【R18】私は運命の相手ではありません【完結】

迷い人

文字の大きさ
12 / 36
前編

12

しおりを挟む
 子供の頃と同じようにラスティは剣を振るっていた。
 ラスティを慕い共に剣を振るう姿も、
 ソレを見る人々も、
 頑張ってくださいと声をかける様子も、
 飲み物やタオルが差し出される様も、全てがラスティにとって代割らない景色。



 懐かしい。

 故郷への思いと共に、生まれるだろう赤ん坊の事をラスティは思っていた。

 故郷に帰って来て良かった。



「ラスティ様、アレを見て下さい!!」

 上空を旋回する鳥に、従者がいち早く気づき声をかけた。

 同僚である騎士が警戒するかのように剣を構える。 小さくとも空を飛ぶ小さな生き物の敵意が本物だったから。

 だが、ラスティは剣を下ろした。

「どうした。 何か用か?」

『主様を、罠に嵌めましたね』

 怒りの籠った声ではあるけれど、それは歌うように美しい。

「何を言っているんだ!!」

 叫ぶのは従者で、ラスティは周囲を見回していた。

「そう言えば……カミラは、どうした?」

 舌打ち交じりのラスティの声に、同僚騎士は周囲を見回し、そして……走った。

「あんな獣の言う事を信用するのですか!!」

 従者の叫びに、

「あのような怒りを偽るなど、簡単ではない。 何があったか聞く必要があるだろう」

 奴隷商人を裁くため、貿易港へと出向いたホリーが罠にあい捕まり、奴隷商人と共にカミラがいたことを鳥は告げた。

「そう……か。 それで私にどうさせたい?」

 鳥はまだ、ホリーが海に放り出された事を知らない。

『私が、私達が望むのは主の解放だけ。 それが出来ないと言うなら、頼りません。 ただ、それだけの事です』

 鳥は最初から期待はしていなかった。

 鳥が次に命じられたのは、屋敷内にいる獣人をすべて集めて待機させる事。 相手が王家の騎士だからこそ何も出来ないが、見続け見張る事は出来る。

 飛び去ろうとする鳥へとラスティは呼びかけた。

「直ぐに移行!! 案内を!!」

「ラスティ様!! 獣の戯言を信用なさるのですか!! ホリー様はカミラ様に嫉妬し罠にかけようとしているに決まっています!!」

 不機嫌そうにラスティを止めようとする従者。
 叫ぶ騎士同僚。

 戻ってきた騎士同僚はカミラがいない事を告げた。

「そうか……馬の準備を、すぐに準備をしよう」

「なぜ!! カミラ様を疑うのですか!!」

 共に王都を目指した従者と侍女達がラスティに叫べば、同僚騎士が視線で止めろと言う。



 同僚達は、騎士学校に入った頃からのラスティの友人で、だからこそラスティに近づき距離を詰めていくカミラをオカシイと思っていた。

「一切女性を近づけなかった男が?」
「友情より女を選んだか。」
「それで立派な騎士になれるのか?」
「いや、守るべきものがいた方が……」
「だが、彼には妻がいたはずだ」
「らしくない……」

 騎士同僚達はカミラと仲睦ましいラスティをオカシイと感じたが、同郷の従者と侍女達はホリーを嫉妬の目で見ていた事から喜ばしいと感じていた。

 その差が、その場にあった。



 騎士服に身を包みながら、同僚はラスティに笑みを向ける。

「まさか、オマエがカミラを疑うなんて思いもしなかった」

「私は自分の目を信じるだけだ」

 その言葉に同僚達も従者達も肩を落とす。
 だが、次の言葉には誰もが同意した。

「カミラがどうあれ、公爵家当主が罠にかけられ捕まったとなれば助けなければいけない。 彼女がいなければ試練を受ける事が出来ないからな」



 そして、そんな彼等が見たのは……血の中で真っ赤に染まり泣くカミラの姿だった。 髪も顔も服も手も靴も何もかも赤く染め部屋で一人で泣いていた。

 赤い液体の中には肉塊が混ざっている。
 肌寒い季節で腐敗臭は無いが死臭が立ち込めていた。

「これは……」

 誰もが声を失い、足を止め、吐き気を抑える。

「カミラ……」

 凄惨な景色を前にラスティだけが足を進めた。

「ラスティ様……」

 静かに涙をこぼしながらカミラは振り返り、ラスティを見上げる。

「赤ちゃんが……私とラスティ様の赤ちゃんが……ホリーさ……いえ、ホリーに殺されてしまいましたぁ!! あぁあああああああっ、そ、そし、て、彼女は……私に乱暴を働き……腹から落ちて来た赤ん坊を八つ裂きにしたのです!!」

