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09.頑張るオルグレンの騎士達、だが成果はない
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『神の加護を得ると言うことはどういうことでしょうか?』
ある人間が、聖女に問いかけた質問である。
聖女はその質問に、こう答えた
『毒』
ソレを聞いた信者はこう考えた。
特別として生まれた者達の多くは、周囲が持てはやす等をして人格に影響を与える。 やがてソレは 暴食、色欲、強欲、怠惰、傲慢等の原因となり自滅する者もあらわれる。 故に聖女様は『毒』と答えたのだろうと。
だが実際に毒なのだ。
神の寵児と呼ばれる人間は、その肉体に刻まれた印をもって、神の力を受信し魂に力を蓄える。 その神力を使わず停滞させてしまえば、魂を汚染し、癒着させ、変異しはじめ、やがて自らの肉体をも変化させ、人としての生を終え……そして、魔物へと転生する。
神が本当に人を愛していると言うなら、こんな現象はおこることは無いだろう。 神は人を愛するがゆえに、神の寵児を生み出している訳では決してない。
神々は信仰によって存在が左右される。 そのため、力を受容できる魂を見つければ、それに寄生するように加護を与え、信仰を獲得しようとするのだ。
魂に影響しない、小さな加護であれば問題はない。
使用用途が高く、神力を循環しやすい加護でもいい。
ゆえに聖女のように、膨大な神力を多くの信者へと分配することで自らの魂を保護し、信仰を集め、神の期待に応じると言うことは、神にとって都合の良い寵児であり長い年月を生きながらえ、そして新しい神が寄生する。
そして、その聖女と同等とも言える加護をもって生まれたのが、死神と呼ばれるゼル・ブラッドだった。
神の道は、神力によって生まれた川のようなもの。 心を殺し静かに急ぎ通り過ぎる場であるのだけれど、その日のゼルは浮かれていて……少しばかり力に酔い始めていた。
可愛い……。
姫抱っこをしている少女の日焼けとは無縁の白い頬をつついた。 小さな不快そうな声が漏れ出れば、それすら嬉しくて、何度もつつけば、噛みつかれた。
痛くはない。 甘くはむはむと噛まれるのがくすぐったい。 温かな口の中、指にまとわりつく舌先を見れば、鼓動が早くなった。 口の中をくすぐってみれば、眉間が寄せられ苦しそうな顔をされたが、それすら可愛らしく、いや……嗜虐的な感情が満たされた。
口づけたい。
唾液が溢れ、ゴクリとツバを飲んだ。
腕の中のリエルが身じろぎすれば、落とさないように慌てて抱きしめた。 神の力、光の流れで人を落としてしまっては大変なことになる。 その程度の理性は残っている。
だが、身体を密着させれば、その柔らかさに心が震えた。
もっと触れたい。
抱きしめる手の位置をずらし、薄い滑らかな肌に触れた。 薄い皮膚はすぐに裂けそうで、薄い肉は柔らかかった。 それはとても心地よいものだった。 心が満たされた気がした。 魂がざわつけば、そこにまとわりついた神の力が刺激され、人としての常識、良識、見識が放棄されそうになる。
神とは力を持つが故に、傲慢で身勝手なものだ。 そしてゼルに加護を与える神の多くが、他の世界では悪魔と呼ばれるものだった。
白く剥き出しの肩、だらりと落ちた腕、白く柔らかそうに見える脇、見つめていれば自然と呼吸が荒くなった。
舐めたい。
その身を味わいたい。
嫌がられたらどうしよう。
眠っているから、今なら少しぐらい触っても。
でも、起きて不快だと言われたら?
彼の正気が心を締め付ければ、魂にまとわりつく神としての自尊心が否と叫ぶ。
不快だと言うなら、快楽に落とせばいい。
嫌だと言うなら、動きを奪えばいい。
興奮と快楽を強めるよう、毒を与えればいい。
懇願するまで落とせばいい。
自分から離れられなくしてしまえばいい。
俺は……強い……
欲望のままに身体中を舐めて、吸って、噛んで、貫いて、甘い声を聞きたい。
ダメだ、大切にしないと……。
わずかな理性は意味をなさず、本人が眠っている事をいいことに、頬を障り、頬に口づけ、舐めて、匂いを嗅ぎ、サワサワと肌に触れる。 自分の行動により興奮し酔いが増していく。
目的地にたどり着くころには、ゼルは人としての何かを手離していた。
オルグレン城に存在する人の世界の扉をゼルが開ければ、狭い石造りの部屋へとたどり着き、そこには紋章入りのローブに身を包みシンプルな白い仮面をつけた者達が待機していた。
「お帰りなさいませ」
その声は女性のものだった。
「あぁ」
短い返事に、ローブ姿の者達は焦りを覚え、顔を合わせていた。
「閣下、そちらの少女は一度お預かりし、十分な休養を与えるよう陛下から承っております。 どうぞ、コチラにお渡しください」
「……」
チラリと視線は向けるが、ゼルは沈黙を保ちその腕の中のものを隠すように抱き寄せた。
「陛下の命令を無視されると言うのですか」
「コレは、私の花嫁だ」
「眠っている女性に無体はお辞めください」
「心配はいりません」
ニヤリとした不敵なまでに艶っぽい声に、仮面姿の者達が甘い溜息をつき呆ければ、その瞬間に出入口を通り過ぎていた。
「閣下、お戻りになられたのですか、その方が、閣下が愛した少女ですか? なんともあどけなく見える。 愛らしい方ですね」
騎士服に仮面姿の者を無視して、ゼルは歩きだすのを見れば、仮面の内側で騎士達は顔を引きつっていた。
「申し訳ございません。 閣下を止めて下さい!!」
正気に戻ったローブ姿の女性達が後を追ってきて叫んでいた。 だがその叫びに返されるのは、
「いや、無理でしょ」
「無理でもやるんです!! ソレが王命です!」
「マジかぁ……」
しぶしぶ騎士達が動き、距離を置いて周囲を囲み、徐々に距離を縮めていった。
「閣下、何をなさるつもりですか?」
「新妻に夫がすることと言えば一つではありませんか?」
不快そうに言いながら周囲へと注意を向けることはない。 日頃の彼であれば、そのようなことを臆面もなく言う人では決してない。 むしろ周囲に対して臆病過ぎるぐらいの人なのだ。 なんとかしろと騎士達はお互いをみあった。
そしてコホンと咳払いをした騎士が言う。
「あぁ、手料理をご馳走する。 いいですねぇ……うちは、そのために乳母から厳しい手ほどきを受けたものです。 そりゃぁもう妻も喜び、愛しているわとその夜はもえましたね」
若干、戸惑い気味に足をとめた。
「ぇ?」
「隊長は何を作られたんです? やっぱり性のつくものを?」
ゼルを囲んで料理話が続けられた。 距離を縮め、歩みを遅くすることで、ささやかな時間稼ぎが行われだす。
「まぁな。 とにかく滋養強壮を優先した。 何しろ騎士と普通の娘では、体力差が大きい。 欲望のままに抱いては、相手に嫌われてしまうからな。 どんなに愛情をこめようと、大嫌いって言われてしまう……はぁ……」
ボソリと誰かが呟いた。
「それで最初の奥さんに逃げられたそうですよ」
「うちも、実家に帰られてしまったことがありますよ」
「その点、うちは女房も騎士なんで、もうそりゃぁ、力尽きるまで、ふっふふふふ」
「そうか……参考にさせてもらう」
この国の騎士と言えば、聖女が信徒に力を与えられるように、ゼルによって力を分け与えられている。 騎士同志であればなんら問題ないと得意げに言ったせいで彼等の作戦は台無しとなった。
「閣下……その、無茶すると嫌われてしまいますよ」
「私を愛してくれるまで、愛し続けるまでです」
うっとりと恋焦がれた様子でゼルに言われれば、騎士達は心の中で呟いた。
失敗かぁああ……。
「でも、眠っている相手に強引なことはしませんよね?」
「嫌われますよ」
「うちの嫁は喜びますけど」
余計な一言を漏らした騎士に蹴りが入れられた。
そんなやり取りを無視して、ゼルは自身の部屋へと向かっていく。 ソレを見送った騎士とローブを脱いだ侍女は肩をすくめ溜息をつく。
「俺達は頑張った……」
「あぁ、頑張ったとも」
「時間稼ぎぐらいにはなったはずだ!!」
「オマエが言うな」
「後は、あの少女の無事と、陛下の早い戻りを祈りましょう」
見た目はアレだが、基本は緩いオルグレン国の騎士達だった。
ある人間が、聖女に問いかけた質問である。
聖女はその質問に、こう答えた
『毒』
ソレを聞いた信者はこう考えた。
特別として生まれた者達の多くは、周囲が持てはやす等をして人格に影響を与える。 やがてソレは 暴食、色欲、強欲、怠惰、傲慢等の原因となり自滅する者もあらわれる。 故に聖女様は『毒』と答えたのだろうと。
だが実際に毒なのだ。
神の寵児と呼ばれる人間は、その肉体に刻まれた印をもって、神の力を受信し魂に力を蓄える。 その神力を使わず停滞させてしまえば、魂を汚染し、癒着させ、変異しはじめ、やがて自らの肉体をも変化させ、人としての生を終え……そして、魔物へと転生する。
神が本当に人を愛していると言うなら、こんな現象はおこることは無いだろう。 神は人を愛するがゆえに、神の寵児を生み出している訳では決してない。
神々は信仰によって存在が左右される。 そのため、力を受容できる魂を見つければ、それに寄生するように加護を与え、信仰を獲得しようとするのだ。
魂に影響しない、小さな加護であれば問題はない。
使用用途が高く、神力を循環しやすい加護でもいい。
ゆえに聖女のように、膨大な神力を多くの信者へと分配することで自らの魂を保護し、信仰を集め、神の期待に応じると言うことは、神にとって都合の良い寵児であり長い年月を生きながらえ、そして新しい神が寄生する。
そして、その聖女と同等とも言える加護をもって生まれたのが、死神と呼ばれるゼル・ブラッドだった。
神の道は、神力によって生まれた川のようなもの。 心を殺し静かに急ぎ通り過ぎる場であるのだけれど、その日のゼルは浮かれていて……少しばかり力に酔い始めていた。
可愛い……。
姫抱っこをしている少女の日焼けとは無縁の白い頬をつついた。 小さな不快そうな声が漏れ出れば、それすら嬉しくて、何度もつつけば、噛みつかれた。
痛くはない。 甘くはむはむと噛まれるのがくすぐったい。 温かな口の中、指にまとわりつく舌先を見れば、鼓動が早くなった。 口の中をくすぐってみれば、眉間が寄せられ苦しそうな顔をされたが、それすら可愛らしく、いや……嗜虐的な感情が満たされた。
口づけたい。
唾液が溢れ、ゴクリとツバを飲んだ。
腕の中のリエルが身じろぎすれば、落とさないように慌てて抱きしめた。 神の力、光の流れで人を落としてしまっては大変なことになる。 その程度の理性は残っている。
だが、身体を密着させれば、その柔らかさに心が震えた。
もっと触れたい。
抱きしめる手の位置をずらし、薄い滑らかな肌に触れた。 薄い皮膚はすぐに裂けそうで、薄い肉は柔らかかった。 それはとても心地よいものだった。 心が満たされた気がした。 魂がざわつけば、そこにまとわりついた神の力が刺激され、人としての常識、良識、見識が放棄されそうになる。
神とは力を持つが故に、傲慢で身勝手なものだ。 そしてゼルに加護を与える神の多くが、他の世界では悪魔と呼ばれるものだった。
白く剥き出しの肩、だらりと落ちた腕、白く柔らかそうに見える脇、見つめていれば自然と呼吸が荒くなった。
舐めたい。
その身を味わいたい。
嫌がられたらどうしよう。
眠っているから、今なら少しぐらい触っても。
でも、起きて不快だと言われたら?
彼の正気が心を締め付ければ、魂にまとわりつく神としての自尊心が否と叫ぶ。
不快だと言うなら、快楽に落とせばいい。
嫌だと言うなら、動きを奪えばいい。
興奮と快楽を強めるよう、毒を与えればいい。
懇願するまで落とせばいい。
自分から離れられなくしてしまえばいい。
俺は……強い……
欲望のままに身体中を舐めて、吸って、噛んで、貫いて、甘い声を聞きたい。
ダメだ、大切にしないと……。
わずかな理性は意味をなさず、本人が眠っている事をいいことに、頬を障り、頬に口づけ、舐めて、匂いを嗅ぎ、サワサワと肌に触れる。 自分の行動により興奮し酔いが増していく。
目的地にたどり着くころには、ゼルは人としての何かを手離していた。
オルグレン城に存在する人の世界の扉をゼルが開ければ、狭い石造りの部屋へとたどり着き、そこには紋章入りのローブに身を包みシンプルな白い仮面をつけた者達が待機していた。
「お帰りなさいませ」
その声は女性のものだった。
「あぁ」
短い返事に、ローブ姿の者達は焦りを覚え、顔を合わせていた。
「閣下、そちらの少女は一度お預かりし、十分な休養を与えるよう陛下から承っております。 どうぞ、コチラにお渡しください」
「……」
チラリと視線は向けるが、ゼルは沈黙を保ちその腕の中のものを隠すように抱き寄せた。
「陛下の命令を無視されると言うのですか」
「コレは、私の花嫁だ」
「眠っている女性に無体はお辞めください」
「心配はいりません」
ニヤリとした不敵なまでに艶っぽい声に、仮面姿の者達が甘い溜息をつき呆ければ、その瞬間に出入口を通り過ぎていた。
「閣下、お戻りになられたのですか、その方が、閣下が愛した少女ですか? なんともあどけなく見える。 愛らしい方ですね」
騎士服に仮面姿の者を無視して、ゼルは歩きだすのを見れば、仮面の内側で騎士達は顔を引きつっていた。
「申し訳ございません。 閣下を止めて下さい!!」
正気に戻ったローブ姿の女性達が後を追ってきて叫んでいた。 だがその叫びに返されるのは、
「いや、無理でしょ」
「無理でもやるんです!! ソレが王命です!」
「マジかぁ……」
しぶしぶ騎士達が動き、距離を置いて周囲を囲み、徐々に距離を縮めていった。
「閣下、何をなさるつもりですか?」
「新妻に夫がすることと言えば一つではありませんか?」
不快そうに言いながら周囲へと注意を向けることはない。 日頃の彼であれば、そのようなことを臆面もなく言う人では決してない。 むしろ周囲に対して臆病過ぎるぐらいの人なのだ。 なんとかしろと騎士達はお互いをみあった。
そしてコホンと咳払いをした騎士が言う。
「あぁ、手料理をご馳走する。 いいですねぇ……うちは、そのために乳母から厳しい手ほどきを受けたものです。 そりゃぁもう妻も喜び、愛しているわとその夜はもえましたね」
若干、戸惑い気味に足をとめた。
「ぇ?」
「隊長は何を作られたんです? やっぱり性のつくものを?」
ゼルを囲んで料理話が続けられた。 距離を縮め、歩みを遅くすることで、ささやかな時間稼ぎが行われだす。
「まぁな。 とにかく滋養強壮を優先した。 何しろ騎士と普通の娘では、体力差が大きい。 欲望のままに抱いては、相手に嫌われてしまうからな。 どんなに愛情をこめようと、大嫌いって言われてしまう……はぁ……」
ボソリと誰かが呟いた。
「それで最初の奥さんに逃げられたそうですよ」
「うちも、実家に帰られてしまったことがありますよ」
「その点、うちは女房も騎士なんで、もうそりゃぁ、力尽きるまで、ふっふふふふ」
「そうか……参考にさせてもらう」
この国の騎士と言えば、聖女が信徒に力を与えられるように、ゼルによって力を分け与えられている。 騎士同志であればなんら問題ないと得意げに言ったせいで彼等の作戦は台無しとなった。
「閣下……その、無茶すると嫌われてしまいますよ」
「私を愛してくれるまで、愛し続けるまでです」
うっとりと恋焦がれた様子でゼルに言われれば、騎士達は心の中で呟いた。
失敗かぁああ……。
「でも、眠っている相手に強引なことはしませんよね?」
「嫌われますよ」
「うちの嫁は喜びますけど」
余計な一言を漏らした騎士に蹴りが入れられた。
そんなやり取りを無視して、ゼルは自身の部屋へと向かっていく。 ソレを見送った騎士とローブを脱いだ侍女は肩をすくめ溜息をつく。
「俺達は頑張った……」
「あぁ、頑張ったとも」
「時間稼ぎぐらいにはなったはずだ!!」
「オマエが言うな」
「後は、あの少女の無事と、陛下の早い戻りを祈りましょう」
見た目はアレだが、基本は緩いオルグレン国の騎士達だった。
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