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07.情状酌量の結果、彼は家と縁を切り私に仕えている。
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幼い頃から、私には色々な災いが降りかかっていた。
当然、身を守るためには対処が必要となるわけで、様々な経験から得た事は、嫌な思いを我慢する必要が無いと言うもの。 こういうのって獣人の思考の根底にあり、自己保全と言う彼らの本能、感性には、頭が下がると言うものです。
目の前の難問と言うものは、我慢し放置をすることで収まることも事実ですが、実際には早い対処は、被害も、解決の手間も、少なくする。
そんな訳で、私は、迷惑男が婚姻の証だと言う研究室兼自宅の元土地所有者に、実家からの帰りに会いにいくことにしました。 と言っても、私が所有する店舗なのですけどね。
ヨハン・アッペル。
元伯爵は、彼は、知り合った頃から金に困っていた。 彼は、食べ物をもらえなかった私と一緒に、食堂で働いていたのが出会い。 接客の上手さから商品販売を任せた。
貴族のルールと言うのは、いまひとつ理解できないのですが……。 彼が貧乏になったのは、彼の妹が王妃になったため、皮肉なものですよね。
王妃の輩出によって、アッペル家の愛人稼業が禁止、今までヒモとして参加していた夜会には、伯爵家当主として参加が求められ、収入は失われ、出費は増えたらしい。
横領は……うん、ダメ。 私も、裏切られたとショックを受けましたし、その額も決して小さなものではありませんでした。
だけど、一番大きな問題は、王妃の兄が横領したと、嬉々としてオーステルの者達が王家をゆすった事でしょう。 人の財布で図々しい。
そこからは、横領分の返済+口止め料として、伯爵家で所有していた土地の譲渡を受け、ヨハン自身は伯爵の地位をはく奪。 アッペル家を追放。 現在の彼は『ヨハン・アッペル』ではなく『ただのヨハン』なのです。
そして、回収するものを回収し終えた私は、彼への同情と、利用価値を加味して、今も彼を雇用している訳なのです。
私は小さな店舗の前に馬車を止めた。
この店は、最初の店、庶民の生活をほんの少し便利にする庶民向けの商品が置かれている。
店を持っているにもかかわらず提携相手を探した理由は、商品の性質にあります。 この国の貴族は美食を追求するあまり、身体が弱く、老いが現れやすく、短命。 その改善につながる薬を、流石に日用雑貨と一緒に扱う訳にはいかないでしょう?
馬車から、愛らしい耳と、鞭のようにしなやかな尾を持つ獣人男性ヴィーゲルトが先に降り、私に手をさしだした。 完全な人間の姿でいる時よりも、少しだけ粗野な印象となる。 だけど彼に微笑んだ時にかえされる笑みが、いつもより少しだけ幼く見えて、獣人姿の彼も可愛らしくて私は好き。
まぁ見つめあっていても仕方がないので、仕事仕事、私は少しだけ照れながら御者へと振り返る。
「今日は、もう帰って頂いて結構です。 請求は何時も通りに月末請求でお願いします」
馬車と御者はレンタルなんですよ。 お金はあるけれど、まぁ……使用人を雇うのは、2人の生活を邪魔されるようで嫌なんですよね。
エスコートをされ、店の扉を開けばカランカランと鈴が鳴り、掃除中の店主が姿を現した。
「いらっしゃいませ……シャル様。 今日は……茶会に出られていたのでは?」
迷惑男の父親ヨハンは、驚いた表情を浮かべていた。
「台無しにされたのよ」
腹だたしさを声に表し、店に置かれている椅子に腰を掛けようとすれば、私を抱き上げたヴィが椅子に先に座って私を膝に乗せた。 抱きしめ、首筋に顔を埋めながら匂いを嗅いでいるが、気にしてはいけない、気にする必要もない。
まぁ、少しくすぐったいんですけどね。
ヨハンは慣れた様子でヴィを居ない者として扱った。 とはいえ気にしないと言うだけで、お茶はしっかり2人分出される。
「それで……何があったのでしょうか……」
何かを察したように、私の前から3歩ほど離れた場所で、項垂れたように立っており、私は今日遭遇したばかりの彼の息子の奇行を伝えた。
「も、申し訳ございませんでした!!」
深く下げられる頭は、折りたたんだタオルの様子。 慌て顔色を悪くする姿から考えるに、ヨハンは息子の行動が正しいとは思っていないようで、私はほっとした。 横領はあったものの、伯爵家を追放されてからの彼は良く働いてくれたのだ。
「彼の行動理由、分かります? なぜ、私と結婚したと思い込んでいるんですか?」
「……いえ、あの子の考えは、私には分かりかねます……。 ただ……一つ言えるのは、私がシャル様にご迷惑をおかけした時以上に息子は金銭的に困っているだろうと言うことです。 それで……アナタから金を得ようと考えたのでしょう。 ただ、結婚と言うのは何処から出たことなのか……」
あの顔色の悪さや、貧相な体つきは、貴族特有の贅沢病ではなく栄養不足と言われれば、私は自分の思い込みに爪の先ぐらいの反省をして、直ぐに忘れた。
「あの運命とやらのお家からは支援を得られない訳?」
「あの子は、代々アッペル家に仕える家令の子、アッペル家から給料を得る身ですから……」
苦笑と共にヨハンは言葉を閉ざし、そして考えこんだ。
「一晩お時間を頂けますか? 息子の誤解を解いてまいります」
恐怖に歪んだ表情でヨハンは言うのは、多分……私の背後で牙をむいている者がいるから……でしょうねぇ……。 気づかないふりをして、私は何時もの調子で返事をする。
「そうしていただけると、助かります」
