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前編
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『いい加減にしろ……主をカラカウな。 性癖をひけらかしたい露出狂だと言うなら、良い店を紹介してやる』
「紹介出来る店を知っていると言うのは、なかなかの遊びにのようですね」
『ウルサイ!! 情報を集めるのは俺の仕事の1つだ。 それより、話が終わったんなら先へ向かうぞ。 ローズ片付けを』
『はいはい』
「別に歩きながらでも、私は構いませんよ」
『まだ、オマエの性癖を聞かされ続けるのか?』
「まさか。 ごめんねホリー様が余りにも可愛らしくて」
そしてルカはローズが片付け終わると同時に私を少し強引に背に乗せ、ヴィセを置き去りにするかのような速さで移動を始めるから、私は慌ててローズを抱き上げた。
『ちょ、おいらまでおいて行くのは勘弁してくれよ~~』
危険な魔物もいる鍾乳洞、叫ぶに叫べないカワウソのオッズの嘆きが微かに聞こえる。 私は苦笑いと共に、私を乗せるルカの背に身体を寄せ、耳元で止まるようにと告げた。
ルカの溜息、そして仕方ないと言う気持ちが耳の動きで分かれば、私と一緒にルカの背に乗っていたローズが上品に笑っていた。
『若いって良いわねぇ~』
とか言いながら……。
「若さなんて関係ないと思うわ」
そして話は再び、ヴィセの故郷の話へと戻る。
私はルカの背から降り、柔らかな毛並のローズを抱っこしながら歩いていた。
「多くの者が王女に惹かれ、憧れ、目が眩んでいたのでしょう。 俺は、俺達は気づいていなかったんです。 戦争を仕掛けられていた可哀そうな被害者から、意味も無く戦争を仕掛ける加害者になっていた事に」
「その噂は耳にしたことはあります。 戦から船で逃げて来た者達の話を」
「そうですか……」
それはホウラクの敵だった国の者達の話であったため、全てを信用するつもりはなかったのですが……。
私が聞いたのは、ホウラク国は野蛮な侵略国家であり、彼等は貧しい国に戦いを仕掛け全てを奪ったと……。 僅かな食料、財産、そして……全ての命を……。
「ホウラク国は豊かな国でありながら、貧しい周辺諸国へと侵攻を続けていたのですよね。 私はその話を聞いた時、そこに違和感を覚えました。 ホウラク国には戦争を仕掛ける理由はありませんよね?」
「えぇ、食料も鉱脈も川も海も、何も無くとも戦争を続けました。 戦争で得られる物は何も無く失うだけだと気付こうともせずに。 彼等は貧しさに嘆き戦を仕掛けてくるのだと……そう言われ信じました。 美しく猛々しい我らが王女の言葉だったから……いえ……もしかすると、多くの者は身近に王女を感じられる戦争が好きだったのかもしれません」
「ですが……それは……無益な争いは敵を作り続けますよね?」
「だから、殺しつくすのです」
「……」
「ですが、王族の中には当然のようにホリー様と同じように考える者がおりました。 王女の言動に疑問を感じたのです。 そして……王女を調べ探る者が出てきました。 そして彼女がある呪術師と繋がっている事を知ったのです。 そこでは恐ろしい呪術師でした、永遠の美の探究者。 強さと美貌は他者から生命力を奪う事で得られると……。 俺達は自衛のために戦っていたと思っていた。 ですが、それは……血を欲する王女の欲に踊らされていたに過ぎなかった。 あなたのようなお嬢様には理解できないでしょうね」
「王女の気持ちは理解できそうにありませんが……。 その呪術師が行った血の……生命力の原理は理解できます。 それは……この鍾乳洞の中で、魔物の力を集め、生まれる魔鉱石と似ているような……そんな気がします」
人の血を糧にするか……、
魔物の命を糧にするか……、
それだけの事で原理的には不思議はありません。
ただ……脳裏に思い浮かぶのは、血の中のカミラ。
「……あなたは、お優しい。 そして……残酷だ。 なんて、王女と共に戦場を駆けていた俺が言うべき事ではありませんよね」
ヴィセの言葉を私は笑い聞き流し、話を戻した。
「ところで……探し人がいると言う話でしたよね。 まさか……その王女様を?」
「えぇ、王女は、彼女を恐れた王によって極刑を言い渡されましたが、彼女は……彼女の信奉者によって逃がされました。 そして、私は、彼女に置いて行かれたのです」
「そんな恐ろしい女性なのに……諦めないのですか? 今も愛しているのですか?」
「そうですね……例えば、あなたは……其方の黒虎が人を何人も食い殺したからと言って、恐ろしいから殺してしまえと思えますか?」
「それは……思えないかな……」
「でしょう? 俺も、彼女がどんなことをしても……愛しているでしょう。 恐ろしくはありません。 彼女と幾度も夜を過ごしましたが、俺は生きているのですから」
ヴィセは語るのは愛の言葉。
なのに……私には、
その瞳が怖かった。
浮かべる微笑みが怖かった。
『それで、その女の容姿は?』
「とにかく美人です。 見事な長いストレートの黒髪、深い緑の瞳です。 ただ……そんな事はどうでもいい、彼女を見れば視線が奪われ、ずっとその姿を見つめていたと、褒められたい、認められたいと言う欲求が生まれるのです」
『なるほど……知らんな』
「そうね」
私は同意した。
心の何処かで、彼の探し人がカミラでそして彼女を連れ行ってくれれば面倒ごとは解決するのに……と考えていた。
そして私達は……その後、2日をかけて試練の入り口へと辿り着いた。
「ホリー!!」
扉が開いた先……私を呼ぶ声に、私は驚き顔を上げた。
人がいるなんて、待っている人がいるなんて想像もしていなかったから。
ラスティは驚く私を抱きしめようとした。
ソレを遮るようにラスティに飛び掛かろうとするルカと、私を抱き寄せるように引き寄せ背に隠すヴィセ。
「誰だ……オマエは」
ラスティはルカの体当たりを避けるために背後へと飛び下がりながらも、ヴィセを睨みつけ問いかける。
「俺達は、命を預け合った親友ですよ。 それよりあなたは? ここで待っていたと言う事は……あなたはホリーがここに落とされた事を知っていたと言う事ですよね?」
そうヴィセは警戒を強めた。
ヴィセが信頼できる相手だと言う確証はありません。 ですが、彼は私が海に落ちるのを見て飛び込み、そして、一緒に鍾乳洞の迷路を歩いて来た。
ラスティよりも……今の私にとっては身近な相手となっていて、反面カミラを恋人として連れ帰ったラスティに対しては敵と言う認識が強まっていた。
「レイダー公爵家の当主が、海に落ちたくらいで死ぬわけがない。 直ぐに上がってこなかったと言うなら……そこに何か理由があると考えるのは当然の事だろう。 それに、精霊の試練の場は海と繋がっていると聞いたことがあったから……それより……君は、見ず知らずの男と何日も共にいたのか!!」
ラスティの言い分は納得できるものの、責めるような言葉に呆れながらも苛立った。
「ソレを言うなら……あなたは……カミラと共に私を殺そうとしたのですか!? そんなにも、私が憎いと言うなら、そう言えば良いでしょう」
「私は、違う!! カミラは……彼女は……君に子を……いや、違う。 そうではない……彼女を連れ帰った事を悪かったと思っている。 どうか、話を聞いて欲しい……」
私は溜息をついた。
頭がズキズキと痛かった。
気持ち悪かった。
なぜ、そうなのかは分からないけれど、私は苛立ちのままに言うのだ。
「子を殺すなら……それよりもカミラ自身を殺すでしょう。 そんな理屈の合わない事はしませんわ。 それより……あぁ、もう、良いです……色々とハッキリさせないといけませんね。 話は聞きます。 必要ですから。 でも、まずはお風呂に入って食事をして眠らせてください」
そう現実的な事をいいながらも、私は敵としてラスティを見ていた。
「違う!! そんな事を望んでいる訳じゃない!! ただ……私は、心配だったんだ……」
泣きそうな顔を見ても、心が揺れる事は無かった。
頭が痛くて……。
心がざらついて。
気持ち悪くて。
それでも……私達と同じように汚れた身なりをしているラスティを見れば、ずっと待っていたのかと……心が揺れ動きそうで、逃げるように私はローズに告げた。
「お風呂に入って、ユックリと眠りたいわ。 手配をお願いしてもいいかしら?」
『はい……直ぐに準備をいたしましょう』
そして、大きく翼を広げ、伸びをして、飛び去って行った。
「ホリー、話をしたい、聞いてくれ!! 頼む」
「疲れていますの……」
私は、ルカの背に身を任せ先を急がせた。
その背後では……追いかけようとするラスティの肩をヴィセが掴みとどめるのだった。
「紹介出来る店を知っていると言うのは、なかなかの遊びにのようですね」
『ウルサイ!! 情報を集めるのは俺の仕事の1つだ。 それより、話が終わったんなら先へ向かうぞ。 ローズ片付けを』
『はいはい』
「別に歩きながらでも、私は構いませんよ」
『まだ、オマエの性癖を聞かされ続けるのか?』
「まさか。 ごめんねホリー様が余りにも可愛らしくて」
そしてルカはローズが片付け終わると同時に私を少し強引に背に乗せ、ヴィセを置き去りにするかのような速さで移動を始めるから、私は慌ててローズを抱き上げた。
『ちょ、おいらまでおいて行くのは勘弁してくれよ~~』
危険な魔物もいる鍾乳洞、叫ぶに叫べないカワウソのオッズの嘆きが微かに聞こえる。 私は苦笑いと共に、私を乗せるルカの背に身体を寄せ、耳元で止まるようにと告げた。
ルカの溜息、そして仕方ないと言う気持ちが耳の動きで分かれば、私と一緒にルカの背に乗っていたローズが上品に笑っていた。
『若いって良いわねぇ~』
とか言いながら……。
「若さなんて関係ないと思うわ」
そして話は再び、ヴィセの故郷の話へと戻る。
私はルカの背から降り、柔らかな毛並のローズを抱っこしながら歩いていた。
「多くの者が王女に惹かれ、憧れ、目が眩んでいたのでしょう。 俺は、俺達は気づいていなかったんです。 戦争を仕掛けられていた可哀そうな被害者から、意味も無く戦争を仕掛ける加害者になっていた事に」
「その噂は耳にしたことはあります。 戦から船で逃げて来た者達の話を」
「そうですか……」
それはホウラクの敵だった国の者達の話であったため、全てを信用するつもりはなかったのですが……。
私が聞いたのは、ホウラク国は野蛮な侵略国家であり、彼等は貧しい国に戦いを仕掛け全てを奪ったと……。 僅かな食料、財産、そして……全ての命を……。
「ホウラク国は豊かな国でありながら、貧しい周辺諸国へと侵攻を続けていたのですよね。 私はその話を聞いた時、そこに違和感を覚えました。 ホウラク国には戦争を仕掛ける理由はありませんよね?」
「えぇ、食料も鉱脈も川も海も、何も無くとも戦争を続けました。 戦争で得られる物は何も無く失うだけだと気付こうともせずに。 彼等は貧しさに嘆き戦を仕掛けてくるのだと……そう言われ信じました。 美しく猛々しい我らが王女の言葉だったから……いえ……もしかすると、多くの者は身近に王女を感じられる戦争が好きだったのかもしれません」
「ですが……それは……無益な争いは敵を作り続けますよね?」
「だから、殺しつくすのです」
「……」
「ですが、王族の中には当然のようにホリー様と同じように考える者がおりました。 王女の言動に疑問を感じたのです。 そして……王女を調べ探る者が出てきました。 そして彼女がある呪術師と繋がっている事を知ったのです。 そこでは恐ろしい呪術師でした、永遠の美の探究者。 強さと美貌は他者から生命力を奪う事で得られると……。 俺達は自衛のために戦っていたと思っていた。 ですが、それは……血を欲する王女の欲に踊らされていたに過ぎなかった。 あなたのようなお嬢様には理解できないでしょうね」
「王女の気持ちは理解できそうにありませんが……。 その呪術師が行った血の……生命力の原理は理解できます。 それは……この鍾乳洞の中で、魔物の力を集め、生まれる魔鉱石と似ているような……そんな気がします」
人の血を糧にするか……、
魔物の命を糧にするか……、
それだけの事で原理的には不思議はありません。
ただ……脳裏に思い浮かぶのは、血の中のカミラ。
「……あなたは、お優しい。 そして……残酷だ。 なんて、王女と共に戦場を駆けていた俺が言うべき事ではありませんよね」
ヴィセの言葉を私は笑い聞き流し、話を戻した。
「ところで……探し人がいると言う話でしたよね。 まさか……その王女様を?」
「えぇ、王女は、彼女を恐れた王によって極刑を言い渡されましたが、彼女は……彼女の信奉者によって逃がされました。 そして、私は、彼女に置いて行かれたのです」
「そんな恐ろしい女性なのに……諦めないのですか? 今も愛しているのですか?」
「そうですね……例えば、あなたは……其方の黒虎が人を何人も食い殺したからと言って、恐ろしいから殺してしまえと思えますか?」
「それは……思えないかな……」
「でしょう? 俺も、彼女がどんなことをしても……愛しているでしょう。 恐ろしくはありません。 彼女と幾度も夜を過ごしましたが、俺は生きているのですから」
ヴィセは語るのは愛の言葉。
なのに……私には、
その瞳が怖かった。
浮かべる微笑みが怖かった。
『それで、その女の容姿は?』
「とにかく美人です。 見事な長いストレートの黒髪、深い緑の瞳です。 ただ……そんな事はどうでもいい、彼女を見れば視線が奪われ、ずっとその姿を見つめていたと、褒められたい、認められたいと言う欲求が生まれるのです」
『なるほど……知らんな』
「そうね」
私は同意した。
心の何処かで、彼の探し人がカミラでそして彼女を連れ行ってくれれば面倒ごとは解決するのに……と考えていた。
そして私達は……その後、2日をかけて試練の入り口へと辿り着いた。
「ホリー!!」
扉が開いた先……私を呼ぶ声に、私は驚き顔を上げた。
人がいるなんて、待っている人がいるなんて想像もしていなかったから。
ラスティは驚く私を抱きしめようとした。
ソレを遮るようにラスティに飛び掛かろうとするルカと、私を抱き寄せるように引き寄せ背に隠すヴィセ。
「誰だ……オマエは」
ラスティはルカの体当たりを避けるために背後へと飛び下がりながらも、ヴィセを睨みつけ問いかける。
「俺達は、命を預け合った親友ですよ。 それよりあなたは? ここで待っていたと言う事は……あなたはホリーがここに落とされた事を知っていたと言う事ですよね?」
そうヴィセは警戒を強めた。
ヴィセが信頼できる相手だと言う確証はありません。 ですが、彼は私が海に落ちるのを見て飛び込み、そして、一緒に鍾乳洞の迷路を歩いて来た。
ラスティよりも……今の私にとっては身近な相手となっていて、反面カミラを恋人として連れ帰ったラスティに対しては敵と言う認識が強まっていた。
「レイダー公爵家の当主が、海に落ちたくらいで死ぬわけがない。 直ぐに上がってこなかったと言うなら……そこに何か理由があると考えるのは当然の事だろう。 それに、精霊の試練の場は海と繋がっていると聞いたことがあったから……それより……君は、見ず知らずの男と何日も共にいたのか!!」
ラスティの言い分は納得できるものの、責めるような言葉に呆れながらも苛立った。
「ソレを言うなら……あなたは……カミラと共に私を殺そうとしたのですか!? そんなにも、私が憎いと言うなら、そう言えば良いでしょう」
「私は、違う!! カミラは……彼女は……君に子を……いや、違う。 そうではない……彼女を連れ帰った事を悪かったと思っている。 どうか、話を聞いて欲しい……」
私は溜息をついた。
頭がズキズキと痛かった。
気持ち悪かった。
なぜ、そうなのかは分からないけれど、私は苛立ちのままに言うのだ。
「子を殺すなら……それよりもカミラ自身を殺すでしょう。 そんな理屈の合わない事はしませんわ。 それより……あぁ、もう、良いです……色々とハッキリさせないといけませんね。 話は聞きます。 必要ですから。 でも、まずはお風呂に入って食事をして眠らせてください」
そう現実的な事をいいながらも、私は敵としてラスティを見ていた。
「違う!! そんな事を望んでいる訳じゃない!! ただ……私は、心配だったんだ……」
泣きそうな顔を見ても、心が揺れる事は無かった。
頭が痛くて……。
心がざらついて。
気持ち悪くて。
それでも……私達と同じように汚れた身なりをしているラスティを見れば、ずっと待っていたのかと……心が揺れ動きそうで、逃げるように私はローズに告げた。
「お風呂に入って、ユックリと眠りたいわ。 手配をお願いしてもいいかしら?」
『はい……直ぐに準備をいたしましょう』
そして、大きく翼を広げ、伸びをして、飛び去って行った。
「ホリー、話をしたい、聞いてくれ!! 頼む」
「疲れていますの……」
私は、ルカの背に身を任せ先を急がせた。
その背後では……追いかけようとするラスティの肩をヴィセが掴みとどめるのだった。
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