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私の研究は『発酵』だけど、最近は経営の先生を交え事業計画書の制作を教わる事は多い。
ジェシカが共に授業を受けている事に不思議はないけれど……。
「なぜ、ブラッドまで一緒にいるの?」
「私の日々にも役立つと思うからですよ」
「なら、私の変わりにコレやってよぉおおお!! 面倒、嫌い」
人には誰だって得意不得意があるものだ。
「だから、私がやってやるって言っているだろう?」
「相手が国だよ?」
「ぁ、ならパス。 うちの利益にならないし!!」
「はいはい、先生が困ってしまいますよ」
なんて感じで、割と自分の得意分野から離れると緩い感じで授業を行うのだ。 とは言え、私の場合は授業兼実務となる。
短期間で一定の発酵効果を出す術式(微調整可)の術式に加えて調理方法、保管方法のマニュアル付きだ。
今作っている書類は、酒。
これが一番お金になるから、出し惜しみしたいネタなんだけどなぁ……。 と、ブチブチ言いながら私は書類を作っている訳だけど、気分が乗らないし……なかなか進まない。
「ところでニーニャ君、卒業後の進路はどうするつもりですか? 国は研究員として雇いたいと言っていますが」
「国は、嫌だなぁ……だって、利益になるネタが無くなるとポイ捨てされそうだし」
「なら学園で研究を続けるのはどうですか?」
「あ~、考えてみます」
そして授業は終わる。
何時もジェシカは元気だ。
とても元気で、私と背丈は変わらないのに歩くのが早い。
私だって早く歩く事は出来るけれど、そっと足音を潜める事だって出来るし、窓から屋根に上がる事だって余裕だ。
だから、私とジェシカは一緒に歩くとドンドン早くなり、最終的に走る事になる……。
そして……ぶつかった。
やっちまったぁ!!
大きな身体の男性だったようで、向こうは一切のダメージ無く、私は吹っ飛ばされそして上手く立ち止まった。
懲りろとジェシカは言うけれど……確かにその通りだなと今は反省し、そしてジェシカも反省すべきだと思う。
大きな身体の貴族が、見下ろし、睨みつけて来る。
「えっと、ごめんなさい」
普通に謝った。
大きくどっしりとした人だったし、ソレで終わると思っていた。 だけど……違った。
ニヤリと笑った男は、急に大げさに騒ぎだす。
「あぁ、腐敗の悪魔に触れてしまった。 どうしよう……エドウィン様、私をお助け下さい!!」
大げさにぶつかった胸を抑えながら蹲り背後へと視線を送った。 少し後ろを取り巻きつきで歩いていたエドウィンに膝をつき祈るように縋って見せる。
「仕方がありませんね」
そう言って惜しみなく浄化の力が振るわれた。
「ちょっと、あんたボーとしていないで、謝ったらどうなの?! 腐っていてゴメンなさい。 私のケガレで周囲を汚染して済みませんでしたってさぁ~!!」
「皆、アンタのせいで頭の中まで腐りだしている!! 最近は幻覚を見たり、食欲がなくなったり、頭がオカシクなる!! 責任を取りやがれ!!」
「賠償金払え!!」
次々言われも無い誹謗中傷がなされる。
物凄く馬鹿げた状況だ。
エドウィンを見れば、慈悲深い微笑みを湛えていた。
私は溜息と共に、ジェシカに逃げるように静かに手振りで示し、そして彼女は……去って行った。 もう少し悩めよ……。
「一体……何を考えている訳?」
私はエドウィンに向かって問いかけた。
彼は静かに微笑み言うのだ。
「人は何時だって救いを求める生物なんですよ。 他の生物にはない感情です」
「そうかしら? 動物はこんな馬鹿げた事をしないわ。 それに……どれも薬の後遺症でしょ。 そんな事も分からないなんて……、そこまで頭がオカシクなっている訳? 貴方達卒業と共に社交界デビューなんでしょう? それまで薬を止めないと親からも見捨てられるわよ」
呆れながら言った。
「オマエが!! オマエが!! オマエが!!」
そんな声が彼方此方から聞こえた。
同時に
「猊下、私達をお助け下さい」
と言う声が……私への嫌がらせではなく真剣だった。 私はエドウィンを見れば……彼は静かに笑っていて……私は……怖くなって逃げ出してしまった。
