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7章 それぞれの歩み
74.聖女の証 01
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訓練場から場所を移し、中庭の巨大樹が見える部屋で父様を待ちながら、ヒラヒラと舞い落ちる花びらを眺め溜息をつく。
「お茶のお替りは如何ですか?」
「先生がそんな事しなくても」
「何処も人材不足だからねぇ~」
「それは、まぁ……」
ぼんやりと外を眺めて私は言った。
別にお茶係の人材すら不足していると言う訳ではない。 ヴェルの暴走期間、特に王都に住居を置いていた若い貴族達から生まれた子供達は、暴走初期から魔力欠乏症を患い魔力回路が不完全で、それは魔法職の減少を意味している。
10年くらい前ともなれば、アリアメアが聖女ではないのでは? と、言われ始めるほどに、大地の魔力は不安定となり、大地は魔力の増加と減少を繰り返し起こし魔力どころか、精神の不安定を招いていたくらいだ。
そうなれば当然のようにミカゲ先生のような専門性の強い魔導師は不足し始める。 だが、そんな事、今は関係ない。
「それより、さっきから何か聞きたそうに見えるんだけど?」
先生がそう言ってお茶をテーブルに置いた。
「それは……」
私は一度視線を先生へと向けるが、すぐに大樹を眺め溜息をつき、視線を逸らしたまま私は問いかける。
「先生は、アリアメアと会ったことは?」
「それは、まぁ……オルコット領で過ごしていた時期がありますからね」
なんとも言えない気分で問いかける私は、逃避するような気分で窓の外を見たまま質問を続けるのだ。
「先生が見ていた彼女は、どんな子でしたか?」
私の質問に先生は困っていた。 それでも黙っていれば、頭を掻きながら私の前の席に座り、膝に肘をつき前のめりな様子で私に聞き返してくる。
「どんな子とは?」
「えっと……先生の目から見たらどういう風に見えたか?」
なんて言えば余計に分からなくなったのかな? 先生は小さく唸り、そしてボソボソと話し出す。
「う~ん、そうだなぁ……ここにいた頃は、まだ赤ん坊とも言える年だったからなぁ……気分を害さないでくれよ?」
「私が私の意識を持った時から、気分を害しているから大丈夫だよ」
「どこが大丈夫ですか……はぁ……あ~~そうですねぇ……。 とても綺麗で賢い子でしたよ。 当初、ユリア様が生んだ子が聖女だと知っていたのは、王族の一部の者だけだったと言われています。 だからでしょうね。 あの日、お嬢ちゃんが生まれた同じ日に生まれた赤ん坊が領内から集められたんです」
「集めたの?」
少しイラっとした。
「いえ、集まったんですよ。 世間の噂とは、馬鹿に出来ない……と、当時は思うくらいにね。 それはもう不自然なくらいに庶民の間に噂が広がったんです。 領主様が聖女をお探しになっておられる。 ってね」
軽い、何でもない出来事のように肩を竦めて見せるが、やっぱりイラッてする。
「ふぅん? 引っかかる言い方。 でも、私が聞きたいのはソレじゃないから」
ジッと見つめていれば、もう一度大きな溜息と共にミカゲ先生は話し出す。
「他の赤ん坊と比べれば、明らかに違ったんだよ。 挙句に聖女だと、証拠まで見せつけてきた」
「どう?」
「赤ん坊とは思えない美貌、瞳、微笑み、彼女を祝福するように風が舞い花を運んできた。 誰もが、彼女を聖女と認める程度には、聖女だったんですよ。 特に精霊達がもたらす反応が。 彼女を連れて来た女性が、聖女である証をしましょうと……その、彼女を火のついた暖炉の中に放り込んだんです」
「へっ? いくら何でも、やりすぎ……じゃない?」
「ユリア様の生んだ子が聖女だと言われていた私達ですら、彼女が本当の聖女なのではないか? と思ったほどです」
