私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

文字の大きさ
1 / 28

01.私の世界は、家族で完結していた

しおりを挟む
 この世界は、各国が所有する世界樹によって生かされている。
 世界樹は天候を操作し、大気や大地や水、火、光や闇の中をマナで満たし、生きとし生きるモノを活性させる。






 王城へと向かう馬車の中。
 私は息苦しさを覚えていた。

 父ジェフリーと後妻である義母ニーヴィを目の前に……。
 私の手を取り宥めるように手をさする腹違いの姉ヴィヴィアン。
 そして、姉の反対側になる私の隣には婚約者である男ヨハン・モーガン。

 何れも、この国の生まれではなく、遠い魔法を生業とする故郷を離れ、竜を始祖とし己の力をすべてとする国アクロマティリに住まいを置く珍しい人達と言っていい。 決して本人が望んでこの国に来たわけでも留まる訳でもないのだが……。

 竜を先祖に持つ頑強な身体、己の身体だけで簡潔させる強烈なマナ、それがこの国の人々の尊厳であり自慢であり、他国に対する見下し……私の婚約者となったヨハン以外は、自然界とのマナの親和性に目をつけられ誘拐されてきた。

 必用だからと攫っておいて、向けて来る視線は差別以外の何物でもなかったと家族たちは私に何時も言って聞かせるのだ。

 この国の者達を信用してはいけない。 と……。

「お姉様……私、とても嫌な予感がするの……」

 この日、周囲には悪意に近い悪いマナ……瘴気が渦巻いていた。

「シーラ。 この国では私達は何処まで行っても余所者なのだよ。 向けられる蔑みに負けてばかりいてはいけないよ。 竜の呪いで繋がれている以上は仕方がないことなんだ」

 何時もと変わらない父ジェフリーの言葉なのだけど……今日は王族主催の社交界に初めて招かれていたせいだろうか? その声はどこか浮かれているように感じるのだけど……そんな事、ある訳ありませんよね。

 コホコホと私は瘴気に咽て咳こむ。

「今日は、貴方がこのアクロマティリでのデビューを迎える大切な日なのですから、頑張りましょう」

 姉が私の手を撫で宥めてくれた。

「マナを上手く操り体調を整えなさい。 貴方が母である女公爵に捨てられた身でありながら、社交の場に出られる等、本来であればあり得ない栄誉なのですから」

 そう私を宥めるのは、育ての母にして……母が竜の血の呪いで父を縛るまで、父の妻だった女性ニーヴィ。

「お前が今日の日を無事に終えてくれたなら、私達は竜の呪いから解放されるかもしれないのです。 シーラ……私達の可愛い子、私達の希望。 どうか耐えておくれ」

 父が懇願する。



 王家との婚姻を幾度となく繰り返し、濃い竜の血を保っているトロワ公爵家の唯一の子として生まれた母は、母の父である先々代の公爵を若くして戦場で亡くした事で公爵の地位に就いた。

その時、1つの王命を受けたのだ。

『マナとの親和性が強く、精霊との交流ができる巫女を産みこの国を救うのです!』

 竜の国アクロマティリが、余りにも竜の血を過信し過ぎた結果……100年以上に渡って、この国には世界樹を支える巫女が誕生していない。

 自らの身体の中で膨大なマナを発する事が出来る竜と、父たちのように自然界のマナを操り事象に影響を与える魔導師とは、マナの使い方が全く違うのだ。

 挙句、世界樹はその国に生まれた者にしか反応しない。

 竜族と言っても、時折は外部のマナとの親和性が高い者もおり巫女の座についていたのだが、ここ100年以上その役目に就く者はおらず、国がマナに渇き始めたが故の王命だった。

 そのような国難に遭遇しながらも、未だ民が死に絶えていないのは、竜の血の強さかもしれないが……アクロマティリ国は滅びかけていた。

 それゆえの無茶ぶりなのだと……母の秘書を務めた老執事ニウスが言っていた。

『それでも、国王陛下を、王家を恨まないで下さいませ。 国王陛下とて無理を承知で、強い力を持つ貴族の娘全員におっしゃったのですから。 どうか……国王陛下への不満は胸の内に納めて下さいませ。 恨めば、最も濃い竜の呪いがお嬢様に向けられかねないのですから。 貴方の父と……貴方が家族と呼ぶ方々のように……』

 だから、私は王家がとても怖いって思ってしまうの。

「……怖いわ……」

「大丈夫よ。 私もヨハンもずっと側にいるわ」

 そう姉のヴィヴィアンは、私を慰める。

 姉と言うが……母は違う。

 私の母トロワ女公爵が、父を奪い手に入れるために竜の呪いを使った。

『我が者となり勤めよ。 裏切ればその血は竜の血により煮えたぎりその身は溶けだすだろう』

 その呪いが駆けられる以前、姉は既にこの世に生を受けていた。 父を奪い呪いをかけられ、それでも、私を大切に育て愛してくれた人達……そんな優しい人達の期待に応えなければいけない……。

