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18.トロワ公爵の事実
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「僕は……何を間違えたのでしょう?」
先々代、ローマン・トロワの祖父が亡くなったのは、現トロワ公爵ローマンが幼少期の頃でありその仕事ぶりは覚えておらず、共に社交場に出向いた事はない。 先代である母は、気の弱い人だった……竜の民としては珍しいほどに弱い人だった……心が弱り死ぬほどに弱い人だった。
だから……僕は何も学べなかった。
どうしてそんな僕を顧みてくれないのだろう。
当主としての業務を学んだのは、執事であるニウスだった。
ニウスは伯爵家の三男に生まれた男で、その竜の力は強く長子であった男を凌ぐ強さと賢さがあったゆえに危機視され、居場所を失ったニウスを救い居場所を与えたのが、ローマンの曽祖父にあたる人物だ。
だから……ローマンが何も学べなかったと言うのは嘘である。 ただローマンがそう意識をしていなかっただけ。 そして彼が学んだ人間が使用人達であった事が、彼の中の意識を変化させた。
甘えん坊と見下し、相容れないバランスで。
だから彼はイライラとしつつも、怯えた様子で戸惑うのだ。
「せめて姉が力になってくれるような人だったなら……」
人と竜のハーフである姉に欠片も期待していないが、口先だけでは甘え頼るような言葉を呟いていた。
「どうして、僕だけが責められるんだ……。 公爵家の娘として役に立ってくれないなら、せめてその生まれに期待された世界樹の巫女になってくれていたなら。 でも、人と竜のハーフが国を支える世界樹の巫女になれる訳なんかない。 最初から分かっていたんだ……その程度の人間だって……」
頭を抱えながら、静かに嘆き、涙を流していた。
支えてくれる人が欲しかった。
「殿下たちに面会を求めたいのですが……」
ローマンは執事であるニウスに求めた。
ニウスは少し驚いた表情でローマンへと視線を送った。
「どのようなご用件で?」
まだ幼い顔がムッとした表情を見せる。
「私有地に勝手に入り込み、世界樹への鍵ごと排除すると言うのは余りにも乱暴なやり方!! もう少し何かやりようがあったのではありませんか!! 姉は世界樹を目覚めさせるために、あんな姿になるほどに助力したと言うのに、余りにも無慈悲。 そうは思いませんか?!」
ローマンは涙ながらに語って見せ、ニウスは困った顔をしながらわずかばかり考え、そして声にする。
「ならば、殿下たちが動く前に行動にでるべきでした。 そう伝えられて終わりでしょう」
「そうしていた!! 姿を消したのは姉だ!! 僕はこれほどまで心を傾けていたのに……。 姉は母を殺した……それを考えれば十分過ぎるほどに僕は配慮した。 誰も彼も勝手に動いて僕を追い落としていく……、僕に償うべきなんだ。 僕の事を考えてくれてもいいじゃないか……。 なんで僕を責めるんだ」
ドンッと机を拳で殴る。
拗ねた子供そのように言葉を続ける。
「姉上だって、もう少し僕の事を考えて動いてくれ手も良かったとは思いませんか!! アレもコレも分からないって僕を……トロワ公爵家を追い込んで……やっぱり人と言うのはろくでもない。 そう言う事ですよね……。 母の気持ちも理解せず……。 ずっと庭においてやっていたのに恩知らずな奴等が。 殿下も直々にお出にならなくとも、僕に任せて下さればよかったのに!!」
既に成人を迎えているシーラの部屋は何処までも幼い女の子のものだった。 それは先々代当主が、小さく可愛らしい初孫に対する愛情であり、シーラの母の愛情ではない。 だからこそ……年毎に部屋を更新される事無く、何時までも愛らしい幼子用の部屋のままだった。
準備されていたドレスは、ローマンが王子達に嫁ぐのであれば必要となるだろうと、準備したものであり、そこには後ろ盾を得ると言う下心以外の何物でもない。
王宮
黒の王子が、白の王子の元にやって来て言う。
「トロワ公爵が、面会したいと?」
「あぁ、面倒だからオマエがあっておけよ」
「本当、貴方って人は……適当で、大雑把で、乱暴で、下品で、困った方ですね」
「酷いいいようだ。 まぁ、いいだろう? 俺とオマエは二人で一人前って奴だ」
「都合の良い事ばかり言うのですから……」
そう言って白の王子は笑って見せるが、何処か嬉しそうだった。
面会を受けたのが、白の王子だと聞いてローマンは嬉々とした。 黒白王子の仲の悪さは貴族社会では有名な話。 姉とその家族を押しつぶした黒の王子であれば、情を絡めて責めやすいだろう。 白の王子の味方だと分かって貰えば、自分の立場は改善されるはずだと思った。
「面会を許していただきありがとうございます」
「それで、わざわざ面会を求めた理由は?」
白の王子は気だるそうに僅かに言葉を崩していた。 それをローマンは親しみと理解し嬉しそうに浮かれた声で言う。
「僕と殿下なら、お互い手を取り合う事が出来ると思ったからです」
「なぜですか? 私と貴方では、何の利害関係もないはずですが?」
「そうでしょうか? 公爵家の1つが貴方の後ろ盾になるんですよ。 それは貴方にとって有益なはずです」
白の王子は静かに笑う。
ローマンはその笑みに苛立ちを覚えた。 白の王子の態度がどこまでも曖昧だったから。
馬鹿にしている……。
そう感じ取ったのだ。
「少なくとも、過去の貴方の行動……公爵家の活動を拝見していた限り、幾ら広大な領地を持つ公爵家の当主であっても、私にとっては手を組む価値があるとは思えないのですが?」
公爵家の活動記録とも言えるだろう会計調査記録を手に白の王子は語る。
「それは!! 領地の利益が薄いのは何処も同じ、それに比べ姉は世界樹の目覚めに協力した。 姉の犠牲をもって国を導いたのですよ!! それを、あの方は……黒の方は……無情にも巨大な岩で押しつぶしたのですよ!! どれほどの犠牲を払えば……」
ノーマンは涙を浮かべていた。
「その成果の果てに、国を危機に陥れたと言うのが我々の考えです」
両手を組みニッコリと笑いかける白。
「それは……姉が……姉の家族が、そしてその危機を我が家に入れたのは陛下の命令ですよ。 王家はトロワ家を陥れるだけで顧みない。 そんな目に合うほど……トロワ公爵家は王家に憎まれるような事をしましたか……」
ノーマンは涙をぽろぽろと流して語った。
「王の命令は、トロワ家の竜の血が弱まっているからこそ与えた生き残りのチャンスです。 そのチャンスを活かせなかったのは貴方方でしょう。 一度トロワ家の実情を理解された方が良いでしょう。 さぁ、お帰りください」
ノーマンは子供っぽく頬を膨らませ、足をだんだんと踏みしめ、白の王子の執務室から走り去っていった。
トロワ公爵家の血は先々代の頃にはかなり弱まっていた。 他の竜のマナに押しつぶされ体調を崩す。 先代の寿命が短かったのも決してロマーノが思っているような精神的な負担ではなく、単純にその血が弱まっていたからに他ならない。
「せめて……魔術師殿と上手くやっていたなら……その寿命は少しは伸びたでしょうに……」
白の王子の呟きは、ロマーノには届かなかった。
白の王子の目には、ロマーノは人以上に儚い存在に見える。
「あれは手を出す必要性もありませんね」
白の王子は、お気に入りの紅茶をカップに注ぎ入れボソリと一人囁いていた。
「何もせずともトロワ公爵家は消される運命だった。 それを永らえたのは人を受け入れたから。 今だって世界樹の巫女の存在があったからこそ永らえている。 それを理解出来れば静かな滅びを選べるのですが、あの坊やはどんな終わりを選ぶのでしょうか」
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だから……ローマンが何も学べなかったと言うのは嘘である。 ただローマンがそう意識をしていなかっただけ。 そして彼が学んだ人間が使用人達であった事が、彼の中の意識を変化させた。
甘えん坊と見下し、相容れないバランスで。
だから彼はイライラとしつつも、怯えた様子で戸惑うのだ。
「せめて姉が力になってくれるような人だったなら……」
人と竜のハーフである姉に欠片も期待していないが、口先だけでは甘え頼るような言葉を呟いていた。
「どうして、僕だけが責められるんだ……。 公爵家の娘として役に立ってくれないなら、せめてその生まれに期待された世界樹の巫女になってくれていたなら。 でも、人と竜のハーフが国を支える世界樹の巫女になれる訳なんかない。 最初から分かっていたんだ……その程度の人間だって……」
頭を抱えながら、静かに嘆き、涙を流していた。
支えてくれる人が欲しかった。
「殿下たちに面会を求めたいのですが……」
ローマンは執事であるニウスに求めた。
ニウスは少し驚いた表情でローマンへと視線を送った。
「どのようなご用件で?」
まだ幼い顔がムッとした表情を見せる。
「私有地に勝手に入り込み、世界樹への鍵ごと排除すると言うのは余りにも乱暴なやり方!! もう少し何かやりようがあったのではありませんか!! 姉は世界樹を目覚めさせるために、あんな姿になるほどに助力したと言うのに、余りにも無慈悲。 そうは思いませんか?!」
ローマンは涙ながらに語って見せ、ニウスは困った顔をしながらわずかばかり考え、そして声にする。
「ならば、殿下たちが動く前に行動にでるべきでした。 そう伝えられて終わりでしょう」
