38 / 50
04.裏切者たちの叫び
38.それも多分、愛情
しおりを挟む
信頼していた人達が、私を騙し、罠を張っていた事に精神的な消耗を強いられていた私にとって、正体を隠していたユーグが私を抱いた事など、些末な事に思えた。
いえ、それよりも気になる事はある。
頭の中がぐるぐるとし、自然と溜息が零れていたらしく、
「あの……ラシェル様? 大丈夫ですか?」
メイリーが心配そうな顔で、私の方を見ている。 彼女にとって私が聞いた事実は周知の事なのか? それとも些細な事なのか? 理解していないのか? 公爵であるユーグが騙されていたと言う事は、戦場で背を預け、命を預けていた者達が敵であったと言うことなのに、メイリーは私の顔色をうかがいおろおろしていた。
「お茶のお代わりを貰える?」
誤魔化し笑みを向ける。
色々とショックだけれど、感情がついてこなかった。 そんな私を金色の瞳をした獣が寄り添いながら、もの言いたげにジッと見つめてくる。
「何?」
「泣くんなら、胸位貸すぞ?」
拗ねたような声に聞こえ、その首元を撫でながら身を任せる。
「それは、とても素敵な提案ね」
私はふざけて見せるが、どうにも声には力が入らなかった。
「ラシェルは、ケヴィンが好きだったからな……。 ショックなのも無理はない」
「仕方ないじゃない。 初めて、私のために叱ってくれて、生きる術を教えてくれて、守ってくれたんだから、そんな年上の異性がいたら惚れるでしょ? でも、まぁ、平気ですよ」
もし、ケヴィンが私を振っていなければ、彼の言葉に傷ついていなければ、ユーグと身体の関係に至っていなければ、自分を助けるためにユーグを必要としていなければ、きっと凄く落ち込んでいたと思う……。
黒い毛並みに寄り添えば、なんとなく居心地悪そうにしながらもユーグは尻尾で肩を抱いてきて、私は……笑えた。
「それよりも、カリナ、行儀が悪い」
「へっ?」
突然に会話を振られたカリナは、ギクンと姿勢を正した。 皿についたタレを行儀悪く舐めようとしていたところへの攻撃だったから。
「サージュ、彼女達は大丈夫なの?」
「えぇ、余り大勢を信頼している方ではありませんから。 それに、敵はドサクサに紛れて、主が処分しています。 信頼できるものを食らえば贄になりますが、敵を食らえば毒になります。 どさくさに紛れて処分するにはちょうど良かった」
馬鹿なの? と、身を寄せる黒い獣の首元に抱き着き顔を埋めた。 幼かった彼が、何をさせられてきたのか……ソレを考えれば、失恋なんて割とどうでも良くなってしまう。
「する?」
「なぜ? 急に!! そうなる訳?!」
「傷をなめ合おう的な?」
「なんか、そういうのは嫌だ!!」
記憶にある声よりもずっと低く落ち着いているのに、それでも焦る様子は変わりがなくて私は笑ってしまう。
「なんだか、生きるってままならないものねぇ~」
身体を預けたまま、空を見上げた。
「そこ、ご飯にタレをかけて食べない」
「ぇ? ぁ……いえ……その、もの凄く気負ってきたので……、ご飯を食べていなかったの……。 それが、その……この匂いが悪いのよ!!」
「随分と本能に忠実な人ね」
「でなければ、こんなところまで押しかけてこないでしょう。 それより、今後継続的に交代で贄役を担っていた者達の手足に不自由が出ているので、治していただけませんか?」
「もちろんよ……」
ようするにスパイとして送られてきた娼婦達は、いくら甘やかそうと敵は敵で贄の対価にはなっていなかった。 なっていなかったが、信頼をしているふりが必要だから、娼婦達を抱く裏で贄を食らう必要がある。
本当、ままならない……。
頭の中がぐるぐるする……。
不思議な事にケヴィンに裏切られた事が理由ではなく、5年の間ユーグがどう過ごしていたかを考えると胸が痛んだ。 それは余りにも身勝手な思い……。 だから声には出さず、ただ私は獣の姿を取り続けるユーグの毛並みを撫で寄り添った。
