【R18】王太子殿下が他国の将軍の婚約者を孕ませたからって、婚約者の私が責任を問われるのは間違ってはいませんか?【完結】

迷い人

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08.彼女はまだ自分の価値に気づいていない

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 時間を置いて再開された夜会は、主役であるカイン殿下の正気が失われた事で実質終わりを告げていた。

 それでも美しくも珍しい生きた裸婦像を囲むように、人々はその場に留まっている。

 特にレギーナの王族、貴族達は、ボーゼンと状況が理解できずに立ちすくんでいた。 今の今までその思考の全てが、カインを中心とするように結ばれており、その結び目が突然に解かれ、意識が急激に変化するのだから仕方のない事と言えるだろう。

 オルグレン王は、何かを感じ取ったように外の月を眺めた。 眉間を寄せ厳しい表情を見せたかと思うと、足早にレギーナ王に歩み寄りながら背後にいるだろう聖女に声をかける。

「おぃ、ババァ、ココを任せたい」

「事情ぐらい説明していけクソガキ」

「王の罪を」

「はん?」

「神が示す娘を保護し、その有用性を理解しながら、自国に隠し、不自由を強いて、与えるべき教育もあたえず、世界の損失をもたらした」

 白骨化した獣の頭部を模した仮面に見下ろされ、レギーナ王は怯んでいた。

「わ、私は!! 神の寵児である息子の目を掻い潜り、十分にあの子を保護して……」

 オルグレン王はレギーナ王の言い訳を遮る。

「王とは、責任を取るものだ。 自国の民は当然……。 小国のうちであればソレでいい。だが、あの娘を内に入れた時点でオマエの力は大国と同等と世界は判断している。 それを配慮すれば、オマエは十分な責任をとっているとはいえないだろう。 ババァが一国に席を置きつつも、聖女として世界に影響を与え、信徒に責任を負うようにな」

「聖女様は……神の寵児の中でも特殊な方だ……私は、そんな方と比べられる存在ではない!」

 レギーナ王の言葉を無視し、オルグレン王は聖女へと仮面越しに視線を向ける。 聖女は頷いてみせ、未だ若い少年神官そして中小国の代表に集まるよう指示した。

 そして少年神官に聖女は言う。

「坊主が仕切るといい。 大国にとってはさしたる問題ではないが、レギーナ国の隠匿は小国にとっては大惨事、中庸に位置する坊主が丁度いいだろうて」

 少年神官は少し考えこむ。

「神が与えた救いを、欲のために隠匿し、不当な扱いをする……ソレは許される事ではありません。 彼女がその心を閉ざしていたなら……僕は、それが怖い」

 憂いを含みつつも幼い声はどこか甘く耳に障りいい。 ソレは周囲の誤解を生みかねないと、大国に位置する華国の王太子も言葉をはさんだ。

「保護し活用できないなら、最初から他所に預けるべきだった。 食料生産の高い大国はいい、だが、中小国家はオマエ達の行動をどう思う? そう言うことだ」





 レギーナ国の正式な殊遇が決まるまで数日の時間を要することとなるが、中小国が決めた落としどころは、リエルが行っていた『農業生産の効率化』に伴う情報の開示であった。

 他国の者の

 来訪を拒まず。
 情報を開示し。
 研究を支援する。

 自国中心主義から、全体主義の意識変換を王族・貴族に要求し、ソレが不十分と認められた場合に、改めて罪の採決を行う。 と、言うものとなる。





「ババァ、俺は大国の責務として、馬鹿が暴走しないよう管理しなければならない。 後は、無知な知恵者殿に現状の理解を促す必要がある。 出来れば早い段階でうちに来てくれると助かる。 事前連絡をくれれば扉は開いておく」

「あいよ」

 慌てるオルグレン王の声色とは違い、聖女の声はノンキそのもの。 だが、そんなオルグレン王にすがる者がいた。

「私は、私の罪は問わないのですか!!」

 イザベラである。 決して彼女の問いは、高潔過ぎる故ではない。 オルグレン王は一瞥を向けること、配下と共にカスミのように姿を消した。

「オルグレン王よ!!」

 嘆くイザベラをなだめるように少年神官は優しく声をかけた。

「少しばかり賢く生まれただけのただの娘に、偉大なる大国の王が罪をつき付けるなどしませんよ」

 穏やかな微笑み、慈悲なる声。 それは、自分こそが王だと思っていたイザベラを失意の底に突き落とすこととなった。





 膨大とも言える神の干渉を受けるこの世界には、神の寵愛を一定以上保有するか、世界に対して責任を負うことで、神の道と呼ばれる特殊な空間が利用できる。 そこを通れば馬車で数か月かかるような距離も一瞬で移動することができ、死神将軍、聖女、オルグレン王等は、その道を通りあらゆるところに出没する。

 どの王国も神の道に繋がる出入口を所有しているのだが、扉を開く存在がいなければ忘れ去られるのもまた自然と言うものだろう。 そしてレギーナ国にも忘れ去られた出入口が存在していた。

