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物語

38.神殿の秘密は、自滅への一本道だった

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 怪しい魔法薬を持ち込んだ犯人とされた私は、3か月ほど一切の活躍は無い……。



 国境沿いに隣国の軍隊が拠点を敷いたと報告が入ったのは、魔法薬発覚から1月後だった。 宣戦布告の書状が届き、王宮では大騒ぎになっていたらしい。

「私が!! 出ます。 数十年の間、どれほどの困難に陥ろうとこの大陸で戦争は起きた事は無かった(皇国の侵略を除く)余程の事があったとしか思えない。 決して慣れぬ戦争を彼等もしたい訳ではないだろう。 私が行って話をつけてくる!! 国のために共に戦おうと言う騎士達は兵士を連れ戦前に共に向かってくれ!!」

 なんてジェフロアは高々と宣言したそうだ。



 台本通りに……。



 裏では大公派である宰相、大臣、貴族達にはキラキラな王太子アルファが深夜に枕元に立ってすでにお告げ(?)済であり、彼等は台本通りに発言しただけである。

 この親子は……。

 なんて思ったけれど、私も親子なので言葉にするのは止める事にした。



 そのような台本があるとは知らず、喜んだのは王妃サンテ。

「カヨワイ女の身ではありますが、王族として、夫、息子の代わりにこの国を支えて見せましょう!!」

 等と言うが、そこはサンテの顔を見なくていい、すぐに逃げる事が出来ると思ったジェフロアが頑張った。

「私は前線には向かいますがあくまでも話し合いのため……相手を刺激する事無いよう、軍備は最低限のもので向かいます。 残りの軍備は国の防衛に使おう。 最近、深夜に屋敷に忍び込む賊が多発していると耳にする。 王宮の守りこそ厳重にしなければならない。 頼むぞ」

 ジェフロアの発言を受け王宮の守りは24時間ありとあらゆる場所が厳重に行われる事になった。 そして宣戦布告の影響は王宮だけでなく、王宮を囲む王都はもちろん、王都に続く街道も取り締まりも強化され、あらゆる魔法薬の輸送は取り締まられる事となった。

 当然、神殿行きのものも同様にである。

 王宮内に毒物が持ち込まれた前例から、それらの魔法薬は王宮で没収し、正式な研究機関へと渡された。 ちなみにこの正式な研究機関は、大公家によって作られた機関であり、うちで保管、管理する事となっている。

 魔法薬没収後の売人は、神殿に引き渡し。
 魔法薬を禁じ罰するとされた神殿に厳正な処罰を求めた。

 魔力供給薬が無ければ満足に奇跡も起こせないのが、神官達なのだが……もともと奇跡など使ってはいないので問題はないだろうと思われたが、1人、また1人と神殿から逃亡を始めたのだから、きっと、彼等には彼等なりの何かがあるのだろう。



 神殿から神聖皇国の神官が全て消えたのは、魔法薬の発覚から2か月が経過していた。

 そして神殿が空になった事で、人々はその奇跡を慈悲深い聖女様に求め始め、ティアは幾度となく王宮に呼び出される事になるのだが……当然無視。

 ジェフロアには早く王都に戻るように。
 戦争を早く終わらせるように。

 そんな手紙が連日届いたらしいが、ジェフロアの心身の安定のため、戦場(仮)に届けられる事無く、我が家大公家に保管されている。



 何十年も起こっていない戦争。

 宣戦布告の状態であるとは言え、厳重警備が行われ、商人の荷物も厳重にチェックされる事から物流に乱れが生じ、王都の民は緊張状態に至っていた。 

 そんな中、旅の吟遊詩人が大量の荷馬車と共に訪れ物流を潤したと言う噂が広まった。 それは金色の髪をローブで隠した吟遊詩人の兄妹で、金色の瞳をした兄が奏でるリュートと、空色の瞳をした妹が歌う歌は、街の人々の心を癒すと言われている。

 サンテは、人民を脅かす怪しい存在だと捕獲するよう命じたが……余りにも見事な黄金色と美しい兄妹の慈悲の姿。 庶民が必死に2人を守ろうとする様。 何より……大公家からの命令があり、吟遊詩人の兄妹の活躍を止める事もおらず、魔法薬の発見から3か月が過ぎ、ジェフロア王子の和解交渉成功パレードを黄金の兄妹が出迎え、お互いの苦労を労いあい、人々から感動の拍手が沸き起こる事になる。

 まぁ……大抵が仕込みだったのですけどね。



 そして、吟遊詩人の兄妹を演じていた私とアルファは、隣国との平和条約締結式典の場で歌を披露するように招待されると言うシナリオだったのだけど……ソレは一旦見直しとなった。



 理由は……神殿の者達が逃げ出した事と大きな関係があった。

 イザベル以外の孤児院から来た者達は、急激に老い始め老人になってもう動く事もままならなくなっていたのだ。 神殿の者達は奇跡を使わない。 使えないと思っていたが、実のところ自分達の不老にその奇跡の力を使い続けていたと言うだけの事だったのだ。 それでは、魔力供給薬が届かなくなり人々が逃げるはずと言うもの。

 パパさん達が折角神聖皇国まで訪れ手を尽くしたと言うのに意味が無くなってしまいました。

 当然、老いたサンテ達が記念式典等に出られる訳等ない。

 どうにも、拍子抜けと言うか……肩透かしな結末となったのでした。



 唯一年若かったイザベルと言えば、茶色の髪と瞳に絶望し王宮の奥に老女と化した者達の世話役として残っていた。 そうなっては、皇国の許可がなくても使者とは言えるはずもなく、王妃や聖女としての栄光も意味を成すはずがない。

 彼女達は粗末な馬車に乗せられ、彼女達が作り上げた孤児院へと返される事となる。 当然だけど畑の魔法草や保管されていた魔法薬等は回収済である。

 見送る者が居ないと思われた粗末な馬車の元、ユックリと杖を突きながら歩いてくる老人達。 そして、ソレに付き添うイザベル。

 イザベルは恨みがましく彼女を見送るために訪れたジェフロアを睨んだ。

「私を、私を助けると言ってくれたのに、嘘つき!!」

「私への恩を忘れ、このような仕打ち地獄に落ちるわ……」

 しわがれたサンテの声は叫びにもならない。 サンテは自分のやって居る事に一切の疑問はなく、反省を求めるのは不可能だった。 ただただ理不尽に嘆き、恨み言を口にする。

 そんなサンテを無視しジェフロアはイザベルに告げる。

「もし、自分達がついた嘘でどれほどの人間を不幸に落としめたかを理解し、反省し、謝罪をしたいと思ったなら……もう一度王宮を訪れるといい」

 それが、ずっと世話を焼き情を抱いたジェフロアがかけるイザベルに対する最後の言葉。



 イザベルは数か月の間、自分をすくってくれたサンテ達の世話をし、その死を見届けた。

 そののち、彼女が選んだのは反省ではなく約束を破ったジェフロアに対する復讐。 そして、それもまたジェフロアの元に届く事無く、若い娘の1人旅を襲う野盗によって襲われ……イザベルは最後までジェフロアに対する恨み言をはきながら自害を選んだのだった。
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