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3章 ルシッカ伯爵領 中央都市
16.旅の終わり
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ルシッカ伯爵領までの間、ルシッカ伯爵とケセルさんは桁外れの量で色々な品物を買い込んでいた。 だから、私はルシッカ伯爵領と言う地は、単純に貧しいのだと思い込んでいた。
領地が貧しいのと、領主が貧しいのとは別だ。
休戦協定から5年。
戦争で働きざかりの多くの男を失った国々は、生活の歯車が色々と狂っている。
私がいた元ステニウス子爵領は、子爵一家が浪費家で、自信家で、面倒屋だったから、ダメになったけど、領地としては常に問題なく運営されていた。
理由は簡単。
代々レーム家に伝わる植物魔法によって、作物の種の病気耐性を上げるように細工をしていた。 これは、レーム家が長年植物魔法と関わる事で、大地を守りながら生産量を増やすと言う目的を達成させるため導きだした丁度良いバランス。
戦争中となれば労働力が減少するため、病気耐性の他に、収穫量を倍にするように手を加えてはいたけれど。 人がいないのだから畑2haがあれば、1haだけを使い、もう1haを休耕地として休ませる事でバランスを取った。 だから、元ステニウス子爵領の民は飢えた事がない。
レーム家の能力は秘密とされていたけれど、王家にだけは伝えられており、国王陛下かのら依頼があれば他領地のためにも種子改造を祖父と共に行っていた。 なので、他領地のことも多少は知っているつもりなのだけど、ルシッカ領のことは知らない。
まだ、この国は問題が多いからなぁ……。
私は、そんな風にしか考えて居なかった。
馬車での移動12日目。
冬へと向かい日々寒さを増しているはずなのに、急に温かくなったような気がした。 数時間前まで寒くてルシッカ伯爵に抱きついていたのが、今は暑いからと離れれば、どこからとなく出された薄地のワンピースが渡された。
「予想が出来たから、ヴァルツに頼んで買ってきてもらっていたんですよ。 急に素っ気なくされると、その、寂しいですから」
恥ずかしそうに言う白虎の髭が少しだけさがり、尻尾も元気が無くなれば、あたしは直ぐに着替えて伯爵に寄り添いながら、外を眺めてみた。
遠くに見える大地が赤い。
「鉄?」
「いや、ミネラル分の多い酸性土」
私の質問に、ケセルさんが短く答えた。
「何の話ですか?」
「赤い土が鉄成分だったら、鉄鋼が盛んなのかな?って思ったの」
「余り盛んではないですねぇ~」
伯爵はノンキそうに答えた。
窓の外を見れば、他領地とは自生している植物が違っていた。
「ルシッカでは米や麦は余り取れない。 穀物で取れるのはイモ類だが、戦争を終えた今では、穀物よりもサトウキビへと移行するように勧めている」
説明したのは領主であるルシッカ伯爵ではなくケセルさんの方だった。
窓の外はサトウキビだろう植物が鬱蒼と生い茂っていた。 でも、なんか成長しすぎに思えた。 これは、私が生きていた前世とは違う世界だから? それとも、私が南方の植物に詳しくないからでしょうか?
