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3章 ルシッカ伯爵領 中央都市

20.伯爵邸 03

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「い、一緒の部屋なんて、それはダメでしょう!!」

 絞り出すような声で伯爵に言われれば、聞こえないふりをした。

「伯爵、お茶にしましょう! 王都で買ってもらったお菓子が残ってるわ」

「話、聞いてます?」

「はいはい」

 私は、後ろについてくる伯爵をチラリと確認し、家族の応接室と言う印象の椅子の無い部屋へと向かった。 そこの大きめの木棚には、馬車の中で伯爵が愛用していたものを配置してある。

 昨日の段階では、とにかく荷物を屋敷にいれろ! でしたからね。 とにかくリラックスをしてもらい、交渉を有利に進めるため、伯爵の仕事中の場所を整えたのですよ。

 オヤツ棚もバッチリ回収し木棚の中にしまってある。 代わりといってはなんですが、ケセルさんに、肉じゃが、筋煮、ガッツリお肉のビーフシチューモドキ、そういう煮込み料理を大量につくらされましたけどね。

 ケトルもティーポットもカップも、珈琲セットも、茶葉も、持ち寄り済。 侍女としては手抜きだけど、私は侍女として雇われている訳ではないですし……あれ? 私、どういう立場えここにいるんだろう?

「伯爵は、珈琲と紅茶どちらがいいです?」

「強引ですね……」

 笑って見せれば、伯爵は絨毯の上に伏せ、はふぅと溜息をつき答える。

「珈琲、砂糖はなし、ミルク多めでお願いします」

「はい、心を込めて淹れますねぇ~~~」

「そんな可愛く言っても、同じ部屋を使うと言うのは了解しませんよ」

「王都でも、馬車でも、一緒に寝ていたのに酷い!! 遊びだったのね!!」

「ぇ? ぁ? な、何が?? アナタの体調が心配だったための緊急措置と、馬車の中が安全だったからです。 それに、ヴァルツもいましたし……」

 困惑しつつも必死の言い訳を言うが、ドンドン声が小さくなっていく。 余りイジメるのも可哀そうですが、正直森の中にポツンとある広い屋敷だ。 人の気配がしないのが……正直いえば少し怖い。 虫は小動物の気配はあるんですけどねぇ……仲良くできる気がしませんし。

「ケセルさんがどう関係するか分かりませんけど、こんな広い屋敷で一人なんてイヤです! 怖いじゃないですか」

「許可なく人は入ってきませんし、警備レベルも高めますよ」

 挽いたばかりの珈琲の香が室内に広がれば、伯爵の鼻がヒクヒクと動き、大きな瞳が細まった。

 リラックス効果ですね。

「今更、伯爵のモフモフを失って、私が安眠できるとお思いですの?!」

「眠って下さい……」

 ガックリと伯爵の首が落ちた。

「甘やかしてくれるとおっしゃっていたのに……」

 アヤシイ呻き小声が大きな口から漏れ続けているのを無視し珈琲を入れていれば、入れ終わる頃には伯爵は諦めたらしい。

「もう少し、恥じらいと言うものを覚えた方がいいと思いますよ」

「大丈夫です。 伯爵限定ですから」

 そっぽを向かれたけれど、尻尾がゆらゆらと揺れているのを見る限り、決して怒っている訳ではなく、私のモフモフライフの継続が約束された。
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