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2章 新しい生活の始まり
10.屋敷探検
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そして私は、一度は目を覚ましたものの、その後3日の間熱で寝込んだ。
朦朧とした記憶混濁の中。
私は彼等のことを思い出す。
とは言っても、かつて2人が国王陛下から直々お褒めの言葉を頂き、ソレが王都新聞で取り上げられていたと言う記事内容にすぎない。
『美貌の次期子爵ナターナエルと悲劇の婚約者の死』
なんて創作物を作り出す王都新聞。 適当な新聞なのだと評価せざるをえないけれど、2人に確認したところ大きな間違いはないらしい。
『ヴァイス・ルシッカ』
王国1の魔法石師。
その身に甚大な魔力を保有し、付与魔法をおこなった魔法石を生み出す事が出来る稀有な存在だと言う。 王国1と言うが、人口魔石である魔法石という存在は魔法社会においてもまだ新しい分野であり、彼と同じ事を出来るのは、共にその定義を生み出した5名の魔法師のみ。
ヴァイスは、ルシッカ伯爵家の直系であり伯爵と言う地位にあるが、極度の人見知りなため、領地運営は叔父夫婦に任せている。
『ヴァルツ・ケセル』
5年前の停戦協定の立役者。
交渉人と呼ばれている。
本職は金属系の錬金術師。
出生不明でありながら、停戦協定を成立させた折に各国から爵位を与えられている有名人。
今朝方、熱が下がった私に安堵したルシッカ伯爵は溜め込んでいた仕事をすると、チラチラとコチラを見ながら、尻尾を落とし、耳はコチラに向け作業室へと去り、ケセルさんは緊急の仕事が入ったからと黒い詰襟の礼装を着用し出かけて行った。
私は退屈しないようにと与えられた本を読んでいる。
ルシッカ伯爵は、少女が好みそうな愛らしい物語。
ケセルさんは、地理や歴史書、魔導入門書、植物辞典。
前世と言うものがチラチラと脳裏をよぎっていく私は、ケセルさんの準備したものを好ましいと思ってはいるけれど、ルシッカ伯爵の穏やかな優しさを好ましく思えば、彼の思いやりも無視はできない。
そして、一冊ずつ交互に読むなんて事をしていた。
「喉が渇いたかも……」
枕元に置かれたピッチャーに手を伸ばせば、軽すぎてそこに水がない事に気づいた。
「何かあれば呼ぶようにと言われていましたが……。 水程度で仕事の邪魔をするのはね」
魔法の呼び鈴がピッチャーの横に置かれていたが、私はそれに触れることなく大きなベッドから降りた。 人の屋敷を奔放に歩きまわるのもどうかと思うが、魔法石と言う貴重アイテムを作る作業の邪魔をするのは気が引けると言うものだ。
「それに、大抵貴族の家というのは、間取りは似たようなものですし……」
調理場があるだろう場所へと急いだ先にあったのは、前世の住宅カタログが現実化したかのような空間。
「これ、いいなぁ、コレ、料理したい」
使用人を雇わない男所帯と言う割には、キッチンは綺麗に使われている。
「んんん、違う? 使われていない?」
疑問はあるけど、お世話になっている家の推理ごっこをするのも行儀悪いと考えながらも、壁に並ぶ銀色の箱、飲食店の冷蔵庫を彷彿とさせるものを開いた。
これも十分行儀悪いか。
下部分の棚には、イモ類、ニンジン、玉ねぎなど保存の効きそうな野菜があった。 全体的にチルドより少し低い温度設定で、肉、ハム、ベーコン、バター、チーズ、卵。 それと作り置きの煮込み料理と、私用と思われる粥。
これならアレもあるかも……そう思ってあたりを見回せば、レンジっぽい箱もあった。
コホコホ
興奮で忘れていたが、咳き込む事でスイッチがオフになり本来の目的を思い出す。
私は水を飲むことにした。 食器洗浄機と思われる箱を開ければ、おきっぱなしのグラスがあり、そこからグラスを拝借し、水道のハンドルを上げれば水が出た。
貴族家でも井戸から手押しポンプで水をくみ上げるのが一般的なのだから、水道がある事の凄さに感心するしかない。 ただ、配管はないけど……。
料理したいなぁ……。
しようかなぁ……。
久々だし簡単なところでオムレツかな……。
後は玉ねぎとベーコンのスープ。
レンジも使っちゃおう。
時短、時短。
玉ねぎのスープを出汁代わりに少し卵にまぜいれる。 牛乳があればソレをつかったのですがねぇ……日持ちのしないものは、存在していなかった。 その代わりバターとチーズはふんだんに使おう。
ふわふわとろとろオムレツが出来上がれば、
「ふへへへっへへへへへ」
私から怪しい笑みがこぼれでた。
「何を笑っている」
飽きれた声で、ふらふらとゾンビのようにクタビレタおっさん2人……改め、白虎のルシッカ伯爵と、黒い詰襟礼服を着崩したケセルさんが扉の向こうから覗いていた。
「少し目を離せば病人が何をしているんです!!」
今日も雨が続いているせいなのか、ご機嫌のせいなのか、寝不足のせいなのか、毛の逆立った白虎が叱る。
「ご、ごめんなさい」
「そうそう、病人がそんな脂っこいものを食べて良いと思ってんのかぁ?」
やさぐれた様子で、吸いかけの煙草を半分で消しながら寄ってくるケセルさん。
「御粥、飽きた」
