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59.初めての神使
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オルグレン王ヒューバートは溜息と共に、ペンを動かす手を止め、側にいる侍女に茶を頼む。
リエルのオヤツ作り。
神との対話。
神との新たな可能性。
結局その日も通常業務が遮られた。
オヤツ作りは完全にサボりだが……。
それでも、全体責任としてゼルも、リエルも、聖女も、政務を手伝っているのだから、宰相とその部下達を夕食前に家族の元に戻すぐらいは出来るだろう。
「オヤツ出していい?」
リエルが言えば聖女が賛同する。
「あらいいわね」
「夕食が食べられなくなるぞ」
お父さんのように王様が注意すれば、聖女がイーーーと顔をしかめて見せる。
「女性には別腹ってのがあるのよ」
「別の腹が生まれるっていう意味か?」
嫌味たらしく言う王様に、聖女は楽しそうに笑っていた。
「クソガキが」
「まぁまぁ、オヤツぐらい、神使様が誕生すれば新たな可能性に繋がる訳ですし」
仕事仕事と追いかける宰相ですら甘くなると言うもの。
「本当に素晴らしいです!」
「まさか、軍事国である我が国がここまでになるとは」
部下達が涙していた。
「おつかれ?」
リエルが聞けば、王様が呆れた様子で呟いた。
「皆、大切な家族がいるんだよ」
「そっか……うちは、皆強すぎるぐらいに強いから忘れてた」
「なるほどな」
ゼルも王様も聖女も、ほんわかとしつつニヤついた。
「それは、ともかく、オヤツオヤツ!!」
与えられた執務用の椅子から立ち上がれば、リエルの身体が不自然にグラリと揺れる。
「ぁ」
人には見えない速さでゼルが受け止めた。
「り、エル?」
ゼルの精神が乱れ、ザワリと部下達が器官が詰まるような苦しさを覚え、呻きだす。
「ゼル、落ち着け大丈夫だ。 寝てるだけだ」
王様が言えば、ゼルは穏やかで規則正しいリエルの呼吸を改めて確認した。
「強い自分達に付き合わせ過ぎてはいけないってことだな……」
自嘲をこめて、王様が呻くように言えば、人の死を多く見守り続けた聖女もまた小さく深呼吸を繰り返しており、ボソリ呟くようにそうねと告げる。
「疲れて寝ただけだ。 リエルには神の加護がない」
王様はゼルに言い聞かせつつも、自分にも改めて言い聞かせていた。
「私等みたいに頑丈じゃないってのは、面倒な話だよ。 だけど、心配することはない。 心配なのは坊主アンタの方だね」
同類として長い年月を生きるだろうゼルを聖女は心配する。
「私が……?」
ゼルの疑問は一瞬で終え、すぐに視線と思いはリエルへと向かった。
「私のことはどうでもいいんです。 リエルがいるなら……」
全く理解していないゼルに聖女は溜息をつく。 だが、腕の中に力なく収まるリエルの鼓動、柔らかな肌が温かい事に安堵し、表情を緩めるゼルを見れば聖女は何も言えなくなった。
「愛している」
眠るリエルにゼルがチュッと軽く口づけた。
そのゼルの切ない思いに、王と聖女は肩をすくめる。
やる事は多い。
多い上にまだ増える。
増えた分だけ可能性だと思えば、逃げる訳にもいかない。
だから、何時ものように仕事が続けられた。
リエルが眠っている間。
リエルの知らない場所。
リエルの言動によって神に変化が起こっていた。
リエルが腐敗の神と呼び交流した神。 それは、闇神を主神とするオルグレンに身を寄せる小さな神だった。
その性質は死体から発生する『病神』の1柱。
病神に祈りを捧げれば、1匹の小さな獣が腐敗しそこから病が生まれ、小さな村を数日で全滅へと追い込む。 人を呪う者がいて初めて信仰を集めていた。
病神が成長出来ないのは幸いである。
そんな病神は、その性質とは別に泣き虫な優しい神。 人を殺したくなくて消滅しかけていた。 なのに、ここ最近は妙に力が沸いた。 信仰が増していた。 増して、増して、短期間の間に中神にまで育ってしまい、自分が人を殺すのかと泣いていた。
「ありがとう! 神様」
リエルの思いに驚いた。
直接見れば、信仰の元が彼女だと分かった。
周囲からの圧力を感じながら、弁当を食べれば、その性質が大きく変質した。
『発酵の神』
滅ぼす神ではなく産み出す神へと。
嬉しかった。
嬉しかった。
嬉しかった。
リエルに頼り変化をするなら、それは当然の結果である。 リエルの前世では、発酵と言う現象を『神が宿る』とすら言われていたのだから。
オルグレンの神殿に王達が降りたのは、わずか2日前の出来事。
だが、神はゼルを通じて神殿に来いと伝えてきた。
「神が呼んでいます。 リエルと聖女フィールの2人。 私と王は来たければくればいいと……」
ゼルは憮然とした表情で告げる。
「何かようかな? 火の神様が手伝いしてくれるって話かな?」
パンが上手く焼けますようにとオーブンとにらめっこ中にリエルが言えば、聖女は笑う。
「それはないでしょう」
料理はリエルの方が上手だが、最近はめっきりリエルのママと化した聖女。 聖女は
「私、オルグレンの民じゃないし?」
なんて言いながら、ゼルに鬱陶しがられるほどリエルに寄り添っている。
そして、今日のおやつとなるパンは!!
