【R18】醜女と蔑んでいた私に『愛している、妻になって欲しい』と第二王子が婚約を求めてきました お断りします。

迷い人

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09.見えない現実に人々は……

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 執務室に向かい、人型を取り、ズボンを履きシャツを羽織る。

 ストンっと椅子に深く座り、天井を仰ぎ見る。

 右手に酒、左手にシガーケースを持ったシエル。 チラリとシエルを見てカーマインは煙草を手に取り1本取り出せば、シエルが間を置かず火をつけた。

 肺まで一気に煙草の煙を吸い込んで、発情した雌の匂いにざわつく気持ちを散らそうとしていた。

「暴れてスッキリしたのではありませんか?」

 グラスは2つ準備し酒を注ごうとすれば、要らないとばかりにグラスの1つをカーマインが引っ込める。

「あの程度で憂さが晴れるかよ」

 頭を抱え込んで見せた。

 カーマインの母は、シエルの母の命の恩人で友人。 カーマインの母の死後は、シエルの母が赤ん坊であるカーマインの乳母となり育てた。 乳兄弟として育っていた2人の距離は近い。

「娼館でも貸し切ります?」

「……あぁ?」

「睨まないで下さいよ、あぁ怖い怖い」

 イラっとするが、自分の身を気にかけての事は理解できる。

「そんなもんで収まる訳ないだろう……」

「おや、恐ろしいですね」

「発情期も持たない、雑魚の癖に生意気な」

 言葉にしないもっと痛めつけておけばよかった的な内心を感じ取ったシエルは肩を竦めて苦笑いをした。

「それで、どうするんですか?」

 シエルが問うのは、王妃が攻撃に転じて来るのが分かっていたから。 そもそも、王妃の地位についた時から準備をしているような執念深い蛇のような女性。 マーティンはその被害者だと考え、奔放過ぎる様子も放置していた。

もともと始祖の因子は戦に特化し政務向きではない。 だからこそ早い次期に政務を得意とする家柄から、婚約者候補を得て共に職務の手ほどきを受けるのだ。

「あ~~、どっか戦線に放り込むよう進言するか?」

「今、戦争は起こっていませんよ」

「傭兵に出て稼いでもらうのはどうだ? ちょっとは甘ったれも治るだろう」

 とは言え、勝手に決める訳にはいかない。 この国の王は父親なのだから……。 そして……何よりも問題となるのは、マーティンの母親で、国王陛下の妻マルグリットなのだから。





 巫女宮に訪れた王妃マルグリットは、血に濡れ、人気のない屋敷の様子に血の気が引いた。 何が起こったのかを調べるよう共にいた侍女と付き人に告げたが、人がいないのでは話しを聞く事も出来ない。

 何時までも立ち尽くしている訳にはいかないと、マルグリット王妃は侍女を一人だけ伴い後は情報収集を行うよう指示し、本人は国王陛下の元へと出向いた。

「陛下は、謁見の最中です」

 無理やり子を作り妻の座についたマルグリット王妃の立場は決して良いものではない。 ただ、獣の本性が強く内政を得意とせず、社交の場はもっと得意としていない王に自分の利点をつきつけ、王妃の座に収まった。

 素気無い態度はいつものこと。

「巫女の事でお話したい事がございます」

 そう言えば、呆気なく面会が叶い、王妃の心は凪いだ。
 巫女となれば会うのかと、静かな怒りが募る。

 今更、愛情等無い、あるのは今の場所を権力をどう維持し続けるかと言う事だと自分に強く言い聞かせていた。

「巫女宮がもぬけの空となっております。 どうなっているのですか?!」

 書類の山に埋もれた国王陛下は、顔を上げる事無く素知らぬ素振りで返事は返された。

「さぁ、俺は何の報告も受けてはおらんよ。 お前が気にかけていたんじゃないのか?」

「第一王子の側近が、貴方の命令で連れて行ったのでしょう!! あの子は、子供の頃から私が目をかけてきたのよ!! 勝手をされては困るの!! あの子を返して!!」

 それは大切な子を失った母のように聞こえて、国王は書類の山の間から王妃を覗き見た。 だが……声と言葉とは違って、その表情からはシルフィに対する愛情を垣間見る事は出来なかった。

