【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

文字の大きさ
7 / 36
婚約

07.寝耳に水

しおりを挟む
 婚約話が出て3か月。
 あれから、リーリヤは体調不良を理由に王宮に出向いていない。

 毎度王宮医を派遣されるが、魔法薬師であるリーリヤにとって病気の偽装などお手の物。 こんな体の弱い娘は王妃にむかない。 等と言われるのを期待しつつ、ディック様の帰還、手紙の返事を待ち続けていた。

「私の事が嫌いになったのかなぁ……」

「そんな事ありえませんよ」

 老執事のジャックは言う。

「嫌いになってなくても、運命の出会いをして私の事を忘れているのかも……」

「旦那様から定期的にお手紙が届いているではありませんか」

「でも……」

「戦場で女性に現を抜かすなど命取りな事はなさいませんよ」

「そうだね……なら、ケガをしたのかな? 病気? 記憶喪失で私を忘れているとか!! た、旅の準備を!!」

「落ち着いて下さい……お茶をお入れしましょう」

「……」

 何時もは長くても3か月で戻ってくる遠征だが、そろそろ半年間も戻ってこない。 相手は戦だからと言われれば仕方が無いがディック様からの手紙は、明らかに婚約に関する相談が届いている様子が無く作為的なものを感じずにはいられなかった。

『相談したいことがあるのですが』
『そちらはつつがなくやっているか?』
『王妃様から王太子との婚約話を持ち掛けられ、公爵様はどのように思われますか?』
『健康でいるなら嬉しいのだが……こちらは一進一退の攻防が続けられ、なかなか戻る事ができない。 寂しい思いをしていないか? 大丈夫なら……良いと思わなければならないのだが、それはソレで俺が寂しいかな』

 筆跡は確実にディック様のもの。 精神的に弱っているのだろうか? と思えば穏やかな気分になる薬草茶でも送ろうかと思うけど、手紙が届いていない事を考えれば、下手に魔法薬系のものは送れない。

「少しばかり費用はかさむけど、個人的に手紙や荷物を運んでくれる人を雇えないかな?」

「そうですねぇ……商人に依頼してみるのは如何ですか? お嬢様が保存食をお売りになっていた商人がいるでしょう。 彼が適材でしょう」

 魔法薬の基礎には食べ物の持つ効果の方向性を強め、力を固定化すると言うものがある。 当然薬なのだから保存効果を高めてあるわけで、領地の収入源の一つとなっている。

「そうね」

 そんな感じで、色々と動いていたのだけど、ディック様からの返事が来ないままに王宮に招かれた。 強引に、強硬に……脅し。 非暴力的ではあるがソレは拉致に近いだろう。



 今日から3日ノッカラ国は豊穣祭を行う。



 王都には王族・貴族が集まるため、婚約披露にはちょうど良いだろうと言う話だった。

「はぁ? 突然に豊穣祭に参加しろと言われても、準備もしておりませんし。 そもそも社交界デビューもまだなんですけど? それに私は体調が悪いの!!」

「王妃様はこのようにおっしゃっておりました。 公爵様が未だ戦場から戻られていない事は聞き及んでおります。 最も多くの収穫を得たオークランス公爵家が収穫祭に出ないと言う事はありえません。 どうせ準備もしていないのは分かっております。 すぐに身一つですぐにおいでなさい。 以上です」

