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32.水の国、水の神
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ヒューバートがアナイス女王に最後にあったのは17年ほど前、空白期が訪れると囁かれるようになったころ。 お互い空白期について調べ情報交換をしようと言っていたが、結局連絡を取らぬまま終わった。
理由は女王の退位。
主神の世話係についたと風の噂に聞いた。
神殿に仕えたのなら仕方がない……と、諦めた。
大国と呼ばれる国は、主神をまつる神殿を持つ。
神をまつるのは、神力に耐性がある者。
大国には政治と信仰を切り離し、王座と神座 に分ける国は多い。 特に、ココや、聖女の国など信仰が極端に強いところは、政治よりも信仰を優先している。 ソレをリスク回避と理由と言うが、本当に正しいのだろうか?
テーブルに置かれた茶をアナイスが飲めば、一瞬体内の水が濁りそしてすぐに透明化した。
「アナタに何が起こったと言うのですか……」
そう真剣に問いかけながら、服を脱がせようと頑張るリエルの両手をそっと片手でまとめ上げ、抱き寄せる。 実際には鎧耐久を持つ装備品で簡単に脱げる代物ではないが、小さなぬくもりが胸に湧き上がる不安を押さえてくれるのだ。
「どうして、脱いでくれないの!!」
子供っぽく理不尽にリエルはおこる。
「仕事中だ」
「執務室に居る時は、脱いでる」
「恩人を前に、体裁の悪い事を言うんじゃない」
むにむにと頬を触れば、あうあうと答える様子にチュっと唇に口づけた。
「そういえば、なぜ、ここにリエルが保護……されていたんだ?」
保護には見えなかったが、アナイスはヒューバートが王位につく際に、聖女と共に後ろ盾になってくれた人物であるため、恩人とも言える相手であり悪しく言うことに抵抗があった。
ヒューバートの記憶にあるアナイスは、大人しく、物静かで、慈悲深い、それこそ聖女のような人物であったことから、ヒューバートは彼女の前では、少しだけ丁寧になり、そして少しだけ格好つけてしまう。
『リエルは……手足をロープでしばられ、溺れていました。 泳げぬソチラの獣オチが助けてくれと騒いでおり、ソレを聞き付けたうちの兵士が助けに駆け付けたと聞いております』
そして、リエルは助けられた後、豹人間の獣部分を人に戻してしまったそうだ。 ソレを見た兵士が……リエルに助けてほしい人がいると懇願してきたらしい。
「自分に何が出来て、何が出来ないかわからないけど、無理だって思って……本当は断ったの」
「無理だったのか?」
問えばリエルが首を傾げていた。 余り記憶がはっきりしていないようで不安そうな表情を浮かべる。 リエルは怯えたようにヒューバートにしがみつくから、落ち着かせようとその背を撫で、頬を撫でる。
「あぁ、脱線失礼しました。 それで?」
『正気を失っていた私を、リエルが救ってくれたのです』
そう聞くと良い話で終わるが、リエルの補足によると。
突然に巨大な水竜の前に連れられ、助けてほしいと言われたが、人には出来る事と出来ない事とやる気になれないことがある。 躊躇っていると……水でできている水竜の中に、ポイっと捨て入れられたそうだ。
「どうして獣オチの人って、あぁガサツなのかなぁ……」
「半分、人間を捨てているからだろう」
ヒューバードが、リエルの喉元を指先で優しく撫でれば、心地よさそうに目を細めていた。
ソレを見ていたアナイスは、ぷくぷくと音を立てて笑う。
「で、なぜ、そんな姿に?」
『主神様の神力をこの身にため込んだ結果です』
「……そう、ですか。 無事でよかった」
無事なはずない……。
そうなってしまったなら仕方ない。
神力耐性があれば、普通の者が神力に浸食されるよりも、ずっと時間がかかる。 仮にもアナイスは水神の寵児であり、耐性は聖女やゼルと並ぶほどに強く、その身に神を下ろす事も出来るほどだった。 回避しようと思えば、回避する余裕があるのだ。
何故回避せず、神力を受け入れ続けた?
