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32.デートと言うには騒々しい 02

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 ご馳走すると言って案内されたのは、食べ物広場。

 広場全体を覆うように、屋根と御簾が設置された建物がある。
 御簾は日の当たる方向だけが下ろされ、他はあげられていた。
 そして建物内には椅子が並んでいる。

 広場を囲むように建てられた建物は、縦に長く作ってあって、ソレゾレが調理場兼倉庫となっている。 数十件の建物が広場を覆っているが、利用されているのは2割程度だった。



 勧められるままに、アズとヴィズ以外の者が同じテーブルにつけば、シアは不安そうにラースだけでなくセグ、セリアを見ていた。

 庶民の料理なんか食べられないと言われたらどうしましょう……。
 仲良くして頂きたいのだけど……。

「国を守る勇猛果敢な王子様なら、やっぱり肉よね肉!!」

 そう言って出されるシンプルな様々な串焼き肉、内臓を綺麗に処理したもつ煮込み(こんにゃく、シナチク入り)、骨からジンワリと出汁を取った小麦団子のスープ。

 スンスンと慣れぬ料理に匂いを嗅ぐ姿は、決して行儀の良いものではないけれど。 その後、飢えた獣のようにガツガツと、それでも上品に食べる姿に周囲は注目し……そして、喜んだ。

「王子様達が食べてくれたぞ!!」

 言い方が飢えた子猫が食事を食べて、これで死なない!! 的に聞こえたのは……きっと気のせいだろう。



「美味しいよ!!」

 真っ先に賛美を贈ったのはセグだった。
 そりゃぁもう、満面の笑みに周囲の顔は緩みまくる。

「ねっ、セリアもそう思うでしょう?!」

 言葉は無いが、真っ赤な顔をして必死に首を縦にふる少女。

 2人の様子を見れば2人が将来を誓い合った仲なのだと良く分かると言うものだ。

「俺、コレ好き。 お代わりいいか?」

 シンプルな賛美として、お代わりを要求するのはラース。

 ラースは欠片もランディの素振りをする様子はなく、ただランディの服を着ているだけで、周囲に笑顔の大安売りをセグに負けずと始めていた。

 もつ煮込みが入れられた皿を掲げれば、はいよっと嬉しそうに新しい皿が渡された。

「兄ちゃん達。そんなもんだけじゃ腹も膨れないだろう。 こっちもたべな」

 袋状になるように作られた薄いパン(?)の中に肉やら野菜を挟んだものピタパンを皿にのせられ持って来てくれた。

「これは、パンか?」

 ラースが聞けば、

「どうなんだい? 姫さん?」

 とシアに問われる。 料理ネタの元はシアなのだから当然だろう。

「パンに分類されていたと思いますよ? 普通のパンよりも焼くのに時間がかからないので屋台向きなんです」

 ちなみにギルモアが国となる前までの主食は芋だったし、肉は新鮮なら生で食べていた。 新鮮でないものは塩漬けにされていた。 とにかく……新しい食文化を彼等に根付かせるのは大変な事だった。 それを思い出せば、シアにとって今の目の前に広がる景色は感無量と言えるだろう。

「兄ちゃんはどうだい? 嫌いなら無理しなくてもいいんだぜ」

 顔色が余り良く無いヴィズを屋台の親父が気遣う。

「いや、うまいよ。 凄く、本当に……この臓物なんか最高だ……」

「そうかい兄ちゃん。 その割には浮かない顔をしているけど」

 兄ちゃんと気安く屋台の店主の1人が言えば

「アンタ相手は王子様だよ。 私達を守って下さるありがたい方々なんだから、気をつけなよ」

 と言う感じで叱られていた。

 とにかく、わちゃわちゃと騒々しい。

「申し訳ない。 俺は余り表情を出すのが得意ではないんだ。 弟達と違って」

「確かに、うちの旦那も何時も仏頂面だ。 王子様は上手い上手いとほめてくれるだけましさ。 王子様、辛いのは大丈夫かい?」

「ぇ、あ、はい」

「なら、これをかけてみな。 アズ様が冷え性に良い薬だからと進めてくださったんだが、料理に少し振りかけてもうまいんだ」

 進められてもつ煮込みに粉末唐辛子をかけるヴィズとラース。 それもまた気に入ったらしく……。 そんな感じで色々な料理を食べ続ける王子達を横に、シアは新商品の相談を受け始めていた。

「コレは、柑橘系の皮をすりおろしていれるのはどうかしら?」
「この甘い煮豆だけど、どうにも味が締まらなくてねぇ~」
「塩を入れると良いと聞くわ」

 シアは人に巻き込まれ、少しずつラースと離れて言っていた。
 立ちろうとすれば、次々に料理を持って来て勧められる。

「そう言えばサトウキビの畑はどう?」

 シアの声が少しずつ遠くなる。
 10センチ、30センチ、50センチ。

「えぇ、国内流通も順調ですし、他の土地から勉強に来るものもいます。 困っていると言えば他国からも仕入れたいと声がかかっている事でしょうか? 良い価格を提示されてはいますが、やはり自分達の口が大事なもんでねぇ~。 良い商売にならないもんかな、姫さん」

「って事で、どうにかできませんか?」

 シアの問いかけに、ヴィズがボソリと言う。

「貴族に進めてみよう。 その時は、色々と相談に乗ってくれ」

 ますます苦虫をかみつぶしたような顔をしていたが……。 はぁっと一度息を吐いて、ヴィズは頑張って笑顔を作って見せた。

「皆、その時は世話になると思うが、よろしく頼む」

「ヴィズ兄さん、無理をなさらなくても、僕の方で手配をしますよ?」

 ニヤニヤとセグが言えば、ヴィズはウルサイと声に出さずに言い、セグが笑う。



 ヴィズは、初めて自分の目で国の進むべき未来を見たのだ。

 この流れに乗れない貴族は、落ちぶれ……やがて反旗を翻し、俺はそいつらを殺す事になるだろう。 そうなる前に何とかしなければ……大変な事になる……。



 ヴィズは眩しそうに庶民たちの声を聞き、笑顔を見ていた。



 そして……もっと即物的に言うなら、戦場で彼等が食べているものとココの食べ物は違う、違い過ぎた。

 ここは食事を上手いと楽しめる。
 食べ物の味そのものもそうだが、特に人が……。

 庶民の笑顔は、戦場で見る笑い顔とは違う。
 王子とかけてくる声も、その意味も、戦場とは違う。


 戦場では、現地調達した肉、魚、芋が主食だった。
 最近は他国から輸入した米粥、麦粥に、肉、肉、魚。

 それらは、美味い!! と言えるものではなく、タダ飢えを満たすものであり……そこに不満を覚える事は無かった。 食事は動くための燃料に過ぎないのだから。

 いつの間にかシアはセリアを伴っているものの、気づけばラースから2m程離れていた。 シアは、食欲のない妊婦の相談を受けており、アズも合流しますます女性達が集まってきていた。

 その景色を見て、セグは笑う。

「これだと、デート……には、ならないね」

「だが……勉強になる」

 両肘をテーブルにつき、頭を抱えるヴィズ。

 色んな国を巡っていたラースと言えば……

 流石シアだ……国として成立して未だ6年しかたたないと言うのに、他国に負けぬほどの美味い物を庶民に浸透させるなんて!! と、ほくほくとしながら、幸せそうにシアを視線で追い続けていた。

 そして、そっと隠しきれぬ殺気を孕みながら、シア達に近づく女性の衣類を身に着けた戦士が混ざり込んでいる事に気づきラースは慌てて席を立った。
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