「ご迷惑をかけ申し訳ございませんでした」
これで、終わるといいんですけど……。
そして、私は店を後にする。
当然、身を守るためには対処が必要となるわけで、様々な経験から得た事は、嫌な思いを我慢する必要が無いと言うもの。 こういうのって獣人の思考の根底にあり、自己保全と言う彼らの本能、感性には、頭が下がると言うものです。
目の前の難問と言うものは、我慢し放置をすることで収まることも事実ですが、実際には早い対処は、被害も、解決の手間も、少なくする。
そんな訳で、私は、迷惑男が婚姻の証だと言う研究室兼自宅の元土地所有者に、実家からの帰りに会いにいくことにしました。 と言っても、私が所有する店舗なのですけどね。
ヨハン・アッペル。
元伯爵は、彼は、知り合った頃から金に困っていた。 彼は、食べ物をもらえなかった私と一緒に、食堂で働いていたのが出会い。 接客の上手さから商品販売を任せた。
貴族のルールと言うのは、いまひとつ理解できないのですが……。 彼が貧乏になったのは、彼の妹が王妃になったため、皮肉なものですよね。
王妃の輩出によって、アッペル家の愛人稼業が禁止、今までヒモとして参加していた夜会には、伯爵家当主として参加が求められ、収入は失われ、出費は増えたらしい。
横領は……うん、ダメ。 私も、裏切られたとショックを受けましたし、その額も決して小さなものではありませんでした。
だけど、一番大きな問題は、王妃の兄が横領したと、嬉々としてオーステルの者達が王家をゆすった事でしょう。 人の財布で図々しい。
そこからは、横領分の返済+口止め料として、伯爵家で所有していた土地の譲渡を受け、ヨハン自身は伯爵の地位をはく奪。 アッペル家を追放。 現在の彼は『ヨハン・アッペル』ではなく『ただのヨハン』なのです。
そして、回収するものを回収し終えた私は、彼への同情と、利用価値を加味して、今も彼を雇用している訳なのです。
私は小さな店舗の前に馬車を止めた。
この店は、最初の店、庶民の生活をほんの少し便利にする庶民向けの商品が置かれている。
店を持っているにもかかわらず提携相手を探した理由は、商品の性質にあります。 この国の貴族は美食を追求するあまり、身体が弱く、老いが現れやすく、短命。 その改善につながる薬を、流石に日用雑貨と一緒に扱う訳にはいかないでしょう?
馬車から、愛らしい耳と、鞭のようにしなやかな尾を持つ獣人男性ヴィーゲルトが先に降り、私に手をさしだした。 完全な人間の姿でいる時よりも、少しだけ粗野な印象となる。 だけど彼に微笑んだ時にかえされる笑みが、いつもより少しだけ幼く見えて、獣人姿の彼も可愛らしくて私は好き。
まぁ見つめあっていても仕方がないので、仕事仕事、私は少しだけ照れながら御者へと振り返る。
「今日は、もう帰って頂いて結構です。 請求は何時も通りに月末請求でお願いします」
馬車と御者はレンタルなんですよ。 お金はあるけれど、まぁ……使用人を雇うのは、2人の生活を邪魔されるようで嫌なんですよね。
エスコートをされ、店の扉を開けばカランカランと鈴が鳴り、掃除中の店主が姿を現した。
「いらっしゃいませ……シャル様。 今日は……茶会に出られていたのでは?」
迷惑男の父親ヨハンは、驚いた表情を浮かべていた。
「台無しにされたのよ」
腹だたしさを声に表し、店に置かれている椅子に腰を掛けようとすれば、私を抱き上げたヴィが椅子に先に座って私を膝に乗せた。 抱きしめ、首筋に顔を埋めながら匂いを嗅いでいるが、気にしてはいけない、気にする必要もない。
まぁ、少しくすぐったいんですけどね。
ヨハンは慣れた様子でヴィを居ない者として扱った。 とはいえ気にしないと言うだけで、お茶はしっかり2人分出される。
「それで……何があったのでしょうか……」
何かを察したように、私の前から3歩ほど離れた場所で、項垂れたように立っており、私は今日遭遇したばかりの彼の息子の奇行を伝えた。
「も、申し訳ございませんでした!!」
深く下げられる頭は、折りたたんだタオルの様子。 慌て顔色を悪くする姿から考えるに、ヨハンは息子の行動が正しいとは思っていないようで、私はほっとした。 横領はあったものの、伯爵家を追放されてからの彼は良く働いてくれたのだ。
「彼の行動理由、分かります? なぜ、私と結婚したと思い込んでいるんですか?」
「……いえ、あの子の考えは、私には分かりかねます……。 ただ……一つ言えるのは、私がシャル様にご迷惑をおかけした時以上に息子は金銭的に困っているだろうと言うことです。 それで……アナタから金を得ようと考えたのでしょう。 ただ、結婚と言うのは何処から出たことなのか……」
あの顔色の悪さや、貧相な体つきは、貴族特有の贅沢病ではなく栄養不足と言われれば、私は自分の思い込みに爪の先ぐらいの反省をして、直ぐに忘れた。
「あの運命とやらのお家からは支援を得られない訳?」
「あの子は、代々アッペル家に仕える家令の子、アッペル家から給料を得る身ですから……」
苦笑と共にヨハンは言葉を閉ざし、そして考えこんだ。
「一晩お時間を頂けますか? 息子の誤解を解いてまいります」
恐怖に歪んだ表情でヨハンは言うのは、多分……私の背後で牙をむいている者がいるから……でしょうねぇ……。 気づかないふりをして、私は何時もの調子で返事をする。
「そうしていただけると、助かります」
「ご迷惑をかけ申し訳ございませんでした」
これで、終わるといいんですけど……。
そして、私は店を後にする。
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