いえ、それよりも気になる事はある。
頭の中がぐるぐるとし、自然と溜息が零れていたらしく、
「あの……ラシェル様? 大丈夫ですか?」
メイリーが心配そうな顔で、私の方を見ている。 彼女にとって私が聞いた事実は周知の事なのか? それとも些細な事なのか? 理解していないのか? 公爵であるユーグが騙されていたと言う事は、戦場で背を預け、命を預けていた者達が敵であったと言うことなのに、メイリーは私の顔色をうかがいおろおろしていた。
「お茶のお代わりを貰える?」
誤魔化し笑みを向ける。
色々とショックだけれど、感情がついてこなかった。 そんな私を金色の瞳をした獣が寄り添いながら、もの言いたげにジッと見つめてくる。
「何?」
「泣くんなら、胸位貸すぞ?」
拗ねたような声に聞こえ、その首元を撫でながら身を任せる。
「それは、とても素敵な提案ね」
私はふざけて見せるが、どうにも声には力が入らなかった。
「ラシェルは、ケヴィンが好きだったからな……。 ショックなのも無理はない」
「仕方ないじゃない。 初めて、私のために叱ってくれて、生きる術を教えてくれて、守ってくれたんだから、そんな年上の異性がいたら惚れるでしょ? でも、まぁ、平気ですよ」
もし、ケヴィンが私を振っていなければ、彼の言葉に傷ついていなければ、ユーグと身体の関係に至っていなければ、自分を助けるためにユーグを必要としていなければ、きっと凄く落ち込んでいたと思う……。
黒い毛並みに寄り添えば、なんとなく居心地悪そうにしながらもユーグは尻尾で肩を抱いてきて、私は……笑えた。
「それよりも、カリナ、行儀が悪い」
「へっ?」
突然に会話を振られたカリナは、ギクンと姿勢を正した。 皿についたタレを行儀悪く舐めようとしていたところへの攻撃だったから。
「サージュ、彼女達は大丈夫なの?」
「えぇ、余り大勢を信頼している方ではありませんから。 それに、敵はドサクサに紛れて、主が処分しています。 信頼できるものを食らえば贄になりますが、敵を食らえば毒になります。 どさくさに紛れて処分するにはちょうど良かった」
馬鹿なの? と、身を寄せる黒い獣の首元に抱き着き顔を埋めた。 幼かった彼が、何をさせられてきたのか……ソレを考えれば、失恋なんて割とどうでも良くなってしまう。
「する?」
「なぜ? 急に!! そうなる訳?!」
「傷をなめ合おう的な?」
「なんか、そういうのは嫌だ!!」
記憶にある声よりもずっと低く落ち着いているのに、それでも焦る様子は変わりがなくて私は笑ってしまう。
「なんだか、生きるってままならないものねぇ~」
身体を預けたまま、空を見上げた。
「そこ、ご飯にタレをかけて食べない」
「ぇ? ぁ……いえ……その、もの凄く気負ってきたので……、ご飯を食べていなかったの……。 それが、その……この匂いが悪いのよ!!」
「随分と本能に忠実な人ね」
「でなければ、こんなところまで押しかけてこないでしょう。 それより、今後継続的に交代で贄役を担っていた者達の手足に不自由が出ているので、治していただけませんか?」
「もちろんよ……」
ようするにスパイとして送られてきた娼婦達は、いくら甘やかそうと敵は敵で贄の対価にはなっていなかった。 なっていなかったが、信頼をしているふりが必要だから、娼婦達を抱く裏で贄を食らう必要がある。
本当、ままならない……。
頭の中がぐるぐるする……。
不思議な事にケヴィンに裏切られた事が理由ではなく、5年の間ユーグがどう過ごしていたかを考えると胸が痛んだ。 それは余りにも身勝手な思い……。 だから声には出さず、ただ私は獣の姿を取り続けるユーグの毛並みを撫で寄り添った。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる