57 / 59
終章
57.その後 04
しおりを挟む
健康、寿命、若さ、美貌……ソレは、自分のためであれ家族のためであれ誰もが望むものだろう。 責める事が出来るだろうかと聞かれれば、とても難しい……。 だが、他人の命を犠牲にしてとなれば話は別である。
「コレは人の命そのもの。 ソレを奪った先にある怨嗟……貴方達にはソレが見えないのですか?」
見えない、見たくない。
貴族達の目は随分と都合が良いらしい。
カイルは心の中で舌打ちをする。
他の者が出来なくても、他の者が許されなくても、自分にはその寿命を手にする事が出来る。 そんな思いが手にとるように分かるのだ。 自分には関係ないで済ませるには、カイルは中庸の者と過ごした日々が長かった。
向こうも似たような状況でしょうね。
ナルサスなら、どう怒っているものでしょうか?
そう思えば、少しだけ笑えた。
馬車が来る。
降りて来たのは、皇妃と皇帝。
「何をしているの」
声をかけたのは皇妃の方。
その声は冷ややかで……、それでも甘くねっとりと絡みつくような声をしていた。 グストリア公爵がカイルを見れば、カイルは偽皇帝と視線を合わせたまま一歩下がり、どうぞと言葉に出さず動作で示す。
カイルと偽皇帝は、似た顔と表情で薄く笑いながら睨みあい、貴族達はカイルと偽皇帝の様子に戸惑うが何かを口にする事はなかった。
エリスが、ボソリとどうして? そう呟けば、奥に引っ込んでいるようにと頭を押された。
「危険?」
「いえ、大丈夫ですよ」
小馬鹿にするかのような笑いをカイルは浮かべており、偽皇帝も同じようにカイルを見下し馬鹿にした様子を見せていた。 カイルは偽皇帝から視線を逸らす事なく、グストリア公爵に告げる。
「こちらはお気になさらず」
グストリア公爵は戸惑いつつも予定の言葉を口にした。
「ソナタの罪を、裁きに来た」
「笑える……あはっ、」
皇妃と呼ばれた女は笑っていた。 グストリア公爵に歩み寄り、下からのぞき込むような視線を向け笑う。
「ねぇ、誰が私を裁くと言うの? むしろ、皆が、私を欲しているように見えるわ。 貴方だってそうでしょ? グストリア公爵?」
皇妃は美しい。
例えその身が、怯えながら彼女に報告に行った少年少女の血に濡れていようとも、血に濡れた白いローブを一枚肌に羽織ったまま、化粧一つせずとも美しく、その手がグストリア公爵に差し向けられれば、貴族達は嫉妬の視線を向ける。
ウットリとしたグストリア公爵を見れば、誰が勝者か? いや、勝者と判断されるかエリスにも分かった。
これは失敗なのでは?
エリスはそう考えた。 そう考える事が出来る余裕ある者がいないのが、エリスにとっての恐怖となった。 それでも、救われたのは、ヒューゴが苦々しい表情でカイルの側に控え、皇妃の犠牲者であったはずの2人は威嚇状態となっている事。
カイル、カイルは?
カイル……視線を向けた。 どうするのかと。
カイルの視線は、睨みあう偽皇帝から皇妃へと向けられた。 穏やかな微笑みが浮かべられた。
「カイル?」
「はい」
いつもと変わらぬ声で小さく囁きながら、グストリア公爵に差し出された皇妃の手をカイルが取っていた。
「離しなさい……無礼者が」
不満そうな皇妃の声にカイルは微笑み告げる。
「つれない事を言う。 貴方の夫であった男に対して」
ギョッとした表情が一斉に集まり……そして、カイルは微笑んだまま乱暴に皇妃を包む1枚のローブを奪いとり、その頬に口づけるかのように顔を寄せれた。
「コレは人の命そのもの。 ソレを奪った先にある怨嗟……貴方達にはソレが見えないのですか?」
見えない、見たくない。
貴族達の目は随分と都合が良いらしい。
カイルは心の中で舌打ちをする。
他の者が出来なくても、他の者が許されなくても、自分にはその寿命を手にする事が出来る。 そんな思いが手にとるように分かるのだ。 自分には関係ないで済ませるには、カイルは中庸の者と過ごした日々が長かった。
向こうも似たような状況でしょうね。
ナルサスなら、どう怒っているものでしょうか?
そう思えば、少しだけ笑えた。
馬車が来る。
降りて来たのは、皇妃と皇帝。
「何をしているの」
声をかけたのは皇妃の方。
その声は冷ややかで……、それでも甘くねっとりと絡みつくような声をしていた。 グストリア公爵がカイルを見れば、カイルは偽皇帝と視線を合わせたまま一歩下がり、どうぞと言葉に出さず動作で示す。
カイルと偽皇帝は、似た顔と表情で薄く笑いながら睨みあい、貴族達はカイルと偽皇帝の様子に戸惑うが何かを口にする事はなかった。
エリスが、ボソリとどうして? そう呟けば、奥に引っ込んでいるようにと頭を押された。
「危険?」
「いえ、大丈夫ですよ」
小馬鹿にするかのような笑いをカイルは浮かべており、偽皇帝も同じようにカイルを見下し馬鹿にした様子を見せていた。 カイルは偽皇帝から視線を逸らす事なく、グストリア公爵に告げる。
「こちらはお気になさらず」
グストリア公爵は戸惑いつつも予定の言葉を口にした。
「ソナタの罪を、裁きに来た」
「笑える……あはっ、」
皇妃と呼ばれた女は笑っていた。 グストリア公爵に歩み寄り、下からのぞき込むような視線を向け笑う。
「ねぇ、誰が私を裁くと言うの? むしろ、皆が、私を欲しているように見えるわ。 貴方だってそうでしょ? グストリア公爵?」
皇妃は美しい。
例えその身が、怯えながら彼女に報告に行った少年少女の血に濡れていようとも、血に濡れた白いローブを一枚肌に羽織ったまま、化粧一つせずとも美しく、その手がグストリア公爵に差し向けられれば、貴族達は嫉妬の視線を向ける。
ウットリとしたグストリア公爵を見れば、誰が勝者か? いや、勝者と判断されるかエリスにも分かった。
これは失敗なのでは?
エリスはそう考えた。 そう考える事が出来る余裕ある者がいないのが、エリスにとっての恐怖となった。 それでも、救われたのは、ヒューゴが苦々しい表情でカイルの側に控え、皇妃の犠牲者であったはずの2人は威嚇状態となっている事。
カイル、カイルは?
カイル……視線を向けた。 どうするのかと。
カイルの視線は、睨みあう偽皇帝から皇妃へと向けられた。 穏やかな微笑みが浮かべられた。
「カイル?」
「はい」
いつもと変わらぬ声で小さく囁きながら、グストリア公爵に差し出された皇妃の手をカイルが取っていた。
「離しなさい……無礼者が」
不満そうな皇妃の声にカイルは微笑み告げる。
「つれない事を言う。 貴方の夫であった男に対して」
ギョッとした表情が一斉に集まり……そして、カイルは微笑んだまま乱暴に皇妃を包む1枚のローブを奪いとり、その頬に口づけるかのように顔を寄せれた。
1
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。
りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~
行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる