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03.快楽都市『デショワ』
12.想定内の嫌がらせに安堵していた結果……
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私が執事の言葉を無視し足を進めれば、開け放たれた隣の応接室から豪華な服を着た貴族男性が数名こちらを見ていた。
客人の来訪は伝えられていない。
マロリーや執事に都合の良い証人と言うところだろう。 私は客人に頭を下げ、声をかける事も無く、扉の前を通り過ぎれば、礼儀知らずだどうだと声が上がっていた。
「お嬢様!! マロリー様の気まぐれは何時もの事、若様がお戻りになると言うのに、短慮はおやめください。 どれだけ、若様がお嬢様との再会をお望みになっていたか……」
涙ながらに執事が叫べば、マロリーが執事にしがみつき涙を流し叫んだ。
「あのように次期当主であるユーグを蔑ろにするような女をなぜ引き留めるのですか!!この5年、公爵家を支えたのは誰か忘れたのですか!! 次期当主であるユーグの母である私と、ダンベール公爵家とはなんの関係もない娘、貴方はどちらの味方をするのかはっきりしてくださいませ!!」
縋られた執事は、迷惑顔どころかその背に手を回していたのだから、 一応、彼も既婚者であり、私は彼の妻を哀れだと思いながら、溜息をつき……その場を去った。
茶番だ……。
訳知り顔の使用人達は、侮蔑の視線を私に向けてくる。
こういう時、私を慰めてくれる。 私の唯一の味方であるケヴィンは留守にしている。 ソレを見計らっての行動だろう。
私は、ミリヤ様の祖父であり、コルベール侯爵家当主代理を務めているエヴラール様との間に定期的に連絡を交わしているのは周知の事実。 周知にしているからこそ、その連絡役は信頼できるものでなければならない。
今回のマロリーの発言、これは予定していたものだ。 公爵家としての社交費を止めたが、マロリーは貴族からの招待を断る事は無かったし、戦争への支援は無くとも、マロリーへの支援を積極的に行う貴族はいたからだ。
戦争と言う危機が去れば、私への攻撃は顕著となる事は想像できる。 それをムキになって耐える事は無い。 私は、着の身着のまま、このまま玄関を抜け、馬房へと向かい、エヴラール様の元に身を寄せようと考えていた。
耐える必要なんて、感じない。
戦中、公爵家の存亡にかかわる有事において、公爵家の屋敷に務める者達は、私が当主代理を行う事を支えてくれた。
だが、実際には、
公爵家の使用人達の全てはマロリーによって掌握されている。
前公爵ブレソールと出会う以前、踊り子であったマロリーは性に奔放な人だったと言う。 いや、ミリヤ様の祖父エヴラール様が言うには、
「ブレソール殿は性的欲求が強く、公爵と言う立場になければ大きな問題となっていた奴じゃった。 ソレを受け止め、他の貴婦人とのお遊びを止めさせたほどの女。 気に入らぬだろうが、ユーグの母である事も事実。 見て見ぬふりをするのじゃ」
と言う感じに言われ、ブレソールが亡くなってからの5年間。 マロリーは相手を選ばず場所を選ばず、屋敷内で、私の目につく場所であっても発情し続けたのを私は見て見ぬふりをしてきた。
そして、マロリーの厄介なところは……いえ、誰かが助言していたのかもしれませんが、女性の使用人も掌握したことだ。
ユーグは戦場に出る前、
「ダンベール公爵家は、この戦争を終えるまでは公爵家にあって公爵家にあらず。 率先し、贅沢を控え、節制をせよ!!」
そう命じた。 私はそれに従いダンベール公爵家の支配下にある者達に節制を強いたのだけど、公爵家の威光を捨てられぬものが多かったのだ。
そして、ソレを補ったのがマロリーだった。 14年に渡る贅沢な愛妾生活で得た、贅沢品の数々を売却し公爵家の維持運営に使用したのだ。
この時点で、公爵家内における私の本当の味方は、ケヴィンしか居なかった。
ユーグからの手紙に対しての執事の叫び。
あれもまた、来客に印象付けるためのものなのは確かだろう。
手紙と言っても基本的には、軍事報告のようなもの……ソレが私の元に届くころには、微かだが開封の後が見られた。 だから、機密性、重要度の高い手紙は、サシャからエヴラール様の元に届き、ケヴィンが直接受け渡しする事となっていた。
そして、ユーグから私に届く手紙と言えば、重要度の低い情報と個人的な内容。
『会いたい』
『声を聞きたい』
『ラシェルを抱きしめたい』
から、少しずつ少しずつ性的な内容が含まれるようになってきていた。 ダミーとは言え、当初は業務連絡をもって返事は返していた。 が、どんどん度が過ぎる。
『官能小説を送ってくるなと伝えろ!!』
苦情をサシャの方に送ったほどだ。
だけど返事は想定外のものだった。
戦場の凄惨で凄まじい様子が寄越され、ユーグの精神がギリギリのラインで保っている事が記された。 手紙程度で耐える事ができるのだから、黙って受け取って欲しいと……。
ソレを見た時、ある意味絶望しましたね……。 手紙を先に開いて見ている人に対するブラフだと思っていたので……。
丁度、その頃……マロリーが所かまわず屋敷内で発情していて、マロリーと容姿の似ているユーグからのセクシャル的な手紙は、私にとって苦痛でしか無かった訳ですから。
そして、
追記と書かれて小さな文字で書かれていた。
『あと、ラシェル様の匂いのついた下着でも送ってくれれば、色々とはかどると思うんです』
その手紙は焼却処分した。
そして、私はユーグからの手紙を一切読まなくなった訳だ。
その経緯を戦時中に限り臨時として当主代行を務めていたエヴラール様に相談した結果。 私はエヴラール様から、香水を1つプレゼントしていただく事となった……。
「戦場での精神的なケアをお任せいただけるなら、私の方で手配させていただきますが、いかがいたしましょうか?」
そう言ってもらえたので、私はエヴラール様に色々と丸投げした。
「香水ですが、治癒用の繍呪布(私の魔力をしみこませ、術式を紋章化し刺繍する事で魔法を使う事が出来る布地)を、若様にお送りになる際に一振りされるといいでしょう。 精神的に安定するような香りのものを準備いたしますので」
と、助言までいただき……一応、手紙は総スルーしていたものの、ユーグ自体を無視していた訳ではない……。
まぁ、勘違いしてくれていたなら、誤解を受けてくれたなら、ソレはソレでいい。
そんな事を考えながら、馬に乗り公爵家を後にしようとしていた私は……後ろから殴られた。 次に目を覚ました時には、鉄格子付きの馬車に揺られていた。
客人の来訪は伝えられていない。
マロリーや執事に都合の良い証人と言うところだろう。 私は客人に頭を下げ、声をかける事も無く、扉の前を通り過ぎれば、礼儀知らずだどうだと声が上がっていた。
「お嬢様!! マロリー様の気まぐれは何時もの事、若様がお戻りになると言うのに、短慮はおやめください。 どれだけ、若様がお嬢様との再会をお望みになっていたか……」
涙ながらに執事が叫べば、マロリーが執事にしがみつき涙を流し叫んだ。
「あのように次期当主であるユーグを蔑ろにするような女をなぜ引き留めるのですか!!この5年、公爵家を支えたのは誰か忘れたのですか!! 次期当主であるユーグの母である私と、ダンベール公爵家とはなんの関係もない娘、貴方はどちらの味方をするのかはっきりしてくださいませ!!」
縋られた執事は、迷惑顔どころかその背に手を回していたのだから、 一応、彼も既婚者であり、私は彼の妻を哀れだと思いながら、溜息をつき……その場を去った。
茶番だ……。
訳知り顔の使用人達は、侮蔑の視線を私に向けてくる。
こういう時、私を慰めてくれる。 私の唯一の味方であるケヴィンは留守にしている。 ソレを見計らっての行動だろう。
私は、ミリヤ様の祖父であり、コルベール侯爵家当主代理を務めているエヴラール様との間に定期的に連絡を交わしているのは周知の事実。 周知にしているからこそ、その連絡役は信頼できるものでなければならない。
今回のマロリーの発言、これは予定していたものだ。 公爵家としての社交費を止めたが、マロリーは貴族からの招待を断る事は無かったし、戦争への支援は無くとも、マロリーへの支援を積極的に行う貴族はいたからだ。
戦争と言う危機が去れば、私への攻撃は顕著となる事は想像できる。 それをムキになって耐える事は無い。 私は、着の身着のまま、このまま玄関を抜け、馬房へと向かい、エヴラール様の元に身を寄せようと考えていた。
耐える必要なんて、感じない。