 膨大な数の神より寵愛を得ているオルグレンの死神将軍は、早々にリエルを自国へと連れ帰ろうとリエルを連れ神の道への出入口へと向かっていた。 ちなみに彼がカスミのように消えたのは、強靭なる脚力をもって消えた風に見えただけで魔法ではない。

「どこ、へ……行く、の?」

 風速に耐え切れず、赤い刺繍のされた不吉にも見える黒ローブに身を隠すように寄り添ったリエルが聞けば、それは不自然とも言える声色で、死神将軍はようやく一般人にとってツライ速度で移動している自分を理解し、王宮の屋根の上で移動することを止めた。

「私達の新しい住まいです」

 将軍の答えに間を置かず返すリエル。

「それは、困る……」

 将軍からオロオロと気弱な気配を感じた、リエルは首を傾げた。

「困るんですか?」

 こんなテンポで話す人を知っている。

「そう、ドレスのお礼を言えてない。 あと、勝手に着てゴメンナサイも」

「いえ、別に謝ることはありませんよ。 嬉しかったですし」

 キョトンと首を傾げれば、骸骨マスクもまた首を傾げる。

「あぁあ!!」

「な、何?」

「ちょっと、ココで待っていてください。 大人しく、落ちないように、そっとはいそう腰を下ろして」

「座るとドレスが汚れてしまうのだけど」

「座らないとリエルさんが落ちそうで怖いですし、ドレスは幾らでも作って差し上げますよ」

「そういう成金趣味的発言は嫌いです」

「気を付けるので、私の事を嫌いにならないでください。 あと、大人しく座ってください」

 そういいながら、お人形を椅子に座らせるような感じで、リエルは屋根の上に置かれた。 流石に落ちるようなことを積極的にするだけの度胸は無いし、意味も感じないと、リエルが凍り付いたように停止していれば。

「はい、お待たせしました」

 クリアーになった声に振り返れば、落ちた。

「あぁあああああ、ゴメンナサイ。 急に声をかけて驚かせてしまいましたね」

 慌てて受け止める姿は、リエルの知っている旅商人の姿。 不自然な夜のサングラスも健在である。

「いえ……それより、宙に浮いている旅商人さんにビックリです」

「私、魔法を使えるので」

「なるほど……私は使えないのですが、魔法とは本当に便利ですね」

 うん……色々と思考が停止していました。

「ぁ、ドレス……可愛いのありがとうございました」

「……えっと、出来れば笑顔でもう一度お願いできますか? ついでに、もう私達は夫婦も同然なのですから、そういう職業分類ではなく、名前で呼んでいただけると嬉しいのですが」

「……名前……教えてもらってないはず?」

「……そう、でしたっけ?!」

「多分……」

「あの、その……一応、私、結構有名なんですけど」

「そう、なんですか? 世間知らずな田舎者でゴメンナサイ」

 初めてあったのはかなり小さな頃で、その後も出会うのは年に2.3回。 必要性の低さから、記憶消去した可能性も否めません……。 そして、田舎者に世界常識を求めるのは間違いですよ閣下。 と、私は心の中で呟いた。

「ゼル・ブラッドです」

「ゼル様、ドレスありがとうございました」

 ニッコリ微笑んで見せれば、それでも不服ならしい。

「……様はいりません」

「ゼルさん」

「夫婦になるのですから」

 照れた様子で言われるが、私は同意した覚えはない。 いえ、まぁ……売られた身なので、仕方がないのでしょうが、なんとなく馴染みの顔を見れば、こうなんでしょう、もっと、順序的なものをと考えてしまう訳ですよ。

「閣下」

「遠くなった?!」

 私は笑う。

「そんな事より」

「そんな事で済ませないでくださいよ、リエルさん」

「閣下だって、私をさん付きで読んでいるじゃないですか」

「……えっと、リエル?」

「疑問形……」

「リエル、好きです!!」

 私は突然の告白に、当初言われた通り笑顔を向けた。

「ありがとうございます。 ゼル」

 ゼルの口元が嬉しそうに緩んだが、次の瞬間には引き締まった。

「えっと、今のはどういう意味なんですか!!」

 私は笑う。
 ただ笑う。

 そんな私の心の中と言えば、見ることを考えるのを拒絶した例えようのない不安や恐怖から解放された訳で、私に何度も繰り返される「好き」と言う言葉を子守歌のように聞きながら、ウトウトし始めてしまうのです。 あぁ、でも……婚約者を奪われた代わりにって……なのに、なぜ、こんなに好きって繰り返すのでしょう?

「ゼル……婚約者いた癖に……」

「ぇ、でも、そういうのは生まれた時に決められるもので……ぁ、えっと寝てます? まぁ、いいですよ……。 近道をしますが慣れない間は酔いますし、眠っている方が良いでしょうから」

 独り言と溜息を、私はウトウトと聞く。 商人と言うにはゴツゴツしすぎて疑問だった大きな手が私の頬を撫で、彼は優しく囁いた。

「……おやすみ、リエル」
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