「逃げたぞ!! 追え!! 責任を取らせろ!!」
その様子が余りにも切羽詰まっていて……だから、私はあえて人のいない方へ向かって逃げた。 取り壊し予定の建物。 何かあったら、そこに逃げようと私達は話し合っていたのだ。
「こっち!!」
そう言って私達を先行するのはジェシカだった。 並ぶ教室の中から1部屋選び扉を開けて逃げ込み、そして鍵を閉める。
ホッと私達は息を飲み、そしてジェシカを見た。
「あんたさぁ、本当にアイツとの関係どうかした方が良いよ!!」
「関係って、何もない関係よ!! どうしろと言うのよ!! むしろ、今となったら敵対関係と言って良いわよ」
「はっ!!」
軽蔑の混じった視線をジェシカは向けて来た。
「何よ」
「アンタ達の婚約が正式になったって言う話を聞いた!! 私達にも内緒で何をしてんのよ!!」
「知らない!!」
「商売にケチがつくからって言うんでしょう!! だから、私達にも向こうにも良い顔して適当をしているんでしょう!! 分かってる!! だけど!! 気に入らないのよ!! いい加減にしてよね」
「何よ!! 私の責任じゃないでしょう!!」
「あなたが甘やかすからでしょう!!」
「声が聞こえた」
「あぁ、この部屋だ」
「おぃ!! 開けろ!! 開けないと蹴破るぞ!!」
「いや、ここは、ほら……」
ニヤニヤした声が聞こえた。
「ほ~ら、早く出てこいよ」
「出て来いよ」
「人間じゃないから言葉が分からないんだろう?」
「と、言うことは、これは正式な悪魔祓いって事だ」
魔力の高まりを扉の向こうに感じた。
「ジェシカ!! ニーニャ!! こっち」
控えた声だが、その声は耳元で聞こえた。 声の方を見れば魔力で作られた赤黒い血のようなアゲハ蝶。
「「ブラッド?」」
「こちらです!!」
私達が声の方……窓際に向かえば、窓に面する大木にブラッドが居る。
「手を貸すのでコチラに!!」
私は、ブラッドの叫びが聞こえるよりも早く、気に向かって飛び。 ジェシカはブラッドが受け止めた。
そして私達は、ギリギリ炎交じりに爆発魔法を回避する事ができた。 もし……彼等が優秀な人達だったなら、私達は死んでいたかもしれない。
私は、幾度となく助けて欲しいと求めて来たエドウィン・フォスターを思い浮かべる。
私に助けてと言いながら……あなたは助けてはくれない……どころか……全ての黒幕のように思えて来た。
ジェシカが共に授業を受けている事に不思議はないけれど……。
「なぜ、ブラッドまで一緒にいるの?」
「私の日々にも役立つと思うからですよ」
「なら、私の変わりにコレやってよぉおおお!! 面倒、嫌い」
人には誰だって得意不得意があるものだ。
「だから、私がやってやるって言っているだろう?」
「相手が国だよ?」
「ぁ、ならパス。 うちの利益にならないし!!」
「はいはい、先生が困ってしまいますよ」
なんて感じで、割と自分の得意分野から離れると緩い感じで授業を行うのだ。 とは言え、私の場合は授業兼実務となる。
短期間で一定の発酵効果を出す術式(微調整可)の術式に加えて調理方法、保管方法のマニュアル付きだ。
今作っている書類は、酒。
これが一番お金になるから、出し惜しみしたいネタなんだけどなぁ……。 と、ブチブチ言いながら私は書類を作っている訳だけど、気分が乗らないし……なかなか進まない。
「ところでニーニャ君、卒業後の進路はどうするつもりですか? 国は研究員として雇いたいと言っていますが」
「国は、嫌だなぁ……だって、利益になるネタが無くなるとポイ捨てされそうだし」
「なら学園で研究を続けるのはどうですか?」
「あ~、考えてみます」
そして授業は終わる。
何時もジェシカは元気だ。
とても元気で、私と背丈は変わらないのに歩くのが早い。
私だって早く歩く事は出来るけれど、そっと足音を潜める事だって出来るし、窓から屋根に上がる事だって余裕だ。
だから、私とジェシカは一緒に歩くとドンドン早くなり、最終的に走る事になる……。
そして……ぶつかった。
やっちまったぁ!!