戦中、公爵家の存亡にかかわる有事において、公爵家の屋敷に務める者達は、私が当主代理を行う事を支えてくれた。
だが、実際には、
公爵家の使用人達の全てはマロリーによって掌握されている。
前公爵ブレソールと出会う以前、踊り子であったマロリーは性に奔放な人だったと言う。 いや、ミリヤ様の祖父エヴラール様が言うには、
「ブレソール殿は性的欲求が強く、公爵と言う立場になければ大きな問題となっていた奴じゃった。 ソレを受け止め、他の貴婦人とのお遊びを止めさせたほどの女。 気に入らぬだろうが、ユーグの母である事も事実。 見て見ぬふりをするのじゃ」
と言う感じに言われ、ブレソールが亡くなってからの5年間。 マロリーは相手を選ばず場所を選ばず、屋敷内で、私の目につく場所であっても発情し続けたのを私は見て見ぬふりをしてきた。
そして、マロリーの厄介なところは……いえ、誰かが助言していたのかもしれませんが、女性の使用人も掌握したことだ。
ユーグは戦場に出る前、
「ダンベール公爵家は、この戦争を終えるまでは公爵家にあって公爵家にあらず。 率先し、贅沢を控え、節制をせよ!!」
そう命じた。 私はそれに従いダンベール公爵家の支配下にある者達に節制を強いたのだけど、公爵家の威光を捨てられぬものが多かったのだ。
そして、ソレを補ったのがマロリーだった。 14年に渡る贅沢な愛妾生活で得た、贅沢品の数々を売却し公爵家の維持運営に使用したのだ。
この時点で、公爵家内における私の本当の味方は、ケヴィンしか居なかった。
ユーグからの手紙に対しての執事の叫び。
あれもまた、来客に印象付けるためのものなのは確かだろう。
手紙と言っても基本的には、軍事報告のようなもの……ソレが私の元に届くころには、微かだが開封の後が見られた。 だから、機密性、重要度の高い手紙は、サシャからエヴラール様の元に届き、ケヴィンが直接受け渡しする事となっていた。
そして、ユーグから私に届く手紙と言えば、重要度の低い情報と個人的な内容。
『会いたい』
『声を聞きたい』
『ラシェルを抱きしめたい』
から、少しずつ少しずつ性的な内容が含まれるようになってきていた。 ダミーとは言え、当初は業務連絡をもって返事は返していた。 が、どんどん度が過ぎる。
『官能小説を送ってくるなと伝えろ!!』
苦情をサシャの方に送ったほどだ。
だけど返事は想定外のものだった。
戦場の凄惨で凄まじい様子が寄越され、ユーグの精神がギリギリのラインで保っている事が記された。 手紙程度で耐える事ができるのだから、黙って受け取って欲しいと……。
ソレを見た時、ある意味絶望しましたね……。 手紙を先に開いて見ている人に対するブラフだと思っていたので……。
丁度、その頃……マロリーが所かまわず屋敷内で発情していて、マロリーと容姿の似ているユーグからのセクシャル的な手紙は、私にとって苦痛でしか無かった訳ですから。
そして、
追記と書かれて小さな文字で書かれていた。
『あと、ラシェル様の匂いのついた下着でも送ってくれれば、色々とはかどると思うんです』
その手紙は焼却処分した。
そして、私はユーグからの手紙を一切読まなくなった訳だ。
その経緯を戦時中に限り臨時として当主代行を務めていたエヴラール様に相談した結果。 私はエヴラール様から、香水を1つプレゼントしていただく事となった……。
「戦場での精神的なケアをお任せいただけるなら、私の方で手配させていただきますが、いかがいたしましょうか?」
そう言ってもらえたので、私はエヴラール様に色々と丸投げした。
「香水ですが、治癒用の繍呪布(私の魔力をしみこませ、術式を紋章化し刺繍する事で魔法を使う事が出来る布地)を、若様にお送りになる際に一振りされるといいでしょう。 精神的に安定するような香りのものを準備いたしますので」
と、助言までいただき……一応、手紙は総スルーしていたものの、ユーグ自体を無視していた訳ではない……。
まぁ、勘違いしてくれていたなら、誤解を受けてくれたなら、ソレはソレでいい。
そんな事を考えながら、馬に乗り公爵家を後にしようとしていた私は……後ろから殴られた。 次に目を覚ました時には、鉄格子付きの馬車に揺られていた。
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