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2章 7年後
19.過去を抱きしめるような気分で
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ランメルトは鞄の肩掛け部分を指先にひっかけ回収していたが、睨み合う幼い子供達は気付くはずもない。
「皇子の馬鹿ぁあああああ。 嫌い!!嫌い!! 大嫌いだぁあああ!!」
静かに泣くのかと思えば、金色の子は豪快に叫びだす。 ランメルトはその様子を懐かしく見ていた。
「うるせぇ、俺だって、オマエなんか嫌いだぁああ!!」
金色の子は泣きそうになるのを、歯を食いしばり我慢している。
騎士達の呼ぶ声が再び聞こえれば、黒髪の子はフンッと鼻をならして背を向けた。
「俺は、食堂に行く。 謝りたいなら勝手にこい!!」
予測するに皇子と呼ばれた黒髪の子は、今から騎士団員達と食堂へ向かう。 弁当を失った金色の子は、弁当が無いから食堂に行くしかない。 それも大人がいる時でなければ、利用できないだろうから1時間もせずに謝罪は成立してしまうのだろう。
きっと、そんな暗黙とも言えるルールが決まっているだろうことが、騎士達が2人にかける言葉の端々から想像できた。 それでは、この子が一方的に振り回され気の毒ではないだろうか?
今のフェリクスを思い浮かべれば、金色の子の憤りを不本意に押さえつけたくないと思った。 皇子も騎士達も去った中、横にポツンとベンチに座った子供が、涙を必死に浮かべ泣くのを堪えていた。 ベンチから落ちないように支えたままだった手は、今もその背に触れることを金色の子は許しており、だからこそ微かに背中が震えるのがわかった。
「ルシェが、朝早くに作ってくれたのに……」
ポソリとした声は、聞き覚えがあるがランメルトの皇子とは違いもっと、弱々しく甘い声をしている。
「ルシェって言うのは?」
出来るだけ優しく尋ねながら、やはりベンチから落ちないように手を添えたまま、投げられたはずの鞄を金色の子の膝の上に置いた。
緑色の大きな目に涙を浮かべ見上げてくる顔が、幼い頃の王子……をもう少し柔和にしたような子だった。 保護欲が刺激されない訳がない。 ずっと守ってきた相手と同じ顔なのだから。
これ、ヤバイ。
可愛い……。
連れて帰りたい。
「ルシェは母さん。 鞄ありがと?」
首をかしげて、不思議そうにするのがまた可愛らしかった。 ハンカチで涙を拭ってやれば、頬を赤く染めて少し怒っていた。
「どうしたの?」
「僕、泣いてない」
「うん、そうだね。 目に埃がついていたから。 つい、ごめんね」
何時ものしかめ面も、眉間の皺もほどけて、困ったようにランメルトは笑っていた。
「……埃は仕方ない。 訓練だから」
「料理人になるんでしょう? 訓練我慢しなくていいんじゃない?」
「うん、ルシェが、調理場で働いているし、それにご飯が好きだから……訓練は、父さんがいない分、僕がルシェを守らないとダメだから」
小さな握りこぶしを見れば、泣きそうになった。
ランメルトは目の前の子をフェリクスの子だと疑う事はなく、そしてその相手はただ1人だと思い込んでいたし、それは間違いではない。
あの時、見つけることができたなら。
「そっか、ごめんな」
「どうしたの? お兄さん。 大丈夫? 気分が悪い? 僕、医務局知っているよ?」
「平気だよ」
「……本当? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「よかった。 僕、お野菜を作るのも食べるのも好き。 ゼン爺、フク婆とね夏に植えたのが、収穫できてね。 美味しいの! 僕、野菜も作る料理人になるんだ」
溢れる思いを我慢できないのだと言うように、しゃべり続ける金色の子にランメルトはウンウンと頷き話を聞いていた。
「それは、素敵だね。 でも、一緒にいた子は皇子なんだよね」
「……お兄さん、秘密守れる?」
「うん、守るよ」
頬が緩むのを耐えたけど、目元が笑ってしまう。
「皇子は嫌い。 何時も僕の邪魔をする」
「そっか、大変だね」
「うん、もっと野菜作りたいのに」
「美味しいもの、好きなんだね」
「ルシェと食べるご飯は、なんでも美味しいんだよ!」
返事になってない返事に、笑いそうになるのを堪えた。
「君のお母さんは、魔法使いみたいだね」
「そうだよ」
鞄から取り出したサンドイッチは、3つ。 チラチラとサンドイッチとランメルトを交互に並べて、やっぱり小さく囁くように聞いてくる。
「お兄さんも、食べる?」
「君のご飯を取る訳にはいかないよ」
「そう」
ほっとしている様子が可愛かった。
ランメルトは子供が好きだ。 だけど着ている制服を見るだけで子供は泣いてしまう。 子供対策として持っている綺麗な飴の入った瓶を差し出した。
「あげる」
「ぇ、いいの?」
見上げてくる緑の瞳が、春の色のようにキラキラすれば、ランメルトは貢げると拳を握っていた。
「皇子の馬鹿ぁあああああ。 嫌い!!嫌い!! 大嫌いだぁあああ!!」
静かに泣くのかと思えば、金色の子は豪快に叫びだす。 ランメルトはその様子を懐かしく見ていた。
「うるせぇ、俺だって、オマエなんか嫌いだぁああ!!」
金色の子は泣きそうになるのを、歯を食いしばり我慢している。
騎士達の呼ぶ声が再び聞こえれば、黒髪の子はフンッと鼻をならして背を向けた。
「俺は、食堂に行く。 謝りたいなら勝手にこい!!」
予測するに皇子と呼ばれた黒髪の子は、今から騎士団員達と食堂へ向かう。 弁当を失った金色の子は、弁当が無いから食堂に行くしかない。 それも大人がいる時でなければ、利用できないだろうから1時間もせずに謝罪は成立してしまうのだろう。
きっと、そんな暗黙とも言えるルールが決まっているだろうことが、騎士達が2人にかける言葉の端々から想像できた。 それでは、この子が一方的に振り回され気の毒ではないだろうか?