疑問、疑念が渦巻いていく。
『神の力を集めるのは、決して難しいものではありません』
そう言って笑うアナイスの表情は切なそうで、以前の彼女なら他人にそんな表情を見せなかったとヒューバートは、アナイスに警戒感を高めていた。
そんなことを考えていれば、共有する思い出話が語られだす。
『ヒューバート王、アナタが王位に望む前、オルグレンは空白期を前にした神力の増幅期を迎えていた事を覚えていますか?』
「忘れる訳ありませんよ」
それがなければ、ヒューバートは幼くして重責につこう等と考えることは無かっただろう。 主神のもたらす闇の神力が、破壊、恐怖、暴力、強盗、恨み、妬み、怒り、あらゆる負の感情となりオルグレンの民を襲っていたのだ。 それは、地獄としか言いようのない状況で忘れられるはずもなく、多くの命を奪った。 そして……忘れて良い記憶とも思っていない。
『我が国でも、同じように神力の増幅期が訪れたのです。 神力が溢れ、もともと豊かな水の土地に、さらに水があふれ、大地の大半が水に沈みました』
「……」
『えぇ、アナタは早い段階で決断し被害を最小限に抑えのだと今なら最善だったと言えましょう。 ですが、人を減らし、信仰を減らす事で神の力を削ぎ、そして寵児である赤ん坊であった弟君を利用した。 アナタは子供ではありましたが、私にはアナタの行動は許せるものではありませんでした……』
ヒューバートは、憧れの女性から向けられた嫌悪に、わずかながら胸に痛みを覚え、苦笑する。
「神力は、魔力に変換して消費する。 それが人間にとって最も都合の良い方法だ。 精神を汚染しようと民に集まる神力を、ゼルに集め、魔力へと変換し、国のインフラ整備のために魔力を使った。 俺は自分の行動を間違っていたとは思ってない」
何処か言い訳っぽくなるのは、アナイスへの憧れが理由だろう。
『成功は結果論でしかありません。 大量の人の命を奪い、弟を利用し、神の力……神力すら己の欲のために魔力として利用した。 アナタの行動は傲慢です。 いずれ神の罰がくだるだろうと……そう信じていたのです』
胸が痛む。 だが、それは情ではなく……自分が目の前の恩人に対して嫌悪感を抱いている事への罪悪感……いや、精神的な揺さぶり……に屈したかもしれない。 ……もし、リエルが自分に懐いていなければ……相手の思うように動揺に心を明け渡していたかもしれない。
守る存在がいる強さ。
リエルは、ヒューバートの心など知らぬとばかりに、膝の上にのり、胸に身体を預けウトウトとしている。
「リエル……」
苦笑交じりにヒューバートがワシワシと頭を撫でれば、トロンとした様子でリエルはヒューバートの頬を摺り寄せ聞いてくる。
「何、王様? ちゅーする?」
「後でな」
「約束?」
「あぁ」
『相変わらず面倒見の良い』
ソレにどれほど救われているか……その言葉は音にすることはなく、嫌味たらしく遊んでいた。
「可愛いだろう?」
『えぇ、とても可愛らしいですわ……』
ゾワリとする嫌な予感。
ソレは僅かの間を生み出していた。
『あなたの傲慢を見て私は思ったのです。 私は正しい方法で民を導くのだと』
そして彼女は、
『私は、溢れる水をおさめて欲しいと、民と共に神に祈りました』
最悪の手段だ……。
祈りは神を強化し神力を増す。
『神は祈りを聞き届け、水を消してくれました』
水を消し去るほどの祈りを捧げたなら、神はどれほどの進化を遂げただろう。 水が消え神力は消えても、より強い神力が襲ってくることだろう。 人はより汚染され、多くの人を魔物に落としたの神の法則から考えて絶対だ。
アナイスとの会話には、ヒューバートの知るアナイスは何処にもいなかった。 記憶は共有していても、その考えは稚拙で、人を救いたいと言いながら人の犠牲を考えていない。
彼女なら、神力による人の犠牲を気付かないはずも、無視するはずもないのだ。
「リエル?」
腕の中で、いつの間にかリエルが妙にグッタリしていた。 呼吸を確認すればただ眠っているだけのようで、それでも恐怖を覚えた。 発情状態なのだと言ったが、本当にそれだけだろうか? その心は無事なのだろうか? と不安になる。
『眠ったようですね。 ベッドへとどうぞ』
「いや……、俺とアンタ、闇の国と水の国の良好な関係は、ずいぶん前に終わってしまったらしい」
チュッとヒューバートは、リエルのコメカミに口づける。 守るべき存在がある。 リエルだけではなくヒューバートが背負う者は多い。 帰らなければと、帰る意思を強めた。
そして目の前の水は、アナイスではなく神が顕現した者だと確信した。
「水の大神よ。 民なくば信仰は消えうせる。 アナタの最大の信者は失った。 アナタはアナイスではない。 そうなら……俺は、もうここに用はない。 失礼させてもらう」
『そう、簡単に返すと思っているのか!』
何処からとも水が集まり、巨大な水竜を形づくる。 圧縮された水の玉が大砲の玉のように飛んでくる。 ヒューバートが持つ結界用魔道具がオート発動した。
流石にコレは、受け流せないと判断したのだ。
「アンタがどう思ってようと、帰らせていただく。 ゼル、手伝いにこい」
そう告げれば、肉体にもう1つ魂が降り立った。
肉による言葉は必要としない。
そもそも魔法とは、望みを叶える術であり、強い思いを現実にする力。
深くお互いをリンクすれば、その思いは伝わる。
うん、エロい事ばっかり考えてんじゃねぇクソガキがぁああああ!!
