻り医師を呼び治療をしてもらったそうだ。
「馬車を引き上げたんですか? 凄い、力持ちですね」
「魔法だ。 流石に濁流の中に入って中身を連れ出すのはキツイ。 それに馬がいなかったのも幸いしていたな。 馬が繋がれていたままだったら、生きていることはなかっただろう。 まぁ、何処で落ちたのか分からないが、生きていたのは奇跡としかいいようがない状態だった」
意識を失う瞬間を思い出しブルりと身体を振るわせれば、白虎が大きな前足で頭を撫でてくる。
「私はお留守番だったので、現場は見ていませんが凄い水量だったと言います。 生きていて良かった」
知らない人のために、本当に嬉しそうに言うから、奇妙な喉のつまりを覚えてしまう。
「あ、りがとうございます。 ところで、なぜ私に? 間違いでは?」
「何度か会っているだろうが?」
はて? と首をかしげる。 コレは記憶喪失の振りではなく、本当に覚えが無かったから。
「ヴァルツ、彼女は記憶を失くしているのですから、ちゃんと説明して差し上げないと」
男は微妙に顔をしかめてみせた。
面倒臭いと言わんばかりの表情を白虎に向けた男は、一旦部屋の外に出て直ぐに戻ってきた。 手には瓶や小箱が入った箱を持ってきていて、白虎が寄りそう反対側にその箱を置き、彼は窓際においたシンプルな木製の椅子に座り話を続けた。
「俺は、アンタの爺さんから、ソレらを定期的に購入していた」
こう言われてようやく私は男を思い出した。 何時も顔を隠していたから気付かなかっただけで、彼は真夜中に薬を買いに来ていたアヤシイ売人だったらしい。
私は、スプーンを置き瓶や箱を手に取り中身を眺める。 自分で作ったものではあるけれど、以前はアヤシイ植物に見えていたソレが、別のものに見えていた。
「シソ、ニンニク、胡椒、ゴマかな? 唐辛子、生姜、珈琲?」
以前は、アヤシイ薬だと思っていたけれど、前世の記憶を取り戻した今となっては、ただの調味料と珈琲豆でしかない。 知識って大事だなぁ……。
「そう……、レーム家は代々植物魔法を得意とする家柄だと言う。 で、俺はそれの生育を依頼していた。 レーム家にとってと言うか、ステニウス家にとってはなくてはならない金銭だったと思うのだが? 今のレーム家の当主……いや、生き残りは強情でなかなか商品を売ってくれなくて正直困っていたわけだ」
「そうなんですか?」
私はすっとぼける事にした。 前世の記憶が戻った今となっては、アヤシイ売人と思っていたのは正直恥ずかしくもある話。 だけど、ステニウス家のために金儲けをしたくない私にとっては、知らなくて良かったとも思えてしまう。
うん、アレはアレで良かった。
まぁ、殺されかけたけど。
多分、殺された理由は金。 金意外ある訳ない。 まぁ、金もありませんがね!!
「飯を食べる手が止まっているぞ」
この世界の料理は、調味料を余り使わない。 いえ、使わないと言うより長く戦争があったせいで、未だ貿易流通が盛んでない……というか、そもそも美食と言う概念にまで、国力が追い付いていない。
「すみません。 御粥美味しいのですが、まだ食欲が……後で食べるので頂いておいて良いですか?」
白虎は味がどうこう言っていた通り、薄味の粥は卵を入れる事で余計に味をぼやけさせていたけど、昆布だしが効いていて美味しかった。。 出来るなら、沢庵の2.3枚や、梅干しがあれば最高なのだが……、贅沢は言うまい。
と言うか、今の私は、セラーナとしての記憶はしっかりと残りつつ、前世がそこに上積みされた状態で、記憶喪失を演じなくても、色々と混乱している。
「まぁ、それは構わんが。 夜は夜で体調に合わせたものを作るから、ヴァイスに食わせておいてかまわんぞ」
「ヴァイスと言うのは白虎さんの名前ですか?」
「そう、ヴァイス・ルシッカ」
何処かで聞いた名前だけど、セラーナとしての記憶がクローゼットの奥に箱詰めされたように曖昧で、直ぐに思い出せそうにない。
「お兄さんは?」
明らかに自分よりも年上と見られる男性に聞いた。
「ヴァルツ・ケセル」
ヴァイスが白虎で、ヴァルツが人の方ね。 なんだかヤヤコシイ……。
「私の事はマイと呼んでください」
もともと彼は、私の会いに来る予定だったのだそうだ。 ただ、私には彼のような知り合いはいないと言うか、記憶にはない。 今は前世の記憶が奇妙に表面化して、混濁しているけれど、これほど整った顔立ちは容易に忘れることはないはず。