「確かに、俺は命じたが……。 巫女宮を管理していたのはアンタだろう。 知らないとでも思っているのか?」

 鼻で笑って見せた。

 早朝、窓から現れた息子の気配に目を覚まし、寝ぼけた様子で報告を受けたが、そんな事は素振りにも出さなかった。

「それより、マーティンが何かやらかしたとかどうとか……」

 初めてまともに金色の瞳で王妃を見据えた。

 僅かに動揺を見せる王妃。
 宮の崩壊に驚き失念していた事を思い出し、その身をひるがえす。

「私も知りませんわ。 確認してきます」

 国王の元には多くの情報が集まっている。
 それでも国王は、沈黙とともに王妃を見送った。





 マーティンは落ち込んでいた。

 気づけば……全裸でエントランスで寝ていたのだから、落ち込まない訳等ないだろう。 何があったのかは分からない。 身体に傷のような痕跡はなく、少しばかり頭痛が残っていた。

 最初にマーティンを見つけたのは、徹夜で職務に追われていた貴族達だった。

 女癖の悪い男である事は周知の沙汰。
誰もがそこに疑問を感じる事は無かった。

「マーティン様、何があったのですか!!」

 案ずる素振りをしながら、どうせ女問題だろうと言う思いがあった。 特に収まらぬ欲情をそのままに高ぶりを見せているのだから否定のしようもないだろう。

 貴族達が集まり、様子がおかしいとなれば当然のように王宮騎士達が寄って来る。

「警戒を!!」

「いや、いい……部屋に戻って寝る……頭が痛い……」

「では、付き添いましょう」

 巡回騎士は上着を貸し、そして頭痛がすると言うマーティンに同行し彼の宮まで送り届けた。





 目を覚ましたのはシルフィはボンヤリとしていた。

 ふわふわの布団。
 部屋いっぱいを占領するような小精霊達。
 昨日の傷跡はもう残ってはいない。

 ぼんやりとした様子で何時もの時間に目を覚ますシルフィは……。

 心地よい眠りから目覚め幸福を感じながら小精霊にじゃれるようにダイブし、受け止められる。



「よし、今日も一日が始まる!!」

 何時ものように人目を避け、清掃を始め……余りにも自然に行われていた行為に、一瞬スルーしてしまった侍女が大騒ぎをしたことは想像に容易いだろう。

「……大人しく身体を労わってくださいませ」

 困りながらも侍女頭ポーラは訴え、シルフィは不思議そうにした。

「私は病気ではないわ」

「ですが……身体の傷は言えても……」

 口ごもるポーラにシルフィは言う。

「何の事かしら?」

 そう言って笑みを浮かべれば、悲痛な面持ちで侍女達はシルフィを見つめる。



 平気なはずはない……。

 同じ部屋にいた侍女達は心の中で突っ込みを入れた。 首、背中から尻、太腿につけられた傷、頬を張られた跡、ソレを見ているのだから……。

 マーティンは金の瞳を持ってはい居ないが王家の人間。

 国王が、カーマインが獣の姿に転じられる事を考えたら……その身に残った傷がどのようにつけられたか……獣との交わりを勝手に想像し同情していた。

「とにかく!! 大人しくなさってください」

「暇なんですが……何か仕事はないですか?」

「ございません」

「そうね、ならカーマインは?」

「訓練に出ておりますが……」

 言葉を鈍らせるのは、巫女の発情臭に煽られ発情が誘因され、ソレを発散するために早朝から騎士達がしごかれているとは口に出せないし、今、近寄らせてカーマインにツライ思いをさせる事を案じたためだった。

「そう、見学しても良いかしら?」

 明るく微笑み言われれば……心配させまいと強がっているのだと考えるのも仕方がない事。 その健気さに負けて、ポーラはシルフィを訓練所まで案内するのだった。
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