高速育成によって作った林檎をジャムにし、他にも高速育成したレーズン、カシューナッツ、それらをグルグルと巻き込んだパンを大量生産していたところだった。
「そっかぁ……でも、発酵の神様は、今日も張り切ってくれましたし、やっぱりお供え物はもっていきましょう。 ゼル、神様には少し遅くなると伝えてください」
そんなこんなで、大量のパンと、甘めの酒を持ち地下へと降りていけば、呼びだすまでもなく主神、メジャー神、そして腐敗の神が待っていた。
「神の方からお呼びになるとは、何ようですかな?」
大仰な態度で王が神に向かった。
『今日呼んだのは、腐敗の神だ』
ボコボコと泡立つだけだった神が、ボコボコ頭にヌイグルミのような身体を生やしていた。
「ゆるキャラ?」
リエルが首を傾げれば、皆がつられて首を傾げる。
「ゆるキャラとはなんぞ?」
聞いたのは聖女様。
「えっと……前の世界で、神様を人に親しみやすい形にしたものかな?」
うん、絶対違うな。 なんてリエルは考えながらも、どうせ確認できないのだからと、堂々と適当な発言を仕切った。
『その形を与えたのは、リエル、オマエだ。 消えかけてきた弱き神が、祈りと願いと使命を得て、姿を与えられ性質を変えた』
『あ、りが。とう』
腐敗の神が、ぎこちなく喋る。 泡泡がピンク色に染まった。
「可愛い!!」
リエルが言えば、えぇぇぇと、3人の人間が引いていた。
「んっ?」
パンと甘めの果樹酒を備えれば、火の神、腐敗の神、水の神に大きめの信仰を、他の神に中くらいの信仰を与えた。
『なぜ、水の神まで?』
風の神が不満そうに呻く。
「だって、水は食べ物、飲み物で最も大事なんだもの」
とは言え、破壊に分類される神々が、命、飲食で祈られる事は想定外、僅かながら変化をし続ける日々に、少しばかり戸惑っていたりするが人間には内緒だ。
リエルが祈り願い、美味しい物を作れば、皆が真似をする。 それが他国に報告され、積極的に真似られる。 数百年に渡って変質など起こることもなかった神々には、些細な変化も大変なことが起こっていると感じるのは仕方がないことだ。
ぷくぷくしながら、腐敗の神はリエルに話しかけようとしたが、上手く話せなかったようで、闇の神が代わりに語りだす。
『そ奴は、リエルのものになりたいそうだ』
「私は、神の加護を受けられないよ」
『先日言っていたアレなら可能だろう?』
「アレと言うと……」
大神の神力を『弱き神』に分け与え眷属とする。 神の遣いとして人に力を貸す存在がいれば、神の加護を受け止められないリエルでも、神の加護を得ることができる。
『それで、どんな神の眷属にすればいいのかと』
「と、言う事は、大神が眷属を持ち、眷属が神の使いとなる事は、神のルールに反しないと?」
王様が前のめりな感じで聞いた。
『神のいない世界で生まれたルールが、神の世に通じないのはオカシイのでは? と、ごり押しした……』
そう告げる闇神はやはり王様と似ているように思えて笑えた。
『その行為が認められるに至って、腐敗の神を、腐敗の神のまま、大神の下に置く場合、どの神が最も適当となるか? 提案者に聞くのが妥当だろうという事となった』
「なるほど、それで……」
王様が一人納得する様子に、リエルはクイクイと服を引っ張った。
「なるほど?」
「あぁ、うちの神々で不可能な場合、ババァを通じて、せいを司る神々に頼もうとしたのだろう」
「ぁ、それで聖女様」
「うちとしても、ここで関わっておきたいという気持ちは強いのよね」
そう言いながら、クソガキと呟き聖女は王様に蹴りを入れていた。
「火の神様が熱の管理もできるなら、火の神様で大丈夫かと」
「醗酵に火?」
「醗酵には、温度調整が重要なんですよ」
そして、私達は世界初の大神の眷属化と、神使の発生を目にすることとなる。
リエルのオヤツ作り。
神との対話。
神との新たな可能性。
結局その日も通常業務が遮られた。
オヤツ作りは完全にサボりだが……。
それでも、全体責任としてゼルも、リエルも、聖女も、政務を手伝っているのだから、宰相とその部下達を夕食前に家族の元に戻すぐらいは出来るだろう。
「オヤツ出していい?」
リエルが言えば聖女が賛同する。
「あらいいわね」
「夕食が食べられなくなるぞ」
お父さんのように王様が注意すれば、聖女がイーーーと顔をしかめて見せる。