彼は、王都からステニウス子爵領に向かう途中、川を流れる馬車の箱部分を見つけ生存者確認のため箱を引き上げたらしい。 そしてその中で目的の人間が死にかけていたため、慌てて王都に戻り医師を呼び治療をしてもらったそうだ。
「馬車を引き上げたんですか? 凄い、力持ちですね」
「魔法だ。 流石に濁流の中に入って中身を連れ出すのはキツイ。 それに馬がいなかったのも幸いしていたな。 馬が繋がれていたままだったら、生きていることはなかっただろう。 まぁ、何処で落ちたのか分からないが、生きていたのは奇跡としかいいようがない状態だった」
意識を失う瞬間を思い出しブルりと身体を振るわせれば、白虎が大きな前足で頭を撫でてくる。
「私はお留守番だったので、現場は見ていませんが凄い水量だったと言います。 生きていて良かった」
知らない人のために、本当に嬉しそうに言うから、奇妙な喉のつまりを覚えてしまう。
「あ、りがとうございます。 ところで、なぜ私に? 間違いでは?」
「何度か会っているだろうが?」
はて? と首をかしげる。 コレは記憶喪失の振りではなく、本当に覚えが無かったから。
「ヴァルツ、彼女は記憶を失くしているのですから、ちゃんと説明して差し上げないと」
男は微妙に顔をしかめてみせた。
面倒臭いと言わんばかりの表情を白虎に向けた男は、一旦部屋の外に出て直ぐに戻ってきた。 手には瓶や小箱が入った箱を持ってきていて、白虎が寄りそう反対側にその箱を置き、彼は窓際においたシンプルな木製の椅子に座り話を続けた。
「俺は、アンタの爺さんから、ソレらを定期的に購入していた」
こう言われてようやく私は男を思い出した。 何時も顔を隠していたから気付かなかっただけで、彼は真夜中に薬を買いに来ていたアヤシイ売人だったらしい。
私は、スプーンを置き瓶や箱を手に取り中身を眺める。 自分で作ったものではあるけれど、以前はアヤシイ植物に見えていたソレが、別のものに見えていた。
「シソ、ニンニク、胡椒、ゴマかな? 唐辛子、生姜、珈琲?」
以前は、アヤシイ薬だと思っていたけれど、前世の記憶を取り戻した今となっては、ただの調味料と珈琲豆でしかない。 知識って大事だなぁ……。
「そう……、レーム家は代々植物魔法を得意とする家柄だと言う。 で、俺はそれの生育を依頼していた。 レーム家にとってと言うか、ステニウス家にとってはなくてはならない金銭だったと思うのだが? 今のレーム家の当主……いや、生き残りは強情でなかなか商品を売ってくれなくて正直困っていたわけだ」
「そうなんですか?」
私はすっとぼける事にした。 前世の記憶が戻った今となっては、アヤシイ売人と思っていたのは正直恥ずかしくもある話。 だけど、ステニウス家のために金儲けをしたくない私にとっては、知らなくて良かったとも思えてしまう。
うん、アレはアレで良かった。
まぁ、殺されかけたけど。
多分、殺された理由は金。 金意外ある訳ない。 まぁ、金もありませんがね!!
「飯を食べる手が止まっているぞ」
この世界の料理は、調味料を余り使わない。 いえ、使わないと言うより長く戦争があったせいで、未だ貿易流通が盛んでない……というか、そもそも美食と言う概念にまで、国力が追い付いていない。
「すみません。 御粥美味しいのですが、まだ食欲が……後で食べるので頂いておいて良いですか?」
白虎は味がどうこう言っていた通り、薄味の粥は卵を入れる事で余計に味をぼやけさせていたけど、昆布だしが効いていて美味しかった。。 出来るなら、沢庵の2.3枚や、梅干しがあれば最高なのだが……、贅沢は言うまい。
と言うか、今の私は、セラーナとしての記憶はしっかりと残りつつ、前世がそこに上積みされた状態で、記憶喪失を演じなくても、色々と混乱している。
「まぁ、それは構わんが。 夜は夜で体調に合わせたものを作るから、ヴァイスに食わせておいてかまわんぞ」
「ヴァイスと言うのは白虎さんの名前ですか?」
「そう、ヴァイス・ルシッカ」
何処かで聞いた名前だけど、セラーナとしての記憶がクローゼットの奥に箱詰めされたように曖昧で、直ぐに思い出せそうにない。
「お兄さんは?」
明らかに自分よりも年上と見られる男性に聞いた。
「ヴァルツ・ケセル」
ヴァイスが白虎で、ヴァルツが人の方ね。 なんだかヤヤコシイ……。
「私の事はマイと呼んでください」
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