【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

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婚約

06.それは良い話ではありません王妃様!

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「うふふ、リーリヤ、貴方に良い話がありますのよ。 陛下がね、貴方を王太子殿下の婚約者に迎えたいって言って下さったの」

 どう、どう、嬉しいでしょ!! と、王妃の顔と声が訴える。

 場所は、令嬢達の交流会と化してきた王太子妃候補教育の場。

 他の令嬢の視線が痛い。

「は……ぃ?」

 何を言われたか理解できない私。
 そして、嫉妬と侮蔑、戸惑いと狂気の視線が向けられる。

 なんかヤバイ……。

 ヤバイと思えば、明け透けに取り繕おうともせず声があげられた。

「この、娼婦の娘を?! 本気でございますか王妃様?!」

 何故か知らないが、いつの間にか私はディック様が娼婦に産ませた子と言う事になっていたのだ。

「あら、でも彼女の父親は陛下の弟君ですわ」

 おっとりとした声で言いながら、視線はしっかりと他の令嬢達を威嚇している。 王妃様のフォローにはいつも助けられてはいるけれど、今日は素直に感謝し微笑む余裕はない。

「す、みません……。 公爵様と、相談させてください……」

 私は、王太子妃教育を途中に逃げ出してしまった。

 後ろから私が失礼であると言う内容の言葉が、キーキーと甲高い音で叫ばれているけれど、今の私には体裁を取り繕う余裕は無い。

 早く、早く相談しないと!!

 なんて気持ちは焦るが、今、私は王都にいて、ディック様は東方の防衛に加わっており、3か月ほど戻って来ていなかった。

 だから私が急ぐ先は、執事、秘書、侍女等の令嬢達の付き人の特別設置の控室。 主たるもの顔を出すべきではないと教え込まれているが、私は助けを求めるかのように護衛代わりについてきていたディック様の教育係だった老執事のジャックを視線で招いた。

「どうかなさいましたかお嬢様。 顔色がよろしくないようですが?」

「相談、相談をしないと……いけないの……」

 落ち着きなく言えば、

「お茶を出して差し上げたいところですが、まずは馬車に戻りましょう」

「そうね……」

 馬車にたどり着いた私は、屋敷に戻る道中を利用し王太子殿下の婚約者に選ばれたと王妃が突然に言いだしたのだと伝えた。

「冗談……ってことは?」

 ちょっとした希望はあっけなくジャックに破壊された。

「ありえませんな」

「幾ら、私が賢くてカワイイからって!!」

 そう言葉にすればニコニコとスルーされれば、切なさに浮かべた引きつり笑いと共に開き直ってみせる。

「分かっているわよ。 カワイイだけなら他にもカワイイ令嬢は一山いくらのようにいるってことぐらい」

「いえいえ、お嬢様は他の令嬢よりも断然お可愛らしゅうございますよ」

「美人。 と違ってさ、可愛いって逃げどころがあるからいいわよね」

「拗ねるのは構いませんが、現実拒否をしていても問題は消えませんぞ」

 痛い……。

「分かっているわよ。 どうせ、領地の利益でしょ」

「だと思われます」

 ディック様に領主として下賜した土地は荒涼とした岩と砂の大地だった。

 それを、人質交換で得た魔力濃度の濃い土地を利用し、天然魔力肥料に方向性をつけた術を土地に安定化させ、大地のための魔法薬を制作し、土地に散布したのだ。

 今は土地に特殊肥料(魔法薬と言う名前は危険だから)が定着して、岩と砂の大地は雑草が生い茂るようになった。 それを刈り取り肥料とするため天然魔力肥料制作用地へと運びこむ。 そしてユックリと肥料としての方向性を魔力と共に与え育てていく事で、良い肥料を作る事ができるのだ。

 そして、残した雑草の一部は家畜の餌とした。

 元々、人が住めるような土地ではなく、領民が少なかったからユックリと土地を育てる事ができ、今では国に治める税金分をディック様が戦場に出稼ぎに出て稼ぐ必要等ないほどになっている。

 それでも……戦場に出るように命じられるから、もう3か月近く会えていない……。 それを寂しく思えば、婚約と言うものに対して少しだけ冷静になれた。

 まともに会話もしたことのない相手と王太子殿下だって婚約したい訳ないよね? って。

「正直言えば、王太子は他国から援助を条件に姫君を娶ると思っていたの」

「今のこの国には、差し出せるものがありません。 王太子殿下に惚れ込んだ姫君でも現れれば別ですが、政治的、金銭的、軍事力いずれをとっても我が国のために何かをしようと言う国はないでしょう」

「そこまで行くと、婚約は関係の無い話だと思う」

「おや、これは失礼しました」

 この国の魔力不足は深刻で、他国と比べ民は身体的に弱者である。

 だけれど、対呪いとして定期的に魔力を補充し、身体強化を受けてきたディック様と言えば、その強さは悪魔に魂を売り渡したや、悪魔に憑りつかれた等と言われるほど。 とは言え、王族・貴族であれば似たような強化は行われており。 不毛な土地しかないから侵略されないのではなく、少数精鋭の騎士団の存在は大きいのではないか? と、希望を持つ訳だ。

 王子様がお姫様のピンチにさっそうと現れ助けてくれる。

 なんていいんじゃないかなぁ?
 うんうん、王太子殿下も頑張ればいける!! はず?

「お嬢様?」

「ぇ、あ、はい……」

「それで、どうなされるのですか?」

「公爵様が帰ってこられるまで、返事は保留!! うん、私が勝手に決める事じゃないわよね?!」

 張り切って言うが、ジャックは苦笑するだけでうなずいてくれる様子はない。

 意地悪だなぁ……。 

「お嬢様はどうなさりたいのですか?」

「当然、お断り一択ですよ」

 そもそも、ディック様も今年で28歳。 そろそろ妻を娶らなければいけない年で、好きな人の幸せな新婚生活……いえ、不幸な新婚生活だって見たくない。 適当な時期に死亡を偽って公爵家を出るつもりだった。 その計画を早めると言うのも一つの手段。

 もの言いたげなジャックに私は苦笑いをしながら、話を少しだけ逸らした。

「本気で、王太子妃を狙っている人がいたけれど、王太子ってどんな方なの?」

 聞けば、ジャックはわずかに考えそして話だす。

「そうですねぇ……覇気のない方だと言う噂は耳にしますが、私個人の意見を言わせてもらうなら、器用な方でしょうか? とは言え、あの方の妻となっても、実家が援助を受けられると言う事はないでしょう。 令嬢達やご当主達はソレを理解していらっしゃるのか……」

「いるでしょう」

「どうでしょうねぇ」

 はっきりしない様子に少しイラついたが!! まぁ、ここで食いついてもきっとジャックは話すことは無いだろうと、面倒だと思った気持ちに言い訳をつけ問いただす事をあきらめた。

「なら、本当に殿下のファンなんだ。 そういう人が婚約者になればいいのに」



 私の恋が叶わないからこそ、誰かの恋を奪うのは嫌な気分と言うもので、私は複雑な気分で流れる窓の外の景色を眺めた。
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