「へぇ~。 そうなんだ~」
徐々に冷えた視線と、共に私の声はボー読みになっていた。
「だから、嫌だったんだよ~!!」
なんて、ソファの背もたれに抱え突くように騒ぐから、汗を流してきた父様にペシャリと頭を叩かれていた。
「うるさいですよ。 何を話していたんです?」
そう言いながら、父様が自ら茶を入れだせば、先生は席を立ち父様から茶の道具を奪い取り、席に座ってくださいと身振りで表す。
「私が淹れますよ。 お嬢ちゃんの話し相手を変わってください」
父様は笑い……先生の座っていた場所ではなく、私を抱き上げソファに座り、父様は自分の膝を私のソファ代わりに使い、私の髪を撫でる。
「父様、私の髪ではなく、濡れた自分の髪を拭いて下さい。 冷たい」
私は、父様のタオルを奪ってワシワシと髪をかなり乱暴に拭いたのだけれど、父様は嬉しそうに笑う。
「それで、なんの話を? あぁ……宰相の即位の事でしたか?」
違う。 のだけど、私はためらった……。 綺麗で賢くて、奇跡を見せつけられた……母殺しではない赤ん坊を見て、父様はどう思ったのだろう? ロノスが、先生が、アリアメアを褒めてもむかついたのだから、父様が彼女を褒めれば気分が悪くなるだろう事は簡単に想像できる。
「んっ? どうしたのですか?」
無言で考え込む私に、父様はなんだか可愛らしく首を傾げて問いかけるから、やっぱりムカッてして、タオルを父様の顔に投げた。 距離が無いから被せたの方が正解かな?
「えっと?」
イラっとして眉間を寄せ、考え込んで、私は父様の顔を隠したままで問いかけた。
「父様は、アリアメアがどんな風に見えていましたか?」
「ぇ? あぁ、そんなことが気になるなんて、エリアルはカワイイですねぇ~。 私が愛する娘は、貴方だけですよ」
タオルを外し、こめかみに父様がキスをする。
「違うの!! もっと、真面目な話!!」
「えっと……そうですねぇ……」
父様は、口元を笑みの形にした。 微笑みではない、それは、余り良い笑みとは思えなかったのだけど……私はほっとした……。 ホッとしてしまった……。
「お茶のお替りは如何ですか?」
「先生がそんな事しなくても」
「何処も人材不足だからねぇ~」
「それは、まぁ……」
ぼんやりと外を眺めて私は言った。
別にお茶係の人材すら不足していると言う訳ではない。 ヴェルの暴走期間、特に王都に住居を置いていた若い貴族達から生まれた子供達は、暴走初期から魔力欠乏症を患い魔力回路が不完全で、それは魔法職の減少を意味している。
10年くらい前ともなれば、アリアメアが聖女ではないのでは? と、言われ始めるほどに、大地の魔力は不安定となり、大地は魔力の増加と減少を繰り返し起こし魔力どころか、精神の不安定を招いていたくらいだ。
そうなれば当然のようにミカゲ先生のような専門性の強い魔導師は不足し始める。 だが、そんな事、今は関係ない。
「それより、さっきから何か聞きたそうに見えるんだけど?」
先生がそう言ってお茶をテーブルに置いた。
「それは……」
私は一度視線を先生へと向けるが、すぐに大樹を眺め溜息をつき、視線を逸らしたまま私は問いかける。
「先生は、アリアメアと会ったことは?」
「それは、まぁ……オルコット領で過ごしていた時期がありますからね」
なんとも言えない気分で問いかける私は、逃避するような気分で窓の外を見たまま質問を続けるのだ。
「先生が見ていた彼女は、どんな子でしたか?」
私の質問に先生は困っていた。 それでも黙っていれば、頭を掻きながら私の前の席に座り、膝に肘をつき前のめりな様子で私に聞き返してくる。
「どんな子とは?」
「えっと……先生の目から見たらどういう風に見えたか?」
なんて言えば余計に分からなくなったのかな? 先生は小さく唸り、そしてボソボソと話し出す。
「う~ん、そうだなぁ……ここにいた頃は、まだ赤ん坊とも言える年だったからなぁ……気分を害さないでくれよ?」
