私を裏切った運命の婚約者、戻って来いと言われても戻りません

迷い人

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24.その愛情は無理!

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 身体に戻る事は何時だって出来た……と、思う。 出来ると思っていたけど、すれば、なんとなく今までの生活が終わると思ったから、していなかった。

「身体……おもっ……」

 準備運動を始める。

「よしっ!」

 作り置きのパンとハムとチーズと果物を宰相さんの家にあった肩掛け鞄に詰め込んだ。 現金がないのは困りものだけど、持っていても使った事がないから多分困ったと思う。

 私は竜の国にいながら、竜の国の事は何も知らない。

 不安だ……。

 でもクマと生活して、社会性が身につくとは思えない。
 でもでも……。

 すやすやと眠っている2クマの間にダイブしようとして生身だと思いだし止めた。 そっとそっと両手に2クマを抱きしめれば、眠っているのに2クマは私を抱きしめる。



 そして私は新しい人生を始めるのだ。

 私が選んだのは、王都でパン屋勤務。
 私の作ったパンを食べて貰えばイチコロだった。

 竜の民は、大雑把だから料理も大雑把。 だからと言って味覚が粗末な訳ではない。 ただ大らかなだけ、だから、万歳三唱の勢いで雇ってくれた。

 パン屋の二階の天井裏で良ければと住み込みを許可してくれた。

 前夜のうちに仕込んだ酵母でパンを捏ねる。
 これは力仕事で、筋力強化、温度調整、あらゆるところで魔術を使った。 いや、だって竜の人って大食いで、沢山のパンを作らなければいけないから。

 焼きたてのパンを店頭に並べようと来たところ、色んな話が耳に入ってくる。

 弟のローマンが婚約をした話。 男爵家の娘だが、竜の血が強い者が妻として迎えられた。 爵位の強いご婦人たちが言うには、ローマンは血が弱すぎるから、ここで公爵家の血は途絶えるだろうと言うものだった。

 ならせめて好きな人と結婚すればいいのに……。
 うん、その男爵令嬢が好きな人ならいいな……。

 そして次に耳に入って来る話は天気予報。

「今日はどっちの勝ちだろう?」

 そう語った言葉と共に空を眺めた。

 熱波が来るか?
 雪が降るか?

 2人の王子がしばらく前からとても不機嫌だと誰かが語っていた。

「今日は白の王子の勝ちのようね」

 そう店主の奥さんが笑っていた。

「温かなスープにあうパンを焼きますね!!」

「王子達もあんたのパンを食べれば、ご機嫌になれるのに、あんなに高い場所ばかりにいずにおりて来れば良いのにさぁ~」

「それはちょっと言い過ぎですよ」

「いやいや、公爵家の使用人が毎日買いに来ているのよ~~。 王子だって可能性はあるよ」

「王宮ではもっと美味しい物を食べていますよ」

 本物の竜になって空を飛んでいるんだから。 人間の私にとっては、それこそ天と地の差の存在。

「やぁ、今日のおすすめは?」

「今日は寒いので、スープにあうハーフハードのシンプルなパンがお勧めです。 スープがお食事にない場合は、ソーセージパン、アボカドとチキンのパン、ミートパイとかどうかしら?」

「いいねぇ、全部……3つずつお願いします」

 やってきたお客さんは、何処かの貴族の生まれで騎士団を率いていると言う。

「では、お包しますね」

 営業用笑みを浮かべて言えば、店主の奥さんのアニィがニコニコと言うのだ。

「折角のパン、やっぱり美味しく食べて貰わないとねぇ~。 アンタが張り切って作っていたスープと一緒に食べて貰うのはどうかしら?」

「ですが、私なんかが作ったスープを貴族様に食べていただくなんて……」

「それを言うなら、パンを頂いてますが?」

「そ、れは、そうですが」

「ぜひ、貴方の手料理を食べてみたい」

「パンを……食べていると思いますが?」

 私の言葉に、他のお客さん同士が小さな声で何かを語り笑っていた。 それが少し怖かった。 パン屋に勤めて2か月が経っているが、力が全てと言う格差がありながら、庶民から貴族に対する奇妙な見下しがあった。

 微笑みとは別に、目が怖かった。

「……残り物をお出しするのは嫌なんです。 夜にでも、出直してもらえますか?」

 頑張って微笑んで見せた。



 言葉は怖い。

 言葉一つで、私がヨハンにしたように勘違いをしてしまう。 だから愛情のある言葉は気を付けた。 貴方に好意があると言う態度は取らなかった。

「ようやく、私を受け入れてくれた。 ずっと、この町に来た時から、私のために美味しいパンを焼いてくれた。 気づいていましたよ。 貴方の気持ちを……」
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