【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

文字の大きさ
15 / 36
婚約

15.良い子にはご褒美を、悪い子には罰を 03

しおりを挟む
 殿下は私に何も求めない。 求めなかった。

「何が?」

 私の短い質問に殿下は、本当に分からないとでもいうように質問で返した。

 何日も何日も何日も殿下は陛下の要求を代弁するなど無かった。 ただ私と無駄話を続けていて、私は少し楽しいと思うようになっていた。 曾祖母を、仲間たちを殺した一族と仲良くするだけでなく、一緒にいる事が心地よくて甘えた気分になってきていて……罪悪感に胸が痛い……。

「オークランス領の技術説明を報告にいかなくて……」

「あぁ、その件ですか……」

 それが目的の割に、殿下は何も言わなかった。 そして、少しだけ考え込んで言葉を続ける。

「他の領地が今どうなっているか、リーリヤは知っていますか?」

「えっと、魔力枯渇による影響からの不作?」

 首を傾げたら、頭を撫でられた。

「何よ」

「いや、可愛いなって思って」

「私は可愛いよ!! でも、今、少し馬鹿にしたでしょう!!」

「いやいや、王宮での勉強会に出ていたのだから知らなくて当然です。 気にしないでください。 それでですねぇ……今、ノッカラの6割の領地は、少しばかりオカシイ事になっているんですよ」

「もともとオカシイよ?」

「うん、お話の邪魔しない」

 両頬を両手で挟むように触れ、むにむにとされた。



「リーリヤは、5年前に起こった薬師魔法協会の者達の死に纏わる話を知っていますか」

「ぇ?」

 知らない訳がない……。
 それがきっかけで、私はディック様の子になったのだから。 私は視線を伏せながら語る。

「陛下が、貴族・庶民の言葉に惑わされ、魔法薬師協会の者達を惨殺したと」

「そういう話になっているのですね」

 そう言った殿下の声は、優しい微笑みとは別に、怨嗟めいたものが籠っているように思えた。 私が聞いたのはディック様で……、

 ぁ、コレ、まずかった? と思った訳だ。




 殿下の説明ではこうだった。

 ノッカラ国は、魔力を持ち生まれる者は少ない。 魔力を持ち魔法に関わる者の大半が血統により行われる。 貴族はその健康を守るため魔力対策はされるが、魔法使いほどの魔力を持つ事はない。

 この時点で魔法使いの家系は妬まれる。
 幼少期、可愛がられた記憶も多いが、嫌味や嫌がらせも同様に多かった。

 だからディック様の言葉を疑った事は無かった。

「陛下は、国を支えてくれる魔法薬師達に多大な対価を払っていましたし、魔法薬師達に貴族と同等の地位を与えようとしていたんです。 そんな陛下が惨殺をする等と思いますか?」

「ぇ、でも、そんな話知らない」

「階級に関しては議会に取り上げられた程度。 政務に関わらない叔父上が知らなくても仕方がありません」

 貴族達は自らの立場を守るために、魔法薬師と同等の力を得ようとし他国で生まれた魔法使いを招き頼りとした。 ただし……彼等が雇ったのは、他国で必要とされない相手にされない、能力が劣り、品格が劣る三流、四流と呼ばれる魔法使い達。 特別でも何でもないその日の食事にも困る程度の力しかない魔法使い達。

 そんな者達を貴族達は、王家や魔法薬師に秘密で雇ったのだ。 いや、三流、四流の魔法使い達に狙われ食い物にされたと言っても過言ではないだろう。

 他国の三流以下の魔法使い達は、大地深くを通る魔力脈との道を通した。 最初はそれでも良かったのだ。 大地に魔力が染み渡り、水に魔力が溶け込み、風に魔力が流れ、ノッカラは豊かになったかのように見えた。

 だが、やがてすくすくと育った植物は、想像を超える大きさとなり枯れ溶け、高濃度の魔力は毒となった。 枯れるものはまだ良い、内側から弾けた物等は側にいた者達を攻撃してしまった。

 やがて、その異常は、動物、人間にまで影響を与えだす。

「そこで、陛下はその理由を貴族達ではなく、魔法薬師達に聞いたのです。 この国の魔法に関するものの大半は彼等が管理していたからね。 返された言葉は、無理やり魔力脈まで穴をあけたのではないか? と言うもので、陛下は異常の見られた領地を治める貴族達に、何か異変はなかったのか? そうたずねたのです」

