化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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6章 居場所

51.王子の独白 02

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 アリアメアの背後に見えていた物を思い出す。

 なぜ、忘れていた?
 なぜ、忘れる事ができた?

 アレはいつから、アリアメアの側にいた?

 思い出したのは、無数の目を持つ様々な色が混ざり合いぶよぶよに膨れた小山のような粘液体。

 アリアメアはいつも精霊に救われていた。 助けられていた。 そう思い込んでいたが……、ケガレに飲まれた魔人の暴走により精霊は王宮に近寄る事が出来なかった。

 ならば、アレはなんだった?

 じっと、私を見つめ、皆を見つめ……ニヤリと笑えば、誰もがアリアメアを愛さずにはいられなくなった。 甘い吐息は、ルデルス国の甘い熟し過ぎた果実と似ていたような気がする。

 ニヤリと笑う無数の目。
 私は、私達は誰に微笑んでいたんだ?

 頭がおかしくなりそうだ。

 甘い花の香に、私に思考は途絶える。

 狂いそうな私を見つめる青い瞳があった。
 かつて化け物と呼んでいた聖女は私を正気に連れ戻す。

 蛹から美しく羽化したかのような少女と、アリアメアが重なった。 化け物と呼び続けた少女はアリアメアととても似ている。 姿形ではなく、声でもなく、しぐさでもなく……纏う闇が似ているように思えた。

 ならば聖女に付き従う男は誰だ?

「お前は、何者だ?」

 ジュリアンは男を睨みつけた。 不自由な身体で……。

 本当は美しかった婚約者が、化け物であったのは全てあの男のせいだったのだと……私が、私こそが彼女を助けてやらなければと思った。

「彼女から離れろ」

 言えば、男はおかしくてたまらないと、高笑いをした。 高笑いをし冷ややかな視線でこういった。

「主よ。 お遊びはここまでだ。 帰るぞ」

「待て!!」

 呼び止めた時には、既に姿は無かった。
 あの日、アリアメアが精霊に抱かれて去ったように、聖女もまた薄暗い不吉な雰囲気を纏う男に抱かれ去って行った。



 何が間違いだったんだ。

 ジュリアンは考える。
 あれから、数時間の時を経て、今も考えていた。



 私は何故、今すぐにも王位につこうとした?
 私は何故、この国から魔人をなくそうとした?

 なぜ、ルデルス国の戦士が私と共に来た?

 侵略と言われれば侵略以外のなにものでもない。 言い訳のしようがない。 私は何をしたかった?

「次期王の私がなぜそんなことをしなければいけなかった? 放っておいても王になれたはずなのに……王になってからルデルス国との国交を深めれば良かっただけなのに……」

 彼は、思い出す……。

『ねえ、この国はとっても素敵。 素敵だわ。 とても素敵だと思わない? この国の富を手に入れるには、あの化け物が邪魔。 とても邪魔なの……あれがいる限り、私は帰れないの。 だから、お願い、私の帰るべき場所を取り戻して』

 そう、甘く私の耳元に囁いたのは誰だっただろう? 薄衣に透けて見える白い肌。 あの肌は誰のものだっただろう? 甘い甘い声は、チラチラと姿をちらつかせ、目に留まる事無く訴えた。

 あの甘い香り、甘い声は、どこまでも懐かしく。 守るべきものだと私は理解してしまったのだ。 何の迷いもなく……。



 そして、かの国の王は国に帰る私に問いかけた。

「この国は、どうでしたかな?」

「とても、素晴らしい経験でした。 私がルデルス国の豊かさが羨ましい」

 ただ、そう告げただけで彼等は全てを準備してあった。 準備が出来ていた。 まるで、私がソレを望んだかのように、全てが準備されていた。

「それでは、我が国の炎の欠片をお持ちくださいませ。 きっと、貴方のお役にたって見せましょう」



 思い出した。

 思い出したが、だからどうなのだ……誰が私の言葉を信じると言うのだ? 誰が、私を理解すると言うのだ……。

 私は、罠にはめられただけなんだ!! そんな言葉が通じる訳がない……。 アリアメアのせいにしてどうなると言うんだ。 そんな事を語っても、妄想だと言われるだろう。

 いや……ダメだ……語らなければいけない。
 伝えなければいけない。



 幼い日の父との会話を思い出した。
 アリアメアが王宮に来る以前の、遠い昔の記憶。

『理解されないと癇癪を起してはいけないよ。
 理解をしてほしければ言葉を尽くしなさい。
 諦めてしまえば、誰もがお前を乱暴者だと語るだろう。
 暴力をふるう前に、なぜ不満なのか語りなさい』

『教師が馬鹿過ぎて無理です父上』

『なら、私が聞こう』



「誰か!! 誰か、父上を呼んでくれ!! 父上と話をしたいんだ!! 頼む、父上と話をさせてくれ!!」

 動かぬ身体を引きずり鉄の扉へと向かった。 扉を叩き叫べば、扉の向こうの看守がとうとう気が狂ったかと笑っていた。

「国王様は、貴方の犯した罪の責任を取って国王の座を退かれる。 今は、監視される事を甘んじて受け入れ謹慎なされている。 貴方がいくら縋ろうと、今の国王様に王子を助ける力はないのですよ」

 嘲笑う声だった。

 馬鹿にされた事よりも……もう、自分の言葉に耳を傾ける者がいないのだとジュリアンは絶望した。
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