「あぁ、なんて、酷い事を……お可哀そうに!!」

 従者と侍女が共に涙すれば、騎士達は顔を見合わせてボソリとつぶやく。

「明らかに血の量がオカシイだろう」

 そんな声は聞こえないとばかりにカミラは話し続ける。

「ホリーは、彼女は自らの仲間に、獣達に命じたのです。 自分を捕らえた奴隷商人達を八つ裂きにするようにと。 そして、こうつづけたのよ!! ここであなたを殺せばラスティ様は私の元に戻って来ると……。 そうして彼女は私に殴る蹴るの暴力を振るい、うぅうううううぁあっぁぁぁああ あ、恐ろしかった……嬉々として、私を楽しそうにいたぶり、わたしの、私達の……赤ん坊をナイフで切り裂いて八つ裂きに……」

 カミラは泣いた。

「だが、女当主殿が奴隷撲滅のために活動していると言う話は聞いたことがあるが、なぜ、カミラ、あなたがココにいるのですか?」

 騎士の1人が聞けば、どうしてもついてくるのだと言った侍女が身を清めるための水を持ってきて、涙を流しこみ上げる吐き気に耐えながら言った。

「耐えがたい屈辱を受けたカミラ様に、なんて事を!! あなた達には慈悲と言うものがないのですか!!」

「いいえ……私が、私が悪いんです。 どうしても彼女と話がしたくて、ラスティ様のお役に立ちたくて、彼女を説得する機会を得たくて、私は彼女を追ったのです。 それで……」

「それでホリーは?」

 ラスティが静かに問うた。

「つい先刻……海に身を投げました。 ラスティ様の声と足音を聞き……正気を取り戻したのかもしれません。 自分が何をしたか……彼女はラスティ様に嫌われ疎まれていた事を知りながらも愛していた……だからこそ、彼女は……これから起こるべきことを想像して絶望したのでしょう。 一時の衝動に身を任せてしまった事を……なんて、愚かで哀れな方なのでしょう」

 静かに泣き続けるカミラの側でラスティは立ち尽くし、そして……あけ放たれた扉をくぐりバルコニーから下を見下ろした。

 険しく切り立った崖。
 海風は強く吹き荒れる。

 ラスティは冷えた内臓と焦る気持ちのままに、崖を見回し死体を探す。

 そんなラスティの背後ではカミラが今も涙と共に語っていた。

「彼女が居なければ……試練も受けられない……。 せっかくラスティ様を助けるためについて来て下さったのに、私が不甲斐ないばかりに申し訳ありません」

 カミラはラスティの同僚騎士に頭を下げた。

「カミラ様、今は、お身体をおいたわり下さいませ。 ラスティ様!!」

「ぇ、あぁ」

「カミラ様が震え怯えていられると言うのに!!」

「あぁ、すまない……」

 ラスティは座り込んだままのカミラにマントをかけて包み込み、そして抱き上げる。 その手がラスティに伸ばされた。

「手……」

 ボソリとラスティが言う。

「あぁ、申し訳ありません。 血が、ついてしまいますね」

「いや……構わない」

 肉塊になり正体不明となるほどまで切り裂かれた人。 そして、その中心にいたカミラ……。 なぜ、カミラの掌まで赤いのか? 微かに感じた疑問だった。

 だが、次の瞬間には身体を支えるのに床に手をついたのかもしれない。 それとも、切り刻まれる赤ん坊を胸に抱こうとしたのかもしれない。 と、自分に言い聞かせ……ながらも、違和感は拭えなかった。

 カミラを抱き上げたラスティは同僚へと視線を送る。

「わざわざ、試練の手伝いに来てもらったのに申し訳ない事をした」

「いや、構わんよ。 ここはアレだが……良い土地だ。 色々と勉強になる」

「もし、良ければ、折角とった休暇をレイダー領で過ごしてくれ。 こんな事になって、十分なもてなしは出来ないかもしれないが……」

「そうだな……。 いや、当主が居なくなり、これからいろいろと忙しくなるだろう。 俺達は屋敷を出る事にする。 なぁ」

「ぇ、折角公爵家で贅沢三昧なのに?!」

「何、庶民の料理も悪くはないさ」

「血の海の中で、良くそんな事が言えますねぇ……さぁさぁ、ラスティあなたはカミラを連れて早く屋敷に戻ってあげてください」

「そうそう、俺達は色々と気晴らしをして帰るからさぁ」

 そうしてラスティとカミラを追い払った。



 騎士として数多の死体を見て来た。

 あんな華奢な身体をした女性が? と言う思いと、勇猛果敢に剣を振るうカミラを知っていれば、この状況がオカシイと思うのも当然と言うもの。

 だが、1人の騎士は呆れたように言い注目を浴びる事になる。

「にしても、精霊の加護って凄惨なものだなぁ。 正気じゃない」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」 若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。 実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。 一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。 巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。 ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。 けれど。 「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」 結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。 ※復縁、元サヤ無しです。 ※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました ※えろありです ※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ) ※タイトル変更→旧題:黒い結婚

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...