私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

文字の大きさ
17 / 28

17.休憩のような

しおりを挟む
 身体に刻まれた術式を解除し、身体と共に逃亡した日から、5日が経過した。

 今も宰相さんの別荘にいたりするのだけど、流石に今後を考えなければいけない気がする……けど、魔術? マナコントロールばかりを勉強してきた私にとって、さぁ、今日から自由ですよと言われても何をして生きて行けばいいのか……どう生きて行けばいいのか……不安でしかない。

 だから私は、台所に立つ。

 料理と掃除は、気分転換には最適だよね……。

 宰相さんの別荘は何処までも豪華だった。

[住んでもいないのにここまでの食料備蓄が必要なの?]

「この国は作物の収穫量が少ない割に、1人当たりの食べる量が多いので溜める事は大切なのですよ」

 白がそう説明してくれれば、別荘と言うより……彼方此方に食べ物を隠し持っているリス的なものを想像して私は納得した。

 日のあたらない地下深く肌寒さに震えるような場所に大量の食糧が保管されていた。

 根菜類や果物、チーズや加工肉。
肉や魚類は氷で作られた蔵に。
後はお酒類。 
 葉物や卵、牛乳等はクマ‘sが何処からともなく持って来ていた。

 本日の食料調達を行った白の希望で今日のスープはカブのスープに決まった。 玉ねぎとベーコンを炒め旨味を出した所に水を入れ、前日作っていた骨と野菜くずで作ったスープの素を使いゴロゴロのカブとカブの葉を煮込む。 カブを煮込み過ぎないのがポイント。

 当然、熊相手に野菜スープだけを食事にする訳がなく、得意満面の黒が持ってきた鶏肉(解体済み)を豪快に焼いた。 かってきた が、買ってきたなのか、勝ってきたなのか、飼っていたなのか、狩ってきたなのか……深く考えないのがポイントだ。

 責任はクマにある!!

 それはさておき……夕食にはまだ早いので、みずみずしく酸味の強い林檎があったので、じっくりとカラメルで煮込んでケーキにしてみた。 これに掃除をすれば、後は本を読んでマッタリすればよい感じで1日を終える事ができ、嫌な事は思い出さない。 そんな日々を送っている。

 まぁ、現実逃避だし、将来は考えないとダメなんですけどね。

 普通、当たり前の生活。
 身体に戻るべきなんですけどね。

 身体の術式を全て解いた今、多分、戻ろうとすれば戻れる。 それでも戻らないのは……何かが怖いから。 何が怖いのか私の中でもかなり謎だけど……。

 なんだか……怖くて仕方がなくて、つい見て見ないふりをしてしまう。

 溜息交じりに……術式による拘束を失い、今は世界樹との繋がりのみとなった身体を眺めていれば……不安感が胸を覆いはじめ、私はキッチンの掃除を始めるのだ。 かなり徹底的に……。 ほら、一応他所の人の家だし。

 掃除をして気がまぎれたと言うより、色々と忘れて、私は焼けたばかりのタルトタタンをもって寝室だろう部屋へと向かう。

 そこは、日ごとに子供用のオモチャ箱のようになり、竜の民……それも身体の大きな宰相さんに合わせたテーブルとソファは2クマによって排除され、私達は毛の長いフワフワな絨毯の上に直接座り日々を送るようになっていた。

 2クマはお世辞にも手足が長いとは言えない子熊で、2匹の生活のしやすさ重視だった。

 この二熊は知的欲求に盛んならしく、何処から持ち出してきたのか分からない本を読み、書類を読み、色々と突っ込みを入れていたりと人間ごっこを楽しんでいるようだ。



[オヤツの時間ですよ~~]

 なかなかの大食漢な二クマのためと言うか、基本的に竜の民は食べる量が多いから、この別荘にある鍋窯食器類全てが大きいので、自然と大きくなったケーキを、ドンっと二クマの前に出す。

 うつ伏せに寝転がりながら、それぞれ何かを読み、何かを書いているクマが、 器用が過ぎるが……まぁ、そういうのは多分きっと気にしては負けのような気がする。

 そもそもそれを言ったら、竜の民自体が、なぜお前達のような奴等が存在しているんだ? となる訳なのだから。 うん、考える必要もないだろう。



 雨は止み5日目を迎えた。



 気づけば、季節はもう冬を迎えていた。

 竜の民は余り寒さを感じないけど、私には寒い訳だ。

 くちゅん!