大きな身体の男性だったようで、向こうは一切のダメージ無く、私は吹っ飛ばされそして上手く立ち止まった。
懲りろとジェシカは言うけれど……確かにその通りだなと今は反省し、そしてジェシカも反省すべきだと思う。
大きな身体の貴族が、見下ろし、睨みつけて来る。
「えっと、ごめんなさい」
普通に謝った。
大きくどっしりとした人だったし、ソレで終わると思っていた。 だけど……違った。
ニヤリと笑った男は、急に大げさに騒ぎだす。
「あぁ、腐敗の悪魔に触れてしまった。 どうしよう……エドウィン様、私をお助け下さい!!」
大げさにぶつかった胸を抑えながら蹲り背後へと視線を送った。 少し後ろを取り巻きつきで歩いていたエドウィンに膝をつき祈るように縋って見せる。
「仕方がありませんね」
そう言って惜しみなく浄化の力が振るわれた。
「ちょっと、あんたボーとしていないで、謝ったらどうなの?! 腐っていてゴメンなさい。 私のケガレで周囲を汚染して済みませんでしたってさぁ~!!」
「皆、アンタのせいで頭の中まで腐りだしている!! 最近は幻覚を見たり、食欲がなくなったり、頭がオカシクなる!! 責任を取りやがれ!!」
「賠償金払え!!」
次々言われも無い誹謗中傷がなされる。
物凄く馬鹿げた状況だ。
エドウィンを見れば、慈悲深い微笑みを湛えていた。
私は溜息と共に、ジェシカに逃げるように静かに手振りで示し、そして彼女は……去って行った。 もう少し悩めよ……。
「一体……何を考えている訳?」
私はエドウィンに向かって問いかけた。
彼は静かに微笑み言うのだ。
「人は何時だって救いを求める生物なんですよ。 他の生物にはない感情です」
「そうかしら? 動物はこんな馬鹿げた事をしないわ。 それに……どれも薬の後遺症でしょ。 そんな事も分からないなんて……、そこまで頭がオカシクなっている訳? 貴方達卒業と共に社交界デビューなんでしょう? それまで薬を止めないと親からも見捨てられるわよ」
呆れながら言った。
「オマエが!! オマエが!! オマエが!!」
そんな声が彼方此方から聞こえた。
同時に
「猊下、私達をお助け下さい」
と言う声が……私への嫌がらせではなく真剣だった。 私はエドウィンを見れば……彼は静かに笑っていて……私は……怖くなって逃げ出してしまった。
「逃げたぞ!! 追え!! 責任を取らせろ!!」
その様子が余りにも切羽詰まっていて……だから、私はあえて人のいない方へ向かって逃げた。 取り壊し予定の建物。 何かあったら、そこに逃げようと私達は話し合っていたのだ。
「こっち!!」
そう言って私達を先行するのはジェシカだった。 並ぶ教室の中から1部屋選び扉を開けて逃げ込み、そして鍵を閉める。
ホッと私達は息を飲み、そしてジェシカを見た。
「あんたさぁ、本当にアイツとの関係どうかした方が良いよ!!」
「関係って、何もない関係よ!! どうしろと言うのよ!! むしろ、今となったら敵対関係と言って良いわよ」
「はっ!!」
軽蔑の混じった視線をジェシカは向けて来た。
「何よ」
「アンタ達の婚約が正式になったって言う話を聞いた!! 私達にも内緒で何をしてんのよ!!」
「知らない!!」
「商売にケチがつくからって言うんでしょう!! だから、私達にも向こうにも良い顔して適当をしているんでしょう!! 分かってる!! だけど!! 気に入らないのよ!! いい加減にしてよね」
「何よ!! 私の責任じゃないでしょう!!」
「あなたが甘やかすからでしょう!!」
「声が聞こえた」
「あぁ、この部屋だ」
「おぃ!! 開けろ!! 開けないと蹴破るぞ!!」
「いや、ここは、ほら……」
ニヤニヤした声が聞こえた。
「ほ~ら、早く出てこいよ」
「出て来いよ」
「人間じゃないから言葉が分からないんだろう?」
「と、言うことは、これは正式な悪魔祓いって事だ」
魔力の高まりを扉の向こうに感じた。
「ジェシカ!! ニーニャ!! こっち」
控えた声だが、その声は耳元で聞こえた。 声の方を見れば魔力で作られた赤黒い血のようなアゲハ蝶。
「「ブラッド?」」
「こちらです!!」
私達が声の方……窓際に向かえば、窓に面する大木にブラッドが居る。
「手を貸すのでコチラに!!」
私は、ブラッドの叫びが聞こえるよりも早く、気に向かって飛び。 ジェシカはブラッドが受け止めた。
そして私達は、ギリギリ炎交じりに爆発魔法を回避する事ができた。 もし……彼等が優秀な人達だったなら、私達は死んでいたかもしれない。
私は、幾度となく助けて欲しいと求めて来たエドウィン・フォスターを思い浮かべる。
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