その答えは、ルシッカ中央都市ルシカに入ると分かった。
活火山ルシャの中腹部分には大きな屋敷を見る事が出来た。 山から下りる小川。 それを跨ぐように塀が作られ、ルシカまでの本道以外は木々が生い茂っている。 その木々は、鋭利な刃物のように見える葉をそよがせている。
「見た事の無い木だ……」
「鉄の木と言って、火に強い木だ。 火山が噴火した時に被害を防ごうとした何代か前の領主が植えたらしい」
「それは、最初から火山に住まなければいいのでは?」
「戦時には、これは天然の要塞として民を守ってくれるのですよ」
「防衛拠点?」
「そうそう、未だどこもここも生活は厳しいからな」
「でも、働き手は戻った訳でしょう?」
「うちの国のように食糧生産を主要産業にしている国は、生きて生けるが、穀物の生産量が少ない国は未だ厳しい。 特に鉄の産出国になれば、戦争時の方が儲かるとか言って、未だ暗躍に忙しい」
「すっごい鍋釜を作って、他国にも売ればいいのに」
「そりゃぁいいが、技術は途絶えさせない程度に鍛えて行かないとだめだろう。 まぁ、そうだけど、包丁は何処の家でも必要だし、戦争が終わったからこそ必要とされるものも多いんじゃないかな?」
伯爵に抱え着きながら言う私の頭が撫でられる。
「だな」
だけど、私の視線は外を眺めていた。
やる気のない。 働く気のない街の人々の姿を。
領地が貧しいのと、領主が貧しいのとは別だ。
休戦協定から5年。
戦争で働きざかりの多くの男を失った国々は、生活の歯車が色々と狂っている。
私がいた元ステニウス子爵領は、子爵一家が浪費家で、自信家で、面倒屋だったから、ダメになったけど、領地としては常に問題なく運営されていた。
理由は簡単。
代々レーム家に伝わる植物魔法によって、作物の種の病気耐性を上げるように細工をしていた。 これは、レーム家が長年植物魔法と関わる事で、大地を守りながら生産量を増やすと言う目的を達成させるため導きだした丁度良いバランス。
戦争中となれば労働力が減少するため、病気耐性の他に、収穫量を倍にするように手を加えてはいたけれど。 人がいないのだから畑2haがあれば、1haだけを使い、もう1haを休耕地として休ませる事でバランスを取った。 だから、元ステニウス子爵領の民は飢えた事がない。
レーム家の能力は秘密とされていたけれど、王家にだけは伝えられており、国王陛下かのら依頼があれば他領地のためにも種子改造を祖父と共に行っていた。 なので、他領地のことも多少は知っているつもりなのだけど、ルシッカ領のことは知らない。
まだ、この国は問題が多いからなぁ……。
私は、そんな風にしか考えて居なかった。
馬車での移動12日目。
冬へと向かい日々寒さを増しているはずなのに、急に温かくなったような気がした。 数時間前まで寒くてルシッカ伯爵に抱きついていたのが、今は暑いからと離れれば、どこからとなく出された薄地のワンピースが渡された。
「予想が出来たから、ヴァルツに頼んで買ってきてもらっていたんですよ。 急に素っ気なくされると、その、寂しいですから」
恥ずかしそうに言う白虎の髭が少しだけさがり、尻尾も元気が無くなれば、あたしは直ぐに着替えて伯爵に寄り添いながら、外を眺めてみた。
遠くに見える大地が赤い。
「鉄?」
「いや、ミネラル分の多い酸性土」
私の質問に、ケセルさんが短く答えた。
「何の話ですか?」
「赤い土が鉄成分だったら、鉄鋼が盛んなのかな?って思ったの」
「余り盛んではないですねぇ~」
伯爵はノンキそうに答えた。
窓の外を見れば、他領地とは自生している植物が違っていた。
「ルシッカでは米や麦は余り取れない。 穀物で取れるのはイモ類だが、戦争を終えた今では、穀物よりもサトウキビへと移行するように勧めている」
説明したのは領主であるルシッカ伯爵ではなくケセルさんの方だった。
窓の外はサトウキビだろう植物が鬱蒼と生い茂っていた。 でも、なんか成長しすぎに思えた。 これは、私が生きていた前世とは違う世界だから? それとも、私が南方の植物に詳しくないからでしょうか?
その答えは、ルシッカ中央都市ルシカに入ると分かった。
活火山ルシャの中腹部分には大きな屋敷を見る事が出来た。 山から下りる小川。 それを跨ぐように塀が作られ、ルシカまでの本道以外は木々が生い茂っている。 その木々は、鋭利な刃物のように見える葉をそよがせている。
「見た事の無い木だ……」
「鉄の木と言って、火に強い木だ。 火山が噴火した時に被害を防ごうとした何代か前の領主が植えたらしい」
「それは、最初から火山に住まなければいいのでは?」
「戦時には、これは天然の要塞として民を守ってくれるのですよ」
「防衛拠点?」
「そうそう、未だどこもここも生活は厳しいからな」
「でも、働き手は戻った訳でしょう?」
「うちの国のように食糧生産を主要産業にしている国は、生きて生けるが、穀物の生産量が少ない国は未だ厳しい。 特に鉄の産出国になれば、戦争時の方が儲かるとか言って、未だ暗躍に忙しい」
「すっごい鍋釜を作って、他国にも売ればいいのに」
「そりゃぁいいが、技術は途絶えさせない程度に鍛えて行かないとだめだろう。 まぁ、そうだけど、包丁は何処の家でも必要だし、戦争が終わったからこそ必要とされるものも多いんじゃないかな?」
伯爵に抱え着きながら言う私の頭が撫でられる。
「だな」
だけど、私の視線は外を眺めていた。
やる気のない。 働く気のない街の人々の姿を。
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