【R18】私は運命の相手ではありません【完結】

迷い人

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前編

08

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 私には……話をする必要がないわ。
 何かあるならラスティが話に来ればいいのよ。

 相手にする気に等なれずに、私は試練の条件を書き出した。



**********
 試練は敷地内に入口を持つ鍾乳洞へと入り、最奥にある精霊の理に触れ、精霊と対話し加護を得る事。

 注意事項

・加護が与えられる条件はレイダー家、或いは王家の血筋。
・試練は数日に渡る。
・戦闘の可能性がある。
・複数での参加可能。

 準備が出来次第、ご連絡下されば扉を開きます。
**********

 例えば魔物が出るとか……語れることや見る事が出来る資料は存在しているのだけど、私はそれが生死にかかわる事を知って居ながら伝える気にはなれなかった。 そして、伝えない癖に罪悪感だけが胸を痛くするのだ。

 便箋には、他に2枚の紙を同封した。

 1枚はカミラからの手紙。
 そしてもう一枚は “私はカミラ男爵令嬢と個人的に話をする必要性を感じません”と書き千切った乱雑な紙。

 そして、カミラの手紙を持ってきた者と違う侍女にラスティに届けてもらうよう頼んだ。

 ラスティは……嫌い。
 私を嫌いな私にする。

 その日の私は、嫌な事を帳消しにするように自分を甘やかした。 カピバラのカラが管理する温泉に出向き、ユックリと湯につかり、少し良いお茶とチョコで女子もふ会を行い、月を見ながら他愛ない会話を楽しみ、落ち込む私の警護をするもふもふ達の気配に安堵しながら、私は眠りにつく。

 幼い子のようにもふもふに囲まれ……穏やかに眠る。



 だけど、事はそれで終わる事無く朝食時を狙ったように、カミラが来た。

 使用人達による制止はなかったらしくカミラはアッサリと私の目の前にやってきた。 獣人達に表の仕事を任せる事が出来れば良いのに……まだソレが出来ない自分の未熟さに苛立ちを覚える。

 それでも……私はポケットから紙とペンを取り出し、短い文章を手元の便せんに書きスプーンに結んで眠そうにしているフクロウに手渡した。

「ラスティの側に落として下さい。 危ない事はしないで……」

 全てを語る前にカミラが部屋にやってきた。

「秘密だと書いておりましたよね?!」

 ドンッとテーブルが叩かれた。

「合意、しておりませんわ。 彼女に何か飲み物を」

 前半はカミラに、後半は側に控える侍女頭のポーラへの言葉。 

「いいえ結構ですわ。 獣を側に使う恐ろしい方、野蛮で凶悪……そんな方が出す飲み物や食べ物を口にするなんて恐ろしくてできませんわ」

 私はポーラに必要無いと視線で語る。

「そう。 私を恐れる前に、大きなお腹を抱えて走り回る事をお止めになるべきではありませんか? もっと、お身体を大切にされるべきですわ」

「昨晩!! あなたが!! 来ていれば、こんな余計な事をしなかったわよ」

「この時期の夜は随分と冷えますから。 それに、私にはあなたと会話をする必要を感じて等おりませんの」

「私は!! ただ、ラスティ様の寵愛を受ける者として、この公爵家を仕切るあなたと仲良くしなければと考えていると!! そう伝えたかっただけですのよ」

「お断りいたしますわ」

「あの方が当主となって困るのはあなたなのよ。 ここはお互い手を取り合って協力していく事が妥当ではないかしら?」

「……私は、そうは思いませんわ」

「でも……、そうやって、敵対するなら。 私、きっと退屈に紛れて、獣達を殺してしまうと思うの」

「そのような物騒な事、本気でおっしゃっていますの?」

「当たり前でしょう。 騎士のお役目等、きって殺す事。 それが私達の生き方、あり方なのですもの」

 カミラが私を見つめる瞳を私はよく知っていた。 奴隷市場で私を見つめる獣人達の瞳と一緒……油断をすれば食ってやろうと虎視眈々と狙う肉食獣の瞳。

「そう……」

 私は短く答えて食事を続けた。

 直接的な脅しと考えて良いのかしら? と考えながら、側に控える黒虎のルカと白狼のブランに指先で待てと命じた。

 あぁ、そうですわ……ラスティも彼女の意見に同意しているのか確認する必要があるわね。 ヒッソリといけない事をする騎士達を招かれていてはたまりませんもの。

 ただ……そうでないと信じていた。

 目の前の女を孕ませた……ソレ以外においては誠実である……そうあって欲しいと願っているから。 そして、目の前のカミラがラスティに秘密で動いているからと、私は願っていたのです……ラスティは誠実な方なのだと。 今は間が悪くとも、どこかで妥協を見出せるのだと。

「余り物騒な事を考えていては、胎教に悪いですわ」

 静かに告げた。

 それ以上語る気などなれる訳がない。
 こちらの手の内、腹の内を見せる訳がない……。



 そして、私は食事を続ける。



 やがて荒々しくも重く地面を蹴り走る音が聞こえ、私はその音に安堵した。 心を寄せて良い相手でもないのに、それでも今この状況を何とか出来るのは彼だけだから。

「カミラ!! なぜ、こんなところにいる!!」

 信頼に似た気持ちを寄せた瞬間の言葉……こんなところ、些細な言葉の選び方が残酷なまでに私の心を傷つけてくる。 だけど、私はソレを必死に隠し……食事を口に運ぶ。

「あら、ラスティ様のためですわ。 私は何時だってラスティ様の事を一番に考えているのですから。 それより、聞いて下さい!! 彼女ったら、大変な身体をおしてここまで来た私にお茶も出さないのよ!! 本当気遣いの無い人って嫌ね。 ラスティ様が、彼女の事を嫌っていた理由が良くわかりますわ」

 食事をしていた手が、反射的に止まった。

「生憎と妊婦の方に出してよいものが分からないものですから、それに、信頼できない私が出したものに口をつけたくはないでしょう?」

 嫌う?
 私が何をしました?

 そんな思いを隠し、聞いてないふりをした。

「えぇ、あなたが出すなら確かにそうですけど、私、コチラの使用人の方々は信用しておりますのよ? あぁ、当然、獣は別ですけどね」

 カミラは獲物を望む獣のように笑う。

 そして……もともと私とは折り合いの悪い使用人達とは言え、アッサリと彼女の信奉者のような態度で接しているのが不気味に思えた。

 いっそ……復職を願う方々を復帰させ、今いる方々をクビにしてしまおうかしら? イライラからそういう物騒な事を考えてしまう。

「彼女、早く、連れていって頂けません?」

「あぁ、悪かったな」

「ねぇ、ラスティ様。 彼女に何とか言って頂けないかしら? 私、彼女と仲良くしたいのよ。 仲良くしないといけないの。 ラスティ様、あなたのためなのよ。 彼女を嫌い、憎むあなたのために仲良くしなければと思っているの。 だから、私の邪魔をしないで、私に任せて」

「なっ、カミラ!!」

「あら、秘密にする必要は何処にありますの? ラスティ様は、彼女を可愛がる母を憎み、恨み、そして諦め、母を奪った彼女も嫌い、憎んでいるとそうおっしゃっていたでしょう? でも、彼女は必要な方。 ならば、私が仲良くすべきだと。 私、そのように考えておりますのよ?」

 語られる言葉に、私は凍り付いた。
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