悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

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1章

12.逃亡の先

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 シェリル改めルシェは、移動の速さを重視する輸送用の荷馬車に同乗を願い、早朝には隣国の大き目な街を目指しバウスコール国の王都を後にした。

 理由は簡単。

 両親の借金が未だ多く残っていると書状が届いていたためだ。 それは庶民となったルシェがどんなに必死に働いたところで返せる額ではない。 せめて外見が良ければ、その身を売り払ってと言う事もあるだろうが、貧相で陰鬱に感じる娘を抱きたいという物好きは、広い世界で1人だけだろう。

 バウスコール国は善良な人が多い。

 外見で差別をするものはいない。

 バウスコール国は善良な人が多い。

 例え、金貸しであっても。

 他国のように大き過ぎる金利をとらない。 だからこそ、借りた金を返さない事は悪であり、爵位を売却されても人は新しい子爵を容易に受け入れる。 そして残された借金は子であるルシェに請求し、ルシェが家族を持てばその家族に請求する。

 ルシェは学園に通う間、令嬢達から課題の代理、テスト前の勉強会、礼儀作法のチェックと指導、ドレスのコーディネート、時には夜会で令嬢がヘマをしないように従者に変装し付き従う等して、小金を稼いでいた。

 貰ったプレゼントや、令嬢達が要らないとしたさまざまなものは売り払って金に変えた。 善意を売り払うルシェは決して良い人間ではない。 だけどそれ以上に有益な人材と判断され、人々はルシェの行動を見て見ぬふりをしていた。 善人でないからこそ、様々な相談を受けてきた。

 だから、蓄えはある。

「あの親の借金を返すのは、納得いかない。 悪人で結構!! 私は善人と言われるよりも、幸福になりたい!!」

 何よりバウスコールは悪人への対処は容赦なく、逃げなければルシェの不幸は確定されていた。 両親が民に尽くさなくなった=悪として断罪される程に悪には厳しい。 だから他所者がくれば庶民であっても、問題の無い人間かを徹底して調べ上げられ、善人であると判断されればニコヤカに受け入れられ、善人だと判断されなければ厳しい対応がなされる。

 私がバウスコール国から逃げ出した理由だ。

 隣国の街を選んだのも理由があった。

 脱出の協力者となった善人ではない商人は、髪を切り、貧相な少女から、貧相な少年に化けたルシェにこう言った。

「私は、商売を手伝ってもらえば助かるが、田舎に居を構えれば一生働かずに済む程度の財は蓄えただろう?」

 善人ではない商人が試すように聞いてくる。

「確かに田舎の生活は、金がかからないけど余所者に厳しいのよね。 それに領主によっては、住民になるために莫大な税を取るし」

 だから、大勢の人間が出入りする街に人が集まる。

「だが、そういう領主こそ、君のような才能ある人間に興味を持つだろう」

「まぁ、私は器用ですから、役には立つでしょう。 でも、余り目立つとヤバイですし」

「アナタなら、借金を代替わりしたいと言う領主もいると思いますよ。 何しろ護衛魔術師から、会計管理、お嬢様の礼儀作法の面倒まで見ることが出来る」

「まぁ、良い縁があれば……」

 私は小さく笑い会話を止めた。

 商人にとっては私を使うよりも、どこかに斡旋した方が利益になりそうな案件があるのだろうが、良い条件だけを鵜呑みにして、渦中に飛び込むつもりもない。



 なんて思っていたけれど、それから半年後、私が護衛魔術師として同行した旅の中、夜盗に襲われていたセーデルバリ国国王の年若い側室を助けた事で、そのまま護衛兼専属侍女として取り立てられたのだ。

 運が良いのか?
 縁があったのか?

 いや……運が悪かったのかもしれない。

 セーデルバリ国の側室となったカルネウス侯爵家令嬢エンマは、茶色髪がくるくると愛らしい、少しばかりワガママが行き過ぎる少女。 妊婦故の体調不良と、何時も以上の甘えんぼが、国王陛下の仕事に差し障ると、実家であるカルネウス侯爵領に戻される際中だったのだのだから。

 まぁ、ワガママな令嬢達の扱いは心得ている。
 飴と鞭の使い方も実践経験豊富だ。

 そして、

 気づいたら……私は、子供を産み。
 エンマが王宮に戻るまでの間、皇子の乳母をしていた。

 エンマが王宮に戻る時、私も連れて行くと言ったが、側仕えになるほどの身分を準備することはできず、それでも何かあった時に力になって欲しいと、調理場の下仕事をする使用人として王城に仕える事となった。
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