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26.公爵家の日常 その4

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「どんな……とは?」

「本当に竜のような鱗がおありでしたか?」

 今はない……けど、少し、考え込んでしまう。 そして、自分ではない他の人間のことを、勝手に語っていいのだろうか? 語る事を期待され多くの視線が怖かった。

「どうでした?」
「御覧になったのでしょう?」
「鱗、本当にあったのですか?」

 詰め寄られた私は、小さくポソリと告げた。

「おありでしたよ」

「それは、手のひらに収まる程度とか?」

 なぜか、奇妙に熱のこもった視線だった。 それが怖くて怖くて、目を閉じて勢いよく首を横に振るえば、侍女達は何かを勝手に想像してしまったらしい。

「そう、鱗に覆われていましたのね」

「ちがっ」

「良いのですよ。 私達はそんな姿でも公爵に感謝しているのですから」

「「「でも」」」

「あぁ、ダメだわ」
「無理ですわ」
「私なら、キモちわるくて」

「「「ノエル様は、寛大な方でございますのね」」」

 そんな言葉が主に向けられだして、驚いてしまう。 こういう場合はどうすればいいのでしょう? 余り酷い言葉が出る前に今はないと、そう思っていたところで次の言葉がかけられた。

 可哀そうだと案ずる自分に酔っているように、一斉に、話しかけられた。

「よく、そんな相手と行為を行う気になりましたね」
「違いますわよ。 ノエル様は逃げられないようにされていたのよ」
「そうでしたわ。 お可哀そうに」
「怖かったでしょう?」

「あら、ノエル様はドラゴンでも可愛いとおっしゃるのですから」

 一瞬変な含み笑いが含まれ、オロオロとしてしまう。

「いい加減になさい!!」

 お姉さん侍女が、若い侍女達の言葉をぴしゃりと止めた。

「そうそう品性が下がりましてよ」

 穏やかに年配の侍女が言う。

「そんな、私達は、そう、あの、えっと、そうでした、あの方のお子となると、どんな子が生まれるかと思って心配をしただけですわ。 ノエル様なら理解していただけますよね」

 それは、フランが良く言った言葉だと思えば、思わず俯いてしまう。

「そんな心配は無用です!! 手元に集中なさい」
「ですが、することをすれば生まれます」
「そう、気にかけておく必要はありますよね?!」
「でも卵で産めるなら、出産も楽かもしれませんわよ」
「産むのが楽でも、温めるのが大変でしょう。 仕事が出来なくなりますわ」

 なんだか楽しそうに盛り上がっている様子を見て、私が唖然としていれば、横でその会話に加わることないお姉さん侍女が、私の耳もと近くで話しかけてくる。

「止める事が出来ず申し訳ありません。 お散歩にでもいきますか?」

「でも」

「大丈夫ですよ。 少しばかり好奇心が旺盛なだけの子達。 少しすれば思慮と言う言葉も思い出しましょう」

 ソレはいいのだと、私はお姉さん侍女に聞いた。

「私、子供が出来ているの?」

 私に聞かれた相手は、困った顔をしていた。 多分、私がとても怯えていたからだと思う……だって、私、子供の育て方知らないんだもの!!

「その、夫婦のちぎりを交わされたのであれば、その可能性もあると言うことです」

「夫婦のちぎり? 契約とか、そういうのをしたとかいってらしたけど」

「何々何の話?」

 勝手に騒いでいた侍女達が、自分達の会話を留めて集まってきた。 ざわざわとした様子で侍女達がシバラク話し合った後、一人の頑強そうな侍女と言うより護衛を思わせる女性が、かっ!!と目を見開いてこういった。

「両足の間、ノエル様のお股に旦那様の股間のものが差し入れられ、子供の元を注ぎ込まれたなら、その可能性が生まれると言うことです」

「どうしましょう!! 私……子供の育て方を知りませんのに!!」

「そういう事なら、私共がお世話をいたしますので、ノエル様は心配しなくて大丈夫ですよ」

 先ほどの会話を聞いている限り、本当に任せて大丈夫なのだろうか? そんな不安が脳裏をよぎるのも仕方がないと思う。

「それより、その反応から言うと……」
「えぇ、そう言う事ですわよね」
「ノエル様は、旦那様と行為をなされた!!」
「それで、どう……でございました?!」

「ど、どう……とは?」

「ズバリいいましょう!! 気色悪かったか!」

 年配侍女が声を荒げた。

「お控えなさい!! ノエル様が怯えていらっしゃる」

 そして、お姉さん侍女が言葉を続けた。

「そうですよ。 いくら経験がないからと言って、そのように好奇心丸出しでつめ寄っては可哀そうです」

 そして、部屋は一瞬静かになり、次の瞬間には騒ぎ出す。

 出会いがないとかどうとかって感じで……。

 なんだか、圧倒されて思わずお姉さん侍女の背後に隠れてしまっていれば、

「何の騒ぎですか!!」

 侍女頭さんが現れ、全員が黙りこんだ。

「ノエル様、旦那様がお呼びです。 一緒に来て頂けますか?」

 私は大きく頷いた。

 凄くホッとしたのも、仕方がない事だと思う……。
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