 ニーヴィが私を鼓舞するように言葉を続ける。

「トロワ女公爵様がお亡くなりになり、次期公爵を愛妾である男との間にもうけた子スレイダーが爵位を得てしまった以上、このようなチャンスが貴方に巡って来るなんて奇跡のようなものなのですよ」

「そう、立派にトロワ公爵家の者として、お披露目をすませるのです」

 父が励ます。

「はい……」

 上手くやらなければ……緊張で胸が痛い。



 王城前。
 出迎えの衛兵を視界に納め、父は、囁くように言う。

「お前だって、あの女を、王家を腹立たしいと思っているだろう。 お前の母は王家の道具としてお前を産み落としただけだ。 王家のために魔力の強い道具が必要なだけだった。 だから……お前を愛する事はなかった。 王家の手の内に乗っては行けない」

 意味がわからなかった。
 だけれど、父が呪いによってゆがめられた人生を恨んでいる事だけは伝わった。

 せめて、私は侮られないようにしないと……。

「頑張ります」

 不安そうな私を義母は抱きしめる。

「大丈夫、貴方は私達が立派に育てましたもの」

「頑張らなくていいのよ。 結果さえ出せば」

 姉が言った。

「これが上手く言ったら、ご馳走を食べましょう」

 婚約者であるヨハンが私を穏やかに宥める。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

あなたの罪はいくつかしら?

碓氷雅
恋愛
 公爵令嬢はとある夜会で婚約破棄を言い渡される。  非常識なだけの男ならば許容範囲、しかしあまたの罪を犯していたとは。 「あなたの罪はいくつかしら?」 ・・・ 認証不要とのことでしたので感想欄には公開しておりませんが、誤字を指摘していただきありがとうございます。注意深く見直しているつもりですがどうしても見落としはあるようで、本当に助かっております。 この場で感謝申し上げます。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。 誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。 「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」 それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。 「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」 「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」 「はい、間違いないですね」 最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。 追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。 R15は念の為・・

なんでも押し付けてくる妹について

里見知美
恋愛
「ねえ、お姉さま。このリボン欲しい?」 私の一つ下の妹シェリルは、ことある毎に「欲しい?」と言っては、自分がいらなくなったものを押し付けてくる。 しかもお願いっていうんなら譲ってあげる、と上から目線で。 私よりもなんでも先に手に入れておかないと気が済まないのか、私が新品を手に入れるのが気に食わないのか。手に入れてしまえば興味がなくなり、すぐさま私に下げ渡してくるのである。まあ、私は嫡女で、無駄に出費の多い妹に家を食い潰されるわけにはいきませんから、再利用させていただきますが。 でも、見た目の良い妹は、婚約者まで私から掠め取っていった。 こればっかりは、許す気にはなりません。 覚悟しなさいな、姉の渾身の一撃を。 全6話完結済み。

(完結)夫と姉(継母の連れ子)に罪を着せられた侯爵令嬢の二度目の人生ー『復讐』よりも『長生き』したい!

青空一夏
恋愛
 私はカッシング侯爵家のアナスターシア。カッシング侯爵家の跡継ぎ娘であり、お母様の実家マッキンタイヤー公爵家の跡継ぎでもある立場なの。なんでって? 亡きお母様のお兄様(マッキンタイヤー公爵)が将軍職をまっとうするため、独身を貫いてきたからよ。ちなみにマッキンタイヤー公爵の初代はユーフェミア王女で聖女様でもあったのよ。私はその血も引いているわ。 お母様は私が5歳の頃に病で亡くなったわ。でも、まもなくお父様はサリナお母様と再婚したの。最初は嫌な気持ちがしたけれど、サリナお母様はとても優しかったからすぐに仲良くなれた。サリナお母様には娘がいて、私より年上だった。ローズリンお姉様のことよ。ローズリンお姉様も良い方で、私はとても幸せだった。 チェルシー王妃主催のお茶会で知り合ったハーランド第二王子殿下も優しくて、私を甘やかしてくれる味方なの。でも、お母様のお兄様であるマッキンタイヤー公爵は厳しくて、会うたびにお説教を言ってくるから嫌い。なるべく、伯父様(マッキンタイヤー公爵)に関わらないようにしていたいわ。そうすれば、私は幸せに気楽に生きることができる。ところが・・・・・・ この物語は夫となったハーランド第二王子の裏切りとローズリンの嘘で罪を着せられたアナスターシアが、毒杯を飲ませられるところで奇跡を起こし、二度目の人生をやり直すお話しです。アナスターシアが積極的に復讐していくお話ではなく、ハーランド第二王子やローズリンが自業自得で自滅していくお話しです。アナスターシアの恋もちりばめた恋愛小説になっています。 ※この物語は現実ではない異世界のお話しですから、歴史的や時代背景的におかしな部分が多々あると思いますので、ご了承ください。誤字・脱字多いかもしれませんが、脳内で変換していただけるか、教えていただけると嬉しいです💦 聖女や聖獣などのファンタジー要素あり。 ※完結保証。すでに執筆が終わっておりますので、途中で連載がとまることはありません。安心してお読みくださいませ。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

処理中です...