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05.終章
45.お迎え 01
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血統加護をその身に受けた、真の公爵は全てを気付いている。 お前達の事は知っているのだとでも言わんばかりに、ダンベール公爵館に住まう者、出入りする者達、そして私の血縁の者達に硬化症が現れ、彼等はそう時をおかずに小さな魔石の花を幾つも咲かせて死んだと報告が入った。
「もう見つかっているなら、助けられる人は助けよう!!」
家族にも、同じ敷地に住んでいた人達にも、情の無い私は、薄情に偽善的にバルゲリー領内で起こった硬化症の治療を提言した。
「ダメ」
「ダメですね」
速攻却下を受ける。
「どうしてよ!!」
「こっちの動きに気づいているんだよ。 こっちが魔石を生み出す直前の奴を数人解除したら、魔石化を進めた挙句、解除した人間の一番年若い家族が硬化症を発症した。 1人助ければ2人殺されて、1人増やされる。 挙句に解除する際には、他の神に干渉する訳だから負担が大きい。 いざと言う時に動けなくなる可能性もあるし、それこそ他の神からの恨みを買って、呪われる可能性もある」
「命を守るより、奪う方が格段に楽だと言う事です」
「現状は、この地に来ている一族の者を守るだけで限界だ。 戦後でなければ、表に出ない幹部達も戦争中に知られてしまっただけにたちが悪い。 こっちは敵が分かっていないんだから」
「エヴラール様は……」
「動いていない。 そもそも、あの一族には血統加護はない。 スラムで加護持ちを拾い上げてはいるが、捨てられる程度の加護でしかない。 侯爵家が一目置かれているのは加護を持つことなく人脈を持って一族を拡大してきたからだ。 幾ら俺達が力を持っていても、彼の経験には叶わないが、あの一族にこれほどの力がないのも確かだ」
「それに、彼等は今、国王陛下から呼び出しを受けていますからね。 血統を途絶えさせた罪への説明を求めて」
「なら、私達には何も出来ないの?」
「情報の網と目を増やす。 魔力を使わせてもらうがいいか?」
「いいよ……どうせ、何も出来ないし……」
溜息と共に言えば抱きしめられた。
「側にいてくれ……」
力強いのに泣きそうな声は、不安の表れだろうか?
私達は、まだまだ未熟だから……。
「いるよ」
私は何時ものようにユーグに身を預ける。 その日から、私はユーグの仕事に同行するようになった。 婚姻によって得た力は、彼と一緒にいるにはちょうど良かったと言えるだろう。
すりっと私は彼の方で頬を寄せる。
銀色の長い毛並みをした猫の姿で。
姿を変えれば、私だとは分からないだろうし。 常に身体に触れるほどの距離に居る事ができる。 とは言え、正直言えば、もう何も出来る事は無い。
国王陛下が寄越した神官達の護衛が仕事となっていた。
「加護を持たない神官の奇跡、これは身体能力を高めるただの魔法に過ぎず、硬化症を悪化させてしまっています。 加護を持っている者であれば、神との縁を切る事はできますが、神の反発が大きい……。 これ以上怒らせてしまえば、天罰を受ける事になりかねません」
「それぐらいは、分かっている。 俺が知りたいのは犯人がどうやって硬化症を広めているかだ」
硬化症が、ここ半年間の間に起こった病である。 だが、かかった人間は採掘権を買ったものの関係者を中心だと言う事。
「山を荒らして神が怒った?」
私は肩に乗り、首周りに尻尾を巻きつかせながらユーグに聞いた。
「力を分与できるのでなければ、多方面にいる人間にまで発症させるのは難しい。 けれど、公爵家の血縁者は現在国王陛下が管理している」
「それに、こんなバカげた事を実行する人間がいるとは信じがたい……です」
恐怖と怒りに神官は震えていた。
領主町では、多くの者が硬化症を患っている。 治療が出来ない神官は、既に神官の恰好をする事が危険なほどに庶民から目の敵にされていた。 なんだかんだいいながら、ダンベールの一族の者が平気なのは、余計な力を行使せず、ただの商人として町の者と関わっているからだろう。
「ぁ、猫ちゃんだぁ!!」
「猫ちゃん綺麗!!」
「おいで~!!」
そんな言葉と共に子供が寄ってきて手を伸ばす。 子供の無邪気さと、病の哀れみをぶつけてくれば、同情せずにはいられない……。
「にゃぁ~」
私は猫を気取り鳴いて見せれば、嬉しそうに子供達ははしゃぎ、猫、猫と騒ぎだす。 静かな町に子供の声が無邪気に響く。
ユーグは子供達に小銭を握らせた。
観光地としてにぎわっていた頃とは違い今の町には屋台などは出ていない。 それでも、市場を閉鎖させてはそれこそ町が亡ぶと、王国から支援が向けられていた。
奇病だと言えば人も逃げるだろうが、採掘権を購入し山を荒らした者に向けられた祟りだと言えば、高い給金につられ仕事を受ける者もいると言う事だ。
「そのお金で、何か買うといい」
「ありがとうお兄さん!! 猫ちゃん、一緒に行こう」
「だから、ダメだと言っている。 彼女は俺の……ぇ?」
向こうから見れば私が突然に消えた風に見えているようだ。 だけど、私はユーグの側にいるし、人の姿を取れば手の届く距離にいた。
