【R18】醜女と蔑んでいた私に『愛している、妻になって欲しい』と第二王子が婚約を求めてきました お断りします。

迷い人

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12.出会い 後編

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「ほら、これが必要だったんだろう?」

 水濡れになったカーマインは上着を脱ぎ絞り肩にかけ、手にしたベールを眺め……水を絞るべきかと考える。

「待って!! 皺になるから止めてあげて」

 声をあげたのはシエルではなく……誰だっけ? と、カーマインは思いながら、シエルの上着にすっぽりと身体を隠している少女の前に視線を下ろした。

「チビ、どうした? 何処か痛いのか? 何処の子だ?」

 隠れた上着の中からカーマインを覗き見るのは、ハチミツ色の瞳。 甘い甘い香りがする少女から目を離せなかった。

「ありがとうございます。 痛くは、ないです」

 徐々に声が小さくなっていく。

「んっ?」

 声を大きくしろと言うのではなく、少女をシエルの服ごと抱え上げ、耳元でその声が聞ける高さにまで持ち上げれば、耳元にヒソヒソと囁く。

「王妃様が顔を見られてはダメよって、王妃様にお世話になっているの。 だから、言いつけは聞かないと」

「そっか……」

 舌打ちが混ざるような……そっか。

「にしても、そこの人が言っているようにこのままだと風邪を……」

 そう言葉をしている間に、服は乾いて行った。 見えはしないが大気の濃度が上がっている様子から小精霊が密集している事が予想できた。

「お~ろ~して~~!!」

 カーマインの顔面をグイグイとアッチ行けとばかりに押してくるが、全く気にした様子もなくカーマインは小さな手を掴み、その掌をマッサージするように触って見せ、くすぐったがって身をよじり腕の中から落ちそうになって慌ててカーマインはおろした。

「ちょっと待ってて」

 そう言って駆け足で木の陰に言ったかと思うと、ベールをかぶり戻って来た少女は礼儀正しく使用人らしくお辞儀をした。

「王妃殿下の宮でお世話になっている、シルフィ・ヴィスタと言います。 さっきは助けてくれてありがとうございました」

 カーマイン、シエル、そしてリンジーを前にもう一度頭を下げ、シエルに上着を返し、次にカーマインに近寄り訊ねた。

「乾かしていいですか?」

「ぇ、あぁ」

 がしっと抱きつき、そして……服が乾く。

「便利だな」

「出来る女です」

 ふんすっと胸を張って見せる。

「王妃殿下にも良く働くと褒めていただいているんですよ!」

 さっきまで怯え震えていた様子は鳴りを潜め、楽しそうにクルクルと踊るように回っていた。

「ぁ、」

 小さな声を上げたのはリンジーで、それは3人の視線を集める事になる。

「どうかしたのか?」

 尋ねたのはカーマイン。 リンジーはカーマインのその一言にうかれた。 他の令嬢達との差がまた開いたと考えたから、王族にと言うのは父の希望だったけれど、数分間の出来事のお陰で、見た目も美しい二人の男性、そして……自分だけが特別で……2人と共にいる自分。 3人目になった気がした。

「ぇ、その……ここでは話せない事なので……」

 口ごもった瞬間、これ見よがしに引いた事を後悔した。

 見舞いを行う際に、綿密に計画した。

 演じるのは可哀そうな私。
 でも、引いてはダメ。 そこで終わる。

 それが、今回決められたルールだったから。

 ほんの僅かながら、不穏とも言える空気がその場を支配しているのを見た、無関係者であるシルフィは撤退を考えた。 何時までも彼等と一緒にいては今日の仕事が終わらない。 これからマーティン殿下と一緒に政務について実技で学ぶ予定だったから。

「お忙しいようですので、失礼します。 今日はありがとうございました」

 そう去ろうとした瞬間、シルフィの身体が浮いた。 実際には持ち上げられたのだが、空中で足をバタバタとさせる。

「な、何?」

「王宮内で住んで勤めているなら、また会えるよな?」

「……ぇ、無理。 だって仕事で忙しいもの」

「なら、その仕事を手伝おう」

「手伝って貰う訳にはいかないわ。 だって私の仕事だもの。 ここにいて寝床とご飯と綺麗な服を貰う権利を奪わないで」

 そう言って怒り出されれば戸惑った。

「友達になろうと言っているんですよ」

 そう手助けしたのはシエルだった。

「ダメよ、私は忙しいんだから」

「友達なら手助けする事だって出来るぞ? そうやって手助けしあえる友達は居ないよりいる方がいいとは思わないか?」

「……それもそうね……、会えるとするなら……この時間? いつも王妃宮からマーティン殿下の宮に移動しているの。 ぁ、遅刻してる。 早くいかないと叱られちゃう……」

 落ち込めば、カーマインが笑った。

「早速、友人が役立ってやろう」

 その日、カーマインはシルフィをマーティンの元まで運んだ。 迷子になっているのを見つけたから連れて来たと言って。 怯えた女の子を虐めたりするなよ? と、念を押し。



 それが友人となったきっかけ。



 そんな様子を見ながら……シエルはリンジーに話しかけた。

「さっき、何を言おうとしていたのですか?」

「その……あの子と友達になると言うのは、殿下にとって余り良い事ではないと思って……」

「なぜ、そう思うんですか?」

「彼女は最近、令嬢達の間で噂になっているんです。 気狂いの子だって……一人で話をして、突然に踊り歌いだす。 近寄った者は不幸になると言う噂があるんです」

「まるで、物語のようですね」

 シエルは何でもない事のように笑って見せる。

「馬鹿にしてはいけないと思います。 無数の刃に襲われたような跡ができたり、目に見えない炎に巻かれ火傷したり、躓き上手く歩けなかったり、晴天なのに雨に降られたり……あの子は異常よ。 気狂い、いえ……狂気の子よ」

「そう……君は家族に差別を受けていると言う割に、なかなか積極的に話してくるね」

「そ、それは……辛い日常から抜け出したくって」

「ツライ思いをしていると言う割に、事実かどうか分からない噂で人を差別するのですね」

「あんなベールをかぶって顔を隠して、普通には見えないから仕方がないでしょう」

「手をね。 見せてくれる?」

「手ですか?」

 両手を差し出して見せた。 シエルはその手を取って、手のひらを指を絡め撫でて見せる。

 私の身愛相手はカーマイン様なのに……もしかして彼が私に興味を持って嫉妬しているのかしら? 王子よりも格は落ちるけど、彼の方が……。

「綺麗な手ですね。 爪も良く手入れされ、最近流行りのマニキュアって言うの? 小さなお洒落、私はとても魅力的だと思いますよ」

「ぇ、ぁ、その、ありがとうございます」

「だけど、貴族として言わせてもらうなら、もっと嘘は上手にしないと。 殿下は君が気に入ったから同伴をゆるしたんじゃなくて、あの子が気になって君の事はどうでもよくなっただけなんだから」



 リンジーはカーマインに別れを告げる事無く去っていったが、カーマインはそれを気にかける事は無かった。

 そしてリンジーは、誰も真実を知らない中。 初めてカーマインに気に入られた者として、話題の中心となり、未来の王子妃として美味しい思いをする事となる。 最終的には彼女は婚約者として発表される事なく上位爵位家に生まれた令嬢達からのいじめられる……はずだった。

 はず……もし、彼女が殺される事が無ければ……。

 王宮内でおこった殺人。

 それは解決する事なく終わりを迎えた。

 やがてベールの少女の噂は増える。
 彼女の素顔を見た者は死を迎える。
 呪われた少女に近寄ってはいけない。
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