「女性には別腹ってのがあるのよ」
「別の腹が生まれるっていう意味か?」
嫌味たらしく言う王様に、聖女は楽しそうに笑っていた。
「クソガキが」
「まぁまぁ、オヤツぐらい、神使様が誕生すれば新たな可能性に繋がる訳ですし」
仕事仕事と追いかける宰相ですら甘くなると言うもの。
「本当に素晴らしいです!」
「まさか、軍事国である我が国がここまでになるとは」
部下達が涙していた。
「おつかれ?」
リエルが聞けば、王様が呆れた様子で呟いた。
「皆、大切な家族がいるんだよ」
「そっか……うちは、皆強すぎるぐらいに強いから忘れてた」
「なるほどな」
ゼルも王様も聖女も、ほんわかとしつつニヤついた。
「それは、ともかく、オヤツオヤツ!!」
与えられた執務用の椅子から立ち上がれば、リエルの身体が不自然にグラリと揺れる。
「ぁ」
人には見えない速さでゼルが受け止めた。
「り、エル?」
ゼルの精神が乱れ、ザワリと部下達が器官が詰まるような苦しさを覚え、呻きだす。
「ゼル、落ち着け大丈夫だ。 寝てるだけだ」
王様が言えば、ゼルは穏やかで規則正しいリエルの呼吸を改めて確認した。
「強い自分達に付き合わせ過ぎてはいけないってことだな……」
自嘲をこめて、王様が呻くように言えば、人の死を多く見守り続けた聖女もまた小さく深呼吸を繰り返しており、ボソリ呟くようにそうねと告げる。
「疲れて寝ただけだ。 リエルには神の加護がない」
王様はゼルに言い聞かせつつも、自分にも改めて言い聞かせていた。
「私等みたいに頑丈じゃないってのは、面倒な話だよ。 だけど、心配することはない。 心配なのは坊主アンタの方だね」
同類として長い年月を生きるだろうゼルを聖女は心配する。
「私が……?」
ゼルの疑問は一瞬で終え、すぐに視線と思いはリエルへと向かった。
「私のことはどうでもいいんです。 リエルがいるなら……」
全く理解していないゼルに聖女は溜息をつく。 だが、腕の中に力なく収まるリエルの鼓動、柔らかな肌が温かい事に安堵し、表情を緩めるゼルを見れば聖女は何も言えなくなった。
「愛している」
眠るリエルにゼルがチュッと軽く口づけた。
そのゼルの切ない思いに、王と聖女は肩をすくめる。
やる事は多い。
多い上にまだ増える。
増えた分だけ可能性だと思えば、逃げる訳にもいかない。
だから、何時ものように仕事が続けられた。
リエルが眠っている間。
リエルの知らない場所。
リエルの言動によって神に変化が起こっていた。
リエルが腐敗の神と呼び交流した神。 それは、闇神を主神とするオルグレンに身を寄せる小さな神だった。
その性質は死体から発生する『病神』の1柱。
病神に祈りを捧げれば、1匹の小さな獣が腐敗しそこから病が生まれ、小さな村を数日で全滅へと追い込む。 人を呪う者がいて初めて信仰を集めていた。
病神が成長出来ないのは幸いである。
そんな病神は、その性質とは別に泣き虫な優しい神。 人を殺したくなくて消滅しかけていた。 なのに、ここ最近は妙に力が沸いた。 信仰が増していた。 増して、増して、短期間の間に中神にまで育ってしまい、自分が人を殺すのかと泣いていた。
「ありがとう! 神様」
リエルの思いに驚いた。
直接見れば、信仰の元が彼女だと分かった。
周囲からの圧力を感じながら、弁当を食べれば、その性質が大きく変質した。
『発酵の神』
滅ぼす神ではなく産み出す神へと。
嬉しかった。
嬉しかった。
嬉しかった。
リエルに頼り変化をするなら、それは当然の結果である。 リエルの前世では、発酵と言う現象を『神が宿る』とすら言われていたのだから。
オルグレンの神殿に王達が降りたのは、わずか2日前の出来事。
だが、神はゼルを通じて神殿に来いと伝えてきた。
「神が呼んでいます。 リエルと聖女フィールの2人。 私と王は来たければくればいいと……」
ゼルは憮然とした表情で告げる。
「何かようかな? 火の神様が手伝いしてくれるって話かな?」
パンが上手く焼けますようにとオーブンとにらめっこ中にリエルが言えば、聖女は笑う。
「それはないでしょう」
料理はリエルの方が上手だが、最近はめっきりリエルのママと化した聖女。 聖女は
「私、オルグレンの民じゃないし?」
なんて言いながら、ゼルに鬱陶しがられるほどリエルに寄り添っている。
そして、今日のおやつとなるパンは!!
