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01.私の世界は、家族で完結していた
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この世界は、各国が所有する世界樹によって生かされている。
世界樹は天候を操作し、大気や大地や水、火、光や闇の中をマナで満たし、生きとし生きるモノを活性させる。
王城へと向かう馬車の中。
私は息苦しさを覚えていた。
父ジェフリーと後妻である義母ニーヴィを目の前に……。
私の手を取り宥めるように手をさする腹違いの姉ヴィヴィアン。
そして、姉の反対側になる私の隣には婚約者である男ヨハン・モーガン。
何れも、この国の生まれではなく、遠い魔法を生業とする故郷を離れ、竜を始祖とし己の力をすべてとする国アクロマティリに住まいを置く珍しい人達と言っていい。 決して本人が望んでこの国に来たわけでも留まる訳でもないのだが……。
竜を先祖に持つ頑強な身体、己の身体だけで簡潔させる強烈なマナ、それがこの国の人々の尊厳であり自慢であり、他国に対する見下し……私の婚約者となったヨハン以外は、自然界とのマナの親和性に目をつけられ誘拐されてきた。
必用だからと攫っておいて、向けて来る視線は差別以外の何物でもなかったと家族たちは私に何時も言って聞かせるのだ。
この国の者達を信用してはいけない。 と……。
「お姉様……私、とても嫌な予感がするの……」
この日、周囲には悪意に近い悪いマナ……瘴気が渦巻いていた。
「シーラ。 この国では私達は何処まで行っても余所者なのだよ。 向けられる蔑みに負けてばかりいてはいけないよ。 竜の呪いで繋がれている以上は仕方がないことなんだ」
何時もと変わらない父ジェフリーの言葉なのだけど……今日は王族主催の社交界に初めて招かれていたせいだろうか? その声はどこか浮かれているように感じるのだけど……そんな事、ある訳ありませんよね。
コホコホと私は瘴気に咽て咳こむ。
「今日は、貴方がこのアクロマティリでのデビューを迎える大切な日なのですから、頑張りましょう」
姉が私の手を撫で宥めてくれた。
「マナを上手く操り体調を整えなさい。 貴方が母である女公爵に捨てられた身でありながら、社交の場に出られる等、本来であればあり得ない栄誉なのですから」
そう私を宥めるのは、育ての母にして……母が竜の血の呪いで父を縛るまで、父の妻だった女性ニーヴィ。
「お前が今日の日を無事に終えてくれたなら、私達は竜の呪いから解放されるかもしれないのです。 シーラ……私達の可愛い子、私達の希望。 どうか耐えておくれ」
父が懇願する。
王家との婚姻を幾度となく繰り返し、濃い竜の血を保っているトロワ公爵家の唯一の子として生まれた母は、母の父である先々代の公爵を若くして戦場で亡くした事で公爵の地位に就いた。
その時、1つの王命を受けたのだ。
『マナとの親和性が強く、精霊との交流ができる巫女を産みこの国を救うのです!』
竜の国アクロマティリが、余りにも竜の血を過信し過ぎた結果……100年以上に渡って、この国には世界樹を支える巫女が誕生していない。
自らの身体の中で膨大なマナを発する事が出来る竜と、父たちのように自然界のマナを操り事象に影響を与える魔導師とは、マナの使い方が全く違うのだ。
挙句、世界樹はその国に生まれた者にしか反応しない。
竜族と言っても、時折は外部のマナとの親和性が高い者もおり巫女の座についていたのだが、ここ100年以上その役目に就く者はおらず、国がマナに渇き始めたが故の王命だった。
そのような国難に遭遇しながらも、未だ民が死に絶えていないのは、竜の血の強さかもしれないが……アクロマティリ国は滅びかけていた。
それゆえの無茶ぶりなのだと……母の秘書を務めた老執事ニウスが言っていた。