「まぁ、知らないって答えるでしょうね」

「えぇ、それどころか、この国で魔力異常が起こるなら、それは魔法薬師に違いない。 自ら自白をするなら、お前とその家族の罪は見逃そう。 と領内の魔法薬師を集めて言ったそうです。 そして……魔法薬師は家族や弟子を守るため、罪を認めてしまった」

「貴族が約束を破ったの?」

「いいえ、被害は人にまで及んだって言ったよね。 魔力耐性も身体も出来ていない幼子から死んでいったのです。 貴族達は確かに何も言わず、約束を守りました。 だけどね、子供を亡くした者達は、こんなことをできるのは魔法薬師だけだと思ったのです。 他国の魔法使いが入り込んでいるなんて考えもしませんでしたから。 そして無実の相手に復讐が決行されました。 ここまでで質問はありますか?」

「平気、なんとなくだけど、想像はつくから」

「庶民にとっては、魔力、魔法=魔法薬師でした。 貴族達は裏切ってなんかいないって言うのがポイントです。 だから、魔法薬師は貴族に保護を求めてしまったのです。 彼等は自ら捕まりに、責任を負いに領主の元に訪れました。 違うと言っても他国の魔法使いの存在が出てこない限り、その罪は誰もが魔法薬師にあると誰もが考えるでしょう。 貴族達は泥沼の争いを避けるため、真実にたどり着かないようにするため、魔法薬師に罪を着せ、そして……魔力脈に魔法薬師を生贄として与える事で、騒動を収めたのです。 まぁ、そんな方法で収まったのは知識があったからではなく偶然だったようですけど。 だけど、収まり切れなかった魔力脈が幾つも存在しました。 既に多くの魔法薬師が子を老いた親を病人を亡くした家族に殺されていましたから」

 ここで、殿下は一度言葉を切り。 私が知る事実がようやく伝えられた。

「そして陛下は……国のため危機を乗り切るため魔法薬師達の命を求め、この国は辛うじて崩壊を免れたのです。 その後、陛下は叔父上に調査をさせ、貴族達の悪行を暴き……未だ怒りが収まらず、あのような事をなされるのです」

 この言葉を聞いて、陛下への不審は軽減された。

 その事情が本当なら、魔法薬師としての技術を使ったからと言って、私が殺される事は無いだろう。

 私は安堵した。

 まだ、安堵には早いかもと思いつつ、毎日私のためだけに通ってきてくれた殿下を信用してしまったのだ。 だけど、安堵はしたけど……真実を中途半端に語ったディック様に対する気持ちが、少しだけ揺らいだのが、私にとっても不安となった。

 それはまるで、自分が自分でなくなるかのような不安。

「どうしたのですか? 可愛い顔が台無しですよ」

 殿下が私の頬に触れ撫で、私は殿下を見る。

「そんな事はないもの。 私は可愛い!!」

「うん、可愛いですよ」

 真正面から言われれば恥ずかしくなった。

「よ~しよしよし」

「それはなんか違う!!」



 翌日、私は王宮へと向かい、オークランス領が豊かになった秘密を語る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

「二年だけの公爵夫人~奪い合う愛と偽りの契約~」二年間の花嫁 パラレルワールド

柴田はつみ
恋愛
二年だけの契約結婚―― その相手は、幼い頃から密かに想い続けた公爵アラン。 だが、彼には将来を誓い合った相手がいる。 私はただの“かりそめの妻”にすぎず、期限が来れば静かに去る運命。 それでもいい。ただ、少しの間だけでも彼のそばにいたい――そう思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 社交界では意地悪な貴婦人たちが舞踏会やお茶会で私を嘲笑い、 アランを狙う身分の低い令嬢が巧妙な罠を仕掛けてくる。 さらに――アランが密かに想っていると噂される未亡人。 彼女はアランの親友の妻でありながら、彼を誘惑することをやめない。 優雅な微笑みの裏で仕掛けられる、巧みな誘惑作戦。 そしてもう一人。 血のつながらない義兄が、私を愛していると告げてきた。 その視線は、兄としてではなく、一人の男としての熱を帯びて――。 知らぬ間に始まった、アランと義兄による“奪い合い”。 だが誰も知らない。アランは、かつて街で私が貧しい子にパンを差し出す姿を見て、一目惚れしていたことを。 この結婚も、その出会いから始まった彼の策略だったことを。 愛と誤解、嫉妬と執着が交錯する二年間。 契約の終わりに待つのは別れか、それとも――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...