 一応このクシャミは慌てながら、ケーキの反対方向を向いてしている。

「なぜ、マナなのに寒い」

[それは、寒いマナが漂っているからじゃないかな? 世界樹が竜の民のマナ放出を吸収する事で、本来の循環を取り戻そうとしているんじゃないかな?]

 むくっと立ち上がった黒が私の側に腰を下ろした。

[なに?]

「風邪を引かれても困るからな」

[風邪は身体の不都合だと思うから、平気よ。 多分?]

 そう言いながら、私は珈琲を入れる。
 クマに珈琲? と、疑問に思わずにいられないけれど……まぁ、普通のクマは喋らないしありなのだと思う。 因みに白は紅茶派で自分で淹れている。

「シーラはどうします?」

[私も紅茶で、珈琲は匂いだけでご馳走様だよ]

 珈琲は贅沢貴族の嗜好品なため、宰相さんの別荘に来るまで飲んだ事が無かったのだけど、苦かった……なんで、あんなのが良いのだろう? アロマ用としてなら良いんだけどなぁ……。

 飲み物の準備も終えて、オヤツの時間。

 なぜか私は黒を背もたれ代わりに抱っこされていて、白がケーキを切り分けていた。

[どうして抱っこ?]

「寒いんだろう?」

[まぁ、寒いけど]

 もふもふっと温かな黒は、体温がかなり高めだから助かると言えば助かる。

「風邪を引かれたら困る。 と言うか……シーラはすぐに死にそうだから」

[そこまで弱くないよ。 黒は竜の民しか見たことないから、私が弱く見えるのかもだけど、別に私はそこまで弱くないから]

 竜の民は風邪をひかない。

 マナ異常で弱った時が死ぬときって言われている。 母が、それで死んだ……。 ……あの頃の私には遠くから見ているしかできなかったのだけど、父であれば母のマナを整え治せたと思う。

「美味いな」

「えぇ、美味しいですね」

「竜が作る料理は、例え王宮の料理人であってもかなり大雑把だからな」

「ですね。 同じようなケーキを見たことがありますが、リンゴの表面に砂糖をまぶして、火を噴いてあぶってましたからね」

[それは、かなり豪快ね]

「割と何でもそうかな……上品な私むきではないな」

「オマエは上品じゃなくって冷血って言うんだ」

「体温が低いだけですよ。 私の方が黒より余程好かれてます」

 クマの集落でもあるのだろうか? と言うか、王宮にも出入りしているのか、このクマたちは……。

[そんなところに入って捕まったら大変だよ。 強い人達が沢山いるだろうから、止めた方がいいよ。 ご飯なら私が作るから]

 とは言っても、宰相さんのお食料保管庫に住み続けるのはどうなのかとは思うけど……。 これは、一度……公爵家に戻って執事のニウス……いえ当主のローマンに相談したほうが良いかもしれない……。

 宰相さん家の食料を食べちゃった件も含めて……。



 なんて考えている頃……。



 私の生まれ育った家をべちゃんこにされ、トロワ公爵家では大騒ぎになっていたらしい。 なんて言っても王子2人から制裁を受けた感じで、なおかつ、それによって世界樹が正しく動き出したとあっては……トロワ公爵家の失態と言う事になるだろう。

 知らないうちにトロワ公爵家の未熟な当主は、王族と上級貴族が集まる会議の中、大きな竜の人達に囲まれ……危機的状況に追い詰められていたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 歩く岩と言われた少女

音爽(ネソウ)
恋愛
国を護るために尽力してきた少女。 国土全体が清浄化されたことを期に彼女の扱いに変化が……

あなたの罪はいくつかしら?