『それでも、国王陛下を、王家を恨まないで下さいませ。 国王陛下とて無理を承知で、強い力を持つ貴族の娘全員におっしゃったのですから。 どうか……国王陛下への不満は胸の内に納めて下さいませ。 恨めば、最も濃い竜の呪いがお嬢様に向けられかねないのですから。 貴方の父と……貴方が家族と呼ぶ方々のように……』
だから、私は王家がとても怖いって思ってしまうの。
「……怖いわ……」
「大丈夫よ。 私もヨハンもずっと側にいるわ」
そう姉のヴィヴィアンは、私を慰める。
姉と言うが……母は違う。
私の母トロワ女公爵が、父を奪い手に入れるために竜の呪いを使った。
『我が者となり勤めよ。 裏切ればその血は竜の血により煮えたぎりその身は溶けだすだろう』
その呪いが駆けられる以前、姉は既にこの世に生を受けていた。 父を奪い呪いをかけられ、それでも、私を大切に育て愛してくれた人達……そんな優しい人達の期待に応えなければいけない……。
ニーヴィが私を鼓舞するように言葉を続ける。
「トロワ女公爵様がお亡くなりになり、次期公爵を愛妾である男との間にもうけた子スレイダーが爵位を得てしまった以上、このようなチャンスが貴方に巡って来るなんて奇跡のようなものなのですよ」
「そう、立派にトロワ公爵家の者として、お披露目をすませるのです」
父が励ます。
「はい……」
上手くやらなければ……緊張で胸が痛い。
王城前。
出迎えの衛兵を視界に納め、父は、囁くように言う。
「お前だって、あの女を、王家を腹立たしいと思っているだろう。 お前の母は王家の道具としてお前を産み落としただけだ。 王家のために魔力の強い道具が必要なだけだった。 だから……お前を愛する事はなかった。 王家の手の内に乗っては行けない」
意味がわからなかった。
だけれど、父が呪いによってゆがめられた人生を恨んでいる事だけは伝わった。
せめて、私は侮られないようにしないと……。
「頑張ります」
不安そうな私を義母は抱きしめる。
「大丈夫、貴方は私達が立派に育てましたもの」
「頑張らなくていいのよ。 結果さえ出せば」
姉が言った。
「これが上手く言ったら、ご馳走を食べましょう」
婚約者であるヨハンが私を穏やかに宥める。
世界樹は天候を操作し、大気や大地や水、火、光や闇の中をマナで満たし、生きとし生きるモノを活性させる。
王城へと向かう馬車の中。
私は息苦しさを覚えていた。
父ジェフリーと後妻である義母ニーヴィを目の前に……。
私の手を取り宥めるように手をさする腹違いの姉ヴィヴィアン。
そして、姉の反対側になる私の隣には婚約者である男ヨハン・モーガン。
何れも、この国の生まれではなく、遠い魔法を生業とする故郷を離れ、竜を始祖とし己の力をすべてとする国アクロマティリに住まいを置く珍しい人達と言っていい。 決して本人が望んでこの国に来たわけでも留まる訳でもないのだが……。
竜を先祖に持つ頑強な身体、己の身体だけで簡潔させる強烈なマナ、それがこの国の人々の尊厳であり自慢であり、他国に対する見下し……私の婚約者となったヨハン以外は、自然界とのマナの親和性に目をつけられ誘拐されてきた。
必用だからと攫っておいて、向けて来る視線は差別以外の何物でもなかったと家族たちは私に何時も言って聞かせるのだ。
この国の者達を信用してはいけない。 と……。
「お姉様……私、とても嫌な予感がするの……」
この日、周囲には悪意に近い悪いマナ……瘴気が渦巻いていた。
「シーラ。 この国では私達は何処まで行っても余所者なのだよ。 向けられる蔑みに負けてばかりいてはいけないよ。 竜の呪いで繋がれている以上は仕方がないことなんだ」
何時もと変わらない父ジェフリーの言葉なのだけど……今日は王族主催の社交界に初めて招かれていたせいだろうか? その声はどこか浮かれているように感じるのだけど……そんな事、ある訳ありませんよね。
コホコホと私は瘴気に咽て咳こむ。
「今日は、貴方がこのアクロマティリでのデビューを迎える大切な日なのですから、頑張りましょう」
姉が私の手を撫で宥めてくれた。