ヒューバートが結界を張る間、ゼルは転移用の術式を構築していた。 エロい事を考えながら……。 水竜が攻撃モーションへと入り、口の正面で渦を巻いていた。
ゼルの魔力は、今は無限とも言えるほどに活用できる。 だが……信者数から言えば、ガチ喧嘩はうちの負けになるだろう。 だが、人に憑依した神が相手であれば、人を壊せばいい。
人を……
ヒューバートの張った結界がひび割れた。
結界用魔道具は、熱を持ち再稼働が難しい。
どこかに存在するアナイスの欠片を探し出し、破壊しなければいけない。 ソレは少しばかり難しい事で、方法を考えなければいけないのだが、それ以前に恩人を手にかけることに僅かだが戸惑いがあった。
「ヤバッ」
だが、まぁ……3人で仲良く逝くなら寂しくないか……そんなことを考えていれば、リエルの懐から、小さな金魚が踊り出て、水を食い止める。
『……最後に、人を助ける事が出来て良かった……』
それは聞いたことのある声だった。
挨拶も何もなく、余韻もなく、アナイスの欠片は呆気なくこの世界から消え去り、竜を形作っていた神の水はアナイスと言う核を失い崩れ落ち水が部屋を満たしだす。 そして3人は押し寄せる水を回避するように、発動した転移魔方陣によりオルグレン国へと戻った。
理由は女王の退位。
主神の世話係についたと風の噂に聞いた。
神殿に仕えたのなら仕方がない……と、諦めた。
大国と呼ばれる国は、主神をまつる神殿を持つ。
神をまつるのは、神力に耐性がある者。
大国には政治と信仰を切り離し、王座と神座 に分ける国は多い。 特に、ココや、聖女の国など信仰が極端に強いところは、政治よりも信仰を優先している。 ソレをリスク回避と理由と言うが、本当に正しいのだろうか?
テーブルに置かれた茶をアナイスが飲めば、一瞬体内の水が濁りそしてすぐに透明化した。
「アナタに何が起こったと言うのですか……」
そう真剣に問いかけながら、服を脱がせようと頑張るリエルの両手をそっと片手でまとめ上げ、抱き寄せる。 実際には鎧耐久を持つ装備品で簡単に脱げる代物ではないが、小さなぬくもりが胸に湧き上がる不安を押さえてくれるのだ。
「どうして、脱いでくれないの!!」
子供っぽく理不尽にリエルはおこる。
「仕事中だ」
「執務室に居る時は、脱いでる」
「恩人を前に、体裁の悪い事を言うんじゃない」
むにむにと頬を触れば、あうあうと答える様子にチュっと唇に口づけた。
「そういえば、なぜ、ここにリエルが保護……されていたんだ?」
保護には見えなかったが、アナイスはヒューバートが王位につく際に、聖女と共に後ろ盾になってくれた人物であるため、恩人とも言える相手であり悪しく言うことに抵抗があった。
ヒューバートの記憶にあるアナイスは、大人しく、物静かで、慈悲深い、それこそ聖女のような人物であったことから、ヒューバートは彼女の前では、少しだけ丁寧になり、そして少しだけ格好つけてしまう。
『リエルは……手足をロープでしばられ、溺れていました。 泳げぬソチラの獣オチが助けてくれと騒いでおり、ソレを聞き付けたうちの兵士が助けに駆け付けたと聞いております』
そして、リエルは助けられた後、豹人間の獣部分を人に戻してしまったそうだ。 ソレを見た兵士が……リエルに助けてほしい人がいると懇願してきたらしい。
「自分に何が出来て、何が出来ないかわからないけど、無理だって思って……本当は断ったの」
「無理だったのか?」
問えばリエルが首を傾げていた。 余り記憶がはっきりしていないようで不安そうな表情を浮かべる。 リエルは怯えたようにヒューバートにしがみつくから、落ち着かせようとその背を撫で、頬を撫でる。
「あぁ、脱線失礼しました。 それで?」
『正気を失っていた私を、リエルが救ってくれたのです』
そう聞くと良い話で終わるが、リエルの補足によると。
突然に巨大な水竜の前に連れられ、助けてほしいと言われたが、人には出来る事と出来ない事とやる気になれないことがある。 躊躇っていると……水でできている水竜の中に、ポイっと捨て入れられたそうだ。
「どうして獣オチの人って、あぁガサツなのかなぁ……」
「半分、人間を捨てているからだろう」
ヒューバードが、リエルの喉元を指先で優しく撫でれば、心地よさそうに目を細めていた。
ソレを見ていたアナイスは、ぷくぷくと音を立てて笑う。
「で、なぜ、そんな姿に?」
『主神様の神力をこの身にため込んだ結果です』
「……そう、ですか。 無事でよかった」
無事なはずない……。
そうなってしまったなら仕方ない。
神力耐性があれば、普通の者が神力に浸食されるよりも、ずっと時間がかかる。 仮にもアナイスは水神の寵児であり、耐性は聖女やゼルと並ぶほどに強く、その身に神を下ろす事も出来るほどだった。 回避しようと思えば、回避する余裕があるのだ。
何故回避せず、神力を受け入れ続けた?
疑問、疑念が渦巻いていく。
『神の力を集めるのは、決して難しいものではありません』
そう言って笑うアナイスの表情は切なそうで、以前の彼女なら他人にそんな表情を見せなかったとヒューバートは、アナイスに警戒感を高めていた。
そんなことを考えていれば、共有する思い出話が語られだす。
『ヒューバート王、アナタが王位に望む前、オルグレンは空白期を前にした神力の増幅期を迎えていた事を覚えていますか?』
「忘れる訳ありませんよ」
それがなければ、ヒューバートは幼くして重責につこう等と考えることは無かっただろう。 主神のもたらす闇の神力が、破壊、恐怖、暴力、強盗、恨み、妬み、怒り、あらゆる負の感情となりオルグレンの民を襲っていたのだ。 それは、地獄としか言いようのない状況で忘れられるはずもなく、多くの命を奪った。 そして……忘れて良い記憶とも思っていない。
『我が国でも、同じように神力の増幅期が訪れたのです。 神力が溢れ、もともと豊かな水の土地に、さらに水があふれ、大地の大半が水に沈みました』
「……」
『えぇ、アナタは早い段階で決断し被害を最小限に抑えのだと今なら最善だったと言えましょう。 ですが、人を減らし、信仰を減らす事で神の力を削ぎ、そして寵児である赤ん坊であった弟君を利用した。 アナタは子供ではありましたが、私にはアナタの行動は許せるものではありませんでした……』
ヒューバートは、憧れの女性から向けられた嫌悪に、わずかながら胸に痛みを覚え、苦笑する。
「神力は、魔力に変換して消費する。 それが人間にとって最も都合の良い方法だ。 精神を汚染しようと民に集まる神力を、ゼルに集め、魔力へと変換し、国のインフラ整備のために魔力を使った。 俺は自分の行動を間違っていたとは思ってない」
何処か言い訳っぽくなるのは、アナイスへの憧れが理由だろう。
『成功は結果論でしかありません。 大量の人の命を奪い、弟を利用し、神の力……神力すら己の欲のために魔力として利用した。 アナタの行動は傲慢です。 いずれ神の罰がくだるだろうと……そう信じていたのです』
胸が痛む。 だが、それは情ではなく……自分が目の前の恩人に対して嫌悪感を抱いている事への罪悪感……いや、精神的な揺さぶり……に屈したかもしれない。 ……もし、リエルが自分に懐いていなければ……相手の思うように動揺に心を明け渡していたかもしれない。
守る存在がいる強さ。
リエルは、ヒューバートの心など知らぬとばかりに、膝の上にのり、胸に身体を預けウトウトとしている。
「リエル……」
苦笑交じりにヒューバートがワシワシと頭を撫でれば、トロンとした様子でリエルはヒューバートの頬を摺り寄せ聞いてくる。
「何、王様? ちゅーする?」
「後でな」
「約束?」
「あぁ」
『相変わらず面倒見の良い』
ソレにどれほど救われているか……その言葉は音にすることはなく、嫌味たらしく遊んでいた。
「可愛いだろう?」
