私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人

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10.彼は突き放し、陥れ、そして甘く囁いた

 磨かれる技術。
 湧き上がるデザイン。
 積み重なる実績。

 そしてプライド。

 お客様の喜ぶ顔が嬉しかったと言えば聞こえがいいが、自分が評価され賞賛されることに快感すらおぼえていた。 だから私は、美しい存在を作るためのわき役でいい。 ソレが間違い等とは考えたこともなかった。

 自分を着飾る事も武器なのだと、私は初めて知る事となる。



 それは店を出る前……。



 私は、バラデュール伯爵にこういわれた。

「俺と歩くなら俺好みの恰好をしろ」

 まだ経験こそ浅いが私にも職人としてのプライドがある。 真向から自分の作品を否定されたと腹もたったが、手渡されたドレスを見て私はポソリとこういったのだ。

「ありがとうございます」

 渡されたドレスの包みには、妖精工房のマークが入っていたのだ。 製造者は15年前にフラワーズの称号を手にした方。 ご本人は背の高いすらりとカッコよい女性なのだけれど、作り出されるドレスは悪戯な妖精をモチーフとした大胆でありながら、何処までも愛らしい作品。

 初めての社交界に彼女のドレスを着る事が出来たなら、素敵な出会いがあると言うジンクスまであり、その予約は数年先まで埋まっている。

「初めて……本物を目にしました……」

 私の顧客は、貞淑を求められる年配のご婦人が多いため、所有する他のドレスを拝見させてもらっても、妖精工房の作品は目にすることは無かったのだ。

 露出の多い大胆さ。
 下品にならないギリギリのラインの露出。

 刺繍もレースも使わないその衣装の特徴は、半透明の布地をいかに美しく重ね合わせるか、ソレがリボンとなりレースとなり花となり蝶となる。 どこまでも甘い少女のためのデザイン。

 何時もは固く結ったピンクゴールドの髪だが、ドレスに合わせほどかれ緩いカーブを描き、衣装と同布で作られた花が飾り作られていた。 薄い化粧も施されている。




 オラール伯爵家。

 美しく着飾ったシシリーを前に、人々は息を飲む。

 いつも向けられる侮蔑的な視線が無いどころか、年若い侍女は羨望にも近い視線をシシリーに向け頬を染めていた。 ディディエ様に求められてずっと見下されていた私が……。

「シシリー、ご挨拶を」

 バラデュール伯爵に言われ、私は慌てて、未熟な動作でスカートを少しつまみあげ軽く頭を下げ、そしてトドメとばかりに幼さを表にだしたはにかんだ笑みをうかべる。 その動作の全てがバラデュール伯爵のプロデュース(様々な方法を用いて目的物の価値をあげること)によるもの。

『侮られないように毅然としようとする態度は可愛げが無い。 愛らしいオマエには甘い微笑みが似合う。 似合わない様子で、まだ年若く経験も浅いオマエが対等であろうとすれば、人は反発心を覚えるというものだ。 だから、幼く、甘えるように』

 そう言われて直ぐに出来る訳もなく、馬車のなかで苦労した……合格点がもらえなかったが不安定な頼りなさも、まぁ使えるかとなった。

 周囲から、ほぉ……と言う溜息とうっとりとした視線が向けられる。 そして、呟かれる言葉。

「なんて、愛らしいのでしょう」
「私が、守ってさしあげなければ」

 嘘のようだ……。
 信じられない。

 そう思った。

 何時もは、物乞いを見るような視線で嘲笑し、侮蔑の言葉を投げかけ、欠けたカップでお茶を出され、カビの生えた菓子を出された事すらあったのだ。

 馬鹿げていると思えば、表情が厳しくなる。 だけれど……ソレは自分に対する戒めでもある。 美と芸術を重んじる国だ、自分は脇役でいいなどと言い、黒子に徹すれば馬鹿にされるのも当たり前だったのだ……。

「シシリー!」

 諫める言葉に私はハッとし、頼りない視線でバラデュール伯爵を見上げる。

「ごめんなさい。 お兄さま」

 シュンとして見せる私に、優しい微笑みを向けるバラデュール伯爵。 この一連の動作だけで、私の持つ価値が増えるのだという。

「あぁ、分かればいい。 さぁ、早くサインをしなさい。 伯母上が……トゥルネン公爵夫人との約束に遅れてしまう」

 執事が、ディディエがミモザと共にミストラル公爵夫人の元に出向いていると、権威を振りかざしたように、バラデュール伯爵もまた同様の権威をこれ見よがしに見せつけ、シシリーの未来を守るための布石を打ち続ければ、新たなる価値が加算されていく。



 ソレは、執事にとって避けるべき事態であった。



 自らの立場をご理解していただく必要があるようですね……。 そう、執事は考えた。

「花嫁道具の全てを出せと旦那様に命じられておきながら未だそのようなドレスを持っているなど、アナタは旦那様をたばかり、王女殿下と張り合い、自分を美しく見せようとする。 なんと、あさましいくも醜い……。 唯一の美徳であると認めていた庶民らしい無垢さも、純粋さも偽りと言うことですな」

 執事が威圧的に声を大きく嫌味を言えば、シシリーはキョトンとした顔をした。 そうしろと言われていたのではなく、何を言っていたのか理解できなかったのだ。

「……あの……何をおっしゃっているのでしょうか?」

「人の言葉も分からぬと、なんとも情けない」

「いえ、執事さんが私のこの恰好が気に入らないと感じ、それに対して失望したと言うことまではわかります……」

「違いますよ。 私はもっと現実的な事を言っているのです。 王女殿下に全てを差し出すようにといわれ、欲深く金銭を請求しながら、そのように自分を飾り付けるものを、まだ隠し持っていたと言う行為が卑怯であり、この契約に違反しているのでは? と言っているのです。 嘘が、見つかった以上、対価を支払う事はできませんな」

