【R18】私は運命の相手ではありません【完結】

迷い人

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前編

07

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 私は、思考を切り替え仕事に励んだ。

 休む時は休みますが、気分の浮き沈みで休んでしまえば仕事が片付きませんから。 ですが、今回は嫌な事は忙しくして忘れようと言う思いが強く働き、少しばかり自棄になっていたと言うのが正しいでしょう。

 おかげで、日々増殖し書類の山を築く仕事は、昼前には今日の予定を終えてしまい、

 私ってやればできる子でしたのね。

 等と自画自賛をしていたところに、窓がコツコツと鳴らされました。 そして、振り返ればアヒルが窓の縁に止まっていたのです。

「あら、ローズどうしました? まさか……庭を戻したくないと暴れ出したのですか?」

『いえいえソレはありませんわ』

 窓を開ければ、嬉しそうに首とお尻を振り愛想を振りまいてくる。 そんなローズの首元の柔らかな毛を撫でれば、これぞ至福な訳でして……。

「今日もローズは素敵ね」

『お褒め頂き光栄ですわ。 それよりも主様。 お庭の片付けが終わりましたぐわっ。 今日は、ずいぶんとお疲れになった事でしょう。 どうえしょう? 温室で、昼食を取られては』

 世話焼き母さん気質のアヒル獣人のローズの事、気を使ってくれたのですね。 このもふもふが私を気遣ってくれる……。 こんな彼女達を獣臭い等と……イラっとした感情を渡しは羽毛に顔を突っ込み沈めるのだった。

『主様、止めて下さい……そこは……胸ですわ……』

 なんて照れられて私も照れてしまい顔を背けた。

「ごめんなさい。 今度からは背中にするわ」
 

 実際にはこのやり取りは何十回と繰り返されており意味は余りないのですよね。 ローズの方も分かっていて、改めて温室での食事を聞いてくる。

『それで、お時間よろしいでしょうか?』

「えぇ、大丈夫よ。 程よい怒りは仕事を促進させるみたいで、良い感じで進みましたの」

 うふふふふと、未だ背に怒気を背負いそうになるのを堪えた。



 出向いた先の温室内。

 温かく、花の香りが心を穏やかにしてくれる。 何時もとは装いが違い広い空間が設けられていて、敷物を敷き、飲み物の準備までがされていた。

『主様!! コチラに来てください!!』

 白狼が勢いよく尻尾を振りながら招き、側には狐獣人のフォン、カワウソ獣人のオッズ、何時もなら温室の温度調整だと言って滅多に顔を出さないカピバラのカラまでいた。 現在、敷地内で働いている獣人達を集められるだけ集めたのだろう。

『なぜ、あんたは獣姿にならない』

 カワウソのオッズに文句を言われるルカ。

「俺は場所を取るから人の姿でいい」

『主殿にリラックスをしてもらおうと言う趣旨、理解してくれないかなぁ~』

 狐のフォンが不満そうに告げる。

「狭苦しい」

『狭い場所にひしめき合っているのが、主様の癒しになると思いませんか?』

 オカン系獣人のローズに言われ、ルカも渋々黒虎の姿を取った。 もふもふがひしめき合う中に埋もれ食事をする。 その間、彼等は食事が出来ないのだから、あくまでも私を慰めるためだけの行為。

 温かい……。

「これを卑猥だと言う方が、邪まですわ!! ラスティが煩悩まみれなのを私のせいにして不本意ですわ!!」

 怒りは小さく散らしてはいるものの、未だ全ては散らし切る事は出来ないようで、私自身コレは困った事だわと思う訳なのです。

 そして……私の癒しの空間に招かざる客が訪れる。

「彼等が人の姿を所有していないと言うなら、私の考え方に問題がある事を認めよう。 だが、実際はそうではない。 それに、その獣達がホリー、オマエに邪まな心を抱いていないと何故言える」

 今の私にとっては不快でしかない声に、ユックリと振り返りました。 出来る事なら振り返りたくなどありませんでしたけど。

「御用でしたら、アポイントメントを取っていただけます?」

 視線の先にラスティを確認し、そしてカミラが一緒に居なかった事に安堵しながらも、不愉快なのだと声と表情に表し伝える。

「私達の間に、そのような回りくどい事が必要だと?」

「……あなた方の側に近寄りたくもありませんし、近寄って欲しくもないと言っているのですよ」

 獣人達は明らかに威嚇の様子を見せてはいたけれど、先ほどの間違いを繰り返すほど私は愚かではない……いえ、愚かであってはいけない。

「まさか、私とこの子達の関係を調べにきたのかしら?  獣人の方々はどの分野においても非常に良く働き、専門的分野にも優れておりますの。 公爵家に長く滞在する予定でしたら、敵にしない方がよろしいですわ。 それとも、秋の屋敷への不満をあらためておっしゃりにいらしたの? あぁ、恋人の医師の往診や妊婦向けのドレス等は其方で勝手に手配をなさっていただけるかしら? 私の目の届く所にいらっしゃるだけで不愉快ですわ」

「その者達の心のうちは今でも疑ってはいるが、オマエを取り囲んでいる姿は心和む景色だな。 あぁ、出来るなら絵に残しておきたいほどだ。 それよりも、そんなに怒ってばかりいるのは、嫉妬しているのか?」

「ふざけないでくださいませ 嫉妬等するようでしたら、婚姻の解消に同意いたしませんわ」

「なるほど……。 まぁ、いい。 要件を伝えよう。 当主の試練を行いたい。 それは当主から当主へと代々受け継がれた試練だと聞くが、母が亡くなった今、試練は有効なのだろうか? それとも……」

「何が言いたいのかしら? 私があなたに試練を受けさせたくないために、ブレンダに毒を盛った等と馬鹿げた事を言うのではないでしょうね。 試練への扉は問題なく開かせていただきますわ。 必要な情報は後日改めて書類にして届けさせますので、今日の所はお引き取りいただけますか? せっかく、彼女が私のために準備してくれた昼食の場なのですから」

 私はアヒルのローズを膝の上に乗せて、安定剤よろしくモフモフする。 鳥の毛並みは哺乳類とは別の柔らかさがあって……そして何より!! 彼女達の多くは大人、何時だって忙しくて満足いくまでもふらせてくれない所を、彼女達から歩み寄ってくれたのよ!!

 ラスティ邪魔!!

 と言うのが本音だけれど……失敗からまだ半日も経っていないから、頑張って堪えましたとも……。

「まさか……。 私が当主になってしまえば、あなたは……と言うよりも、獣たちは窮地に落とされるのだが、もう少し態度を改めてはどうかな? と、そう思っただけだ」

「あなたが……当主の資格を得たなら、その時に改めて考えさせていただきますわ」

 ラスティは、獣達に睨まれ続けていても武器に手をかけることはなかった。 いえ……隠し武器があれば別ですが、彼は目に見えて武器を持つことはなく、獣達が集まる中ただ1人でやってきた。

 ソレを思えばあまり素っ気ない態度を出来ない私がいました。 もし、それすら作戦であるなら……私は彼に一生敵う事がないのでは? そんな不安を覚えるのです。

「せっかく、こうして敵陣に一人訪れたのに、茶の一杯もご馳走してもらえないのか?」

「茶を飲んだら帰って下さいね」

 そして、決して和やかとは言えない状況で、ラスティはお茶をゆっくりと時間をかけて飲み干し戻って行った。





 そして……その日、私は1通の手紙を、侍女を介して受け取る事になるのだった。

 “1度、女だけで話をしたい事があります。 西の湖にある東屋で月が天上に上がる頃にお待ちしております”
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