今のフェリクスを思い浮かべれば、金色の子の憤りを不本意に押さえつけたくないと思った。 皇子も騎士達も去った中、横にポツンとベンチに座った子供が、涙を必死に浮かべ泣くのを堪えていた。 ベンチから落ちないように支えたままだった手は、今もその背に触れることを金色の子は許しており、だからこそ微かに背中が震えるのがわかった。
「ルシェが、朝早くに作ってくれたのに……」
ポソリとした声は、聞き覚えがあるがランメルトの皇子とは違いもっと、弱々しく甘い声をしている。
「ルシェって言うのは?」
出来るだけ優しく尋ねながら、やはりベンチから落ちないように手を添えたまま、投げられたはずの鞄を金色の子の膝の上に置いた。
緑色の大きな目に涙を浮かべ見上げてくる顔が、幼い頃の王子……をもう少し柔和にしたような子だった。 保護欲が刺激されない訳がない。 ずっと守ってきた相手と同じ顔なのだから。
これ、ヤバイ。
可愛い……。
連れて帰りたい。
「ルシェは母さん。 鞄ありがと?」
首をかしげて、不思議そうにするのがまた可愛らしかった。 ハンカチで涙を拭ってやれば、頬を赤く染めて少し怒っていた。
「どうしたの?」
「僕、泣いてない」
「うん、そうだね。 目に埃がついていたから。 つい、ごめんね」
何時ものしかめ面も、眉間の皺もほどけて、困ったようにランメルトは笑っていた。
「……埃は仕方ない。 訓練だから」
「料理人になるんでしょう? 訓練我慢しなくていいんじゃない?」
「うん、ルシェが、調理場で働いているし、それにご飯が好きだから……訓練は、父さんがいない分、僕がルシェを守らないとダメだから」
小さな握りこぶしを見れば、泣きそうになった。
ランメルトは目の前の子をフェリクスの子だと疑う事はなく、そしてその相手はただ1人だと思い込んでいたし、それは間違いではない。
あの時、見つけることができたなら。
「そっか、ごめんな」
「どうしたの? お兄さん。 大丈夫? 気分が悪い? 僕、医務局知っているよ?」
「平気だよ」
「……本当? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
「よかった。 僕、お野菜を作るのも食べるのも好き。 ゼン爺、フク婆とね夏に植えたのが、収穫できてね。 美味しいの! 僕、野菜も作る料理人になるんだ」
溢れる思いを我慢できないのだと言うように、しゃべり続ける金色の子にランメルトはウンウンと頷き話を聞いていた。
「それは、素敵だね。 でも、一緒にいた子は皇子なんだよね」
「……お兄さん、秘密守れる?」
「うん、守るよ」
頬が緩むのを耐えたけど、目元が笑ってしまう。
「皇子は嫌い。 何時も僕の邪魔をする」
「そっか、大変だね」
「うん、もっと野菜作りたいのに」
「美味しいもの、好きなんだね」
「ルシェと食べるご飯は、なんでも美味しいんだよ!」
返事になってない返事に、笑いそうになるのを堪えた。
「君のお母さんは、魔法使いみたいだね」
「そうだよ」
鞄から取り出したサンドイッチは、3つ。 チラチラとサンドイッチとランメルトを交互に並べて、やっぱり小さく囁くように聞いてくる。
「お兄さんも、食べる?」
「君のご飯を取る訳にはいかないよ」
「そう」
ほっとしている様子が可愛かった。
ランメルトは子供が好きだ。 だけど着ている制服を見るだけで子供は泣いてしまう。 子供対策として持っている綺麗な飴の入った瓶を差し出した。
「あげる」
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