国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人

文字の大きさ
10 / 21

10.土の公爵家テーレ家のプラテリア

しおりを挟む
 逃げ去った先は、魔導図書館。 そこには魔導研究者として地の公爵家であるテーレ家から選出された学友プラテリアがいる。

 陛下よりも2歳年下で、学友になったのはヨミよりも5年ほど遅い。 公爵家の遠縁にあたる息子で、公爵家の養子として迎えられているが、当主争いには関係のない子だ。 現在18歳であるが、小柄な彼はヨミよりも少し背が高い程度、ずいぶんと童顔で未成年にあたる15歳だと言っても通じる甘い容姿をしている子だ。

「どうかなさったのですか? ヨミ姉様」

 そう言いながら突然に訪れたヨミに、ミルクタップリの少し濃くに出した紅茶の準備をする。

「大変なんです!!」

「どうなさったのですか?」

「陛下が、陛下が!!」

 この時点で、プラテリアには特に大変なことが無い事が理解できていた。 本当に大変なことが起きているなら、ヨミは自分の元にやってこないだろうと。

「はいはい、まずは落ち着いてお茶をどうぞ」

「ありがとうございます」

「いえいえ、姉様のためなら僕は何時でもお茶をいれますよ」

 ミルクで少しだけ温くなったお茶を、三口飲み込んだのを喉の動きで確認したプラテリアは、ヨミに改めて問いかけた。

「それで、陛下がどうなされたのですか?」

「ぁ、その……」

 少しだけ冷静になったのだろう、かなりためらいがちになっている。 プラテリアは他の人の前では凛々しく完璧な5つ年上の幼馴染が、自分には隙を見せる様子が可愛らしくて仕方がないと思っていた。

 ニッコリ猫のように愛らしくプラテリアは笑って見せる。

「陛下が、その……発情されたの」

「……ぇ?」

「その……」

 言い難そうに頬を赤らめるヨミは可愛らしくはあるが、内容に頭が痛くなった。

「いえ、その……状況を順番に話していただけますか?」

 コクコクと頷き話してくる。

 もし、ヨミの努力家なところや、賢く判断力に優れたところを知らなければ、こんな馬鹿娘を相手にするのは面倒だと思ってしまうだろうなぁ……と思いつつ、必死に少し前に怒った出来事を真っ赤な顔で語るヨミにウンウンと笑顔でプラテリアは頷いて見せた。

「それで、陛下が欲情したから大変だと?」

「むしろ、好きな女性とそんな状況でありながら、何の反応も示さないのが常識だったら、世界から人間は消えてしまいますよ? 僕だって、恥じらいながら姉様が身体を触ってくれると言うなら興奮すると思いますよ」

 プラテリアは、にゃぁと鳴きそうな笑みを浮かべる。

「そんな冗談は面白くありませんわ!!」

「いやいや、本当ですとも。 なんでしたら試してみます?」

 そう言いながら上着を脱ぎだそうとすれば、逃げだそうとする。 ヨミはこの手の話になると一気に、頭の悪い子になってしまうから面倒で、逃げてくれるならソレはソレで楽だと考えていたが、入り口で大きな障害物にぶつかり、ヨミは逃亡を阻まれていた。

「あんな逃げ方をしたから、どこかで事故っているんじゃないかと思ったが無事で良かったよ嬢ちゃん」

「エル……兄様」

 側にプラテリアとエルオーネしかいないと知っているヨミは、世間体を気にせず身内としてエルオーネへと呼びかけた。

「で、どうした? リアにいじめられたか?」

 よしよしと大きな手でエルオーネはヨミの頭を撫でる。

「失礼ですね。 僕はこれでも兄様方と比較し紳士として通っているんですよ。 炎猛の将エルオーネ兄様、冷激の将ネーヴェ兄様」

 ニッコリと微笑めば、エルオーネは最年少の学友の額に軽くデコピンをした。

「っ、酷いですねぇ~。 僕は、ヨミ姉様を愛している陛下が、ヨミ姉様相手に欲情するのはいたって当然の事だと伝えただけですよ。 まぁ、信頼していけないので、僕も同じ風に肌を撫でられれば欲情しますよと」

「後半が余計だ」

 てへっと誤魔化し笑っておく。 本気で怒らせると筋肉ゴリラは知性派だと言う僕まで訓練だと引っ張りまわしかねないから、引き時が肝心と言う奴だ。

「でも、エル兄様は、私が触れても欲情なんてしませんわ」

「そりゃぁ、まぁ、保護すべき妹として見ているからなぁ……あ~~~、なるほど、う~ん。 ようするに、そう言う事か……これは、厄介かも……」

「何を一人分かったふりをしているんですか? 筋肉ゴリラの癖に生意気ですよ兄様」

「口が悪いぞチビ。 いや、ようするに……どれだけアピールしても陛下が嬢ちゃんに真に受けられない理由が、身をもってわかったと言う事だ」

「それは?」

「俺や、ネーヴェは、嬢ちゃんを大切に思っても欲情しない」

「「されても困りますが」」

「……おまえらはぁ……」

 エルオーネは本気で頭を抱えだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

【完結】愛する夫の務めとは

Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。 政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。 しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。 その後…… 城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。 ※完結予約済み ※全6話+おまけ2話 ※ご都合主義の創作ファンタジー ※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます ※ヒーローは変態です ※セカンドヒーロー、途中まで空気です

執着彼氏と別れるのはいつ?

鳴宮鶉子
恋愛
執着彼氏と別れるのはいつ?

【完結】婚約破棄を待つ頃

白雨 音
恋愛
深窓の令嬢の如く、大切に育てられたシュゼットも、十九歳。 婚約者であるデュトワ伯爵、ガエルに嫁ぐ日を心待ちにしていた。 だが、ある日、兄嫁の弟ラザールから、ガエルの恐ろしい計画を聞かされる。 彼には想い人がいて、シュゼットとの婚約を破棄しようと画策しているというのだ! ラザールの手配で、全てが片付くまで、身を隠す事にしたのだが、 隠れ家でシュゼットを待っていたのは、ラザールではなく、ガエルだった___  異世界恋愛:短編(全6話) ※魔法要素ありません。 ※一部18禁(★印)《完結しました》  お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

真面目な王子様と私の話

谷絵 ちぐり
恋愛
 婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。  小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。  真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。 ※Rシーンはあっさりです。 ※別サイトにも掲載しています。

冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者

月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで…… 誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

処理中です...