 うわぁ……凄い無理やりなこじつけだなぁ……。 私はバラデュール伯爵をチラリとみれば。

「気にしなくてもいい。 貴族階級の者が格下のものに使う手段の一つだ。 臆さず冷静に対応すれば問題にもならない。 話は俺がするから、シシリーはサインをすませてしまいなさい」

「はい、お兄さま」

「アナタには関係ない事ですよ」

「オマエよりは関係あるさ、このドレスは彼女が特殊爵位を得た祝いに俺が、作らせたもので、差し出せと言われた婚礼道具とは全く関係がない。 これが第一点」

 執事はバラデュール伯爵を無視して私に対して声を荒げた。

「婚姻を前に、旦那様以外の男性から衣装を受け取るなど、尻軽にもほどがありますぞ」

 バラデュール伯爵は苦笑交え、執事に一歩近づき勝手に話つづける。

「俺も、幼馴染が幸福であれば、このドレスを贈るつもりはなかったさ。 だが、婚姻のための準備をすべて失った可哀そうな幼馴染のために何かをしてやりたい。 そう思うのは悪いことかね? これが第二点 幼馴染の幸福は未来の妻より優先されるのだろう? ソレが三点目だ」

「アナタには聞いておりません!! コレは、オラール伯爵家の問題でございます。 オラール伯爵家に嫁ぐと言うなら、コチラのルールに従ってもらう必要があると言っているのですよ。 旦那様の幼馴染は王女殿下、この娘は庶民、どのようにすれば同じ価値で物を語る事ができましょうか?」

「なるほど……オラール伯爵家のルールはしかと拝聴した。 オラール伯爵家では、王女殿下にドレスを買い与えても、妻となる女性にドレス一つ仕立てることは無いと言う事ですな。 可哀そうなシシリー。 俺の可愛い幼馴染」

 バラデュール伯爵は、いやらしい笑みを浮かべ指を四本たてた。

「オラール伯爵夫人として、自分のブランドを宣伝できる機会を奪うなど、彼女のためになりませんからね」

「なるほど……。 アナタ方は、女性と言う者を理解していない。 侮辱し、馬鹿にし、全てを奪っても庶民なら平気だと思っている。 これは……大問題だ」

 ガラリとバラデュール伯爵は口調を変えた。

「はぁ?」

「分かりませんか?」

「何をおっしゃっているのですか?」

「実力で爵位を得る行動力のある庶民の娘が、夫となるべき男に全てを捧げようと決意した日に、愛情を簒奪され、花嫁衣裳が奪われた。 これは社交の場では長く笑いものとされるでしょう。 貴族を相手に商売をしている彼女は、顔に泥を塗られたも当然、あとがないのですよ」

 実際には愛憎渦巻いてもいなければ、バラデュール伯爵はシシリーが笑いものになるような状況を許すつもりもない。

「所詮が庶民の娘。 今までが過ぎた贅沢だったんですよ」

 バラデュール伯爵は悪魔のように執事にシシリーの脅威を話し続けた。

「えぇ、今までの彼女は終わりを迎えた。 そういう事なんです。 オラール伯爵とミモザ王女殿下によって終わりをもたらされたのですよ」

 はっとした。

 傷ついて、大人しく泣き濡れるような娘が爵位を手にできるのか? と、バラデュール伯爵が言っているのだと執事はようやく気付いたのだ。

「旦那さまは、今も彼女を妻として求めており、あくまでも王女殿下は幼馴染として庇護されているだけでございます」

「今更、そんな風に手のひらを翻してどうなる。 オラール伯爵家は王女殿下が大切だ、それは優先されて当然であり、庶民は大人しく礎となれと言ったばかだろうが」

「そこまでは……」

「オマエ達は、貴族社会の多くの支援者を持つ彼女を、王女殿下を守り切れるのか?」

 ニヤニヤとした様子で囁く。

「……それは……当然のことでしょう。 貴族社会で王女殿下に逆らうものなど居ようはずがありません」

 自信満々な態度を見れば、彼は真実そう思っているのだと知った。 なるほどとバラデュール伯爵は新たな手札を出す。

「彼女の父はこの国有数の商人、他国とも外交を持つ、人を雇うことも自由だぞ?」

 執事の顔色が泥色へと変化する。

「……」

「俺が、あの娘が王女殿下を傷つけぬよう、余計な発言をせぬよう管理してやってもいいんだが?」

「そ、それは、本当でございますか!!」

「あぁ、本当だ。 アレは俺の幼馴染だ。 俺がシシリーを連れまわしたとしても、オラール伯爵が幼馴染を保護しているのと同じだ。 なら俺がアレを保護と言う名目で監視しても誰もオカシイと思うことはないだろう。 俺はオラール伯爵と王女殿下の仲を応援しているオマエと同じだ」

 執事が縋るようにバラデュール伯爵を見つめた。

「俺達は仲間なんだ」

 ボソリとバラデュール伯爵は今までの威圧的な態度とは打って変わって、優しい声で執事に甘く囁いた。

「シシリーには絶対に邪魔をさせない。 俺を信じろ」

 執事は、既に理解が追い付かなくなっており、



 そして、ユックリと頷いた。

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