「私が私の意識を持った時から、気分を害しているから大丈夫だよ」
「どこが大丈夫ですか……はぁ……あ~~そうですねぇ……。 とても綺麗で賢い子でしたよ。 当初、ユリア様が生んだ子が聖女だと知っていたのは、王族の一部の者だけだったと言われています。 だからでしょうね。 あの日、お嬢ちゃんが生まれた同じ日に生まれた赤ん坊が領内から集められたんです」
「集めたの?」
少しイラっとした。
「いえ、集まったんですよ。 世間の噂とは、馬鹿に出来ない……と、当時は思うくらいにね。 それはもう不自然なくらいに庶民の間に噂が広がったんです。 領主様が聖女をお探しになっておられる。 ってね」
軽い、何でもない出来事のように肩を竦めて見せるが、やっぱりイラッてする。
「ふぅん? 引っかかる言い方。 でも、私が聞きたいのはソレじゃないから」
ジッと見つめていれば、もう一度大きな溜息と共にミカゲ先生は話し出す。
「他の赤ん坊と比べれば、明らかに違ったんだよ。 挙句に聖女だと、証拠まで見せつけてきた」
「どう?」
「赤ん坊とは思えない美貌、瞳、微笑み、彼女を祝福するように風が舞い花を運んできた。 誰もが、彼女を聖女と認める程度には、聖女だったんですよ。 特に精霊達がもたらす反応が。 彼女を連れて来た女性が、聖女である証をしましょうと……その、彼女を火のついた暖炉の中に放り込んだんです」
「へっ? いくら何でも、やりすぎ……じゃない?」
「ユリア様の生んだ子が聖女だと言われていた私達ですら、彼女が本当の聖女なのではないか? と思ったほどです」
「へぇ~。 そうなんだ~」
徐々に冷えた視線と、共に私の声はボー読みになっていた。
「だから、嫌だったんだよ~!!」
なんて、ソファの背もたれに抱え突くように騒ぐから、汗を流してきた父様にペシャリと頭を叩かれていた。
「うるさいですよ。 何を話していたんです?」
そう言いながら、父様が自ら茶を入れだせば、先生は席を立ち父様から茶の道具を奪い取り、席に座ってくださいと身振りで表す。
「私が淹れますよ。 お嬢ちゃんの話し相手を変わってください」
父様は笑い……先生の座っていた場所ではなく、私を抱き上げソファに座り、父様は自分の膝を私のソファ代わりに使い、私の髪を撫でる。
「父様、私の髪ではなく、濡れた自分の髪を拭いて下さい。 冷たい」
私は、父様のタオルを奪ってワシワシと髪をかなり乱暴に拭いたのだけれど、父様は嬉しそうに笑う。
「それで、なんの話を? あぁ……宰相の即位の事でしたか?」
違う。 のだけど、私はためらった……。 綺麗で賢くて、奇跡を見せつけられた……母殺しではない赤ん坊を見て、父様はどう思ったのだろう? ロノスが、先生が、アリアメアを褒めてもむかついたのだから、父様が彼女を褒めれば気分が悪くなるだろう事は簡単に想像できる。
「んっ? どうしたのですか?」
無言で考え込む私に、父様はなんだか可愛らしく首を傾げて問いかけるから、やっぱりムカッてして、タオルを父様の顔に投げた。 距離が無いから被せたの方が正解かな?
「えっと?」
イラっとして眉間を寄せ、考え込んで、私は父様の顔を隠したままで問いかけた。
「父様は、アリアメアがどんな風に見えていましたか?」
「ぇ? あぁ、そんなことが気になるなんて、エリアルはカワイイですねぇ~。 私が愛する娘は、貴方だけですよ」
タオルを外し、こめかみに父様がキスをする。
「違うの!! もっと、真面目な話!!」
「えっと……そうですねぇ……」
父様は、口元を笑みの形にした。 微笑みではない、それは、余り良い笑みとは思えなかったのだけど……私はほっとした……。 ホッとしてしまった……。
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