51 / 82
6章 居場所
51.王子の独白 02
しおりを挟む
アリアメアの背後に見えていた物を思い出す。
なぜ、忘れていた?
なぜ、忘れる事ができた?
アレはいつから、アリアメアの側にいた?
思い出したのは、無数の目を持つ様々な色が混ざり合いぶよぶよに膨れた小山のような粘液体。
アリアメアはいつも精霊に救われていた。 助けられていた。 そう思い込んでいたが……、ケガレに飲まれた魔人の暴走により精霊は王宮に近寄る事が出来なかった。
ならば、アレはなんだった?
じっと、私を見つめ、皆を見つめ……ニヤリと笑えば、誰もがアリアメアを愛さずにはいられなくなった。 甘い吐息は、ルデルス国の甘い熟し過ぎた果実と似ていたような気がする。
ニヤリと笑う無数の目。
私は、私達は誰に微笑んでいたんだ?
頭がおかしくなりそうだ。
甘い花の香に、私に思考は途絶える。
狂いそうな私を見つめる青い瞳があった。
かつて化け物と呼んでいた聖女は私を正気に連れ戻す。
蛹から美しく羽化したかのような少女と、アリアメアが重なった。 化け物と呼び続けた少女はアリアメアととても似ている。 姿形ではなく、声でもなく、しぐさでもなく……纏う闇が似ているように思えた。
ならば聖女に付き従う男は誰だ?
「お前は、何者だ?」
ジュリアンは男を睨みつけた。 不自由な身体で……。
本当は美しかった婚約者が、化け物であったのは全てあの男のせいだったのだと……私が、私こそが彼女を助けてやらなければと思った。
「彼女から離れろ」
言えば、男はおかしくてたまらないと、高笑いをした。 高笑いをし冷ややかな視線でこういった。
「主よ。 お遊びはここまでだ。 帰るぞ」
「待て!!」
呼び止めた時には、既に姿は無かった。
あの日、アリアメアが精霊に抱かれて去ったように、聖女もまた薄暗い不吉な雰囲気を纏う男に抱かれ去って行った。
何が間違いだったんだ。
ジュリアンは考える。
あれから、数時間の時を経て、今も考えていた。
私は何故、今すぐにも王位につこうとした?
私は何故、この国から魔人をなくそうとした?
なぜ、ルデルス国の戦士が私と共に来た?
侵略と言われれば侵略以外のなにものでもない。 言い訳のしようがない。 私は何をしたかった?
「次期王の私がなぜそんなことをしなければいけなかった? 放っておいても王になれたはずなのに……王になってからルデルス国との国交を深めれば良かっただけなのに……」
彼は、思い出す……。
『ねえ、この国はとっても素敵。 素敵だわ。 とても素敵だと思わない? この国の富を手に入れるには、あの化け物が邪魔。 とても邪魔なの……あれがいる限り、私は帰れないの。 だから、お願い、私の帰るべき場所を取り戻して』
そう、甘く私の耳元に囁いたのは誰だっただろう? 薄衣に透けて見える白い肌。 あの肌は誰のものだっただろう? 甘い甘い声は、チラチラと姿をちらつかせ、目に留まる事無く訴えた。
あの甘い香り、甘い声は、どこまでも懐かしく。 守るべきものだと私は理解してしまったのだ。 何の迷いもなく……。
そして、かの国の王は国に帰る私に問いかけた。
「この国は、どうでしたかな?」
「とても、素晴らしい経験でした。 私がルデルス国の豊かさが羨ましい」
ただ、そう告げただけで彼等は全てを準備してあった。 準備が出来ていた。 まるで、私がソレを望んだかのように、全てが準備されていた。
「それでは、我が国の炎の欠片をお持ちくださいませ。 きっと、貴方のお役にたって見せましょう」
思い出した。
思い出したが、だからどうなのだ……誰が私の言葉を信じると言うのだ? 誰が、私を理解すると言うのだ……。
私は、罠にはめられただけなんだ!! そんな言葉が通じる訳がない……。 アリアメアのせいにしてどうなると言うんだ。 そんな事を語っても、妄想だと言われるだろう。
いや……ダメだ……語らなければいけない。
伝えなければいけない。
幼い日の父との会話を思い出した。
アリアメアが王宮に来る以前の、遠い昔の記憶。
『理解されないと癇癪を起してはいけないよ。
理解をしてほしければ言葉を尽くしなさい。
諦めてしまえば、誰もがお前を乱暴者だと語るだろう。
暴力をふるう前に、なぜ不満なのか語りなさい』
『教師が馬鹿過ぎて無理です父上』
『なら、私が聞こう』
「誰か!! 誰か、父上を呼んでくれ!! 父上と話をしたいんだ!! 頼む、父上と話をさせてくれ!!」
動かぬ身体を引きずり鉄の扉へと向かった。 扉を叩き叫べば、扉の向こうの看守がとうとう気が狂ったかと笑っていた。
「国王様は、貴方の犯した罪の責任を取って国王の座を退かれる。 今は、監視される事を甘んじて受け入れ謹慎なされている。 貴方がいくら縋ろうと、今の国王様に王子を助ける力はないのですよ」
嘲笑う声だった。
馬鹿にされた事よりも……もう、自分の言葉に耳を傾ける者がいないのだとジュリアンは絶望した。
なぜ、忘れていた?
