【R18】私は運命の相手ではありません【完結】

迷い人

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前編

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 時は遡る。
 私が海に落とされる前まで……。



 獣人奴隷売買組織が数年ぶりに領内の貿易港で幅を利かせていると言う話だった。

 彼等は、獣人が住まう大陸から獣人を買い取り、攫い、奴隷船でやってくる。 レイダー領には国内でも最大級の貿易港を抱え、北方の要とされているため、奴隷商人達はレイダー領に拠点を所有したがるし、かつては獣人奴隷の巨大売買組織の拠点が存在していた。

 ホリーが初めて獣人奴隷だった黒虎のルカと白狼のブランを購入したのは、8年前、10歳の時。 その後も、気に入った子、役に立つ子を買い取っていたけれど、それでは奴隷となった者達が救われない事は理解していた。

 だから……私は獣人達自身に獣人を救うために使った。 厳しい取り締まりを行い5年以上の間は奴隷売買の噂を耳にする事すらなかったのだ。

 ブレンダが亡くなった事で、取り締まりが緩くなったと彼等は考え、そして行動したのでしょうか? そんな場所に、わざわざ私が出向いて行ったのは、当然、物見遊山等ではありません。

 私が出向いた理由、それは裁判制度の簡略化。

 奴隷売買を行っている者達は、膨大な金銭を左右できる者、権力を持つ者、人脈を持つ者な訳で、獣人差別が激しいこの国で、獣人達がそのような人達を処罰する事は出来ない。 すれば、相手の悪行に関係なく獣人が悪いと決めつけられる。

 だから、私が出向き

『あなた、死刑ですわ』

 と、直接命じなければいけない。 かなり横暴ですが、大きな権力と責任を負う公爵家当主の特権と言えるでしょう。



 私が奴隷商人と思われる連中に捕まった理由……なんて事はありません。 最初から私と獣人達が出て来る事を配慮し計画が練られていたから。

 今まで負けなしだったから……油断していましたわ。

 今回のミス。

1、 獣人対策がなされていた。
 主に匂いを混乱させ、獣人に対応できる身体能力を持つ者を配備、立体を使った逃亡ルートが予定されていた。 私を連れた者が通り過ぎた後に、巨大な荷運び用の木箱を使いルートを変更していた。

2、 子供の獣人が囮と人質に使われた。
 そしてその子達は消耗品のように殺された。

3、 奴隷商人と思っていた相手が、国所属の騎士だった。
 この場合、私個人の裁量で処分して良いのでしょうか? そんな迷いがあった。 殺して死体を隠してしまえばいいのよ。 等と言う割り切りが最初からあれば、乗り切れたかもしれません。

4、 そして……カミラがここまでの敵である事を想定していなかった。



「ようやく、話し合いの場をもって下さいましたね。 ありがとうございます。 どうしても、ホリー様が信用してくださらなかったから、すっごく急いで準備をしたんですよぉ~」

 断崖絶壁、窓から下を覗き込めばすぐに海と言う部屋に、お茶会の準備がされている。

 とは言え……私の身体は椅子にロープでくくられ自由は無く……部屋は獣人の子を殺した血で赤く染まっていた。

 顔面に血を浴びながらも狂気じみた笑みを向けるカミラに、私は恐怖を覚える。

 彼女は獣人の子供を人質に……いえ、殺す事で自らの力を見せつけて来たのです。 今、彼女が要求するのは、
・ラスティが当主になっても私が領地運営を取り仕切る事。
・公爵家が市場に流通させる魔鉱石の販売量の増加と独占。
・貿易港への取り締まりの撤廃。

「それは私に求める事ではなく、ラスティが当主になった際に求めればよろしいのではありませんか?」

 会話は助けが来るまでの時間稼ぎ、血の嫌な臭いに耐えながら私は語る。

「あぁ、違いました。 今問うべきことは、このことをラスティは知っていますの?」

「私達はお互いの事を良く理解しておりますの。 良い所も、悪い所もぜ~んぶ。 能天気に正義を振りかざすあなたとは違いますのよ。 ちゃんと信頼しあい心を通わせていますのよ。 だけど……ねぇ、この状況なら、もう理解できますよね? あなたが築いてきたものは、もう全て終わり。 the end。 平和よオサラバ、闘争よこんにちは」

 ニッコリと微笑みながらカミラは言う。

「ラスティの子を身籠るだけでは、済みませんでしたの?!」

「えぇ、残念ながら私に付き従う者達がいますの。 とても、とても、可哀そうな者達ですの。 優しい優しいホリー様。 住まう土地も家もなく、船で放浪するしかない私達をお助け下さいませ」

 狂っている。

 狂気に笑うカミラに背筋が凍る。

 獣人の子供達を殺した血が、床も壁も赤く色づける中で……彼女は自らを赤く染める事を気にするどころか喜びながら、床に膝をつき、私に手を合わせて祈るようなポーズをとっていた。

 手に赤く濡れた刃物をもったまま。



 頭がオカシクなる。
 どうすれば、この場が収まるのか想像もつかない。

 参りましたと頭を下げれば良いと言うものではない事は分かる。 どうにかしないと……。

「なぁにぃ~、こんなに懇切丁寧に色々説明をしてさしあげていますのに、だんまりですの?」

「普通の人間が、こんなの耐えられるはずがない……私はあなたとは違うのよ」

「あら、褒めて頂きありがとうございます。 でも、ホリー様も謙遜なさる事はありませんわ。 あなたも十分に普通ではありませんから。 それに、これは私のせいではなくあなたのせい。 私は、ちゃ~んと宣言していましたよね? 信じて頂けなくて、私とても悲しかったのですよ?」

 もし……彼女の背後にいるのが、他の公爵家の者だったなら?

 経済こそ上手く回っていても、人同士の繋がりが破綻気味であるレイダー公爵領が、他の公爵家に適うだろうか? いえ……適う訳がない。 その場合は、神殿か王家のどちらかを味方につける必要があるのだけど、どちらにしても事前許可が必要となる。

 どう、しましょう。

 いえ、今は理屈よりも逃げる事が重要ですのよ!! 私は自分に言い聞かせる。

「ちょっと!! 私の話を聞いていますの?!」

 そう言ってカミラは私のお腹に蹴りを入れ、私は椅子事ひっくり返る。

「お腹の子に悪いわよ」

「あら……こんなの何時まで本気にしている訳? ばかねぇ~。 子供が出来ました責任を取ってくださいなんて言うのは、何よりも先に調べて置く必要があるでしょう? でも、まぁ……そうねぇ……あなたに巻き込まれた結果、私は腹の子も失ったと言うのが丁度良いわよね。 あぁ、もういいわ。 ホリー様、死んでくださいませ」

 カミラは女性としては大きな身体をしており、その力も強かった。

 椅子ごと私の身体を引きずり……海に面するバルコニーへと私を引きずり運ぶ。

「ちょっと、誰か手伝ってよ!!」

「マジ、落とすんですか? サメがうようよといる海に落としたりしたら、死んじゃいますよ? それに、ただ殺すなんて勿体なくはないですか? もっと有効利用できると思うんですけどねぇ~」

「余計な事を話されても不味いでしょうが」

 そうして、私は海におとされた。



 彼女は知らない。

 レイダー領に住まう精霊が与える加護が『水』であることを……。

 そして、私は水の中に落とされた後に、私を拘束する縄を外し、逃げ出す……つもりが……余りの水の冷たさと、疲弊した体力のせいで、意識を保つ事が出来ず……、他人の力を借りて助けられる事になるのだった。
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