【R18】婚約が有効だったとは知りませんでした【完結】

迷い人

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42.離れる心

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 アルフレットは、狼の姿になったにも関わらず、ティナの元には戻らなかった。 だからと言って遠くに行く気にもならず、側にはいたのだ。 カーテンがされ姿が見えないにもかかわらずアルフレットはじっとティナがいる部屋を眺めていた。 ……それでもティナの元には行かなかった。 行けなかった。

『側にいても幸福を感じる自信がない』

 そう思ったから。
 人に戻れなかったらと、不安を感じたから。



 女性騎士達は、不安・疑心に陥っているオレアルフレットに対して、心配だからと声をかけてきた。 ティナの素行の悪さを噂に聞いて心配したと次々に訪れ、疑心を植え付けようとしていた。

 それでも、疑いたくなかった。

 ティナが、他の騎士に色目を使っているとは思っていない。 思っていないが他の騎士に向ける笑みに嫉妬はしていた。 辞めてほしいと思っていた。

 心の隙間……。

「仕事を手伝ってもらっているのに、何を言っているんです? そんなバカな事、本人に言わないでよね。 ややこしくなるから」

 側に控えていたリーンが、姿を隠したままアルフレットに忠告したのは1度や2度ではない。 それはロイや他の男性騎士達も同様だった。

 大抵が、心配そうに語る女性騎士達を否定したが、稀にではあるが、

「彼女達の優しさを理由なく否定するのは……気の毒ではありませんか?」

 そう言う時は少しばかり憂さが晴れた気がした。

 ほら、オレだけじゃない。

「仲間をもっと信頼してはいかがですか? 騎士団のトップがソレでは、アナタについていく騎士達は不安を感じる事です。 余所者よりも仲間を信用すべきです」

 そういう考えもあるよな。

「ティナ様も誤解されないように自重するべきです」

 流石に、ソレはイラっとした。
 勝手にティナに懸想する奴が悪いと。

 それでも、オレを否定せず女性騎士達の良心を肯定されれば、オレに同調する者もいるのだと嬉しかった。



 だが、オレが、間違っていた……。
 裏切られていた……。

 それでも、ティナを疑う事をしなかった自分に、心の底から安堵を覚えた。

 だけど、ティナの元に戻れない。


 彼女達は信用し、オレ自身を呪力で満たしていた……。

 実際に呪ってきた者を味方だと思ったことは、余りにも情けなくて、今ティナを見ても罪悪感ばかりになるだろう。 それでは幸福を感じられないどころか……自分の情けなさを隠そうと、ティナを傷つける言葉を吐くかもしれない。

 だから戻れない。





「何よ、偉そうにしておいてガキなんだから」

 ジュリと共に解析室で、リーンが買ってきた屋台の食事を食べながら文句を言う。

「はいはい、お代わりはどう?」

 ジュリは返事を聞かずに、ティナのグラスにレモン色の蜂蜜酒を注ぐ。

「まぁ、人の気持ちに鈍い人だからね」

 リーンがフォローなのか追い打ちなのか分からない返事をする。

「捜索しなくていいの?」

 ジュリがリーンに聞けば、

「そのうちロイが拾いにいくんじゃないの?」

「こういうこと多いんですか?」

 ティナが聞けば、ジュリはニタリと笑い楽しそうに語る。

「昔から拗ねると頻繁に姿を消していたって聞いているよ。 ロイには居場所が検討ついているって話だし、可愛いもんじゃない」

「忙しいのに、勝手です」

 リーンの苦笑交じりに言葉に、うふふとジュリが笑いながらティナを見る。

「何処に居るのか気にならない?」

「別に気になりません」

「そう?」

「でも、お姉さんスッゴクお喋りな気分だから教えてあげる。 ティナちゃんの見える範囲に居るわよあの子。 だからちょっと視線を巡らせれば、すぐ見つかるわよぉ~。 お~ほほほほ」

 なんて笑いだすジュリ。
 どうやら酔っているらしい。

「それは……」

「可愛いでしょ?」

「まさか!! 騎士団長が覗き魔でストーカーって、最低じゃないですか!!」

 訝し気な表情でティナが言えば、

「あら、お姉さんロマンティックなお話してたと思ったのに……」

 そう言いながらジュリは笑う。

 こうやって、なんだかんだと隊員にフォローされているアルフレットは、甘やかされ過ぎでしょう?! それに、仕事が忙しいのに勝手にフラリと消えるなんて身勝手だわ!!

 ティナはそんな事を考えながら、勢いよく酒を仰ぎ飲む。

「よし、解析続けます!」

「いいけど、酔いさましてからにしたら?」

「むしろ、シラフで突破口が見つからなかったから、酔った状態でするんですよ」

 イーーーと、子供っぽく歯をみせ威嚇すれば、ジュリはアラアラと笑う。

 アルは、勝手だ。 人の事を散々意地悪しておいて、実は好きだった。 そう言って少し優しくして、また勝手に距離を置く。 身勝手だ。 早く、この事件を解決して、距離を置こう。

 そう強く決意した。

 振り回されてたまるか!



 強い意志と共に、呪具を参考に生み出した呪いの種を入れたガラスカプセルの前に、ティナは座り込んだ。



 呪い。



 それ自体は古くから存在するシンプルな『獣化』の呪いだ。

 シンプルかつ古典的、初歩的な呪い、その原料は恋心ゆえに、術式自体に困難なものはない。 騎士団の持つ魔術耐性・反射などに引っかかる心配がないなら、騎士などの訓練を受けたものであれば、3~5人。 魔道騎士であれば1人で呪いを完成できるだろう。 

「この、種の根付きが、能力抑制のポイントだと思うのよね」

 本来『獣化』の呪は、全身に根を張り身体を変化させ、異性からのキスによって解除される外的呪術である。 今回は解呪条件を『幸福』『満足』と言う内的にすることで、肉ではなく精神に根付いたのではないか? と考えられるのだ。

「幸福、満足によって根は除去できる。 だけど能力抑制には変化はない。 能力を抑制するためには精神に根付いた種を処分しなければならない」

 今までの研究を、言葉にし考える。

「呪いは、種は、解呪できない……消せない……。 なら力だけを相殺あるいは、呪い自体を転化させる仕組みを種に付加するのは……人体に負担が大きいか。 ……種は思い、その思いが人につき、他者との幸福感により鳴りを潜める……まぁ、いわゆる三角関係みたいなものと考えるなら、呪いの種に執着する対象を……恋する相手を与えそちらに寄生しなおさせるのは、どうかしら……」

 ブツブツとガラスの中で浮遊する種を見て呟き続けていた。



 解析室の扉が鳴る。

 ドンドン と乱暴にならされる音は、普段余り聞かない音。

「はいは~い」

 手の空いていたリーンが出れば、黄騎士に綱をつけられ引かれてきたアルフレットの姿があった。

「何しているんですか? 団長……」

 リーンがたずねれば、アルフレットではなく黄騎士が答えた。

「何時間も外でジッと部屋を見ていたから、連れてきた」

「あ~~~、うん……ご苦労様」

 そう言ってリーンは綱を受け取った。
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