化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

文字の大きさ
67 / 82
6章 居場所

67.再開 01

しおりを挟む
 距離も時間も関係なく、移動は一瞬。

 訪れたのは、オルコット公爵領にある深い森に隠された古城。 王都から早馬を使えば、3日程の距離。 私自身はロノスの空間と王都しか知らないから、余り詳しくは知らない。

 深く薄暗い森。
 魔物の森。

 そんな名を付けられたのは20年ほど前だと言う。 薄暗く、人の入り込まない森のように見えるが、見えるだけ、そう見える景色すら人によって作られているそうだ。

 私の目の前にある蔦に覆われた崩れかけの石の城も、そのように手入れされたもの。 それは、数百年前に建てられ、新しい領地を得た際に放棄された城だが、余りにも頑丈過ぎて壊れる事もなく、壊される事なく存在し続けており、幽霊城としての噂がある。

 胡散臭い外観と、恐ろしい環境、怪しい噂。 それは、ユリア様暗殺を企んだことのあるジェリド王を警戒して作られたものだと聞かされた。

 先王に次期王として指名されたユリア様は、ヴェルの封印が弱まり、魔力が奪われだした王族の中では、群を抜いた魔力量を保有していたと言う。

 まぁ、私の力が血縁によって受け継がれているのだから、私と同じ力をユリア様が行使できても不思議ではない。 聖女にまで満たない力だが、ユリア様に助けられた人々は多く、尊敬となり、恐れとなり、王が望んでもユリア様を殺す事が出来る者などいなかった。

 だから、王に逆らえない呪いを当主交代と共に与えられるオルコット公爵に、偶然、当主であった父様の父様……私にとって祖父を亡くし、当主にならざるを得なかった幼い父様の元に、ユリア様を嫁がせたのだと言う。

『王のために生涯を捧げ、王のために忠誠を捧げよ』

 言葉こそ騎士として当然の事だが、交わされた誓約の内容はかなり身勝手なものだったそうだ。 だが……幼い父様は、初めてユリア様を見た時、

『この人こそが私の女王だ』

 そう思ったらしい。 だから、父の忠誠も生涯もユリア様にのみ向けられるのだと、ミカゲ先生は言っていた。



 壊れかけにすら見えるが頑強な古城。

 広く、薄暗い森と城。
 その中央に、光が差し込む庭があった。
 美しい白い花を蓄える巨木。

 そこに父様はいた。

 大地に赤い魔力脈が主張し、力ある巨木を雷のように駆け上がった。

「なんだ?!」

 厳しい視線で敵意を現し身構える父様を見て、私は……一瞬恐怖した。 信頼しよう。 信頼したい。 良くしてくれた。 甘いと言われればソレまでだが、ここ数日の間、私は幾人もの裏切りを知り、目にしてきたのだ。

 なら、私を殺そうとした父様が、本当は私に敵意を抱いていたとて不思議ではないと思ってしまった。

 それほどに厳しい視線だった。

 白い花を咲かせる樹木が、赤い巨大な蕾を蓄え、私はそこを出口とする。

 そこから現れるのは私だけ。
 ヴェルは一緒にいない。

 魔力脈を移動するのは出来るし、自分の空間にいる分には問題ないが、オルコット領はロノスの力が強いために遠慮させて欲しいと言うのがヴェルの訴えだったのだ。

 だから、当然

『父様の元へ連れて行って』

 と言う願いを叶えてもらうまで沢山の時間を必要としてしまった。 嫌々聞いてくれた願い条件付き、私の中にあるヴェルの欠片を増やし、私自身にヴェルの空間への入り口を作る事と交換条件だった。 私はヴェルの力の欠片を受け入れ3日ほど熱に眠る事になり、普通に馬で移動してきたのと同じだけの時間をかけて、魔力脈を経由してきたのだ。

 なんか、とても馬鹿げている……。

 私は巨大な赤い花から現れた。

「エリアル?」

 殺意とも言える気配は父からあっさりと消え失せた。

「エリアル!!」

 うっすらと夢現に世界を眺める私を受け止めようと、父様は地面の上で両手を広げ右往左往しているのを、うすぼんやりと私は眺め、そして落下し始めた私は、思い切り父様に蹴りを入れ、猫のようにクルリと宙を舞い、大地に着地した。

「にゃぁ~」

「えっと……エリアルさん?」

「父様、お元気そうでなによりです」

 ふんっと不機嫌そうに言えば、嬉しそうに顔を緩められた。 私は向けられた殺意にショックをうけたんだからね!! と、理不尽な怒りを向けるが、

「エリアル、どうしたんですか?! 突然に、何かあったのですか? ケガ? 病気? 魔人は、貴方を任せたと言うのに、あの人は一緒ではないんですか」

 そんな事を矢継ぎ早に言いながら私を抱き上げる。

「うざい」

 顔の位置まで持ち上げられたから、私は行儀悪く蹴りを入れて抱きしめようとする父様を拒否した。

「あぁ、本当に可愛らしい。 年を重ねるごとにユリアに似てくるのに、ユリアよりも全然カワイイから不思議だ」

 ヘラヘラと笑いながら、ぐるぐると回しだす。

「ちょ、目が回るからソレはやだって言っているでしょう!!」

 と言うが、余り言う事を聞いてくれた事がない。 ミカゲ先生が言うには、父様は目を回す私も含めてカワイイのだから諦めろだそうだ。

 ちなみに、ユリア様よりもかわいいと言うのは、ユリア様は父様よりも年上で、何時も凛々しくカッコいい人だったからと言う理由で、決してユリア様よりも私が上と言う訳ではない……。

 きっちり目を回すところまで終えて満足した父様は、私を地面に座らせ、父様自身も地面に座り込み、私に問う。

「それで、どうしたんですか。 こんなところまで一人で」

「……父様、気持ち悪い……」

 何時もより多く回された私は、ペタンと緑豊かな大地に目を回したまま転がったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...