高速育成によって作った林檎をジャムにし、他にも高速育成したレーズン、カシューナッツ、それらをグルグルと巻き込んだパンを大量生産していたところだった。
「そっかぁ……でも、発酵の神様は、今日も張り切ってくれましたし、やっぱりお供え物はもっていきましょう。 ゼル、神様には少し遅くなると伝えてください」
そんなこんなで、大量のパンと、甘めの酒を持ち地下へと降りていけば、呼びだすまでもなく主神、メジャー神、そして腐敗の神が待っていた。
「神の方からお呼びになるとは、何ようですかな?」
大仰な態度で王が神に向かった。
『今日呼んだのは、腐敗の神だ』
ボコボコと泡立つだけだった神が、ボコボコ頭にヌイグルミのような身体を生やしていた。
「ゆるキャラ?」
リエルが首を傾げれば、皆がつられて首を傾げる。
「ゆるキャラとはなんぞ?」
聞いたのは聖女様。
「えっと……前の世界で、神様を人に親しみやすい形にしたものかな?」
うん、絶対違うな。 なんてリエルは考えながらも、どうせ確認できないのだからと、堂々と適当な発言を仕切った。
『その形を与えたのは、リエル、オマエだ。 消えかけてきた弱き神が、祈りと願いと使命を得て、姿を与えられ性質を変えた』
『あ、りが。とう』
腐敗の神が、ぎこちなく喋る。 泡泡がピンク色に染まった。
「可愛い!!」
リエルが言えば、えぇぇぇと、3人の人間が引いていた。
「んっ?」
パンと甘めの果樹酒を備えれば、火の神、腐敗の神、水の神に大きめの信仰を、他の神に中くらいの信仰を与えた。
『なぜ、水の神まで?』
風の神が不満そうに呻く。
「だって、水は食べ物、飲み物で最も大事なんだもの」
とは言え、破壊に分類される神々が、命、飲食で祈られる事は想定外、僅かながら変化をし続ける日々に、少しばかり戸惑っていたりするが人間には内緒だ。
リエルが祈り願い、美味しい物を作れば、皆が真似をする。 それが他国に報告され、積極的に真似られる。 数百年に渡って変質など起こることもなかった神々には、些細な変化も大変なことが起こっていると感じるのは仕方がないことだ。
ぷくぷくしながら、腐敗の神はリエルに話しかけようとしたが、上手く話せなかったようで、闇の神が代わりに語りだす。
『そ奴は、リエルのものになりたいそうだ』
「私は、神の加護を受けられないよ」
『先日言っていたアレなら可能だろう?』
「アレと言うと……」
大神の神力を『弱き神』に分け与え眷属とする。 神の遣いとして人に力を貸す存在がいれば、神の加護を受け止められないリエルでも、神の加護を得ることができる。
『それで、どんな神の眷属にすればいいのかと』
「と、言う事は、大神が眷属を持ち、眷属が神の使いとなる事は、神のルールに反しないと?」
王様が前のめりな感じで聞いた。
『神のいない世界で生まれたルールが、神の世に通じないのはオカシイのでは? と、ごり押しした……』
そう告げる闇神はやはり王様と似ているように思えて笑えた。
『その行為が認められるに至って、腐敗の神を、腐敗の神のまま、大神の下に置く場合、どの神が最も適当となるか? 提案者に聞くのが妥当だろうという事となった』
「なるほど、それで……」
王様が一人納得する様子に、リエルはクイクイと服を引っ張った。
「なるほど?」
「あぁ、うちの神々で不可能な場合、ババァを通じて、せいを司る神々に頼もうとしたのだろう」
「ぁ、それで聖女様」
「うちとしても、ここで関わっておきたいという気持ちは強いのよね」
そう言いながら、クソガキと呟き聖女は王様に蹴りを入れていた。
「火の神様が熱の管理もできるなら、火の神様で大丈夫かと」
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