悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

文字の大きさ
4 / 33
1章

04.雑談と思い出

しおりを挟む
 シャワーから出れば皇子が起きていた。

 間違いを犯さずに済んだ……。

 安堵、そして混乱。

 この状況をどう言い逃れるかと考えるのだけど、止まった思考が動き出すまで少し時間が必要で、私が話し出す前に皇子が声を発する。

「俺も風呂……」

 寝ぼけている?

 ベッドから降りて、歩きだす皇子にエスコートとばかりに手を差し出してみせた。 少しだけ皇子の方が高い視線が合う。

「ぁ?」

 眉間を寄せた怪訝な目が向けられれば、風呂に入って時間を置いて良かったと考える。 二度と会う事がないなら特別な思い出をと思ったけれど、強引に事をなして嫌われることまで考えて居なかった事に気づき、ぞっとしした。

こんな格好ガウンで失礼します」

「いや、まぁ、風呂上りは大抵そんなもんだろう。 それより手?」

「酒を召し上がり、お眠りになっていらしたので気を付けてくださいませ」

 いつもより仰々しく丁寧に言って見せる。

「いや、最近ちょっと寝不足だっただけだ。 酒はまぁ……慣れてる」

「慣れてる?」

「そう、騎士団に混ざって訓練しているとな。 こう、連帯感がどうこうって飲まされる」

 酒を飲むことと連帯感の流れは理解できなかったが、綺麗な顔立ちの皇子が汗を流し、泥にまみれ、表情をころころ変えていたのを思い出せば、自分が思っていたよりも皇子を視線で追っていたのだと、自覚した。

 ヤバイ……。

 鼓動が早くなる。

 差し出したままの私の手に、皇子の手が近寄る。

 女性扱いしたと不機嫌そうに払いのけるためだと思っていたけれど、皇子は私の手をとり指先に口づけた。

「なっ……」

 何を考えて居らっしゃるのですか! 等と言える私ではない。 立場も心も。

 私が怒り出す前に浴室に急ぎ逃げ出してしまった殿下は、顔だけを私に向けて話しかけた。

「折角部屋を借りたんだ。 たまには二人でユックリと話そう」

 こうさりげなく言って軽く手を振るところが、ズルイ……。 そう思えば、今日を最後に彼と会えなくなるのだと、醜く歪んだ私の顔がガラスに映っていた。



「あがった。 なんか飲み物ある?」

 ヒタヒタと濡れたままの身体にガウンを着て皇子は歩いてくる。

「風邪を引きますよ。 ホットミルク?」

 室内にミルクはないが、注文をすれば持ってきてもらえるだろう。 皇子の奢り(食事の時の飲酒でくたばった責任上)って事で、宿泊施設側も待遇がいいし。

「鍛えているから平気。 ガキじゃないんだからミルクを勧めんな」

 昼と同じ返事に少し笑った。 今まで何度も繰り返した言葉も、今日で終わるのかと思えば、大切な言葉に思える。

「皇子、髪ぐらいは乾かしましょう?」

「じゃぁ、魔術でちゃちゃっと済ませて」

「贅沢ですね」

「贅沢が許される立場だからな。 それに、シェリルの魔力は好きだ。 俺達、人として相性が良いんだよ」

 早くしろと、ソファに座りコッチを見てくる。

「皇子は……、言葉を選んで話してください。 勘違いをされますよ」

 魔力に湿気を吸収させる性質を少しだけ持たせて、皇子の身体を巡らせる。 やりすぎると乾燥して痒くなるから加減は大事。

「勘違いって?」

 ニッコリ人の好さそうな外交用の笑みを向けてくるから、分かってやっているのかと肩を竦めて見せた。

たちが悪い事で」

「勘違いしてくれていいけど」

 皇子相手に庶民の娘が勘違いをしてどうすると言うのですか。

 鼻歌交じりの皇子は、特別にテーブルに並べられたらしい、なんか良い感じのお酒の封をあけてグラスに少しそそいでいる、私は呆れたと言う意志を告げるための溜息をついで、

「まだ、飲むつもりですか」

「別に、酔わないって、さっきも眠かっただけだし」

 そして、私も酒を勧められ……口にした酒は、私には少し苦かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる

もちもちほっぺ
恋愛
亡き母の形見の庭を守ることだけが、フェリシアの居場所だった。 継母に食卓での給仕を命じられ、義妹に母の形見の花を踏みにじられても、父は「仲良くしなさい」と言うだけだった。 植物魔法は「雑草いじり」と蔑まれ、フェリシアはルミナリス家の娘ではなく、使用人以下として生きてきた。 転機は突然訪れる。 「氷の魔王」と恐れられるギルバート・ウィンストン公爵との縁談。嵐の中、馬車も出してもらえず送り出されたフェリシアが辿り着いたのは、十年間何も育たなくなった荒廃した庭だった。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...