猫から人の姿に戻り私は手を伸ばし、叫ぶ。
「ユーグ!!」
「迎えにきたよ」
私を抱きしめる手は、懐かしく……そして、憎たらしいものだった。
「今更、何しに来たのよ……ケヴィン」
「もう見つかっているなら、助けられる人は助けよう!!」
家族にも、同じ敷地に住んでいた人達にも、情の無い私は、薄情に偽善的にバルゲリー領内で起こった硬化症の治療を提言した。
「ダメ」
「ダメですね」
速攻却下を受ける。
「どうしてよ!!」
「こっちの動きに気づいているんだよ。 こっちが魔石を生み出す直前の奴を数人解除したら、魔石化を進めた挙句、解除した人間の一番年若い家族が硬化症を発症した。 1人助ければ2人殺されて、1人増やされる。 挙句に解除する際には、他の神に干渉する訳だから負担が大きい。 いざと言う時に動けなくなる可能性もあるし、それこそ他の神からの恨みを買って、呪われる可能性もある」
「命を守るより、奪う方が格段に楽だと言う事です」
「現状は、この地に来ている一族の者を守るだけで限界だ。 戦後でなければ、表に出ない幹部達も戦争中に知られてしまっただけにたちが悪い。 こっちは敵が分かっていないんだから」
「エヴラール様は……」
「動いていない。 そもそも、あの一族には血統加護はない。 スラムで加護持ちを拾い上げてはいるが、捨てられる程度の加護でしかない。 侯爵家が一目置かれているのは加護を持つことなく人脈を持って一族を拡大してきたからだ。 幾ら俺達が力を持っていても、彼の経験には叶わないが、あの一族にこれほどの力がないのも確かだ」
「それに、彼等は今、国王陛下から呼び出しを受けていますからね。 血統を途絶えさせた罪への説明を求めて」
「なら、私達には何も出来ないの?」
「情報の網と目を増やす。 魔力を使わせてもらうがいいか?」
「いいよ……どうせ、何も出来ないし……」
溜息と共に言えば抱きしめられた。
「側にいてくれ……」
力強いのに泣きそうな声は、不安の表れだろうか?
私達は、まだまだ未熟だから……。
「いるよ」
私は何時ものようにユーグに身を預ける。 その日から、私はユーグの仕事に同行するようになった。 婚姻によって得た力は、彼と一緒にいるにはちょうど良かったと言えるだろう。
すりっと私は彼の方で頬を寄せる。
銀色の長い毛並みをした猫の姿で。
姿を変えれば、私だとは分からないだろうし。 常に身体に触れるほどの距離に居る事ができる。 とは言え、正直言えば、もう何も出来る事は無い。
国王陛下が寄越した神官達の護衛が仕事となっていた。
「加護を持たない神官の奇跡、これは身体能力を高めるただの魔法に過ぎず、硬化症を悪化させてしまっています。 加護を持っている者であれば、神との縁を切る事はできますが、神の反発が大きい……。 これ以上怒らせてしまえば、天罰を受ける事になりかねません」
「それぐらいは、分かっている。 俺が知りたいのは犯人がどうやって硬化症を広めているかだ」
硬化症が、ここ半年間の間に起こった病である。 だが、かかった人間は採掘権を買ったものの関係者を中心だと言う事。
「山を荒らして神が怒った?」
私は肩に乗り、首周りに尻尾を巻きつかせながらユーグに聞いた。
「力を分与できるのでなければ、多方面にいる人間にまで発症させるのは難しい。 けれど、公爵家の血縁者は現在国王陛下が管理している」
「それに、こんなバカげた事を実行する人間がいるとは信じがたい……です」
恐怖と怒りに神官は震えていた。
領主町では、多くの者が硬化症を患っている。 治療が出来ない神官は、既に神官の恰好をする事が危険なほどに庶民から目の敵にされていた。 なんだかんだいいながら、ダンベールの一族の者が平気なのは、余計な力を行使せず、ただの商人として町の者と関わっているからだろう。
「ぁ、猫ちゃんだぁ!!」
「猫ちゃん綺麗!!」
「おいで~!!」
そんな言葉と共に子供が寄ってきて手を伸ばす。 子供の無邪気さと、病の哀れみをぶつけてくれば、同情せずにはいられない……。
「にゃぁ~」
私は猫を気取り鳴いて見せれば、嬉しそうに子供達ははしゃぎ、猫、猫と騒ぎだす。 静かな町に子供の声が無邪気に響く。
ユーグは子供達に小銭を握らせた。
観光地としてにぎわっていた頃とは違い今の町には屋台などは出ていない。 それでも、市場を閉鎖させてはそれこそ町が亡ぶと、王国から支援が向けられていた。
奇病だと言えば人も逃げるだろうが、採掘権を購入し山を荒らした者に向けられた祟りだと言えば、高い給金につられ仕事を受ける者もいると言う事だ。
「そのお金で、何か買うといい」
「ありがとうお兄さん!! 猫ちゃん、一緒に行こう」
「だから、ダメだと言っている。 彼女は俺の……ぇ?」
向こうから見れば私が突然に消えた風に見えているようだ。 だけど、私はユーグの側にいるし、人の姿を取れば手の届く距離にいた。
猫から人の姿に戻り私は手を伸ばし、叫ぶ。
「ユーグ!!」
「迎えにきたよ」
私を抱きしめる手は、懐かしく……そして、憎たらしいものだった。
「今更、何しに来たのよ……ケヴィン」
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