悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

文字の大きさ
3 / 33
1章

03.可哀そうな皇子様

しおりを挟む
 父と母は善人だった。

 きっと、人が好きで、人に好かれる自分が好きだったのだと思う。

 私は、そんな両親が嫌いだった。

 両親は、自分達を犠牲にしても、領民に尽くすような人達だった。 よく働き、よく学び、贅沢をせず、貴族でありながら貴族らしいところは1つもなく、領民以上に土を耕し、糸を紡ぎ、はたを織り、縫物や編物をし、領民たちに良く施した。

 誕生日に家族で交換しあった手作りのプレゼントも、領民たちが望めば、与えたし、私もまた与えるようにと言われ、何度も泣き、泣けばその心の貧しさを叱られた。

「良い人であれ。 困っている人には手を差し伸べろ。 人に愛される人であれ」

 両親は、私にも善人であるよう求めたのだ。
 勝手に、自分の行為に酔っていればよいのに。

「善行を人に要求した時点で善人ではないわ!!」

 幼い私が自分のために作った小さなお人形を奪われまいと泣きながら叫べば、両親に殴られ、人形は奪われ、私より年上の少女にプレゼントされた。

 まぁ、数日後には飽きて捨てられていたのだけど。

「オマエのような卑しい奴は、家畜にも劣る。 自分の行いを反省するといい!!」

 空腹と寒さに負けた私は、本音と建前、裏表を使い分けるようになった……5歳の時だったと思う。

 毎日が苦痛だった。
 そんな私を叔父が救ってくれた。

 12歳になる年、叔父は私に王立学園に入ることを勧めたのだ。

 両親は働き手が減ることを拒んだけれど、叔父は必死に賢い私を学園に通わせれば、より善行を行えるだろうと説得し、その賢さが奨学金を得るほどで、民に一切の負担をかけないなら認めようと、渋々であるが良心を説得してくれたのだ。

 叔父には感謝しかない。

 が……。

 善人だった両親は死んだ。

 借金をしてまで、人に施しを繰り返した結果……両親は貧しい恰好をしていたにも関わらず、金を溜め込んでいると思われたのだ。 両親は借金を重ねに重ねて既に金を借りられぬ程になっており、私に何とか金を準備できないかと手紙を送ってきていたくらい。

 そこまでになれば、善行を行いたい両親とて、領民への施しは辞めてしまうと言うもの。 それに不満を持った領民に両親は殺され。 そして……私の不在中に叔父は子爵となった。

 気の毒な叔父上……借金があるなど考えもしなかったのでしょうね。 叔父夫婦は行方不明となり、爵位は見ず知らずの者が子爵として社交会に出向いているそうだ。

 万が一親の借金を返せと言う者の存在を考えれば、王都から離れるのが最善と言える。



 それが私の日常だった。
 だから、人が好きではない。

 きっと、恋はしない。

 だけど、恋を諦めると言う事と、興味は別。
 何しろ年頃の乙女ですからね。

 それに!!

 初めてが綺麗な皇子様であれば、ソレは人に語らずとも、私の自慢となり、尊厳となり、価値となる……そんな気がしたのです。

「可哀そうな皇子様。 ただ、綺麗だと言うだけの理由で、慰み者になるのだから」

 美しい黄金色の髪のリボンをほどけば、サラリと零れ落ちた。 手で受け止めようとすれば心地よい手触りに嫉妬し、悲しくなり、申し訳なさに胸が痛んだ。

「私に思い出をください」

 小さな小さな声で呟き願う。

 無遠慮に顔を寄せたが、口づけなどできるはずもない。 ただ、目元を彩る睫毛が長いなぁ……なんて眺めた。 そっと指先で頬に触れてみれば、その肌は男性としては美しいが、女性の柔らかい肌とは違っていた。

「可哀そうな皇子様」

 くだらない理由で、今から私に襲われるのだから、なんて可哀そうな人でしょう。 そう思えば気持ちが揺れた。

 今なら引き返せる。
 良く働いたご褒美をもらって何が悪い。
 ほんの少しの時間、私の自由にさせてもらうだけよ。

 引き返すなら……。

 ぐらぐら揺れる思い。

 考える時間を自分に与えるように、私は浴室へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる

もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。 継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。 植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。 転機は突然訪れる。 「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...