碓氷雅
恋愛
 公爵令嬢はとある夜会で婚約破棄を言い渡される。  非常識なだけの男ならば許容範囲、しかしあまたの罪を犯していたとは。 「あなたの罪はいくつかしら?」 ・・・ 認証不要とのことでしたので感想欄には公開しておりませんが、誤字を指摘していただきありがとうございます。注意深く見直しているつもりですがどうしても見落としはあるようで、本当に助かっております。 この場で感謝申し上げます。

お前との婚約は、ここで破棄する!

ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」  華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。  一瞬の静寂の後、会場がどよめく。  私は心の中でため息をついた。

【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく

との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。 誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。 「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」 それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。 「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」 「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」 「はい、間違いないですね」 最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。 追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。 R15は念の為・・

なんでも押し付けてくる妹について

里見知美
恋愛
「ねえ、お姉さま。このリボン欲しい?」 私の一つ下の妹シェリルは、ことある毎に「欲しい?」と言っては、自分がいらなくなったものを押し付けてくる。 しかもお願いっていうんなら譲ってあげる、と上から目線で。 私よりもなんでも先に手に入れておかないと気が済まないのか、私が新品を手に入れるのが気に食わないのか。手に入れてしまえば興味がなくなり、すぐさま私に下げ渡してくるのである。まあ、私は嫡女で、無駄に出費の多い妹に家を食い潰されるわけにはいきませんから、再利用させていただきますが。 でも、見た目の良い妹は、婚約者まで私から掠め取っていった。 こればっかりは、許す気にはなりません。 覚悟しなさいな、姉の渾身の一撃を。 全6話完結済み。

(完結)夫と姉(継母の連れ子)に罪を着せられた侯爵令嬢の二度目の人生ー『復讐』よりも『長生き』したい!

青空一夏
恋愛
 私はカッシング侯爵家のアナスターシア。カッシング侯爵家の跡継ぎ娘であり、お母様の実家マッキンタイヤー公爵家の跡継ぎでもある立場なの。なんでって? 亡きお母様のお兄様(マッキンタイヤー公爵)が将軍職をまっとうするため、独身を貫いてきたからよ。ちなみにマッキンタイヤー公爵の初代はユーフェミア王女で聖女様でもあったのよ。私はその血も引いているわ。 お母様は私が5歳の頃に病で亡くなったわ。でも、まもなくお父様はサリナお母様と再婚したの。最初は嫌な気持ちがしたけれど、サリナお母様はとても優しかったからすぐに仲良くなれた。サリナお母様には娘がいて、私より年上だった。ローズリンお姉様のことよ。ローズリンお姉様も良い方で、私はとても幸せだった。 チェルシー王妃主催のお茶会で知り合ったハーランド第二王子殿下も優しくて、私を甘やかしてくれる味方なの。でも、お母様のお兄様であるマッキンタイヤー公爵は厳しくて、会うたびにお説教を言ってくるから嫌い。なるべく、伯父様(マッキンタイヤー公爵)に関わらないようにしていたいわ。そうすれば、私は幸せに気楽に生きることができる。ところが・・・・・・ この物語は夫となったハーランド第二王子の裏切りとローズリンの嘘で罪を着せられたアナスターシアが、毒杯を飲ませられるところで奇跡を起こし、二度目の人生をやり直すお話しです。アナスターシアが積極的に復讐していくお話ではなく、ハーランド第二王子やローズリンが自業自得で自滅していくお話しです。アナスターシアの恋もちりばめた恋愛小説になっています。 ※この物語は現実ではない異世界のお話しですから、歴史的や時代背景的におかしな部分が多々あると思いますので、ご了承ください。誤字・脱字多いかもしれませんが、脳内で変換していただけるか、教えていただけると嬉しいです💦 聖女や聖獣などのファンタジー要素あり。 ※完結保証。すでに執筆が終わっておりますので、途中で連載がとまることはありません。安心してお読みくださいませ。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~

緑谷めい
恋愛
 私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。  4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!  一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。  あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?  王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。  そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?  * ハッピーエンドです。

もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~

岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。 「これからは自由に生きます」 そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、 「勝手にしろ」 と突き放した。

処理中です...