偽りの婚姻

迷い人

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2章 薔薇乙女の乱

31.薔薇の狂気 後編

「何を考えている!!」

 ライオネル殿下がパーシヴァルを自身の執務室に呼び出し怒鳴りつけていた。 壁際には、飾り付けられた人形のように、若く身目の良い少年騎士が顔色悪く立ち並んでいる。

 噂になったパーシヴァルとライオネルの関係は、嘘で、誤解だと、王妃から納得を得ることができたが、ライオネルは男性の方が好きだと一部女性達の噂を都合よく解釈した者達によって、捧げられた餌である少年騎士達の存在は、悪趣味極まりない。

 護衛としての意味があるのか? 聞いてみたいところはあるが、今はそういう場合ではないらしい。 ライオネルの叫びが轟く。

「聞いているのか!!」

「聞いている。 王都防衛のために作られた軍が王都のために動く、そんな当たり前の行動に対して、何を怒ることがある?」

「適当に地位を与えられただけの奴らに何ができる。 死体を増やすだけだ」

「指揮ぐらいは、まともなのがつけてあるだろう。 こちらのやる事は全て気に入らない。 一切手出しするなと言ったのは向こうだ」

 ありがたいことに……。

 少し笑いながらパーシヴァルは続ける。

「それに、ウェイド侯爵が関わっている事は確かだろう。 なら、正面から行く限り滅多なことは出来ん。 なんとか地位を確保するための行動に出るはずだ。 だから死体はでんだろう」

「ウェイド侯爵が変わりなければそうも言えるでしょう。 数か月前に侯爵は死亡し新しい侯爵が立ちました。 終戦の時期と重なったことから正式な発表は、延期されていましたけれど、その場合はどう読みますか?」

 パーシヴァルは考える。

 シヴィは何と言っていた?

 当主と思われる男が、マノヴァ会頭を呼び出した。 今回の事を考えれば、精神的な暴走が激しい子供を封じるために賢者への渡りをつけた。 そう考えるのが順当だろう。 シヴィは、その子供とあっており、黄金の美しい髪と、赤い血のような唇が幼いながらも煽情的だった。 そう告げていた……。 ウェイド侯爵には何人か娘がいるが、溺愛しているなどと言う話は聞いたことが無い。 派閥、一族、金に汚い奴だとは聞くが……。

「侯爵家の跡継ぎは、男? 女?」

「前当主の息子ですよ」

 パーシヴァルに言われてはっとした顔をするライオネル。 そう言われれば顔を見た事も紹介を受けたことも無かったと……。 そして黙り込んだ。

 壁際に並ぶ、美しい少年騎士は花である。 だが……蜂でもある。 油断して愛でれば、彼等というか彼等の背後にいる者は攻撃してくるだろう。 ライオネルは、一応の用心をもって会話を変えた。

「庶民登用の一兵卒を4組(4組×5人)が、荷馬車に揺られて、制服着用し出向いていったと言う話ですよ。 彼等は何を調査しにいくかすら、わかってないでしょう。 それで、敵の本拠地かもしれない場所を調べさせるとはどういうことですか!」

「俺の指示じゃねぇよ」

「どうするのですか!」

 ライオネルに譲る様子は見られない。 他の部隊の責任まで取れるかとパーシヴァルの表情は語る。

「どうとは? むしろ現場の人間の方が良く動けるだろう? いい選択だと思うが? 俺も与えられた領地を納めなければいけませんのでね」

 足りない準備は、シヴィだけなんだよなぁ……そう苦笑した。

「この状況をどうするんですか?」

 しつこいなぁ……。

 だが、それも背後からの視線あってこそだろう。 子供の頃なら見逃しても貰えるだろうが、2人が仲良くすることで都合の悪い者も多いということだ。

「彼等が上手くまとめてくれますよ」

 パーシヴァルは肩を竦めて見せる。

「なら、見て見ぬふりをして逃げるのですか?」

「それは後味が悪い。 せめて薬ぐらいは処分していかないことには、大量の人工魔女が現れるなんてシャレにならない」

 少しパーシヴァルは考え込み、ライオネルに近づき耳元で囁く。

「魔女と賢者に渡りをつけられないのか?」

 ライオネルは、肩を竦めて見せた。

「アナタは国を守る仕事を与えられている。 アナタの仕事に手を抜かないでもらえますか?」

 嫌味たらしくライオネルは出ていけと、手で指し示した。




 パーシヴァルとて、何もしないつもりはなかったし、既に指示は出してある。

 それでも、何もせずに偉そうな名前だけの四方衛将軍達は、気に入らなかった。

 そもそも彼等の軍備を欠片も信用していない。 預かる騎士の多くは金を積み戦場を避けた者達で、将軍達は日ごろから個人的に金銭を受け取っているため、今回の騎士怪死事件に関して将軍達はピリピリしている。

 なら、なぜ自ら働こうとしたか?

 簡単である。

 何しろ、戦場から帰還した騎士達のせいで、防衛騎士達の立場が危ういものとなったからだ。 何もせず令嬢達と遊ぶばかりの防衛騎士達は、現在周囲からの評価が駄々下がり中。 四方衛騎士を解体し、戦場から戻った騎士で再編成するのが良いだろうという案も出ている。

 まぁ、王宮内の警備すら、民間登用の兵士達にさせているのだから、警備はザルだし……当然の提案だろう。

 華々しさは譲ろう。
 その分利用させてもらおう。

 彼等の配下が、隠れ家を調査し終えた後。 8人の人影が、シヴィが言っていたより小ぶりな建物へとやってきた。 パーシヴァルの配下にある記師2名と、護衛の騎士4名、魔導士2名である。

 記師は全てを記録する。

 そこに住んでいたものの、ドレスや靴のサイズ。 家の間取は当然、気になる壁の模様、グラスに皿の数、趣味、色。 調理場のゴミ。 騎士達は護衛をしつつも、花一つ咲いていない庭の土、薔薇も数本根ごと採集する。 魔導士もまた、屋敷内の魔道具の痕跡、薔薇の持つ魔力の痕跡などを調べていた。

 シヴィの言っていた死体はみられなかったが、薔薇を引き抜き、土を掘れば、簡単に子供の白骨死体が発見できた。 白骨の具合も記載すると同時に、彼等は土の状態から新しい死体が無い者かと探すが、ソレは見当たらなかった。

 それは明け方まで続いた。



 翌日、パーシヴァルが予想していた通り、薔薇の庭と小さな建物に火を投じられ、その足で四方衛将軍達は、ウェイド侯爵の屋敷へと乗り込む。 第一声を発する機会を彼等は失っていた。

 そこにあったのは、炎が上がる侯爵邸。

 炎を見ながら、最近新しく当主の座についた青年と、その母、そして使用人達は顔色悪く燃える邸宅を眺めていた。

「これは、どういうことだ……」

「妹が……別宅で病気療養をしていた妹が突然やってきたかと思ったら、突然に屋敷に火を放ったんです!!」

 若い当主は茫然としていた。

 柔らかなウェーブのかかった金色の髪に彩られた美しい顔立ちの青年は、王宮に参ずる令嬢達以上に華憐で頼りない表情を将軍達に見せ、艶めかしい唇で語りだす。

「当主交代したばかりで、右も左も分からないと言うのに……、私はどうすればよいのでしょう?」

 ボーゼンとした様子でツーと流れる涙が、やけに美しいと将軍達、そして騎士達は、新しい侯爵に見惚れていた。

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