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29.国を導く国王としての覚悟
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神には、信仰を得るために人と寄り添う存在もあるが、オルグレンの土地を長きに渡って守護し、集ってきた神々には、人に配慮しようなどと言う考えはつゆほどもない。
もし、その神が愛を語り、同情を示し、寄り添おうとするなら、警戒を強めるべきである。 オルグレンに集う神々は、憎悪、恐怖、激昂、愛欲などを信仰に転化し自らの存在の糧とすることができる気まぐれな存在なのだから。
まぁ、覚悟はしていたさ……。
そう思いながらも、ヒューバートは叫んだ。
「俺はなぁあああ、泳げないんだぞぉおおおおお」
空中に放り出されてから落下まで数秒。
ヒューバートは、ゼルとは違い『浮く』と言う意識を持つだけで宙に浮くことなどできない。 それなりの時間が必要となる。 だから、彼は大きく息を吸い、肺に空気を取り込み落下した。
水に浮けないのは仕方がない。 苦手な水中で魔術構築も難しい。 神力をそのまま生存空間として展開するには、水の加護が大きすぎて難しい。
結果として、彼は深い川底を縁に向かって歩いていた。
オルグレン国王、ヒューバートが所有する力は特殊だ。
神力は使えるが、神力を検知することは出来ない。
神力がないから、神力に振り回されると言うリスクはない。
神力によって、汚染を受けるリスクもない。
使える神の力の大きさは、ゼルには大きく劣るものの、行使できる力の種類はゼルよりも格段に多い。 だが、ヒューバートはゼルのように神力を手足の延長として使う事はしない。
出来ないのではなくしないのだ。
ヒューバートは神の寵児ではなく、所有しているのはゼルの力の管理者としての権限であり、ゼルに憑依した神々との対話を積み重ねた事で獲得した力(神の評価)に過ぎない。
力に溺れ、力に驕り、神の怒りを買えば、その力は失われるだけでなく、運命共同体であるゼルともども自滅するため、ヒューバートは恐ろしく用心深く生きている。
ゼルの力の管理者としての権利。
パートナーとしての力の共有。
憑依者と対話者。
ヒューバートとゼルの関係が、なぜそのような面倒な状態なのか? ソレは全て赤ん坊であったゼルを生かすために、未来の国王としてヒューバート少年が行った神との交渉結果だ。
父を失ったばかりの少年ヒューバートは、地下神殿に赤ん坊だったゼルを連れて行き、幼いその身に大神を憑依させた。
そして、ヒューバート少年は神と交渉した。
「どんなに加護をあたえても、死んでしまっては意味がないだろう? その子が神の脅威を代弁するまでに、生存させないと意味がないだろう? だから、その子を生かすために、俺を利用しろよ」
傲慢な口ぶりで少年は言う。
『そなたに、それだけの利用価値があると言うのか?』
生まれたばかりの赤ん坊が、冷ややかにしゃべる。
「あぁ、あるとも、俺は知恵も力もある。 権力もある。 それに存外慈悲深い。 使えるか使えないか分からない寵児に頼るより、俺の方が利用価値はあるさ」
『そなたは、どれほどの覚悟を持っている? どれほどの罪を背負う事ができる?』
「気に入らないなら俺を殺せ? とか言って欲しいのか?」
『自己犠牲は、我々のとって美徳ではない』
「ふぅん、なら丁度いい……民の命をくれてやる。 どれだけ必要だ? 100か? 1000か? 少ないか……。 そうだなぁ……この国の王とその側近、民の半分の命を贄に捧げよう」
地下神殿には無数の神々が壁の中から顔を出し笑い狂う。 命を捧げると言うことは、生贄であり、強い信仰であり、祈り等とは比べ物にならない力を神々は得る事ができる。
神は喜び、狂喜乱舞し地下神殿は大きく揺れた。
『分かった。 では、オマエのこの赤子の力を使う権利を与えよう。 ソレを使い、そなたが殺せ、そなたの手で殺された者だけを、我は贄として認めよう』
「あぁ、楽しみにするんだな……」
そしてヒューバートは多くの命を奪った。
「どうせするべき大掃除だ。 ソレを神の大義でやれるのだから感謝しかねぇ!」
現国王ヒューバートは、当時の国王であった祖父を、王族、貴族の8割と、オルグレンの民の半分を神に捧げた。 これほど大量虐殺を行った王は歴史上存在しないだろう。
だが、ヒューバートに後悔はない。
当時のオルグレンには信仰は無かった。
ソレを補うため、神は『破壊』『暴力』『殺人』『暴行』『強盗』あらゆる犯罪の言動力となる暗い感情を、神々は増幅させ、ソレを信仰として転換し、自らの力の糧にしていたのだ。
国を国として成立させるために、ヒューバートは神の力を使い、人々の命を奪い神に捧げた。 そして、生き残った民に植え付けられた『恐怖』を信仰とし、オルグレンの国を正しく導くための第一歩とした。
この世界の人々は、死神と呼ばれるゼルを脅威として認識している。 だが、真に恐れるべきはヒューバートの方だろう。
水の神殿近くを流れる川に突如現れた人の気配に、神殿を守る獣オチの兵士たちは警戒を強め大勢の者が出動した。 そして彼らが見たのは、巨体の男が水の底を悠々と歩く姿。
『なんだアレは?』
『とにかく捕獲しろ』
『今の神殿に近寄らせる訳にはいかない』
そして水の国の獣オチ兵たちは、ヒューバートに襲い掛かるのだった。
もし、その神が愛を語り、同情を示し、寄り添おうとするなら、警戒を強めるべきである。 オルグレンに集う神々は、憎悪、恐怖、激昂、愛欲などを信仰に転化し自らの存在の糧とすることができる気まぐれな存在なのだから。
まぁ、覚悟はしていたさ……。
そう思いながらも、ヒューバートは叫んだ。
「俺はなぁあああ、泳げないんだぞぉおおおおお」
空中に放り出されてから落下まで数秒。
ヒューバートは、ゼルとは違い『浮く』と言う意識を持つだけで宙に浮くことなどできない。 それなりの時間が必要となる。 だから、彼は大きく息を吸い、肺に空気を取り込み落下した。
水に浮けないのは仕方がない。 苦手な水中で魔術構築も難しい。 神力をそのまま生存空間として展開するには、水の加護が大きすぎて難しい。
結果として、彼は深い川底を縁に向かって歩いていた。
オルグレン国王、ヒューバートが所有する力は特殊だ。
神力は使えるが、神力を検知することは出来ない。
神力がないから、神力に振り回されると言うリスクはない。
神力によって、汚染を受けるリスクもない。
使える神の力の大きさは、ゼルには大きく劣るものの、行使できる力の種類はゼルよりも格段に多い。 だが、ヒューバートはゼルのように神力を手足の延長として使う事はしない。
出来ないのではなくしないのだ。
ヒューバートは神の寵児ではなく、所有しているのはゼルの力の管理者としての権限であり、ゼルに憑依した神々との対話を積み重ねた事で獲得した力(神の評価)に過ぎない。
力に溺れ、力に驕り、神の怒りを買えば、その力は失われるだけでなく、運命共同体であるゼルともども自滅するため、ヒューバートは恐ろしく用心深く生きている。
ゼルの力の管理者としての権利。
パートナーとしての力の共有。
憑依者と対話者。
ヒューバートとゼルの関係が、なぜそのような面倒な状態なのか? ソレは全て赤ん坊であったゼルを生かすために、未来の国王としてヒューバート少年が行った神との交渉結果だ。
父を失ったばかりの少年ヒューバートは、地下神殿に赤ん坊だったゼルを連れて行き、幼いその身に大神を憑依させた。
そして、ヒューバート少年は神と交渉した。
「どんなに加護をあたえても、死んでしまっては意味がないだろう? その子が神の脅威を代弁するまでに、生存させないと意味がないだろう? だから、その子を生かすために、俺を利用しろよ」
傲慢な口ぶりで少年は言う。
『そなたに、それだけの利用価値があると言うのか?』
生まれたばかりの赤ん坊が、冷ややかにしゃべる。
「あぁ、あるとも、俺は知恵も力もある。 権力もある。 それに存外慈悲深い。 使えるか使えないか分からない寵児に頼るより、俺の方が利用価値はあるさ」
『そなたは、どれほどの覚悟を持っている? どれほどの罪を背負う事ができる?』
「気に入らないなら俺を殺せ? とか言って欲しいのか?」
『自己犠牲は、我々のとって美徳ではない』
「ふぅん、なら丁度いい……民の命をくれてやる。 どれだけ必要だ? 100か? 1000か? 少ないか……。 そうだなぁ……この国の王とその側近、民の半分の命を贄に捧げよう」
地下神殿には無数の神々が壁の中から顔を出し笑い狂う。 命を捧げると言うことは、生贄であり、強い信仰であり、祈り等とは比べ物にならない力を神々は得る事ができる。
神は喜び、狂喜乱舞し地下神殿は大きく揺れた。
『分かった。 では、オマエのこの赤子の力を使う権利を与えよう。 ソレを使い、そなたが殺せ、そなたの手で殺された者だけを、我は贄として認めよう』
「あぁ、楽しみにするんだな……」
そしてヒューバートは多くの命を奪った。
「どうせするべき大掃除だ。 ソレを神の大義でやれるのだから感謝しかねぇ!」
現国王ヒューバートは、当時の国王であった祖父を、王族、貴族の8割と、オルグレンの民の半分を神に捧げた。 これほど大量虐殺を行った王は歴史上存在しないだろう。
だが、ヒューバートに後悔はない。
当時のオルグレンには信仰は無かった。
ソレを補うため、神は『破壊』『暴力』『殺人』『暴行』『強盗』あらゆる犯罪の言動力となる暗い感情を、神々は増幅させ、ソレを信仰として転換し、自らの力の糧にしていたのだ。
国を国として成立させるために、ヒューバートは神の力を使い、人々の命を奪い神に捧げた。 そして、生き残った民に植え付けられた『恐怖』を信仰とし、オルグレンの国を正しく導くための第一歩とした。
この世界の人々は、死神と呼ばれるゼルを脅威として認識している。 だが、真に恐れるべきはヒューバートの方だろう。
水の神殿近くを流れる川に突如現れた人の気配に、神殿を守る獣オチの兵士たちは警戒を強め大勢の者が出動した。 そして彼らが見たのは、巨体の男が水の底を悠々と歩く姿。
『なんだアレは?』
『とにかく捕獲しろ』
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