「マナを上手く操り体調を整えなさい。 貴方が母である女公爵に捨てられた身でありながら、社交の場に出られる等、本来であればあり得ない栄誉なのですから」
そう私を宥めるのは、育ての母にして……母が竜の血の呪いで父を縛るまで、父の妻だった女性ニーヴィ。
「お前が今日の日を無事に終えてくれたなら、私達は竜の呪いから解放されるかもしれないのです。 シーラ……私達の可愛い子、私達の希望。 どうか耐えておくれ」
父が懇願する。
王家との婚姻を幾度となく繰り返し、濃い竜の血を保っているトロワ公爵家の唯一の子として生まれた母は、母の父である先々代の公爵を若くして戦場で亡くした事で公爵の地位に就いた。
その時、1つの王命を受けたのだ。
『マナとの親和性が強く、精霊との交流ができる巫女を産みこの国を救うのです!』
竜の国アクロマティリが、余りにも竜の血を過信し過ぎた結果……100年以上に渡って、この国には世界樹を支える巫女が誕生していない。
自らの身体の中で膨大なマナを発する事が出来る竜と、父たちのように自然界のマナを操り事象に影響を与える魔導師とは、マナの使い方が全く違うのだ。
挙句、世界樹はその国に生まれた者にしか反応しない。
竜族と言っても、時折は外部のマナとの親和性が高い者もおり巫女の座についていたのだが、ここ100年以上その役目に就く者はおらず、国がマナに渇き始めたが故の王命だった。
そのような国難に遭遇しながらも、未だ民が死に絶えていないのは、竜の血の強さかもしれないが……アクロマティリ国は滅びかけていた。
それゆえの無茶ぶりなのだと……母の秘書を務めた老執事ニウスが言っていた。
『それでも、国王陛下を、王家を恨まないで下さいませ。 国王陛下とて無理を承知で、強い力を持つ貴族の娘全員におっしゃったのですから。 どうか……国王陛下への不満は胸の内に納めて下さいませ。 恨めば、最も濃い竜の呪いがお嬢様に向けられかねないのですから。 貴方の父と……貴方が家族と呼ぶ方々のように……』
だから、私は王家がとても怖いって思ってしまうの。
「……怖いわ……」
「大丈夫よ。 私もヨハンもずっと側にいるわ」
そう姉のヴィヴィアンは、私を慰める。
姉と言うが……母は違う。
私の母トロワ女公爵が、父を奪い手に入れるために竜の呪いを使った。
『我が者となり勤めよ。 裏切ればその血は竜の血により煮えたぎりその身は溶けだすだろう』
その呪いが駆けられる以前、姉は既にこの世に生を受けていた。 父を奪い呪いをかけられ、それでも、私を大切に育て愛してくれた人達……そんな優しい人達の期待に応えなければいけない……。
ニーヴィが私を鼓舞するように言葉を続ける。
「トロワ女公爵様がお亡くなりになり、次期公爵を愛妾である男との間にもうけた子スレイダーが爵位を得てしまった以上、このようなチャンスが貴方に巡って来るなんて奇跡のようなものなのですよ」
「そう、立派にトロワ公爵家の者として、お披露目をすませるのです」
父が励ます。
「はい……」
上手くやらなければ……緊張で胸が痛い。
王城前。
出迎えの衛兵を視界に納め、父は、囁くように言う。
「お前だって、あの女を、王家を腹立たしいと思っているだろう。 お前の母は王家の道具としてお前を産み落としただけだ。 王家のために魔力の強い道具が必要なだけだった。 だから……お前を愛する事はなかった。 王家の手の内に乗っては行けない」
意味がわからなかった。
だけれど、父が呪いによってゆがめられた人生を恨んでいる事だけは伝わった。
せめて、私は侮られないようにしないと……。
「頑張ります」
不安そうな私を義母は抱きしめる。
「大丈夫、貴方は私達が立派に育てましたもの」
「頑張らなくていいのよ。 結果さえ出せば」
姉が言った。
「これが上手く言ったら、ご馳走を食べましょう」
婚約者であるヨハンが私を穏やかに宥める。
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