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3章 ルシッカ伯爵領 中央都市
21.不法投棄者 01
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緩やかに平和に日々は過ぎ、5日も経てば屋敷の周囲を囲む鬱蒼とした木々や、屋敷に絡みつく植物の茎や蔓、それに集まる虫等さえ気にしなければ、悪くない日々を送っている。
伯爵に虫よけ用の魔道具を作ってもらい、森を歩く。 わざわざ虫嫌いが森を行くのは、オレンジの木を見つけたから。 天然ものである以上甘さは期待できないかもしれないけれど、香りがあれば十分ですからねぇ。
「うわぁ」
手入れのされてない山は足元が危なく、こう見事に転び、滑り落ちそうになったところ、伯爵に襟元を咥えられ保護された。 ひょいっと放り投げるような動作で、背に乗せられたけど、フワリと浮く身体の感覚から、腕力ではなく魔力を使っているのが分かる。
「何をしているのですか?」
そう問われれば、虫よけを作って欲しいと言った理由を理解していなかったらしい。
「オレンジが実った木を見つけたから、料理に使おうと思ったの」
「そう言う時は、一言声をかけてください。 一緒にいきますから」
「そういえば、どうします?」
「何がですか?」
「ここの住民です。 アクション起こしますか? 向こうから動くのを待ちますか?」
汗ばむほどの気温の中、それでもサラリと心地よい伯爵の毛並みに身を任せれば、丁度伯爵の頭上、耳もとで囁くようになれば、伯爵の耳がプルプルと震えた。 それが面白くてふっと息をふきかければ、
「ぁうん」
伯爵から変な声が漏れ出て、尻尾でペシャリと叩かれる。
「悪戯は辞めてください」
「は~い」
オレンジを収穫し、鶏肉のオレンジ煮とパウンドケーキの準備をする。 横で伯爵がオレンジ風味にした冷たい紅茶を飲んでいる。
「さっきの件ですが、一応向こうからアクションは行われているんですよ」
「そうなんですか?」
「はい、ただ入口を開いていないため、小道に入る前の通りに食べ物を適当においていくと言うだけで、実害がないので放っておきました。」
「いえ、それは、十分に嫌がらせですから!!」
寛容なのはいいのですが、伯爵のこういうところに少し困ります。
以前は、食べ物が悪くならないように、冷蔵用の箱を置き、ソレが無い以上は食事を必要としていない。 それが暗黙の了解となっていたと言う。
ケセルさんの調理レベルは、肉、魚の解体、焼く、煮る、米を炊く、奇跡的にカレーは凄く美味しいと言うもの。 月の半分ぐらいを自炊にしても良かったのだけど、食べ物が必要な日と、必要でない日とあるのは迷惑だと言われたそうだ。
「ただ、こういう食べ物を勝手に置き去りにするなんて、強引な事はなかったんですけどね」
伯爵は溜息をつくから、私は首をかしげた。
「いやいや、十分に強引で押し付けですから!! 伯爵的に食事事情は弱点ですか?」
「そうですねぇ……。 やっぱり美味しいものを食べたいと思うものじゃないですか」
「ということは、ルシッカの料理は美味しいの?」
「ヴァルツが、調味料の調達ルートを作ったので、一般住民が作る料理でも、王都の料亭とかわらない程に美味しいですよ」
「そうなんですか……」
美味しいを知り、食事的贅沢を知っているのですか……まだ情報が足りないなぁ……。 等と考えて居れば、私が不機嫌になったとでも思ったのでしょうか、スリスリとすり寄りながら甘い声で褒めてくる。
「あぁ、でも、マイの料理の方が断然美味しいですから」
「ふむ……ということは、伯爵は私が無くては困ると?」
ニヤリと言って見せれば、狼狽えていた。
「まぁ、冗談はともかく食べ物を無駄にするのは面白くありませんね。 そういえば、その食事の対価はどうしていたんです? 金銭的な援助をしているから、ただだよ的な?」
「いえ、パン、スープに各1万ゼニー、肉や魚などのメインメニューには3万ぜにー支払っていましたが?」
私は、思わず伯爵の髭を掴んだ。 流石に引っ張ると言う凶悪な行為は行わなかったものの、それでも嫌な顔はされてしまったので、十分嫌がらせの効果があったと言えるでしょう。
「向こうから、金に困っていると騒ぎ出すのを待とうかと思ったけれど……、もう少し積極的に動いてみようかな。 伯爵、街に出たいのですが馬って……いましたっけ?」
「……私が連れて行きましょう」
「流石にそれは申し訳ないと言うか、伯爵も仕事があるのですから。 では、そうですね不法投棄に犯人を捕まえることにします」
「まぁ、それでしたら、小道を隠す幻影を解除しておけば勝手に入ってくるのではないでしょうか?」
