【R18】王太子殿下が他国の将軍の婚約者を孕ませたからって、婚約者の私が責任を問われるのは間違ってはいませんか?【完結】

迷い人

文字の大きさ
1 / 71

01.婚約者達

しおりを挟む
 この世界は、神の加護によって支配されている。 神のいない世界の知識を記憶している私にとって、この世界は狂気に満ちていた。

 王宮内部に存在する隠された地下牢獄、そこに私は閉じ込められていた。

「リエル様……殿下がお呼びになっておいでです。 直ぐに控えの間までおいで下さい」

 冷めた声と共に分厚い鉄の扉を開いたのは、私を投獄したカイン王太子殿下の親衛隊の1人。

 地上に上がり始めて私は夜なのだと知った。

「さむっ……」

 私の声に、先導する親衛隊の者が足を止めることはない。 渡り廊下を歩けば、大広間には贅沢と言えるほどの明かりがともされていた。 楽し気な音楽が奏でられ、人の声が溢れている。 聞きなれない異国の言語、変わった音楽、見慣れない衣類、それらを見れば今日が王太子殿下生誕20年の祝いの日だと分かる。

 そんな華々しい日に、私を牢からだしてまで呼び出すなんて……。 前世も現世もド田舎の農村地生まれ、王族の都合など想像もつきませんが、流石に投獄される以上に悪いこともないだろうと安穏と考えていた。

 カイン殿下はその神から与えられた美貌故に甘やかされ、愛の女神の加護ゆえに全てを思い通りにする。

 ただ1つ、私との婚約を除いて。

 私には前世の知識があり、貧しい農村部に生まれた私は、日々の空腹に耐えきれず、神のいない世界の記憶を使い、容易に身近な人々を飢えから救いあげた。

 この世界は、神の支配下にあり、どの国も信仰する神を持ちその加護を強く受けているのだが、稀に『神の空白期』と言うものが世界を襲う。

 今の世界は、その空白期を迎え始めたところ。 常に陣取り合戦を行っていた神々が、盤上を新しくしているのだと私は捉えている。

 こうなると、昼夜の気温差は激しくなり、大気は乾き、時に大水を起こし、風は吹き荒れ、手に負えない。

 それでも、世界と言う盤上から消えのは国や土地に施された加護で、人に与える加護まで、失われる訳ではない。 だから人々はこの空白期を人に与えられた加護で乗り切るのだと、歴史書に書かれていた。

 私の生まれたこのレギーナ国は、いち早く空白期を迎えた小国と言えるだろう。

 頼るべき神の加護を持つ人間といえば、私の婚約者でもある王太子殿下カインなのだけど、美の女神と、愛の女神と言う、微妙なチョイスによるW加護の所有者。

 何に役立つかと言えば、周囲が無償の愛を捧げ、地獄のような労役からも逃げ出さず、飢え死にしかけていても喜んで食糧を国に納める。 そんなくそったれな加護。

 貧しい国。 ソレがこの国を表すのに最適な言葉。

 だった。

 だから、この国を救うために、国王陛下は国の片隅で豊かに作物を実らせていた私の知恵に頼った。 頭を下げ次期王の妃の座を私に約束し、王太子殿下カインの婚約者と言う地位を私に与えたのだ。

 だけど、祝いの席に私はいない。
 5日前、私の元に訪れたカイン殿下はこう言ったのだ。

『オマエのような薄汚い小娘が、僕の婚約者と他国の者に知られては恥でしかない。 そもそも、オマエがこの国の恵みをもたらしていると言うのは、事実なのか? 植物が僕への愛ゆえに我先にと成長をし、僕の栄光をたたえているのではないのか? そうだ、そうに決まっている。 100の人間に聞いても、誰もが僕を正しいと言うだろう。 オマエは、自らを知恵ある賢者と偽った。 その真偽を問い罰せなければならない』

 そうして私は地下牢獄へと入れられた。 王族専用の牢なため、ソレなりに快適だったのは皮肉でしょうかね?