「そうしていた!! 姿を消したのは姉だ!! 僕はこれほどまで心を傾けていたのに……。 姉は母を殺した……それを考えれば十分過ぎるほどに僕は配慮した。 誰も彼も勝手に動いて僕を追い落としていく……、僕に償うべきなんだ。 僕の事を考えてくれてもいいじゃないか……。 なんで僕を責めるんだ」
ドンッと机を拳で殴る。
拗ねた子供そのように言葉を続ける。
「姉上だって、もう少し僕の事を考えて動いてくれ手も良かったとは思いませんか!! アレもコレも分からないって僕を……トロワ公爵家を追い込んで……やっぱり人と言うのはろくでもない。 そう言う事ですよね……。 母の気持ちも理解せず……。 ずっと庭においてやっていたのに恩知らずな奴等が。 殿下も直々にお出にならなくとも、僕に任せて下さればよかったのに!!」
既に成人を迎えているシーラの部屋は何処までも幼い女の子のものだった。 それは先々代当主が、小さく可愛らしい初孫に対する愛情であり、シーラの母の愛情ではない。 だからこそ……年毎に部屋を更新される事無く、何時までも愛らしい幼子用の部屋のままだった。
準備されていたドレスは、ローマンが王子達に嫁ぐのであれば必要となるだろうと、準備したものであり、そこには後ろ盾を得ると言う下心以外の何物でもない。
王宮
黒の王子が、白の王子の元にやって来て言う。
「トロワ公爵が、面会したいと?」
「あぁ、面倒だからオマエがあっておけよ」
「本当、貴方って人は……適当で、大雑把で、乱暴で、下品で、困った方ですね」
「酷いいいようだ。 まぁ、いいだろう? 俺とオマエは二人で一人前って奴だ」
「都合の良い事ばかり言うのですから……」
そう言って白の王子は笑って見せるが、何処か嬉しそうだった。
面会を受けたのが、白の王子だと聞いてローマンは嬉々とした。 黒白王子の仲の悪さは貴族社会では有名な話。 姉とその家族を押しつぶした黒の王子であれば、情を絡めて責めやすいだろう。 白の王子の味方だと分かって貰えば、自分の立場は改善されるはずだと思った。
「面会を許していただきありがとうございます」
「それで、わざわざ面会を求めた理由は?」
白の王子は気だるそうに僅かに言葉を崩していた。 それをローマンは親しみと理解し嬉しそうに浮かれた声で言う。
「僕と殿下なら、お互い手を取り合う事が出来ると思ったからです」
「なぜですか? 私と貴方では、何の利害関係もないはずですが?」
「そうでしょうか? 公爵家の1つが貴方の後ろ盾になるんですよ。 それは貴方にとって有益なはずです」
白の王子は静かに笑う。
ローマンはその笑みに苛立ちを覚えた。 白の王子の態度がどこまでも曖昧だったから。
馬鹿にしている……。
そう感じ取ったのだ。
「少なくとも、過去の貴方の行動……公爵家の活動を拝見していた限り、幾ら広大な領地を持つ公爵家の当主であっても、私にとっては手を組む価値があるとは思えないのですが?」
公爵家の活動記録とも言えるだろう会計調査記録を手に白の王子は語る。
「それは!! 領地の利益が薄いのは何処も同じ、それに比べ姉は世界樹の目覚めに協力した。 姉の犠牲をもって国を導いたのですよ!! それを、あの方は……黒の方は……無情にも巨大な岩で押しつぶしたのですよ!! どれほどの犠牲を払えば……」
ノーマンは涙を浮かべていた。
「その成果の果てに、国を危機に陥れたと言うのが我々の考えです」
両手を組みニッコリと笑いかける白。
「それは……姉が……姉の家族が、そしてその危機を我が家に入れたのは陛下の命令ですよ。 王家はトロワ家を陥れるだけで顧みない。 そんな目に合うほど……トロワ公爵家は王家に憎まれるような事をしましたか……」
ノーマンは涙をぽろぽろと流して語った。
「王の命令は、トロワ家の竜の血が弱まっているからこそ与えた生き残りのチャンスです。 そのチャンスを活かせなかったのは貴方方でしょう。 一度トロワ家の実情を理解された方が良いでしょう。 さぁ、お帰りください」
ノーマンは子供っぽく頬を膨らませ、足をだんだんと踏みしめ、白の王子の執務室から走り去っていった。
トロワ公爵家の血は先々代の頃にはかなり弱まっていた。 他の竜のマナに押しつぶされ体調を崩す。 先代の寿命が短かったのも決してロマーノが思っているような精神的な負担ではなく、単純にその血が弱まっていたからに他ならない。
「せめて……魔術師殿と上手くやっていたなら……その寿命は少しは伸びたでしょうに……」
白の王子の呟きは、ロマーノには届かなかった。
白の王子の目には、ロマーノは人以上に儚い存在に見える。
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