悪い女は身勝手で、皇子の心と身体を奪い逃げた先で勝手に幸福を手に入れる

迷い人

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3章 変革

33.完結

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 大きな馬車が隠れ家へとやって来た。
 警戒する大男達は、馬車へと視線を向ける。

 フェリクス様は私に下がるように言うが、私はランメルト先輩がどんな馬車で旅だったか知っている訳だから、ソレをフェリクス様に伝えて共に外に出迎える。

 馬車が停車しきる前に扉が開き、飛び出そうとする子供を先輩が抱きしめる。

「危ないでしょう!!」

「平気だもん」

「だもんじゃありません」

 賑やかな声、揺らめく鮮やかな金色の髪。

「リック!!」

 呼べば、緑色の瞳が私を見つめた。 もう少しで7歳を迎える息子は、どんな旅をしてきたのか分からないが、変わらぬ無邪気そうな瞳と声で私を呼ぶ。

「ルシェ!!」

 しゃがんで両手を開いて見せれば、先輩はリックを捕まえる手を離し、リックは走り出す。

「ただいま!!」

「元気そうですね。 ケガや病気等しませんでしたか?」

「平気、いろんなものを見て来たよ」

 そう告げる瞳は……奇妙に大人びて、そして子供のままだった。

「友達も出来た。 ルシェ、あの人達を救う事は出来ないの?」

 私は、きっとうまく笑えてはいなかったでしょう。 声も苦々しいものだったでしょう。

「出来ますよ。 ただ、多くの人を助けるためには、多くの犠牲が必要となります。 アナタもその犠牲の1つとならなければなりません。 セーデルバリの皇子に振り回されて凹んでいた子が耐えられるのですか?」

「友達……になったんだ」

「そうですか」

 私には、領地で友達を作るのは無理だった……。

 ユックリと歩いてくるランメルト先輩を私は睨む。

「やってくれましたね……」

「申し訳ありません。 償いは一生をかけて」



 断罪騎士団と名付けられた騎士団員達は、使命を帯び各地を旅する者や、家族の元で過ごす者と様々。 だけど戦う時には共にと誓いあい、必要とあらば再び集まるのだと言う。

 結局、私はランメルト先輩に見つかったその瞬間から、先輩の罠にはまっていたのでしょう。 彼等がこの国の次の王にと選んだのは私だった。

 数か月共に暮らした者達をむざむざ死地に送り出す気はない。

 彼等は王と皇子の名の元で、断罪を行っていた。 どんな痛みにも耐えながら。 それが民の記憶にあるならば、現国王の剣なのではなく、彼等は国を治める『王』に仕えるのだと、認識を塗り替えればいい。

「これでは、計画を練り直さないとだめですね」

 リックを抱き上げ、そう言いながら人々を振り返れば、全員が唖然とした顔でこっちを見ていた。 こうもっと感動的なシーンではないのかしら?

 なんて、思っていれば、次に全員がフェリクス様へと視線を向ける。

「団長!! 生きてますか!!」

「……」

 どうやら幽体離脱的な何かだと思われたらしい……。

「瞳の色が違うし、うちの子の方が可愛らしいわよ」

 ボソリと言えば、近くにいた人間がマジマジと私とリックを見る。 余りマジマジ見られてリックが怖がりだす始末。

「ラン!!」

 すっかり保護者と変化した先輩を呼ぶから、余計にヤヤコシイ。 汚れ仕事を引き受ける断罪騎士団。 騎士団と言うからには全員が貴族の生まれで、幼い頃のフェリクス様を知っている。

 そしてフェリクス様も幼い頃は、リックのようにランメルト先輩を慕い「ラン」と幼く愛らしい声で呼んでいたそうだ。

「平気ですよ。 見た目は凶悪ですが、リックを虐めるような人はいませんから」

 ランメルト先輩がリックに優しく微笑むが、その先輩をとんでもない形相で睨む男が一人いた。

「聞きたい事があるんだが……」

「あっははははははっははははは、子供の前で乱暴は良くありませんよ。 むしろ褒めて下さいよね」

「よし、褒めてやるから来い」



 翌日まで、フェリクス様と先輩の姿を見る事は無かった。



 どんな嫌がらせが行われていたか、私も知らない。


 そして私は、セーデルバリ王国へと一旦戻り、国を取る宣言と共に後ろ盾となってもらいたいと願った。 魔術大国でありリックを可愛がってくれていた者が多いからこそ、情に訴えやすかった。 セーデルバリ王国には利益はあるが損はない。 せいぜい、皇子がリックを振り回す事が出来なくなる程度。

 1国が後ろ盾となれば、後も苦労はない。 むしろバウスコール王国の貴族達の扱いの方が難しかったが、それに関しては貴族を身内に持つ断罪騎士団のメンバーが色々と手を打ってくれた。





 吟遊詩人は歌う。

 古き王に捕らわれた金の獣は、自分の使えるべき王を探すため逃げ出した。

 美しい王を見つけた金の獣は駆け寄り、こういった。

「お会いしたかった我が王よ」

 涙を流し、首を垂れれば、
 悪辣たる古き王につけられし所有の傷は、癒される。

 獣は再び戦いに身を投じるだろう。

 正しき王のために。
 自らの王のために。
 美しき王のために。

 やがて平和と言う微睡に眠るため。



 おわり
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