 華やかなドレスを着たい等とは思わない。
 前世の知識を持つ私には、動きにくいだけ。

 社交会に出たいとは思わない。
 嘘で飾られた人付き合いなど面倒。

 それでも、美しい王太子殿下が嘘でも私を愛していると言ってくれたなら、馬鹿な私は幸福を感じ、殿下のために尽くしただろう。 もし、彼が美しいだけのお人形だったとしても、私は王太子殿下を愛することが出来る程度には、愚かな人間だと言うのは前世の記憶で知っている。

 だけど実際には、婚約者と言う名目を与えられた、殿下の栄光を確実なものにするための道具でしかない。

 いえ……その道具としての価値も疑われたからこその投獄……なのですけどね……。



「リエル様をお連れしました」

 ノックの共に守護騎士が告げれば、中から慎重に扉が開かれた。

「どうぞ、お入り下さい」

「失礼いたします」

 部屋の中は、私を呼び出した殿下だけではなく、国王夫婦、そして私の他に2人定められたカイン殿下の婚約者達。

 私との婚約を拒否したゆえの妥協案が、他にも婚約者を迎える事だったのだ。 そこまでして婚約して欲しい等と思ったことは無いのだけど、美と愛の女神の加護を受けている殿下は、自分が愛されていない等とは思っていないし、他の誰も私が殿下を愛していないとは想像もしていない。 それが……とてもキモチワルイ。

 私を呼び出さなければいけない状況は、カイン殿下にとって不愉快以外の何物でもないはずだった。 にもかかわらず、カイン殿下は顔色悪く怯え震えていた。 それは他の2人の婚約者も同様である。

 何があったのですか?

 聞きたくないと思った。

 国王夫婦と言えば、豪華な椅子に腰かけ深く項垂れている。 沈黙のまま時間が流れるに任せる訳にもいかないのでしょうけど、何かを問う気にはなれるはずもありません。

 重い口を開いたのは、殿下の婚約者の1人であり、侯爵令嬢である女性。 殿下よりも2つ年上の女性だが、王家に嫁ぐために幼い頃から王妃となるべく教育を受けてきた女性である。

「リエル様……殿下が……軍事大国オルグレンの死神将軍の婚約者であり、内政官としても活躍していたモイラ様の身を奪い、あまつさえ子まではらませてしまったそうです」

 ただ愛情のみで婚約者となったアルマは、涙を浮かべながらヒステリックに壁を蹴りつけていた。 元から愛情など期待していなかった私やイザベラであれば、せめて相手を選びなさいよで済むでしょうが、その愛情を一身に浴びていた身としては、怒り心頭と言うところでしょう。

「それで、その女を正妻として迎えるから、私達を婚約解除しろとでもおっしゃるのかしら!!」

 ヒステリックにアルマが叫び、獣のように唸りながら国王夫婦に再び訴えだす。

「私は、私は殿下に愛されているのよ!! 殿下が、私以外の女に手を出す訳ないじゃない!! どうせその女が王妃の座を狙って、殿下を誘ったんでしょ! 殿下は悪くない! どうせ、どうせ、そんな女、殿下以外の男も加えこんでいるにきまっているわ! 私は、殿下と別れたりしないんですから!!」

 私はイザベラと視線をあわせれば、お互いを労うように苦笑しあった。

 お互い役目のために殿下の婚約者と言う地位を与えられただけの存在、むしろ婚約破棄がなされるなら幸いと言うもの。 

「そうでは、ないんだ……」

 呟いたのは国王陛下。

「その……死神将軍はたいそうなご立腹で、間に入られたオルグレン国王が妥協案を提案された。 ……モイラは子供ともどもくれてやる。 その代わりにカインの婚約者を寄越せとのことだ」

「嫌よ!!」

 間髪入れず叫んだアルマ。

 そしてイザベラは、声もなく意識を失いそうになるのを堪え、地を這うような恨みのこもった声で殿下を睨みつけた。

「なぜ、私が殿下の尻ぬぐいのために、そこまでしなければなりませんの」

 私は、常々馬鹿王子から逃れたいと言っていたイザベラの発言とも思えずただ驚くばかりだった。

「馬鹿馬鹿しいやってられませんわ。 行きますわよリエル様!」

 イザベラは私を連れて部屋を出ていこうとしたが、カイン殿下は甘い声で囁いた。

「僕を愛してはいないと言うのか?」

 虫唾の走る神の寵愛、甘い空気が場違いに室内に広がっていく。

「愛にも、限界があります!」

 イザベラの言葉に、誰もが驚いた。 神の寵愛、カイン殿下による強制的な愛情の搾取が効かない。 それほどに拒絶する力が何処から湧いて出てくるのか?

「だが……代わりを出さぬなら代わりに民の命を奪うとおっしゃっておいでだ。 あの死神がそういっているのだぞ!! 民のためにその身を投げ出すのが、王族の妻となるものの務めではないか!!」

 カイン殿下は醜悪な笑みを向け笑えば、イザベラはすべてを諦めた。

 私、私はと言えば……元から選択の余地はないし、そもそも女性としての魅力でいえば、2人に遠く及ばないのだから、何の心配もないはずです。

 そう、楽観的に考えていました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...