可愛さを作り愛想笑いしながら、奪われてはなるまいと、フライパンを背に隠す私……。
そして始まる戦闘。
等という事はない。
朦朧とした記憶混濁の中。
私は彼等のことを思い出す。
とは言っても、かつて2人が国王陛下から直々お褒めの言葉を頂き、ソレが王都新聞で取り上げられていたと言う記事内容にすぎない。
『美貌の次期子爵ナターナエルと悲劇の婚約者の死』
なんて創作物を作り出す王都新聞。 適当な新聞なのだと評価せざるをえないけれど、2人に確認したところ大きな間違いはないらしい。
『ヴァイス・ルシッカ』
王国1の魔法石師。
その身に甚大な魔力を保有し、付与魔法をおこなった魔法石を生み出す事が出来る稀有な存在だと言う。 王国1と言うが、人口魔石である魔法石という存在は魔法社会においてもまだ新しい分野であり、彼と同じ事を出来るのは、共にその定義を生み出した5名の魔法師のみ。
ヴァイスは、ルシッカ伯爵家の直系であり伯爵と言う地位にあるが、極度の人見知りなため、領地運営は叔父夫婦に任せている。
『ヴァルツ・ケセル』
5年前の停戦協定の立役者。
交渉人と呼ばれている。
本職は金属系の錬金術師。
出生不明でありながら、停戦協定を成立させた折に各国から爵位を与えられている有名人。
今朝方、熱が下がった私に安堵したルシッカ伯爵は溜め込んでいた仕事をすると、チラチラとコチラを見ながら、尻尾を落とし、耳はコチラに向け作業室へと去り、ケセルさんは緊急の仕事が入ったからと黒い詰襟の礼装を着用し出かけて行った。
私は退屈しないようにと与えられた本を読んでいる。
ルシッカ伯爵は、少女が好みそうな愛らしい物語。
ケセルさんは、地理や歴史書、魔導入門書、植物辞典。
前世と言うものがチラチラと脳裏をよぎっていく私は、ケセルさんの準備したものを好ましいと思ってはいるけれど、ルシッカ伯爵の穏やかな優しさを好ましく思えば、彼の思いやりも無視はできない。
そして、一冊ずつ交互に読むなんて事をしていた。
「喉が渇いたかも……」
枕元に置かれたピッチャーに手を伸ばせば、軽すぎてそこに水がない事に気づいた。
「何かあれば呼ぶようにと言われていましたが……。 水程度で仕事の邪魔をするのはね」
魔法の呼び鈴がピッチャーの横に置かれていたが、私はそれに触れることなく大きなベッドから降りた。 人の屋敷を奔放に歩きまわるのもどうかと思うが、魔法石と言う貴重アイテムを作る作業の邪魔をするのは気が引けると言うものだ。
「それに、大抵貴族の家というのは、間取りは似たようなものですし……」
調理場があるだろう場所へと急いだ先にあったのは、前世の住宅カタログが現実化したかのような空間。
「これ、いいなぁ、コレ、料理したい」
使用人を雇わない男所帯と言う割には、キッチンは綺麗に使われている。
「んんん、違う? 使われていない?」
疑問はあるけど、お世話になっている家の推理ごっこをするのも行儀悪いと考えながらも、壁に並ぶ銀色の箱、飲食店の冷蔵庫を彷彿とさせるものを開いた。
これも十分行儀悪いか。
下部分の棚には、イモ類、ニンジン、玉ねぎなど保存の効きそうな野菜があった。 全体的にチルドより少し低い温度設定で、肉、ハム、ベーコン、バター、チーズ、卵。 それと作り置きの煮込み料理と、私用と思われる粥。
これならアレもあるかも……そう思ってあたりを見回せば、レンジっぽい箱もあった。
コホコホ
興奮で忘れていたが、咳き込む事でスイッチがオフになり本来の目的を思い出す。
私は水を飲むことにした。 食器洗浄機と思われる箱を開ければ、おきっぱなしのグラスがあり、そこからグラスを拝借し、水道のハンドルを上げれば水が出た。
貴族家でも井戸から手押しポンプで水をくみ上げるのが一般的なのだから、水道がある事の凄さに感心するしかない。 ただ、配管はないけど……。
料理したいなぁ……。
しようかなぁ……。
久々だし簡単なところでオムレツかな……。
後は玉ねぎとベーコンのスープ。
レンジも使っちゃおう。
時短、時短。
玉ねぎのスープを出汁代わりに少し卵にまぜいれる。 牛乳があればソレをつかったのですがねぇ……日持ちのしないものは、存在していなかった。 その代わりバターとチーズはふんだんに使おう。
ふわふわとろとろオムレツが出来上がれば、
「ふへへへっへへへへへ」
私から怪しい笑みがこぼれでた。
「何を笑っている」
飽きれた声で、ふらふらとゾンビのようにクタビレタおっさん2人……改め、白虎のルシッカ伯爵と、黒い詰襟礼服を着崩したケセルさんが扉の向こうから覗いていた。
「少し目を離せば病人が何をしているんです!!」
今日も雨が続いているせいなのか、ご機嫌のせいなのか、寝不足のせいなのか、毛の逆立った白虎が叱る。
「ご、ごめんなさい」
「そうそう、病人がそんな脂っこいものを食べて良いと思ってんのかぁ?」
やさぐれた様子で、吸いかけの煙草を半分で消しながら寄ってくるケセルさん。
「御粥、飽きた」
可愛さを作り愛想笑いしながら、奪われてはなるまいと、フライパンを背に隠す私……。
そして始まる戦闘。
等という事はない。
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