【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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04.裏切者たちの叫び

38.それも多分、愛情

 信頼していた人達が、私を騙し、罠を張っていた事に精神的な消耗を強いられていた私にとって、正体を隠していたユーグが私を抱いた事など、些末な事に思えた。

 いえ、それよりも気になる事はある。

 頭の中がぐるぐるとし、自然と溜息が零れていたらしく、

「あの……ラシェル様? 大丈夫ですか?」

 メイリーが心配そうな顔で、私の方を見ている。 彼女にとって私が聞いた事実は周知の事なのか? それとも些細な事なのか? 理解していないのか? 公爵であるユーグが騙されていたと言う事は、戦場で背を預け、命を預けていた者達が敵であったと言うことなのに、メイリーは私の顔色をうかがいおろおろしていた。

「お茶のお代わりを貰える?」

 誤魔化し笑みを向ける。

 色々とショックだけれど、感情がついてこなかった。 そんな私を金色の瞳をした獣が寄り添いながら、もの言いたげにジッと見つめてくる。

「何?」

「泣くんなら、胸位貸すぞ?」

 拗ねたような声に聞こえ、その首元を撫でながら身を任せる。

「それは、とても素敵な提案ね」

 私はふざけて見せるが、どうにも声には力が入らなかった。

「ラシェルは、ケヴィンが好きだったからな……。 ショックなのも無理はない」

「仕方ないじゃない。 初めて、私のために叱ってくれて、生きる術を教えてくれて、守ってくれたんだから、そんな年上の異性がいたら惚れるでしょ? でも、まぁ、平気ですよ」

 もし、ケヴィンが私を振っていなければ、彼の言葉に傷ついていなければ、ユーグと身体の関係に至っていなければ、自分を助けるためにユーグを必要としていなければ、きっと凄く落ち込んでいたと思う……。

 黒い毛並みに寄り添えば、なんとなく居心地悪そうにしながらもユーグは尻尾で肩を抱いてきて、私は……笑えた。

「それよりも、カリナ、行儀が悪い」

「へっ?」

 突然に会話を振られたカリナは、ギクンと姿勢を正した。 皿についたタレを行儀悪く舐めようとしていたところへの攻撃だったから。

「サージュ、彼女達は大丈夫なの?」

「えぇ、余り大勢を信頼している方ではありませんから。 それに、敵はドサクサに紛れて、主が処分しています。 信頼できるものを食らえば贄になりますが、敵を食らえば毒になります。 どさくさに紛れて処分するにはちょうど良かった」

 馬鹿なの? と、身を寄せる黒い獣の首元に抱き着き顔を埋めた。 幼かった彼が、何をさせられてきたのか……ソレを考えれば、失恋なんて割とどうでも良くなってしまう。

「する?」

「なぜ? 急に!! そうなる訳?!」

「傷をなめ合おう的な?」

「なんか、そういうのは嫌だ!!」

 記憶にある声よりもずっと低く落ち着いているのに、それでも焦る様子は変わりがなくて私は笑ってしまう。

「なんだか、生きるってままならないものねぇ~」

 身体を預けたまま、空を見上げた。

「そこ、ご飯にタレをかけて食べない」

「ぇ? ぁ……いえ……その、もの凄く気負ってきたので……、ご飯を食べていなかったの……。 それが、その……この匂いが悪いのよ!!」

「随分と本能に忠実な人ね」

「でなければ、こんなところまで押しかけてこないでしょう。 それより、今後継続的に交代で贄役を担っていた者達の手足に不自由が出ているので、治していただけませんか?」

「もちろんよ……」

 ようするにスパイとして送られてきた娼婦達は、いくら甘やかそうと敵は敵で贄の対価にはなっていなかった。 なっていなかったが、信頼をしているふりが必要だから、娼婦達を抱く裏で贄を食らう必要がある。

 本当、ままならない……。

 頭の中がぐるぐるする……。

 不思議な事にケヴィンに裏切られた事が理由ではなく、5年の間ユーグがどう過ごしていたかを考えると胸が痛んだ。 それは余りにも身勝手な思い……。 だから声には出さず、ただ私は獣の姿を取り続けるユーグの毛並みを撫で寄り添った。

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