なぜ、忘れる事ができた?
アレはいつから、アリアメアの側にいた?
思い出したのは、無数の目を持つ様々な色が混ざり合いぶよぶよに膨れた小山のような粘液体。
アリアメアはいつも精霊に救われていた。 助けられていた。 そう思い込んでいたが……、ケガレに飲まれた魔人の暴走により精霊は王宮に近寄る事が出来なかった。
ならば、アレはなんだった?
じっと、私を見つめ、皆を見つめ……ニヤリと笑えば、誰もがアリアメアを愛さずにはいられなくなった。 甘い吐息は、ルデルス国の甘い熟し過ぎた果実と似ていたような気がする。
ニヤリと笑う無数の目。
私は、私達は誰に微笑んでいたんだ?
頭がおかしくなりそうだ。
甘い花の香に、私に思考は途絶える。
狂いそうな私を見つめる青い瞳があった。
かつて化け物と呼んでいた聖女は私を正気に連れ戻す。
蛹から美しく羽化したかのような少女と、アリアメアが重なった。 化け物と呼び続けた少女はアリアメアととても似ている。 姿形ではなく、声でもなく、しぐさでもなく……纏う闇が似ているように思えた。
ならば聖女に付き従う男は誰だ?
「お前は、何者だ?」
ジュリアンは男を睨みつけた。 不自由な身体で……。
本当は美しかった婚約者が、化け物であったのは全てあの男のせいだったのだと……私が、私こそが彼女を助けてやらなければと思った。
「彼女から離れろ」
言えば、男はおかしくてたまらないと、高笑いをした。 高笑いをし冷ややかな視線でこういった。
「主よ。 お遊びはここまでだ。 帰るぞ」
「待て!!」
呼び止めた時には、既に姿は無かった。
あの日、アリアメアが精霊に抱かれて去ったように、聖女もまた薄暗い不吉な雰囲気を纏う男に抱かれ去って行った。
何が間違いだったんだ。
ジュリアンは考える。
あれから、数時間の時を経て、今も考えていた。
私は何故、今すぐにも王位につこうとした?
私は何故、この国から魔人をなくそうとした?
なぜ、ルデルス国の戦士が私と共に来た?
侵略と言われれば侵略以外のなにものでもない。 言い訳のしようがない。 私は何をしたかった?
「次期王の私がなぜそんなことをしなければいけなかった? 放っておいても王になれたはずなのに……王になってからルデルス国との国交を深めれば良かっただけなのに……」
彼は、思い出す……。
『ねえ、この国はとっても素敵。 素敵だわ。 とても素敵だと思わない? この国の富を手に入れるには、あの化け物が邪魔。 とても邪魔なの……あれがいる限り、私は帰れないの。 だから、お願い、私の帰るべき場所を取り戻して』
そう、甘く私の耳元に囁いたのは誰だっただろう? 薄衣に透けて見える白い肌。 あの肌は誰のものだっただろう? 甘い甘い声は、チラチラと姿をちらつかせ、目に留まる事無く訴えた。
あの甘い香り、甘い声は、どこまでも懐かしく。 守るべきものだと私は理解してしまったのだ。 何の迷いもなく……。
そして、かの国の王は国に帰る私に問いかけた。
「この国は、どうでしたかな?」
「とても、素晴らしい経験でした。 私がルデルス国の豊かさが羨ましい」
ただ、そう告げただけで彼等は全てを準備してあった。 準備が出来ていた。 まるで、私がソレを望んだかのように、全てが準備されていた。
「それでは、我が国の炎の欠片をお持ちくださいませ。 きっと、貴方のお役にたって見せましょう」
思い出した。
思い出したが、だからどうなのだ……誰が私の言葉を信じると言うのだ? 誰が、私を理解すると言うのだ……。
私は、罠にはめられただけなんだ!! そんな言葉が通じる訳がない……。 アリアメアのせいにしてどうなると言うんだ。 そんな事を語っても、妄想だと言われるだろう。
いや……ダメだ……語らなければいけない。
伝えなければいけない。
幼い日の父との会話を思い出した。
アリアメアが王宮に来る以前の、遠い昔の記憶。
『理解されないと癇癪を起してはいけないよ。
理解をしてほしければ言葉を尽くしなさい。
諦めてしまえば、誰もがお前を乱暴者だと語るだろう。
暴力をふるう前に、なぜ不満なのか語りなさい』
『教師が馬鹿過ぎて無理です父上』
『なら、私が聞こう』
「誰か!! 誰か、父上を呼んでくれ!! 父上と話をしたいんだ!! 頼む、父上と話をさせてくれ!!」
動かぬ身体を引きずり鉄の扉へと向かった。 扉を叩き叫べば、扉の向こうの看守がとうとう気が狂ったかと笑っていた。
「国王様は、貴方の犯した罪の責任を取って国王の座を退かれる。 今は、監視される事を甘んじて受け入れ謹慎なされている。 貴方がいくら縋ろうと、今の国王様に王子を助ける力はないのですよ」
嘲笑う声だった。
馬鹿にされた事よりも……もう、自分の言葉に耳を傾ける者がいないのだとジュリアンは絶望した。
8
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる