【R18】王太子殿下が他国の将軍の婚約者を孕ませたからって、婚約者の私が責任を問われるのは間違ってはいませんか?【完結】

迷い人

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25.そして私は捨てられた

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 ゼルの部屋の扉が鳴らされる。
 どこか控えめな柔らかな音だった。

 心地よい疲れからくる深い眠りを邪魔された不快感にゼルは眉間を寄せるが、彼に目覚めないと言う選択はない。 彼はずっとそうやって生きてきた。 ただ、今日は少しだけ違って、起き上がる前にリエルを抱きしめ濡れた額にキスをする。

 はぁ……

 溜息をこぼし、ゼルは身体の模様を隠すようにガウン羽織り、繰り返されるノックに応じれば、顔を表したのは巨大な白銀の狼だった。

「主よ。 頼みがあります」

「何があった?」

「共にきて力を貸してください。 部下が問題を起こしまして」

「オマエで処理できないのか?」

「私では……」

 ゼルがチラリとベッドへと視線を向ければ、リエルが辛そうな様子を見せていた。

「……尽力しろ」

 そしてゼルは扉をしめるのだが、扉の前に座ったままの白銀の狼はノックし続ける。

「……日が上るまえに戻ればいいか……」

 窓の外は、未だ暗い王命でない限りは日の出前には戻ってこれるだろうとたかをくくった。

 まさか、神力を受け獣の姿を持った獣人……いや『ゼルの使徒』と呼ばれる存在が一斉暴動を起こし、ソレを取り押さえなければならないとは想像もしていなかった。 それは想像を超える疲弊をおうこととなった。

 殺すなら簡単なのに……。

 すべてを制圧し終えた頃、ゼルは倒れるように木陰で眠りだした。





 リエルは眠りながら苦し気に唸っていた。

 熱を帯びたような気怠さ。 
 じわじわとした体の痛み。
 喉が渇いているのに、涙が溢れる。

 ツライ……。

 経験上、我慢していれば治る類のものだと理解できた。 単純な肉体疲労と言うやつなのだけど、ツライものはツライ。

「水……」

 ボンヤリと思考でリエルは目を覚ます。

 薄いカーテンの向こうからわずかに見える日の光が見えれば、側に誰もいなくなるまで眠ってしまっていたと言う気まずさと、また置いていかれたと言う思いに焦った。

 本音を言えば、寂しかったし、悲しかった。

「起こしてくれれば良かったのに」

 だからと言って情事の跡も露わな裸体で、城内を探し回ると言う強硬手段に出るほど正気を失っている訳でもない。

「王様の元に行くか……」

 一人で城内を動き回るのが怖かった。

「アニーが来てくれるのを待つか」

 どうして、アニーも彼女が信頼する部下もいないのか……私に対して何処までも用心深いアニーらしくないと思ったが、ゼルがいる前提であれば、余計な護衛や世話役はつけないだろうと納得できる。

 とは言え、シンプルな室内だ、ゼルが隠れているような場所は数えるほど。 かくれんぼなどをする茶目っ気を見せるようには思えないけれど、シーツを身体に巻いて、ベッドの下を覗き込む。 殆ど使われていない広い衣裳部屋。 天井裏、壁裏、床下。

「ねぇ、ゼルを知らない?」

 天井裏、壁裏、床下に居た人に話しかけたら、慌てて逃げて行ってしまったが……アレは何者だったのでしょう? 疑問と言うか明らかにアヤシイものの身体に感じる熱と、痛みに勝てず、それでもシャワーを浴び、ラフな部屋着に着替えてソファに横になった。

 ベッドへ行かなかったのは、本格的に眠る気がなかったから。 だけど、私は気付けば深い深い眠りにおちていた。

 どれぐらい眠ったのでしょう?

 ごとごとと言う耳障りな音。
 人の騒めき。

 乱暴に口元が塞がれ、猿轡がかまされた。
 両腕と両足が固い紐で後ろ手に結ばれる。

 どこから?! なんて疑問にもならない、アチコチで人が覗いていたのだから。

 こんな状態なのにボンヤリとして、思考がうつろなのは、熱のせいか? 疲労のせいか?

「おぃ、目を覚ましているぞコイツ。 もうしばらく寝ているはずじゃなかったのか?」

 そんな声を聞けば、声の方向を見るのは当然とも言えるだろう。 私は、自分を拘束し、今まさに肩に担ごうとしている人物を見て悲鳴をあげそうになった。 あげなかったのは猿轡のせい、あげなかったのではなく、あげることができなかったのだ。

 部屋にいる3人は、人間には見えなかった。

 ゼルに、身体に鱗が生えているのか? と以前聞いたけれど、目の前にいる者達は、大きな爬虫類の顔に、ぺたぺたとした感じの手足、大きな尾を持つヤモリ人間……と言うのがぴったりな存在。

 んん~~~ん~~~~。

 じたばた暴れようとしても、オルグレン国の者達相手に抵抗など虚しいだけだ。

「大人しくしろ。 殺したりするわけじゃぁない。 俺達はオマエを争いばかりのこの国から解放しにきたんだ。 魔王となりうる存在の妻など、只人にはツライだけであろう」

 それは否定できない。
 私は抵抗を辞めた。

 好意も甘えもあるが、それでもゼルが見せる狂気が怖くないか? と言えば怖いのだ。 その執着の先に何があるのか? ソレを考えれば甘い感傷が簡単に消える。 挙句に魔王となりうる等と言われれば、そんな責任を負うのは嫌だと思うのは当然だと思う訳だ。

「よし、いい子だ」

 そっと猿轡が外された。 どうにも、この国の人間には私は子供として見られるらしい。

「持ち出したい荷物はあるか?」

「わたしのものは、何もないから……でも、動きやすい恰好に着替えたい」

 ゼルに怯える子供と判断された私は、手足の拘束も解かれた。 自分の足で衣装部屋へと向かうが、旅に適しているような服などなく、今着ている部屋着が一番動きやすいものだった。

「途中で旅の道具を揃えさせよう」

「どこから外に出るの? もう日も高いよ?」

「日の高いうちに部屋から連れ去るなど、誰も考えやしないだろう」

「でも廊下には人がいるよ」

「廊下は通らない」

 そう言った彼等は、ヤモリらしく壁を登って行った。 私は見下ろす遠い木の陰からゼルの姿を見つけてしまう。 だけど彼は追ってはこなかった。 森の中で寝転がり、身体の上に白銀色の長い髪をした人を乗せ、眠っているように見える。

 遠い、かなり遠くにいるのに、なぜ見えているんだろう? なぜ、見えてしまうのだろう? 不思議に思うがソレ以上にショックで、なぜ、視力を超えた視界を有しているのか? 等と言う理由にまで至らなかった。



 もし、この時、今、見えているものを見せるために、視力を高める魔法が使われていると知れば、私は私を逃がすと言うこの人達についていくことはなかっただろう。

 まぁ、仮定の話ですけど……。



 私は不機嫌な気分になっていた。
 今、ここから去ろうとしているにも関わらず。

 女性の長い髪が風に流れ横に落ちれば、女性の身体の大半が白銀色の体毛で覆われていた。 それでもグラマラスな凹凸のある身体は女性なのだとわかる。 彼女はゼルの首に両手を回し、頬をすりよせているかのように思えた。 眠っているゼルに勝手によりそっているのだ。

 そう思おうとしたが、ゼルは女性の腰に腕を回し、その頭を撫で、その頬に口づけするのを許していた。



 私の存在って何なのだろう?

 白銀色の髪をした女性が、ゼルにとって人ではなく『犬』と言う認識でいるなどと、リエルが知るはずもなく、リエルの逃亡は恐ろしくも前向きで、協力的なものとなっていくのだった。



 リエルの旅は、獣姿を持つ大勢の者の手を借りて行われた。 チーター男に背負われて2つ先の工房都市で旅支度を整え。 旅のお供はジャッカル女へと引き継がれた。

 誰もが愛想良くも見え、不機嫌そうにも見える。 なにしろ全員が獣顔だから、表情も声の調子も読めない。 話しかければ返事は返してくれるが、不機嫌そうに思えて何時の間にか話すのを辞めた。

 まぁ、1日の起きている時間の殆どが、完全に獣形態となった彼等の背に乗せられ、凄い速さで移動するのだから、話す暇がないとも言うが……。

 帰る気はないから、目印はいらないけれど、私は獣顔の彼等を気遣うように買い物を引き受け、値引きを行い、小銭をためて靴の底に隠していく。 分からないからこそ、彼等を完全に信用する気になれなかったのだ。

 幾人もの獣人にリレーされるように、旅のお供を変えて私の旅は続いていた。 とは言っても、ただひたすら移動するのみで、何の情緒もなかったが……。

 だが、旅のお供が、酒好きで少しお喋りで、お調子者な豹女に変わった時、変化が訪れたのだ。 私は初めて彼等がどういう存在なのかと知った。

 彼等は、ゼルの神力の力を受けて獣の姿を所有してしまった者達で『使徒』と呼ばれ特別な存在として、国に騎士認定を受けている存在だそうだ。

 長い白銀色の髪をしていた女性は、ゼルの最初の使徒であり、幼いころからゼルに仕えている特別な存在なのだという。

「人の姿に戻りたいとは思わないの?」

 私は、外見はともかく、その情緒が比較的人間っぽく思える豹女に聞いてみた。

「そりゃぁ、思うさ。 私は、この姿になったまだ1年も経っていない。 他の者達のように大切な者に会うことを諦めきれていない」

 酒に飲み笑いながらいうが、目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 彼女がよく喋るのは、他の者のようにゼルを信仰していない。 もしくは恨みにすら思っているから……なのでは? と思った。

「なら、試してみようか?」

 私は豹女の手をとって、その手を胸に抱いた。 私の魂は神力を無効にするなら……彼女を侵す神力を取り除きたいと心から願えば戻せるのでは? そう思ったのだ。

 他の人と違い彼女は会話が出来た。 だから、試してみようと言う気になった。 ソレは、ただの気まぐれだったが、彼女の大きな肉球を持つ手のひらが、人のものへと変質した。

「ぇ、あ……どういう……」

「まぁ、こう言う奇跡もいいんじゃないかな? でも、ここまで」

「どうして!! もっと、なんとかならないのか!!」

「できるかもしれない。 できないかもしれない。 それは分からないけれど、ソレをすればアナタは裏切り者になってしまうのでは? そう思ったからここで終わり」

「それは……」

 豹女は黙りこむ。

「構わない……例え追ってを差し向けられても、私はもう一度、人の姿で大切な人にあいたいんだ」

「なら……私が解放された日に、もう1度会いましょう」

 これは、生きるための保険だった。



 そして、案の定。

 私は、水の大国との国境で、流れのはやく、水量の多い川に、両手両足をしばられ、猿轡をされ投げ捨てられた。

『絶対あのハイエナ女だけは、人に戻してやんないんだから』

 そう強く心に誓った。
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