【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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03.快楽都市『デショワ』

20.加護と呪い 02

 ラシェルの叫びに、黒豹となってしまった黒髪の男はビクッと動きを止め飛びのいた。

 怖がられたくない。
 嫌われたくない。

 強い思いが黒豹となった……ユーグの胸のうちに広がり……自分を恐れるラシェルに怯えた。

 ラシェルが這うように逃げ出せば、シュンッと落ち込んだ黒豹は動かない。 動けなかったと言う方が正しいだろうか?



 反して、茶髪の男の動きは速い。
 全力の速さでラシェルを掴み、抱きすくめた。

 様子がオカシかったから。
 そんな状況をずっと見てきたから。



 ダンベール一族に属する者の多くは、諜報、暗殺に特化しており、正面から戦をするのに向かない者が多い。 そんな中でも大将として指揮を執っていたユーグの開戦当初となれば、戦うには手足が短く、ソレを補うために槍を持てば筋力が足りないのだから、戦場に出られる訳もない。

「お荷物……」
「ラシェル殿の方が余程、使い物になっただろうに」

 そんな声は少なくなかった。

 ユーグ本人が未熟であるのも理由だが、先代であるユーグの父ブレソールの作り出した汚名が大き過ぎ、一族の者であっても良い風に見ない者は多かった。 そして、存在しない信頼関係を覆すほどの戦場での知識もないのだから、どうしてよい結果が出せるだろうか?

 私兵を出してくれた貴族も、ミリヤの祖父エヴラール・コンベール元侯爵に助力を願われてであり、戦場に追従しても協力的とまでは言えなかった。

 挙句、もの知らぬユーグを支配するように、同行してきた神官達は彼等の価値観による清く正しい戦争を求めた。 そんな様々なものに囚われた戦など勝てるはずもなく、ただ一方的に追い詰められただけ……。



 だが、神は慈悲深い。
 そして、時に気まぐれ。
 何よりも、残酷だった。

 月のない夜に、陣営を囲む敵兵。
 絶体絶命を前に、神はユーグに語り掛けた。



 力が欲しいか?



 全滅の危機を前に加護を差し出されれば誰だって手にするだろう。 例えそれがどのような神であっても。

 加護『死神』

 暴走ともいえる加護の発動により敵軍は一瞬にして壊滅状態となった。 だが、次の瞬間ユーグは獣の姿に堕ち、そのまま正気を失ったユーグは一族の者の命を奪い、その血を貪り、やがて正気に戻った。

 対価は、それ1度で消化される事は無かった。



 この程度では足りぬ。
 もっと、楽しませよ。
 力を貸し与えた分だけ、多くの嘆きと苦しみを捧げよ。



 対価の分割払いを許されたのは、幸運か不幸か?

 加護の対価が、情を交わした者の体液だと言う事は、追従した神官によって分かったが、身近な人間を貪り食らったショックは大きく……そして贄として差し出されたものを拒否れば、獣に堕ちて、自ら人を貪り食らった。

 ここで使ったのが対価の曲解だった。

 情を交わす = 行為を交わした者の体液を得る。

 ようするに常に幾人かとの情事を強要され、正気を失う前にその相手と関係性を持つ事で人の姿を取り戻していた。

 情を交わす。
 人を思い、人に思われる。
 気持ちが無ければ、効果が薄い。

 神が曲解を許したのは、その状況を神が楽しんだから。

 せめて、ユーグの方か、相手の方のどちらかに情があればいいのだが、そう上手くいくハズもなく……結果として、相手をする女性側に薬を使い、疑似的な恋愛状態に落とす方法を取られた。

 そんな状況の全てを見守り、嘆くユーグを慰め、嫌がり暴れる女性に薬を盛り捕らえ生贄として準備していたのが、サージュ……幼少時の呼び名サシャであった。





 今、甘く見ていた事をサージュは後悔した。

 ずっと主ユーグが愛していた相手だから……。

 現実に獣に変化するまでにかかった時間は長く、今も正気を保っている事を考えれば、相手がラシェルである事の意味は大きいのだろう。

 サージュはユーグ側からしか物を考えていなかった事を後悔し、そして……外に向かい走り出そうとしていたラシェルをサージュは捕らえた。 そのまま走り手すりを乗り越えてしまっては落下である。 治癒の加護を持つラシェルであれば死ぬことはないだろうが、ユーグの心にまたどれほどの傷を残すだろうかと思えば自然と怒鳴っていた。

「ここは2階ですよ!! な、にをするんですか!!」

「こ、わいよぉ……」

 涙に濡れた顔は恐怖で歪み、ソレは今まで見た女性達となんら変わりなかった。 だが……未だ正気を手放せていないユーグの方は、ショックを明らかにしていた。

「べつの、人間を……用意してくれ……」

「無理ですよ。 情の無い相手では逆に対価が増すだけです」

 そう言って右手で怯えるラシェルを抱えながら、左腕を差し出した。

「とっとと噛みついて下さい。 正気を失ってしまえば、こっちの命が危なくなるんですから、遠慮は不要です」

 現状、最も少ない血肉で効率よく呪いからユーグを解放される事ができるのがサージュだった。 深い溜息と共に、ユーグがサージュの腕に噛みつこうとした。

「ぇ?」

 ラシェルの目に焦りが宿った。

 恐怖から正気へと色を変え、衝動的に不意打ち的にサージュの腕から逃れ、今まさに噛みつこうとしていたユーグに抱き着いた。

「噛みつくのは痛いし、良くないと思います!!」

「これは仕方のない事なんですよ。 彼は桁外れの力を神から借り受けた。 その対価の支払いを促されている。 払いを拒めば……どうなるか想像つく世界で生きてきましたよね?」

 正気を失い逃げようとしたラシェルへ向けられるサージュの視線は冷たい。

「対価は、血、肉?」

「情を持ち、持たれた相手の体液です」

「……」

「変な事は考えないで下さいよ」

「変な? とは?」

「……」

「いえ、体液なら涙でもいけるのかなって……玉ねぎ、そうだ玉ねぎを貰ってきます!!」

 抱きしめていた黒豹の首元から手を離し、全裸のままで部屋の外へ向かおうとするラシェルの顔面をベロリと黒豹が舐めた。

「へっ?」

 怖いと泣いて暴れて2階から飛び降りようとしたラシェルの顔面は、涙と鼻水でぐじゅぐじゅで……。 それがザラリとした舌でなめとられ、ラシェルはきょとんとした顔で停止し黒豹に顔面を舐められまくった。

「で、どうです?」

 聞いたのはサージュ。

「人に戻るほどではないが、正気を保てるほどの利子ぐらいにはなっている」

「とは言え……利子程度では、長くは持ちませんよね……。 申し訳ございませんラシェル。 少し眠っていてもらえますか? その間に、事は済ませますから」

「ぇっと……ソレは、どういう……?」

 狼狽えるラシェルの瞳には、再び涙は溢れ出て、ソレを見たユーグとサージュはなんだか……久々に笑った気がした。

「知らなかった。 こんなに泣き虫だったんだな」

 そう笑ったように言いながら、黒豹は零れ落ちる涙を舐める。

「散々、人に泣き虫だと言っていたのにねぇ」

 サージュもまた笑う。

「失礼しますね」

 ラシェルの身体が軽く抱き上げられ、ベッドの上に下ろされた。

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