『えぇ、とても可愛らしいですわ……』
ゾワリとする嫌な予感。
ソレは僅かの間を生み出していた。
『あなたの傲慢を見て私は思ったのです。 私は正しい方法で民を導くのだと』
そして彼女は、
『私は、溢れる水をおさめて欲しいと、民と共に神に祈りました』
最悪の手段だ……。
祈りは神を強化し神力を増す。
『神は祈りを聞き届け、水を消してくれました』
水を消し去るほどの祈りを捧げたなら、神はどれほどの進化を遂げただろう。 水が消え神力は消えても、より強い神力が襲ってくることだろう。 人はより汚染され、多くの人を魔物に落としたの神の法則から考えて絶対だ。
アナイスとの会話には、ヒューバートの知るアナイスは何処にもいなかった。 記憶は共有していても、その考えは稚拙で、人を救いたいと言いながら人の犠牲を考えていない。
彼女なら、神力による人の犠牲を気付かないはずも、無視するはずもないのだ。
「リエル?」
腕の中で、いつの間にかリエルが妙にグッタリしていた。 呼吸を確認すればただ眠っているだけのようで、それでも恐怖を覚えた。 発情状態なのだと言ったが、本当にそれだけだろうか? その心は無事なのだろうか? と不安になる。
『眠ったようですね。 ベッドへとどうぞ』
「いや……、俺とアンタ、闇の国と水の国の良好な関係は、ずいぶん前に終わってしまったらしい」
チュッとヒューバートは、リエルのコメカミに口づける。 守るべき存在がある。 リエルだけではなくヒューバートが背負う者は多い。 帰らなければと、帰る意思を強めた。
そして目の前の水は、アナイスではなく神が顕現した者だと確信した。
「水の大神よ。 民なくば信仰は消えうせる。 アナタの最大の信者は失った。 アナタはアナイスではない。 そうなら……俺は、もうここに用はない。 失礼させてもらう」
『そう、簡単に返すと思っているのか!』
何処からとも水が集まり、巨大な水竜を形づくる。 圧縮された水の玉が大砲の玉のように飛んでくる。 ヒューバートが持つ結界用魔道具がオート発動した。
流石にコレは、受け流せないと判断したのだ。
「アンタがどう思ってようと、帰らせていただく。 ゼル、手伝いにこい」
そう告げれば、肉体にもう1つ魂が降り立った。
肉による言葉は必要としない。
そもそも魔法とは、望みを叶える術であり、強い思いを現実にする力。
深くお互いをリンクすれば、その思いは伝わる。
うん、エロい事ばっかり考えてんじゃねぇクソガキがぁああああ!!
ヒューバートが結界を張る間、ゼルは転移用の術式を構築していた。 エロい事を考えながら……。 水竜が攻撃モーションへと入り、口の正面で渦を巻いていた。
ゼルの魔力は、今は無限とも言えるほどに活用できる。 だが……信者数から言えば、ガチ喧嘩はうちの負けになるだろう。 だが、人に憑依した神が相手であれば、人を壊せばいい。
人を……
ヒューバートの張った結界がひび割れた。
結界用魔道具は、熱を持ち再稼働が難しい。
どこかに存在するアナイスの欠片を探し出し、破壊しなければいけない。 ソレは少しばかり難しい事で、方法を考えなければいけないのだが、それ以前に恩人を手にかけることに僅かだが戸惑いがあった。
「ヤバッ」
だが、まぁ……3人で仲良く逝くなら寂しくないか……そんなことを考えていれば、リエルの懐から、小さな金魚が踊り出て、水を食い止める。
『……最後に、人を助ける事が出来て良かった……』
それは聞いたことのある声だった。
挨拶も何もなく、余韻もなく、アナイスの欠片は呆気なくこの世界から消え去り、竜を形作っていた神の水はアナイスと言う核を失い崩れ落ち水が部屋を満たしだす。 そして3人は押し寄せる水を回避するように、発動した転移魔方陣によりオルグレン国へと戻った。
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