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7章 それぞれの歩み
75.聖女の証 02
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父様をジッと見つめれば、返されるのは私の知っているどこか幼い無邪気にも見える笑み。 そして、父様は私を自分の胸に抱き寄せるようにしながら、父様が見たアリアメアを語りだす。
「彼女を見た時、この子ほど王家に相応しい者はいないと思ったものです」
何時もと変わらない優しい声で言われれば、予想していた以上に私はショックで……父様の顔を見れば、優しい笑みで幼子にするように髪が撫でられ、自分のショックが杞憂であったことにすぐ気づいた。
「あの、それはどう言う意味なのでしょうか? 彼女は、赤ん坊の頃の評価のように賢くはなかったし、見た目は良かったかもしれないけど、怠惰で王家に相応しいとは思えなかったよ。 いえ、まぁ……王家の人々が、勉強を嫌い、怠惰を好み、美や独自の優雅さを好んだと言う点では、相応しいとは思いますが……」
なんか、ライバル(?)とも言える相手を、悪く言うのは自分を落としているようで、勢いで口にした言葉を撤回しようと必死になるほどに……失敗して、私は肩を竦める。
「エリアルはカワイイですねぇ~」
「ううううううっ、えっと、訂正、さっきのなし!! 言いなおす。 彼女は、王族として必要な知識や教養を学ぼうとはしませんでした!!」
声が自然と大きくなってしまえば、父様は笑いながらそうだねと頷いて見せた。
「エリアルは、忘れたのですか? 私は、王家が、王族が、国王が嫌いだったのですよ?」
そう言って艶やかなほどに笑って見せてくる。
「ぇっと?」
「戸惑っているのですね。 私も最初はそうでした」
軽く苦笑気味に言うから、ふっと私の中の深刻さが不思議に薄らぎ、首を傾げて私は聞く。
「どういう事?」
「私と、他の人とでは、見ているモノ、見えているモノが違うんです。 ただ、まぁ、それに関しては、精霊と言う前例があるので、人との差異は割とすぐに受け入れる事ができたのですけどね」
戸惑いと共に父様は間を置いて、そして、少しだけ辛そうに語りだす。
「その頃には、貴方がユリアを殺した……そう、考えてしまった自分が間違いだったと……後悔していた頃で、後悔と同時に、ユリアが死んだ原因となった王家が憎くて、憎くて……。 良く考えもせず、衝動的に貴方を責めたことを悔やみ、それすら王家のせいだと思っていた頃です……」
自虐的に言うから、私は続く謝罪の言葉を遮った。
「いえ、まぁ、覚えていないし……。 身体が安定したのも、死なずにいられたのも、ロノスの処にいたからだと思うから……」
最後に会った時、身体を急激に成長させられ苦痛を味わうことになったけど、それでもそれ以外の魔力暴走はロノスの側にいたから抑えられ、魔力をコントロールする術を覚えたのだから良かったのだと言えなくもない。
だけど父様は、悲しそうな笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いえ……自業自得……なのに、幼い貴方と過ごせなかったのが、とても残念で、悔しくて……過去の自分にあったら、こんなにカワイイ子に何をするんだと怒ってやりたいと、怒りにいき」
私は父の口を両手で慌てて塞いだ。
「な、なんですか?」
「だって、ロノスが聞いていたら」
「流石に彼にも、人間を過去に戻すなんて出来ないと思いますよ」
父様は笑い、そして話は戻る。
「周囲の人々は、彼女をなんて美しい赤ん坊だと、知的な瞳だと、彼女こそ聖女だと言っていましたが、私には人の形にすら見えていませんでした。 沢山の目を持つ赤黒い血をまぜ固めたような泥山が、土人形で遊んでいるかのような。 聖女の証と暖炉に放り込まれたのも、土人形でした。 ……元が土人形なのだから、火に放り込もうと死ぬ事は、いえ、土人形はどう死ぬのでしょうか? あの時は……貴方を化け物と呼んだ罰なのだと。 本物の化け物を子として育てよと罰が与えられたと思いつつも、復讐の材料を与えられたとも考えたのです」
「父様……」
子供として大切にされている今となっては、蹴りを入れて、罵倒してはいても、本気で責める気等ない……。 どんな言葉を返せばいいのかと悩んでいれば、微笑まれ、話が続けられた。
「アレは、姿こそ化け物ですが……。 その思考は人そのもの。 なんといえばいいのでしょう。 アレは……彼女は、何時も愛して欲しいと悲痛な叫びをあげていました。 ただ、その声は誰にも聞こえておらず、だけど人々の心に深くしみ込んでいった。 言葉を重ねるごと、見つめるごとに、周囲は彼女を美しいと語り、愛おしいと、愛して尽くしたのです。 罰だと思ったから父として耐える事ができた。 でなければ、私は正気を失っていたでしょう……。 その頃には、復讐に使う事も難しいのだと、手に負えない存在だと理解しましたから……」
重く、どこまでも重く語られた。 私はどう声をかければいいか分からず、これ以上父様に語らせてどうしようと言うのだと言う思いで、もういい!! と、叫ぼうとしたのです。
「それで、これは、今回の宰相の件に関係がある。 そう考えているのですか?」
「いえ、その……。 父様は、アリアメアをどう思っていたのか、気になって……ただ、それだけです。 はい……」