「それもそうですね。 では、どのような人間が不法投棄していくのかを調査した後、改めて作戦をたてますので、明日から小道の入り口付近まで運んでもらえますか?」
私の提案に伯爵は渋い顔をして見せるのだった。
伯爵に虫よけ用の魔道具を作ってもらい、森を歩く。 わざわざ虫嫌いが森を行くのは、オレンジの木を見つけたから。 天然ものである以上甘さは期待できないかもしれないけれど、香りがあれば十分ですからねぇ。
「うわぁ」
手入れのされてない山は足元が危なく、こう見事に転び、滑り落ちそうになったところ、伯爵に襟元を咥えられ保護された。 ひょいっと放り投げるような動作で、背に乗せられたけど、フワリと浮く身体の感覚から、腕力ではなく魔力を使っているのが分かる。
「何をしているのですか?」
そう問われれば、虫よけを作って欲しいと言った理由を理解していなかったらしい。
「オレンジが実った木を見つけたから、料理に使おうと思ったの」
「そう言う時は、一言声をかけてください。 一緒にいきますから」
「そういえば、どうします?」
「何がですか?」
「ここの住民です。 アクション起こしますか? 向こうから動くのを待ちますか?」
汗ばむほどの気温の中、それでもサラリと心地よい伯爵の毛並みに身を任せれば、丁度伯爵の頭上、耳もとで囁くようになれば、伯爵の耳がプルプルと震えた。 それが面白くてふっと息をふきかければ、
「ぁうん」
伯爵から変な声が漏れ出て、尻尾でペシャリと叩かれる。
「悪戯は辞めてください」
「は~い」
オレンジを収穫し、鶏肉のオレンジ煮とパウンドケーキの準備をする。 横で伯爵がオレンジ風味にした冷たい紅茶を飲んでいる。
「さっきの件ですが、一応向こうからアクションは行われているんですよ」
「そうなんですか?」
「はい、ただ入口を開いていないため、小道に入る前の通りに食べ物を適当においていくと言うだけで、実害がないので放っておきました。」
「いえ、それは、十分に嫌がらせですから!!」
寛容なのはいいのですが、伯爵のこういうところに少し困ります。
以前は、食べ物が悪くならないように、冷蔵用の箱を置き、ソレが無い以上は食事を必要としていない。 それが暗黙の了解となっていたと言う。
ケセルさんの調理レベルは、肉、魚の解体、焼く、煮る、米を炊く、奇跡的にカレーは凄く美味しいと言うもの。 月の半分ぐらいを自炊にしても良かったのだけど、食べ物が必要な日と、必要でない日とあるのは迷惑だと言われたそうだ。
「ただ、こういう食べ物を勝手に置き去りにするなんて、強引な事はなかったんですけどね」
伯爵は溜息をつくから、私は首をかしげた。
「いやいや、十分に強引で押し付けですから!! 伯爵的に食事事情は弱点ですか?」
「そうですねぇ……。 やっぱり美味しいものを食べたいと思うものじゃないですか」
「ということは、ルシッカの料理は美味しいの?」
「ヴァルツが、調味料の調達ルートを作ったので、一般住民が作る料理でも、王都の料亭とかわらない程に美味しいですよ」
「そうなんですか……」
美味しいを知り、食事的贅沢を知っているのですか……まだ情報が足りないなぁ……。 等と考えて居れば、私が不機嫌になったとでも思ったのでしょうか、スリスリとすり寄りながら甘い声で褒めてくる。
「あぁ、でも、マイの料理の方が断然美味しいですから」
「ふむ……ということは、伯爵は私が無くては困ると?」
ニヤリと言って見せれば、狼狽えていた。
「まぁ、冗談はともかく食べ物を無駄にするのは面白くありませんね。 そういえば、その食事の対価はどうしていたんです? 金銭的な援助をしているから、ただだよ的な?」
「いえ、パン、スープに各1万ゼニー、肉や魚などのメインメニューには3万ぜにー支払っていましたが?」
私は、思わず伯爵の髭を掴んだ。 流石に引っ張ると言う凶悪な行為は行わなかったものの、それでも嫌な顔はされてしまったので、十分嫌がらせの効果があったと言えるでしょう。
「向こうから、金に困っていると騒ぎ出すのを待とうかと思ったけれど……、もう少し積極的に動いてみようかな。 伯爵、街に出たいのですが馬って……いましたっけ?」
「……私が連れて行きましょう」
「流石にそれは申し訳ないと言うか、伯爵も仕事があるのですから。 では、そうですね不法投棄に犯人を捕まえることにします」
「まぁ、それでしたら、小道を隠す幻影を解除しておけば勝手に入ってくるのではないでしょうか?」
「それもそうですね。 では、どのような人間が不法投棄していくのかを調査した後、改めて作戦をたてますので、明日から小道の入り口付近まで運んでもらえますか?」
私の提案に伯爵は渋い顔をして見せるのだった。
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