「社交界に出ない程度の些細な評判、公爵様が気になさる事はありませんわ」

「貴方のそのような態度が、公爵の立場を悪くすると言う事をご理解しておいでなのですか?」

 ディック様の戦闘的な教師も引き受けていたらしいジャックだが、脅し交じりに来る王家からの迎えを撃退する等出来る訳もなく、私は体調不良を演じつつ連れ去られていった。

 王宮内にあるドレスルームの1つに私は連れていかれた。

 着るものがないと言われるのは想定内だったらしく、部屋いっぱいに美しいドレスを始め必要なものが幾種類も取り揃えてあった。

「物語の王子様なら、ピンチには助けにくるのに」

 私はボソリと言い拗ねる。

「どうなさいました? リーリヤ様。 お好きなドレスをお選び下さい」

「こんな重そうな服を着て、あるけな~い。 だって私虚弱だもの」

 王宮の衣装室、私は不貞腐れてソファに抱えつけば、鞭でペシャリと背が叩かれた。

「いたっ!!」

 声を上げるが、実際はそこまで痛くは無かった。 どちらかと言うと脅し的効果を狙っているのだろう。

「お行儀が悪いですよ。 王太子殿下の婚約者として、王妃様から何を学んできたのですか」

 そう告げるのは、王妃様と共に礼儀作法の講師として王太子妃候補教育に参加していたマーゴット・ロッソ伯爵夫人。

「だって、体調が悪いんですもの」

 迷子の犬のように媚びを売ってやるぜ!! と、気合を入れたが3か月もの間、王妃様の招きを無視し続けたのはやりすぎだったようで、同情してくれそうにない。

「いつもいつもそのように王妃様の招きを……」

 夫人が手を私に向けるから、ぎゅっと目を閉ざした。

 また殴られるかと思い身体を強張らせたのだけど、熱が測られただけだった。 一応、熱があがるようの薬は飲んであるから、私の額に触れたドレスルームを任されたロッソ伯爵夫人は顔を顰め、王宮医を呼ぶようにと、そしてかなり熱が高い事実を陛下に告げるようにと侍女達に伝えた。

「それに、社交界デビューもまだなのに、こんなのオカシイです」

「公爵様に無理を強いているからこその、陛下からの親代わりとしての申し出、断るなどありえません!! 変わって欲しいと言う令嬢がどれだけいることか、光栄だと思いなさい!!」

 無茶苦茶であるが、そのまま長い説教へと突入した。

「公爵令嬢として~」

 このまま説教で豊穣祭を終えてくれないかなぁ~と、私はお説教を促すような合いの手を時折いれながら、大人しく(?)お説教を聞き続けた。

冷ややかな侍女達の視線が、馬鹿にしたようにクスクスと笑いだす。

「リーリヤ様は今日王太子殿下との婚約が正式なものとして発表されます。 あなた方の態度は自らの首を絞めることになる事を十分理解した上での態度でしょうね?」

 私への説教が侍女達に飛び火すれば、侍女達は顔色悪く震えあがる。

「王太子殿下に恥をかかせないよう、貴方達が準備をしてさしあげるのですよ! 全く理解できているのかしら……」

 と、溜息をつく……夫人。

「は、い?」

 寝耳に水とはこのことだ。

「はぁ?! 私そんな話知らないわよ。 誰か他の方と勘違いしているのよ。 貴方達だって納得いかないでしょう!?」

 王太子妃教育が行われる中で、侍女として嫌がらせをしてきた若い貴族の娘たちに、言って見せれば顔を背けられた。

「私、もう帰る!!」

 そう言った次の瞬間には、私の前に立ちはだかる侍女と、扉を塞ぐ侍女。

「お待ちください!! 陛下が……ご説明にいらっしゃいます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

「二年だけの公爵夫人~奪い合う愛と偽りの契約~」二年間の花嫁 パラレルワールド

柴田はつみ
恋愛
二年だけの契約結婚―― その相手は、幼い頃から密かに想い続けた公爵アラン。 だが、彼には将来を誓い合った相手がいる。 私はただの“かりそめの妻”にすぎず、期限が来れば静かに去る運命。 それでもいい。ただ、少しの間だけでも彼のそばにいたい――そう思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 社交界では意地悪な貴婦人たちが舞踏会やお茶会で私を嘲笑い、 アランを狙う身分の低い令嬢が巧妙な罠を仕掛けてくる。 さらに――アランが密かに想っていると噂される未亡人。 彼女はアランの親友の妻でありながら、彼を誘惑することをやめない。 優雅な微笑みの裏で仕掛けられる、巧みな誘惑作戦。 そしてもう一人。 血のつながらない義兄が、私を愛していると告げてきた。 その視線は、兄としてではなく、一人の男としての熱を帯びて――。 知らぬ間に始まった、アランと義兄による“奪い合い”。 だが誰も知らない。アランは、かつて街で私が貧しい子にパンを差し出す姿を見て、一目惚れしていたことを。 この結婚も、その出会いから始まった彼の策略だったことを。 愛と誤解、嫉妬と執着が交錯する二年間。 契約の終わりに待つのは別れか、それとも――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...