恥ずかしくて、私は父様の膝の上で俯き、拗ねたような小声で言ってみる。
「……」
「父様?」
「ちょ、ミカゲ、うちの子がカワイイ!!のですが、どうしましょう!!」
「彼女を見た時、この子ほど王家に相応しい者はいないと思ったものです」
何時もと変わらない優しい声で言われれば、予想していた以上に私はショックで……父様の顔を見れば、優しい笑みで幼子にするように髪が撫でられ、自分のショックが杞憂であったことにすぐ気づいた。
「あの、それはどう言う意味なのでしょうか? 彼女は、赤ん坊の頃の評価のように賢くはなかったし、見た目は良かったかもしれないけど、怠惰で王家に相応しいとは思えなかったよ。 いえ、まぁ……王家の人々が、勉強を嫌い、怠惰を好み、美や独自の優雅さを好んだと言う点では、相応しいとは思いますが……」
なんか、ライバル(?)とも言える相手を、悪く言うのは自分を落としているようで、勢いで口にした言葉を撤回しようと必死になるほどに……失敗して、私は肩を竦める。
「エリアルはカワイイですねぇ~」
「ううううううっ、えっと、訂正、さっきのなし!! 言いなおす。 彼女は、王族として必要な知識や教養を学ぼうとはしませんでした!!」
声が自然と大きくなってしまえば、父様は笑いながらそうだねと頷いて見せた。
「エリアルは、忘れたのですか? 私は、王家が、王族が、国王が嫌いだったのですよ?」
そう言って艶やかなほどに笑って見せてくる。
「ぇっと?」
「戸惑っているのですね。 私も最初はそうでした」
軽く苦笑気味に言うから、ふっと私の中の深刻さが不思議に薄らぎ、首を傾げて私は聞く。
「どういう事?」
「私と、他の人とでは、見ているモノ、見えているモノが違うんです。 ただ、まぁ、それに関しては、精霊と言う前例があるので、人との差異は割とすぐに受け入れる事ができたのですけどね」
戸惑いと共に父様は間を置いて、そして、少しだけ辛そうに語りだす。
「その頃には、貴方がユリアを殺した……そう、考えてしまった自分が間違いだったと……後悔していた頃で、後悔と同時に、ユリアが死んだ原因となった王家が憎くて、憎くて……。 良く考えもせず、衝動的に貴方を責めたことを悔やみ、それすら王家のせいだと思っていた頃です……」
自虐的に言うから、私は続く謝罪の言葉を遮った。
「いえ、まぁ、覚えていないし……。 身体が安定したのも、死なずにいられたのも、ロノスの処にいたからだと思うから……」
最後に会った時、身体を急激に成長させられ苦痛を味わうことになったけど、それでもそれ以外の魔力暴走はロノスの側にいたから抑えられ、魔力をコントロールする術を覚えたのだから良かったのだと言えなくもない。
だけど父様は、悲しそうな笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いえ……自業自得……なのに、幼い貴方と過ごせなかったのが、とても残念で、悔しくて……過去の自分にあったら、こんなにカワイイ子に何をするんだと怒ってやりたいと、怒りにいき」
私は父の口を両手で慌てて塞いだ。
「な、なんですか?」
「だって、ロノスが聞いていたら」
「流石に彼にも、人間を過去に戻すなんて出来ないと思いますよ」
父様は笑い、そして話は戻る。
「周囲の人々は、彼女をなんて美しい赤ん坊だと、知的な瞳だと、彼女こそ聖女だと言っていましたが、私には人の形にすら見えていませんでした。 沢山の目を持つ赤黒い血をまぜ固めたような泥山が、土人形で遊んでいるかのような。 聖女の証と暖炉に放り込まれたのも、土人形でした。 ……元が土人形なのだから、火に放り込もうと死ぬ事は、いえ、土人形はどう死ぬのでしょうか? あの時は……貴方を化け物と呼んだ罰なのだと。 本物の化け物を子として育てよと罰が与えられたと思いつつも、復讐の材料を与えられたとも考えたのです」
「父様……」
子供として大切にされている今となっては、蹴りを入れて、罵倒してはいても、本気で責める気等ない……。 どんな言葉を返せばいいのかと悩んでいれば、微笑まれ、話が続けられた。
「アレは、姿こそ化け物ですが……。 その思考は人そのもの。 なんといえばいいのでしょう。 アレは……彼女は、何時も愛して欲しいと悲痛な叫びをあげていました。 ただ、その声は誰にも聞こえておらず、だけど人々の心に深くしみ込んでいった。 言葉を重ねるごと、見つめるごとに、周囲は彼女を美しいと語り、愛おしいと、愛して尽くしたのです。 罰だと思ったから父として耐える事ができた。 でなければ、私は正気を失っていたでしょう……。 その頃には、復讐に使う事も難しいのだと、手に負えない存在だと理解しましたから……」
重く、どこまでも重く語られた。 私はどう声をかければいいか分からず、これ以上父様に語らせてどうしようと言うのだと言う思いで、もういい!! と、叫ぼうとしたのです。
「それで、これは、今回の宰相の件に関係がある。 そう考えているのですか?」
「いえ、その……。 父様は、アリアメアをどう思っていたのか、気になって……ただ、それだけです。 はい……」
恥ずかしくて、私は父様の膝の上で俯き、拗ねたような小声で言ってみる。
「……」
「父様?」
「ちょ、ミカゲ、うちの子がカワイイ!!のですが、どうしましょう!!」
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