【R18】親の因果が子に報い【完結】

迷い人

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05.終章

46.お迎え 02

 私は、私を抱きしめるケヴィンを睨みつければ、彼は軽薄そうに笑って見せる。

「助けに来るのが遅れたからって、そこまで怒らなくてもいいだろう」

 軽薄な、何処か見下した口調に懐かしさはなく、訝しむ視線を私は向ける。

 彼はこんな感じだっただろうか?
 地位や権力を気にせず口は悪かった。

 何時も気配を消しながら、護衛対象である私を守っており、呼べば本を片手に現れた。 嫌がらせやイジメから助けてくれる事は無い。 まぁ、それはエヴラール様が極秘につけた護衛だから、仕方がないと言えば仕方がないと納得していた。

 姿を現しては本当に助けが必要な時に警戒されてしまうから。

 暴言に傷つき眠れない日には、寄り添い眠ってくれた事に感謝した。 私の知らない世界を知っていて、スラムや娼館へと連れていかれ飢えや病に苦しむ者の存在を見せつけ、薄暗くも恨みのこもった視線を向けながら助けを求める者達に手を差し伸べて欲しいと願われた。 私に向ける陰鬱な瞳もケヴィンを見る時だけは誰もが輝きを目に宿していた。

 ケヴィンは凄い!!
 彼は特別なんだ!!

 そう、幼い私は思ったのだ。

 スラムや場末の娼館で生きる者達を見れば、自分の苦労が他愛無いものに思え、自分が我儘ばかりを口にする子供のようだと反省した。

 私の知らない事を知り、私の知らない場所へ行き、エヴラール様の使いとして仕事をこなす彼がとても大人に思えた。 それが彼に憧れた理由だった。

 私自身に自由になる金銭はなかったが、娼館の女性の病を癒せば、娼館から出た報酬がスラムの子供達のために使われた事に不満などなく、彼に好かれるためだとむしろ喜んで力を使い、施しを与えた……。





 何時だったか……ユーグの不在に女子会なるものを開いた。 女友達と言うには、彼女達は身分差の分だけフランクさにかけるが、それでも語る意見には容赦がない。

 あれは少しばかり酒が入った日の事、なんとなくコイバナ的な話となった訳で……。

 カリナは、ケヴィンが貴族に仕える者としての配慮に欠けるとこう語ったのだった。

「人には人の役割があります。 スラムのものを場末の娼婦を救う事が、公爵夫人のやるべき仕事でしょうか? 公爵夫人の地位を確固たるものとし、周囲から尊敬と信頼を得る仕事でしょうか? 確かに救うべき相手かもしれません。 ですが、未来の公爵夫人が、自ら訪れ、身を危険に晒す可能性を生み出してまで行う必要があるのですか? もっと優先すべき事があるのではありませんか?」

 カリナの言葉にメイリーも言う。

「私もそう思いますよ。 ラシェル様の場合、4.5時間の時間を割いてスラムや娼館の者達を救済するよりも、4.5時間を刺繍に回した方がより大きな利益を生みます。 考えても見て下さい、ラシェル様が救いをもたらした娼館は、他の娼館と比べ病を患う者が多い。 だけど全ての娼館がそうでない以上。 病気が蔓延するのは、その娼館の責任ですよ」

 幼い恋心が、疑心暗鬼に染まり、まぁ……シバラク拗ねはしましたよ? でも、まぁ……今となっては良い経験だったと思う訳です。

 彼は、私に余り語らなかった。
 ただ、側に居てくれた。

 それが嬉しかったのだ……。

「だって、それが仕事ですわよね? 私だって仕事と言う体裁でラシェル様の側にいられるなら、ずっとおりますわよ?」

「いえ、食べ過ぎた分は働いてきてください」

「護衛も仕事ですわ」

「側にいたら、恋をするならユーグ様とサージュ様なんて何時も一緒じゃないですか」

「昔は、真実の愛を誓い合った身分差カップルだと思っていたものです」

 そう言えば、酒の力もあって思い切り笑われた。

 そうして、私は過去を過去とした。

 多くを語れば、語るほど、私の初恋は幼く陳腐なものに見えた。 何より良かったのは、ユーグの言葉よりもずっと受け止めやすかった事だろう。

 こうなってしまえば、エヴラール様がユーグに対してスパイを放っていたとか、エヴラール様がケヴィンを通して私を監視していたのでは? とか……、そんな取って付けた理由なんてどうでも良いほどに、馬鹿げた初恋とお別れできたのだ。





「今更、何をしに来たのよ」

「これでも必死に探したんだが? なぜ、私を待たなかった?」

「なぜ、貴方を待つ必要があるのですか?」

「私を好きだと言っていただろう?」

「断ったのはケヴィン、貴方よ」

「だが、妹のようには大切な存在だと、愛していると伝えたハズだ。 そんな私が心配しないと思っていたのか? せめて、エヴラール殿の元に身を寄せるべきだった」

「未来の公爵夫人でもなくなったのに? 親元には相手にされていない、ただの娘に戻ったと言うのに?」

「俺には、そんな身分なんて関係ない。 心配した」

 もし、私が他の人と会話する機会がなければ、スラムの子達を思うのと同等の心配であっても、彼が私を特別だと思わなくても、私が彼を特別だと思えばいいだけの事。 等と思っただろう。

「貴方が護衛として側に居たと言うなら、貴方がいないときに代わりの護衛をつけておいてくれるべきだったのよ……なら、私は殴られ、娼館に連れていかれる事は無かった」

「あの時は、急ぎ伝える事があったから……」

 いや、何時も割とフラフラしていて、気まぐれな護衛でしたよね? とは、言わない……言っても意味が無いから。

「まさか、娼館に売られていたなんて……。 だが、ラシェルがどれほど汚れようと、大切な人である事には変わらないよ。 可哀そうなラシェル……そんな瞳で私を見るほどに傷ついたんだね」

 口づけをしようとする相手から、顔を反らした。

「気にしなくていい。 私がラシェルを美しくしてやるから、何も気にしなくていいんだ」

「私は!! ユーグを愛しているの!! 貴方に慰めて貰う必要などないわ!!」

「なぜ、そういうことを言うんだ。 あぁ、傷ついたラシェルを助けた事で、上手く取り入ったんだな。 卑怯な奴だ……。 そんなものは思い込みだ。 私と共に過ごした月日を思い出すといい。 彼は、母親を使って婚約者の資格を奪い、失意に追い込んだと聞いて、私がどれだけ焦った事か……なぜ、あの日、ラシェルを一人にしてしまったのか……どれほど後悔したか……分かってはくれないのか?」

 まるでユーグが語った事の全てが嘘であったかのように、ケヴィンは語る。 だけれど、彼は気づいていないのだろう。 彼は私を可哀そうだと言う時、本当に嬉しそうな顔をするのだ……。

 見下し、哀れみ、馬鹿にする……。

 昔は……それも優しさだと思っていたのになぁ……。

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